黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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樹海の中の穴

やはりというべきか、洞窟の中は意外と暖かい。

雪もないので、奥へ進むのはたやすい。

 

この地域全体がそうなのだけど、流未歌の力のせいで飛ぶことができない。

なので、足を踏み外したり転んだりしないよう慎重に奥へと進んでいく。

 

「結構長いな…いかにも冒険って感じだ」

狭い穴を通りながら、龍神さんはそんなことを言った。

 

それで、私はふと気になった。

「龍神さんは、反逆者に会ってみたい…とか思ってたんですか?」

彼は、世界中でその強さと異常性を危険視されている殺人鬼だ。

でも、殺人鬼は殺人者系統で見れば中位の種族。最上位種族の反逆者と比べれば、下の存在ではある。

そんな彼は、反逆者のことをどう思っているのだろう。

 

「ふーむ、そうだな…まあ、会ってはみたかったな。いずれ進むかもしれん道だし」

 

「あ、そうなんですね。私も同じです」

 

「ん?何でだ?」

 

「反逆者って、伝説や物語でしか聞いたことがなかったので…」

反逆者は多くの地方で伝説上の存在、あるいは過去の存在とされていて、昔話や吟遊詩人の詠う詩のような物語にはよく登場する。

でもあくまで「伝説」で、そもそも初めから実在していない種族だという人もいれば、かつては実在したけどすでに滅びた種族だという人もいる。

そんな種族にこれから会うのかと思うと、何とも言えない感動と緊張を感じずにはいられない。

 

「確かに、伝説とかには出てくるな。けど、伝説ってのはただのうわさ話とは違うぜ。ちゃんと、そのもとになった事実がある」

 

「…確かに、そうですね」

 

 

そんな会話をしながら進んでいると、突如大きな穴のように広がった所に出た。

底は見えないけど、なぜだか飛び降りても大丈夫なような気がした。

「龍神さん、ここ…」

 

「ああ、飛び降りれそうだな」

彼も、同じように思ったようだ。

 

 

 

 

意を決して飛び降りた先は、さらに奥へ続くらしい道があった。

そしてその先は…。

 

 

「あれ?」

思わず声を上げてしまった。

そこには過去に道が崩れたのか、目の前に大きな空洞があるだけで行き止まりだったのだ。

 

(来るのが遅かったの?それとも、道を間違えたのかしら?)

私はそう思ったけど、龍神さんは違った。

彼は壁に手を当てて「そういうことか…」と呟き、上を見上げて叫んだ。

 

「親父ー、いるなら返事してくれー」

 

「えっ…?」

その言葉に驚くと、彼は小声で注釈を説明してくれた。

「俺たちの間ではな、反逆者のことは『親父』とか『お袋』って呼ぶ習わしがあるんだ」

 

「あっ、そういうことですか…」

 

彼は、引き続き声を張り上げた。

「俺は殺人鬼だ、偉大な親父の顔を一目でも見たい。だから…頼む、出てきてくれー」

 

 

すると、何やら大きな物音がした。

飛ぶ音…みたいだったけど、翼や魔力を使っているのとは違う。ゴーッというような、すごい音だった。

 

「なんだ…若人(わこうど)か。ならば隠れる必要もないな」

重々しい声と共に虚空から現れたのは、赤い貴族のような服を着込んだ男性だった。

髪は黒く、目は青色をしている。

これが、反逆者ラモンの息子…ルーヴァルか。

「おお、ついに応えてくれたか。…やっと会えたな、偉大な反逆者よ…」

龍神さんは、震える声で言った。

 

「ふん…(わたくし)はまだ生まれて間もない。無駄に持ち上げるようなマネはするな」

生まれたばかり…ってこと?

でも、見た限り私より年上っぽいけど…。

 

「それは申し訳ない。だが、あんた…じゃなかった、あんたの親父の話はいろいろ聞かせてもらってるんだ」

 

「であろうな。だがそれは、所詮我が父の残した軌跡に過ぎない。私自身の軌跡は、まだ皆無だ」

 

「あ、あの…」

私は声を絞り出すように言った。

すると、彼…ルーヴァルは私を見てきた。

 

「お前は…そうか。ここにいずれ水兵が来ることは父より聞いていたが、よもやこんなにも幼いとはな」

 

「それで、なんですが…あなたのお父様は、なぜ亡くなられたのですか?反逆者は、決して死なないと聞いたことがあるのですが…あ、間違ってたらごめんなさい…」

正直、ちょっと怖い。この気持ち…初めて龍神さんの正体を知った時に抱いた感情にも似ている。

 

「我が父…ラモンは死んだのではない。空の上の国へ飛び立っただけだ」

 

「空の上、ですか…?」

 

「そうだ。まあ、お前のような赤子には理解できまいが、我らはこの世に飽きた時に空の上の国へ飛び立つ。父もまた、そちらへ赴いたのだ…私を残してな」

死ぬのとは何か、わけが違うのだろうか。

私にはよくわからないけど、とにかくラモンはもうこの世にはいないようだ。

 

「あなたのお父様は、かつてシエラ達と一緒に流未歌を倒したと聞きます。疑っているわけではありませんが、一応確認させてください。それは、事実なのですか?」

 

「無論だ。父は1人の陰陽師と、2人の司祭と共に流未歌を倒した。…だが、完全には倒せていなかった」

 

「どういうことですか?」

 

すると、ルーヴァルは目を見開いた。

「なんだ、知らぬのか?…意外だな。お前なら知っていると思っていたのだが」

 

「…ごめんなさい、無知で。私、再生者のことはあまりよく知らないんです…姉からも、ほとんど聞いていなかったので」

 

「謝る必要はない。幼いお前には、残酷な事実だ。だが、事実とはもとより残酷なもの。お前に、それを知る覚悟と勇気があるかな?」

 

彼のセリフは、大げさではないような気がした。

それでも、私は答えた。

「…はい!」

 

「そうか…」

ルーヴァルはゆっくりと降りてきた。

 

「ならば教えよう。再生者の真実を。この世界に、今何が起きているのかを…」

 

 

 




異人・反逆者
ただならぬ雰囲気を漂わせる、殺人者系の最上位種族。
最上位の異人の中でも珍しい存在で、その数は極端に少なく、長らく実在も疑わしいとされていた。
優れたカリスマ性と行動力を持ち、あらゆる理不尽や不条理に「反逆」する、数々の独自の技を持つ、自ら望まない限り老いず死なない肉体を持つなどとされる。

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