黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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殺人者

その後、シルトさんは調査委員会長をやるということで私達の前から姿を消した。

それはまだよかったんだけど、龍神さんが重要参考人として連行され、投獄されたのがダメージ…というかショックだった。

彼は何もしていない。少なくとも、この町では何の悪事も働いていない。

でも、私の思いは通じなかった。

 

「殺人者である以上、調査する必要がある」

シルトさんはそう言って、彼を半ば無理やり私達から引き剥がして投獄した。

彼女の気持ちもわかるので、責めるわけにはいかないけど…それでも、納得いかなかった。

 

心の中で一生懸命反論していると、カイナさんが声をかけてきた。

「お気持ちはお察ししますが、落ち込んでいる暇はありません。本当に彼らを救いたいなら、行動を起こさなければ」

 

そうだ、その通りだ。それに考えてみれば、まだ彼並びに町の殺人者に有罪判決が下ったわけじゃない。

私は顔を上げ、言った。

 

「カイナさん!彼らを無罪にするためには、どうすればいいと思いますか?」

 

「彼ら、すなわち通り魔以外の殺人者が町の人々に実害をなしていないことを証明するのがいいのでしょうが…そうだ、アレイさん。あなたの異能でこの町の過去を映し出すことはできますか?」

 

「はい。…試しに映し出してみましょうか?」

 

「可能であるなら、お願いしますわ」

 

彼女に言われた通り、私は空中にこの町の過去を映し出した。

時期は数週間前。そして注目…というかメインに映し出したのは、もちろん殺人者たちだ。

この町の殺人者は通り魔だけでなく、普通の殺人者や無情者もいる。

そして、彼らは町に「滞在させてもらっている」ことを理解しているため、少なくとも自分から騒ぎを起こすようなことはしない、という考えを持っており、それを実際に行動に出している。

 

というか過去を見て驚いたのだけど、この町の殺人者は普通に働いている…それも鍛冶屋や料理店など、かなりまともな所で。

こう言っては何だけど、正直私は龍神さんや朔矢さんの過去からして、殺人者はまともに働けないイメージがあった。

まあ普通に働けるならそれが一番なんだけど…それができないから「殺人者」であるのだろう。

 

…とにかく、この町の通り魔以外の殺人者系種族は、アンデッド対策として外部から呼び込まれた2年前から、一切の悪事を働いていない。

最近になって通り魔たちが事件を起こすようになったから、町の人々は不安があるのかもしれないけど、それは杞憂だ。

 

「これで、彼らが無実であることは決まりましたね」

 

「ええ。あとは、裁判の日にこれを証拠として出すだけですわ」

 

カイナさんもそう言ってくれて安心したその時、

「いやあ…残念だけど、ちょっと足りないね」

 

誰かの声がした。

 

 

 

「誰…!?」

振り向くと、青い髪をした男性が立っていた。

「頑張ってくれるのはありがたい。けど、それだけじゃあちょっと弱いと思うぜ?」

 

彼は青く、冷徹な目で私を見てきた。

「あなたは…?」

 

「オレはラステ。この町のしがない殺人者さ」

 

この人からは、これまでの殺人者系種族から感じたような気配や力を感じない。もしかしたら、真正の殺人者だろうか。

「な…!ここに、どうやって入ってきたのです!?」

 

「ま、そんなことはどうでもいいじゃん。なーんかね、いやーな噂を聞いたから来てみたんだが…お前さんたちのお話から察する限り、どうやら噂は本当みたいだねえ?」

 

「噂…?」

 

「昨今の通り魔の件を受けて、皇魔女陛下が殺人者を国から一括追放するかどうか決めるための調査委員会を設立した…ってね。もし本当ならこの上なく迷惑な話だから、城に入り込んで真偽を確かめようとした…ってわけさ」

 

噂、というかシルトさんは国民にそう布令を出したと聞いていたのだけど。

龍神さんもそうだったけど、殺人者っていうのは、自分が興味がないことにはとことん疎いものなのかしら?と思った。

 

「で?お嬢さんたちはなんだ、裁判の時に殺人者は無罪ですー、って言うつもりかい?」

 

「ええ。私は人や場所、ものの過去を見せられる異能を持ってる。過去を見せれば、これ以上ない証拠になるはず」

 

「ふーむ、過去を…ねえ。確かにそうだな。だが、それ自体の信憑性を疑われたらどうする?」

 

「え?」

 

「お嬢さんが見せたものが、本当にありのままの過去なのか証明しろ…って言われたら、どうするつもりなんだい?」

 

「そ、そんなこと言われるかしら…」

 

「あり得るぜ?委員会の奴らは城の専属司祭らしいじゃねえか。奴らは、自分たちの目的のためならなんだってやる、オレたちですら霞むほどの貪欲さと徹底ぶりだからなあ」

 

「あ…あなた、彼女の異能を否定するのですか!?」

カイナさんが怒ったけど、彼は何食わぬ顔で続けた。

 

「いあいあ、とんでもない。オレはこの子の話を信じるぜ。白でもない普通の水兵なのに、嫌われ者のオレたちを本気で助けようとしてくれてる。こんなにお利口でありがたい子は、なかなかいないからな」

 

…この人、一目で私を本物の水兵と見抜いた。

白水兵を見慣れてて、服装の違いでわかったのかもしれないけど、一目で悟られたのには驚いた。

 

「…私が水兵だって、よくわかったわね」

 

「そりゃ、白のほうとは服のデザインが違うからな。白水兵の服には青い帯なんかないし、なによりお嬢さん…海のいい匂いがする。泥臭い沼とか湖の匂いしかしない白水兵とは、えらい違いだぜ」

 

海の匂いって…確かに私達の体には潮の香りが染み付いているけど、それはごく弱いものだ。水兵以外でわかるとしたら、普段から海の匂いを嗅いでいる人か、よほど鼻がいい人くらいだろう。

 

「どうして、匂いがわかるの。普通の人は、私達の匂いがわからないのに」

 

「ん?それはな…あれよ。オレは人一倍鼻が利くから、よ」

 

「…」

どうも、この人は信用していいかわからない。

本当に鼻がよく利くのだとしても、ここは内陸だ。そんな頻繁に海の匂いを嗅ぐとは考えづらいし、海の匂いがするから水兵とは限らない。海辺で暮らしている白水兵だっているだろう。

 

…正直、私は一つのリスクを考えていた。

それは、この人が異人密猟者ではないかということだ。

数が少なく絶滅が危惧されている異人を密かに捕え、または殺し、その身柄や臓器を裏の世界で売り捌くのが異人密猟者。

その大半は、殺人者や祈祷師あるいはその近縁種の異人であると言われている。

 

そして、私達水兵は元々数が少なく、絶滅の可能性もあるとされる種族。そもそも、まあ私達としては信じられないことだけど、水兵が所属するグループである海人系種族は肉を食用にしたり、油を取ったりする目的で利用されることが多く、素材の需要も高い。

そんな私達が彼らのターゲットにされるのはもはや必然で、実際に私も密猟者に知り合いが殺される所を見たことがある。

 

この人は水兵や希少な海人の密猟者で、それ故に海の匂いがわかったのかもしれない。

だとすると、こうして近づいてきたのは…。

 

でも、決めつけるわけにはいかない。だから、確認のために言った。

「あなたを信用しないわけじゃない。でも、念のため過去を見せてもらうわよ」

 

「いいぜ?どうぞ、ご自由に」

 

なんか、地味に腹が立つ。

とは言え、素直ではある。

 

私は目を閉じ、彼の過去を覗いた。

 

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