黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
弓を構え、スラッシャーの矢を番えた。
今の今まで気づいてなかったけど、入廷の時に装備を奪われなかったことに感謝した。
まずは矢に魔力を込め、普通に射る。
狙いは、さっきまで激昂していた司祭だ。
放った矢を杖で撃ち落としてきたけど、2本目と3本目はそうはいかなかった。
撃ち方自体は普通だったけど、撃ってすぐに2本目の矢を撃ち、さらにぐるりと一回転しつつ3本目の矢を抜いて番え、撃ったのだ。
今までやったことない動きだったけど、自然にできた。
連撃で向こうが怯んだ隙に、再び矢を撃ち込んだ。ただし、今度は氷の力を込めて。
さっきより強い魔力を込めたからか、矢はより早く飛んだ。そして、命中した時の威力と演出もまた派手なものとなった。
「へえ…なかなかじゃあねえか」
ラステが感心したように言い、メレーヌさんがそれに反応した。
「当然でしょ?彼女は特別な水兵なの。下手したら、私より強いかもしれないわ」
「そいつはおっそろしいな。さすが、
すると、龍神さんがすぐに反応した。
「お前までそれを言うのか。…まあ『旋風』にそう言われるのは悪い気はしないけどな」
「あんたこそ、オレなんかの実力を買ってくれてるじゃんか。しょうもない人さらい兼ドロボウだってのに」
「どうだろな。まあ何にしても、しっかり働いてはもらおうか。こうなることは、知ってただろ?」
ラステは何も言わず、短剣を構えた。
もしかして、初めから彼らの正体を見抜いていたのだろうか。
「そんじゃ、一仕事してやるか」
彼は軽い口調だったけど、そこから繰り出された技は圧巻の一言だった。
短剣を縦横無尽に振るい、私に魔弾で反撃しようとしていた司祭をバラバラに切り裂いた…その速度は、まさしく目にも止まらぬ速さだった。
サイコロステーキのように細かくなった司祭…もといマーラスは、すぐにバラバラになったパーツ一つ一つが正確にくっついて復活した。
ラステは「へえ…面白いじゃんか」と笑った。その表情は、手応えのある獲物を見つけた殺人者のそれだった。
メレーヌさんとライマーは驚いてたけど、私としてはこれは予想済みだ。
「奴らは、並の攻撃じゃ倒せん!倒したと思っても、すぐ再生する!とびっきりの強烈な技を見舞ってやれ!」
龍神さんの言葉を聞き、2人は構えた。
と、ここでマーラスが攻撃してきた。
杖を振りかざし、空中に不気味な緑色の目玉を召喚して、光線を放ってきた。
避けたつもりだったけど、右肩に掠った。
「っ!!」
思ったより威力があり、痛みも鋭かった。
メレーヌさんも食らったようで、服の胸元が大きく破けていた。
「な…何これ?私は、魔法耐性は高いはずなのに…」
「魔防無視、ってところだろうさ。闇とか黒魔法にはよくある特性だ。ま、悪人の再生者っぽいわな」
ライマーがそう言うと、今度は彼にも魔法を放ってきた。
「うおっと!」
身をよじって躱しつつ相手の表情を見たのか、ライマーは回避を終えてから言った。
「奴ら、一対一で戦いたいみたいだな。勝ち抜きのトーナメント式の戦いをご希望らしい」
確かにそうかもしれない。だって、私達はこうしてあのマーラスに集団でかかっているのに、彼の後ろにいる8人のアンデッドは微動だにしていない。
加勢に加わろうとせず、黙って見ているだけなのを考えると、双方から1人ずつ出して戦う事を望んでいるのかもしれない。
「なら、それに応じましょう。というか、そうしないと余計暴れられそうだわ」
「確かにな。じゃ、こっちの代表を決めようか。誰にする?」
すると、メレーヌさんが手を挙げた。
「なら、彼がいいんじゃないかしら」
「…え?オレかい?」
指を差され、ラステは困惑したようだったけど、
「そうかい…ならいいぜ、やってやるよ」
と、結果的には乗り気になってくれた。
ラステを残して、私達は3歩ほど下がった。
相手はさっきと同じマーラスだ。
再生したとは言え、すでにある程度ダメージを受けているはずだから、そこまで苦戦はしないだろう。
向こうは両手を高く掲げてから前に突き出し、頭上に作り出した風の魔力の塊をラステに飛ばしてきた。
結構速かったけど、ラステはそれを難なく躱して反撃を見舞った。
「刃技 [早業返し]」
短剣を後ろに構えた…と思ったら、次の瞬間にはマーラスの胸から血が噴き出していた。
「…!」
私が驚いていると、メレーヌさんが唸った。
「早業返しか…まあ、まずまずの技ね。でも、あれだけではあいつは仕留められないでしょう。ここからどんな技に繋げるのかしら?」
それを聞いていたのか、ラステは…一瞬だけ微かに笑ったように見えた。
そして、彼は大技を繰り出す。
「奥義 [ストームザッシュ]」
短剣を構えて空中で回転し、竜巻状の斬撃を起こして飛ばして相手を切り刻む。
ミキサーのように無数の肉片と大量の血が渦巻くそのグロテスクな光景に、私は何故か既視感を感じた。
ちなみにライマーは目を背けていたけど、メレーヌさんは割と平気そうだった。戦闘の経験が人並み以上にあるからだろうか。
「あ、そうだ。こいつを試してみよう」
ラステは血の海に向かって聖水を投げ込んだ。
これはいい行動だと思う。再生するタイプのアンデッドは、体の再生を完了させる前に聖水をかけると、再生を阻止出来る。
これを使えば、火力が足りなくて本来倒しきれないアンデッドでも倒すことができる…お姉ちゃんのような、特に強力なアンデッドは別だけど。
マーラスは、もう復活してはこなかった。
「よーし…これはもう1枚抜きでいいな!」
龍神さんがそう言うと、次の代表らしきアンデッドが前に出てきた。
次はマーラヴ、つまり女の司祭だ。
その見た目は、以前遭遇したイゼル…もといリッチのように美しい。でも、それは獲物たる生者を欺くためのものだ。
案の定誘惑術を使ってきたけど、ラステがかかる心配はないだろう。彼は殺人者だ。精神への攻撃には、ほぼ完璧な耐性がある。
やはり、彼は術にはかからず、それどころか逆に光の術で攻撃を見舞っていた。
向こうも元が司祭なので白魔法を使って反撃してきたけど、ラステは上手く躱した。
そして魔弾で追撃してきた所で、カウンター技を繰り出した。
ぐるぐると2回回り、高速の斬撃を飛ばした。
メレーヌさんによると、[平風車]という技らしい。
斬撃で相手の体を真っ二つにしたところで、ラステは再び奥義を出した。
「奥義 [骨切り四連]」
短剣をまっすぐ振り上げたかと思うと、その斬撃を中心にして左右に4回ずつ、魚の骨のように斬撃が広がった。
ラステは、マーラヴが倒れたところで再び聖水をかけ、あっという間に2人抜きを決めたのだった。
「す…すごい!」
私は思わず声を上げた。でも、まだ7人はいる。
もちろん可能ならこのまま全員を倒してほしいけど、合計で9人の高位のアンデッドを捌ききるのは厳しいだろう。
ならば、彼が敗れた時のための準備をしておこう。
そう思って、回復の用意をしておくと同時に次の代表を話し合った。
結局、次は私が出ることになった。
まあ、本当は出たいと申し出たのだけど。
なるべくメレーヌさんたちの手をわずらわせるのは避けたいし、そもそも彼らは私が倒すべき敵だと思うから。