黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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『カリスト』

メレーヌさんは笑った…けど、その表情にはただならぬものがあった。

「まさか、こんな所でまた会うことになるとは思わなかった」

 

「そりゃオレもだ。かつて初めて逃した獲物に、こうしてばったり会うなんてな」

ラステは相変わらず、気の抜けたような顔で言った。

 

「カリスト…?あなた、カリストの幹部なのですか!?」

カイナさんが焦ったように言ったけど、ラステは「元、な?」と言って平然としていた。

 

「あの…カリストって何ですか?」

私はその名に聞き覚えがなかった。

「あら、アレイさんご存知ないのですか?カリストは有名な異人密猟組織です。その活動は50年以上も前から始まり、十数人という少ない人数ながら膨大な数の希少な異人をその牙にかけてきました。一説では、これまでに彼らの犠牲となった異人は合計で6000人を超えるとも言われています」

 

6000人…ということは、1年に120人という計算か。確かに、団員が十数人の密猟組織としてはかなり多い。

その中に、私の同族はどれくらいいたんだろう…もちろん水兵ばかりではないだろうけど。

 

「それで…この人が、その組織の幹部であると?」

申し訳ないけど、過去を遡った時にそこまで見なかった。

 

「ただの幹部じゃないわ。彼は、カリストの中でも指折りの実力者。同族も驚くほど俊敏に動いて、確実に標的を仕留めることから『旋風』の異名を持つ…」

 

メレーヌさんがそこまで言うと、本人は嬉しそうにした。

「へえ、そこまで知ってるのか。光栄なもんだねえ」

 

「あの後、色々と調べたからね」

 

「…ん?その顔。お前さん、やっぱりオレとやり合いたいんじゃないのかい?」

 

「あなたが『旋風』のままだったら、ね。今は普通に生活しているんでしょ?」

 

「まあな」

 

「それに、私と同じようにアレイさんたちを手伝ってくれるのよね?それなら、戦う必要はない。わだかまりがなくなったわけじゃないけど、ひとまずは休戦よ」

休戦、ということはいずれまた争うつもりなのだろうか。まあ、過去に命を狙われたことがあるなら、当然だろう。

でも、もしそうなったとしても彼女が負けるとは思えない。

 

メレーヌさんは、私が知ってる限り結構な実力者だ。直接戦ったことはないけど、レークとニームの合同実践訓練の時にセレンの相手をしてるのを見たことがある。

磨き抜かれた身のこなしと短剣の技術、そして強力な水の術。それらを組み合わせ、多様かつ複雑な振る舞いを見せる姿に、私を含めて多くの水兵が魅せられた。

 

特に彼女の奥義「乱舞・風花鏡月」と「双刃鳴(そうじんめい)水光軌跡(すいこうのきせき)」は、一度見たら忘れられない。

前者は空中に複数の水の刃を作り出して斬り裂く技で、後者は左手に水の短剣を生成して一時的に2本持ちになりつつ、回転切りと切り払いを繰り出す技…だったと思う。

 

どちらも、とにかく見た目がかっこいい。空中に迸る水の刃、そして尾を引く水の力を込められた短剣。それはまさしく、経験のある異人の奥義だ。もちろん、威力も相応にあるだろう。

特に後者の技は、セレンを一撃で落としたのを見たことがある。

 

もとよりその強さをよく知られており、実際それまでの試合でほとんど負け知らずだったセレンを、一撃で仕留めた。その事実は、彼女の奥義の演出も相まって、当時の私にとっては衝撃だった。

 

ラステの実力のほどは知らないけど、メレーヌさんに勝つとは思わない。

彼もそれを何となく理解しているのか、はたまた戦うのが面倒なのか、ため息をついた。

「はいよ。まあこっちもやり合う気は無いから、ありがたいけどな」

 

 

 

次の人の所へ向かう途中、ラステにカリストのことを聞いてみた。

「あなたは、元々『カリスト』って組織の一員だったのよね。詳しく話してくれる?」

 

「別にいいが…なんでそんなこと知りたがる?」

 

「何となく、気になるの」

 

「おいおい嬢ちゃん、わかってるのか?お前さんくらいの年の娘にゃ、ちょっとアレな世界の話だぜ?」

 

「別にいいわ。私は残酷なものは見慣れてる。人の悲しい過去ですらもね」

 

「…そうか。なら、話そう。さっき皇魔女陛下もおっしゃってた通り、カリストは50数年前から活動を始めた異人専門の密猟組織だ。首領はガレード・バスティマってやつでな、こいつは斧と弓を扱う男の殺人者なんだ」

 

「殺人者…?下級種族がドンなのですか?」

 

「ああ。元々ガレードは生活のために一人で異人密猟を始めたらしいが、しばらく続けてるうちにだんだんと仲間になりたいっつー同族が増えていってね。いつの間にやら立派な密猟組織になった。それが、カリストってわけだ」

 

「あなたも、その1人だったの?」

 

「ああ。オレはそれまでただのドロボウだったんだが、もうちょい安定して稼げる仕事が欲しいと思ってたところだった。そんな時、ジヌドの酒場でヤツに出会ってな。最近始めた異人の密猟が楽で儲かるんだが、まだメンバーが少ない。お前は腕が立ちそうだし、よければ入ってくれないか…って聞いたもんで、すぐに仲間入りを決めたよ」

 

安定して稼ぎたいなら、素直に働いたほうがいい…というか、それが普通だと思うのだけど、殺人者にそれは通じないだろう。

場合によっては怒らせることもあると思うので、言わないでおく。

 

「ということは、あなたは組織の中では古参なのですね」

 

「そうだな。それからはメンバーもだんだん増えていって、幹部だけでも20人近く、下っ端の奴らなら400人は下らないくらいになった。そして幹部の連中は、みんな何かしらの二つ名を持ってた。『人狼』とか『追跡者』とかな」

 

「そして、あなたはその中で『旋風』と呼ばれていたのね」

 

「別に大したことしちゃいないんだけどな。オレは元々、一回借金で破滅して死にかけた身だ。生きるためなら、何だってやってやる。その一心で、働いてただけだからな」

 

そう聞くと、まるっきり悲しい過去を背負ってるようにも思えるけど、実際のところこいつはギャンブル好きで、浮いたお金があればすぐ使ってしまっていた。

しかもまともに仕事を続けることが出来ないためにやがて生活が立ち行かなくなり、結局借金地獄に陥った…という経緯がある。

後者はともかく、前者の理由は擁護しきれない。

まあ、盗賊になる人なんてそんなものだろうけど。

 

「なるほど。でも組織の幹部だったということは、それだけあなたは首領に目を置かれていたのでしょう。そのような人が、なぜ組織を脱退したのです?」

 

すると、ラステは途端に複雑な表情をした。

「それは…まあ、いろいろあってな。復活の儀の後、楽に狩れる獲物が減ったってのもあるが…一番は、再生者の存在だな」

再生者と聞いて、私とカイナさんは目を見開いた。

 

「彼らの影響が、あなた達にもあったのですか?」

 

「そんなとこだな。なんつーか…複雑な事情があってだな」

カイナさんはまだ聞きたいという顔をしてたけど、彼の様子からこれ以上は聞くべきではないと判断した私は、話をうまく切り上げた。

 

「それならいいわ。あなたに負担をかけたくはない。それより、次の人のところへ向かいましょう」

 

「誰か、あてがあるのですか?」

 

「はい。ちょうどこの近くに住んでる人なので、すぐに向かえます」

 

「そりゃいいね。なら、さっさと行こうぜ」

 

この町にいる、もう一人の私の知り合い。

それは、私にとって数少ない、この旅を始める前からの異種族の知り合い。

でも、メレーヌさん以上に長い間会ってない。

一応、さっき連絡はしたけど…大丈夫だろうか。

 

ちょっと心配だけど、行ってみよう。

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