黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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無罪の為に

その結果、大層な事実がわかった。

この人はかつて、異人密猟組織の1人…それも界隈ではかなり有名な組織のメンバーだった。

しかも彼自身は殺人者としてはかなり強く、獲物たる異人を迅速に仕留め、その死体を速やかに捌き、内臓や骨をきれいに取り出して高い値段がつく状態にする…という「仕事」ができる男として組織内でも目をつけられていたようだ。

 

その標的は様々な種族に及んでおり、私の同族である水兵もその中に含まれていた。

彼が手にかけた異人の総数は400人に上り、そのうち水兵は100人ほどいた。

夜の町に入り込み、水兵が1人でいる所を襲うというやり方だったようだけど、よくそれだけの数をやれたものだ。

 

 

ただし、彼は5年ほど前に密猟組織を抜け、密猟行為自体からも足を洗った。

それからは盗賊行為をするようになり、各地で高価な物を盗んで生活していたけど、2年前にナアトに誘致されて以降は普通に魔法店を始め、それ以降犯罪行為はしていないようだ。

 

 

 

「…どうだい?ご満足いただけたかな?」

なんだか、複雑な気持ちになった。

こいつはかつて自分たちの利益のためだけに私の同族を含むたくさんの異人を殺し、その後は盗みを行って生活していた。それらの行為は当然許せないし、許されることでもないと思う。

 

でも、少なくとも今は普通に働いているし、悪事にも手を染めていない。

そして、今こうして私達の前に現れたのも、他ならぬ私達を助けるためのようだ。

…色々思うところはあるけど、この人自体は信じてもいいような気がする。

 

「ええ。あなたは昔、希少価値のある異人を密猟したり盗みを行って生活していた。でも今は、普通にお店をやっている」

 

「そうそう」

 

「そして、今は私達を助けるために姿を見せた。そうね?」

 

「そういうこった。今お前さんたちを助ければ、結果的にオレたちに返ってくるからな」

 

「…アレイさん。この方、本当に信用できると思いますか?」

カイナさんは警戒しているようだ。いや、私だって警戒してないと言えば嘘になる。いきなり現れたのだ、当然だろう。

でも、過去を見た限り信用できる人ではある。少なくとも、私達を欺こうとは考えていない。

 

「ここ数時間、そして数十年間の過去を見た限り、彼が私達を欺くリスクは低いです。少なくとも、私は信じられると思います」

 

「へえ?ものわかりいいな、お嬢ちゃん。伊達に殺人鬼と旅しちゃないな」

なんで知ってるんだろう…と思ったけど、思えば私達のことはすでに広く知れ渡っている。彼が私達のことを耳にしていても、不思議はない。

 

「殺人者は罪人だけど、悪人ではない。私は、彼との旅でそう学んだ」

 

「そうそう。オレたちは決して、悪人なんかじゃあない」

 

「よくそんなこと言えるわね」

彼は、私からすればいわば同族の仇だ。なのに私の前で堂々と「自分は悪人じゃない」と言えるのは、ある意味羨ましい。

 

「実際そうだからな。オレだって、好きで密猟とかドロボウなんかやってたわけじゃねえし」

 

「それはわかるけど…はあ、いいわ」

彼は、20歳までは人間として普通に働いて生活していたけど、職場での積み重なるストレスがもとで精神を病み、人間社会で生きるのが嫌になって殺人者になった。そしてそれ以降、犯罪を犯して生きるようになったらしい。

正しいことかはともかく、生きるためには仕方なかったのだろう…龍神さんだって、似たようなものだから。

 

「で、本題に入ろうか。お前さんたちはオレたちの…殺人者の無罪を証明するため、裁判ではお嬢さんが映し出す『過去』を見せようとしてる。けど、それだけでは不十分だ」

 

「なら、何がプラスアルファとして必要なの?」

 

「お嬢さんの映し出したものが、嘘偽りのない過去であるという証拠…捏造されたり、でっち上げられたりしたものじゃないって証拠が必要だな」

 

「そんなの、どうやって証明すれば…」

正直、彼の言うことは盲点だった。

私の異能はありのままの過去を映し出すもので、嘘もデタラメもない。でも、それが本当に過去そのものなのか証明しろ、と言われると何も反論できない。

今まで、そんなこと言われたことがなかったから、何も言い返せない。

 

「簡単さ。お前さんの映したシーンに描かれてた事が本当に起こってた、って証明すりゃいいのさ」

 

「どういうこと?」

 

彼は、人差し指を立てて言った。

「つまり、お前さんの映した映像に映ってたヤツを証人として呼べばいいんだよ。まともな裁判なら、真偽判別ができるやつくらい用意しとくはずだしな」

 

「なるほど、そういうことね」

要は、前もって映し出すシーンを決めておき、そこに映っている人に「このような場面は確かにあった」と証言してもらう、ということだろう。

確かに、それなら私の異能が事実であると証明できそうだ。

 

「しかし、そのような方をどうやって確保すればよいのでしょうか?」

 

「適当なヤツを捕まえればいいんじゃないかな。オレとかお前さん方の同族を召喚するのは、やめといた方がいいと思う。経歴とか調べられて、余計な事抜かされちゃたまんないからな」

 

「余罪あるのね」

 

「いや、そうじゃなくてな…まあいい。オレは知らない奴と話すのは苦手だが、お前さん方はどうだい?」

 

私は、初対面の人と話すのは嫌いじゃない。でも、そんなやり方では見た人に怪しまれるだろうし、何より時間がかかる。

だから、私は言った。

 

「そんなこと、する必要ない。この町に、私の知り合いがいる。その人に頼みましょう」

 

「いや、話聞いてたか?オレたちの知り合いじゃ、説得力ないぜ」

 

「そんなことないわ。あなた、自分で言ってたじゃない。真偽判別ができる人がいるはずだって」

 

真偽判別とは、いわば嘘を見抜くこと。

専用の魔法か魔法道具を使って行われることが多く、国家の正式な裁判ではまず間違いなくこの真偽判別を行う人、通称「判別官」がいる。

そして証人や被告はもちろん、検察や原告まであらゆる関係者が判別の対象となり、もし嘘を言っていた場合は対象者の発言が全て無効になる。

嘘を言って利益を得たい人にとっては邪魔だけど、逆に事実だけを述べる人にとっては何の障害にもならない。

 

「確かに言ったぜ?けどな、けどな…あ、お嬢さんの知り合いだけ出してくれるのか?なら、別に文句はないぜ」

 

つまり、自分の知り合いは召喚したくない、と。

どうやら、こいつの知り合いには余罪かやましい事がある人が何人かいるようだ。まあ、殺人者なんてそんなものだろうけど。

 

「私、別にあなたやあなたの仲間を売ろうなんて思ってない。殺人者に迷惑をかけるつもりはないから、安心して」

 

「そいつはありがたい。で、そいつはどこにいるんだ?なるべく早く話をつけなきゃないんだが」

 

「わかってる。すぐに会えるから、そんな焦らないで」

 

「そうか…」

 

私は帽子をまっすぐに調整し、服の汚れを払って言った。

 

「じゃ、行きましょうか。まずは、城を出て城下町へ向かいましょう」

 

 

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