黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
次に現れたのは、一般人のマーラス。
特にこれといった特徴はない、ありふれた姿の男のアンデッドだ。
一見ラステを手こずらせるような相手には見えないけど、わからない。
それは彼も同じだったのか、表情こそ余裕を浮かべていたけど、その目つきは至って真剣だった。
短剣を構え、技を繰り出そうとしているようだったけど、同時にカウンターの構えを取っているようにも見えた。
相手は青い爪をつけた腕を広げたまま、獲物を狙う虎のように構えている。ラステもまた胸の前で短剣を持ち、相手と睨み合う。
今気づいたけど、彼はいつの間にか短剣を逆手に持っていた。
刃を自分の方に向けて持つ、短剣の「逆手持ち」。何年か前にメレーヌさんがやっているのを見たことがある。
詳しいことは知らないけど、確か防御に身を置いた持ち方だったと思う。
彼があの持ち方をしている…つまり守りの構えを取っているということは、相手に攻められることを前提にしているのだろう。
いや、戦いなんだからもちろん攻められはする。でも、これまで彼は相手の攻撃を軽く避けてきた。なのに、ここにきて守りに出るなんて。
なんか変だな…とは思ったけど、まあ彼なら大丈夫だろうとも思った。
そして、ついにラステは攻撃に出た。
相手の懐に飛び込み、短剣を振るった。
首を掻き切ろうとしたのだろうけど、容易く躱されてしまった。それだけじゃなく、抱き込むようにして両手の爪で背中を突き刺された。
そこまで威力のある攻撃には見えなかったけど、妙なほど血が多く出ていた。
最初は違和感に気づかなかったけど、数秒後…向こうが手を離し、血まみれになったラステが苦痛を顔に浮かべたのを見て理解した。
「ってぇ…特効はいただけないな」
「特効…!?そうか、『罪滅ぼしの武器』…ね!」
さすが、メレーヌさんはよく知っている。
この世界には、特定の種族に対して有効な武器が存在する。その特殊な効果を「特効」と呼び、これを持つ武器を特効武器と呼ぶ。
相手が自分の種族に特効がある武器を使ってきた場合、一気に不利になる。
そして、メレーヌさんが言っていた「罪滅ぼしの武器」は殺人者系種族に特効がある武器で、殺人者系種族に対しては威力が3倍になる。
当然こちらが向こうに特効の武器を持っていれば有利になるのだけど、そもそも特効武器はあまり流通しておらず、使う者は珍しい。
今回の敵はアンデッドだから、銀製の武器が有効打ではあるけど、ここにはない。
「これ以上は無理そうだな…ここは、下がらせてもらうよ」
ラステは自らの敗北を宣言し、決闘の場を降りた。
そんな彼を、私達はすぐに救護した。
「結構な傷だな…」
爪で刺されただけ、というには痛々しい傷ができていて、出血もかなりしている。もしこの傷が背中ではなく胸に出来ていたら…と思うとゾッとする。
特効というものは、それだけ大きな効果があるのだ。
私がラステの血を止め、メレーヌさんが回復すると、彼は妙な笑顔になった。
「なんだ…あんたたちが海術でオレを助けてくれるとはな」
「わだかまりはあるにせよ、今は味方だからね。それに、あなたに死なれたらアレイが悲しむわ」
「そうか…へっ、水兵ってのはわかんねえな」
そして、次は私が決闘場に立った。
相手の武器は爪。攻撃もそうだけど防御面に関しても結構優秀で、相手の攻撃をよく見れば盾のようにして防ぐことも十分できる。
でも、爪をつけてその真価を発揮できるのは屈強な肉体と優れた技術を持つ異人。アンデッドとはいえ、一般人がそこまで使いこなせるかはわからない。
だからと言って油断はせず、確実に攻める。
「[霧氷固め]」
まずは相手の体に冷気を沈着させ、動きを鈍らせる。完全に動かなくするわけじゃないけど、それでも動きを鈍くする意味はある。
「[フローズンブレイク]」
氷を破壊する矢を撃ち出す。
相手が完全に凍りついていなくとも、冷気に覆われてさえいれば追加効果が発動するから、確実なダメージを見込める。
相手が体勢を崩したところで、私は魔弾を放った。
「[氷花冷撃]」
雪の結晶をイメージした6つの魔弾を1つにまとめ、撃ち出す。以前スレフさんとの模擬戦でも使った、私の自信技だ。
その結果、相手は見事に倒れた。
結果的に、私は無傷で勝利した。
次の相手は、同じく一般人のマーラヴ。
こちらは物理武器ではなく、魔導書を所持していた。
私は魔法攻撃には割と耐性がある方だと思う。特に水と氷属性には自信がある。
けれど、こいつが持ってきたのは闇の魔導書のようだった。攻撃時の演出を見る限り、おそらくは…[ヘル]。
食らうと魔法防御力を下げられてしまうので、極力食らわないように躱しつつ反撃する。
魔導書を使ってきたということは、物理攻撃には多少なりとも弱いはずだ。
弓にブレイドの矢を番え、さっきと同じように3連続で放った。結構なダメージになったようだけど、致命傷には至らなかった。
そこで、今度は魔弾を撃つ。
「スレイブレイト」を放って追撃すると、倒すことができた。
これで、2人抜きだ。
次に現れたのは、やはり一般人のマーラヴ。手にしているのは剣だけど、ただの剣じゃない。おそらくはガールソード…女にしか使えないけど高い威力を誇る剣だ。
これもまた珍しい武器で、使っている人はほぼ見たことがない。けれど、その威力は決してバカにできないと聞く。
近づけさせないよう、弓と術を総動員して戦おう。