黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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疾の悪女

ひときわ不気味な風と共に、彼女が現れた。

その身なりは以前とほぼ同じだけど、一つだけ違うところがあった。それは、奇妙な輪を背中につけていることだ。

 

「流未歌…!」

ルーヴァルは顔を引き締め、剣を構えた。

 

「お前は…そうか、あの男の(せがれ)か。あいつが女を作っていたとは。まあいい。所詮、蝿は蝿に過ぎない」

流未歌は生者のことを蝿、もしくは蛆虫と呼んで蔑んでいる。

この言い方は彼女特有のもので、他の再生者はおろかアンデッド全体で見ても同じ言い方をするものはほとんどいない。

 

「我が父は、いつも貴様のことを言っていた。そして、父は最後に言い残した…我々は奴を追い払ったに過ぎない。もしいつの日か流未歌が蘇ることがあれば、その時は必ずや奴を仕留めろ、と…」

 

「…ほう。だが、お前がそれを叶えることはない」

流未歌は、龍神さんに目を移した。

 

「…お前も変わっておらぬな。あの時と同じ、小憎たらしい顔も健在だ」

 

「そりゃどうも。けどな、そいつはこっちのセリフだぜ」

すると、流未歌は目を見開いて彼を睨んだ。

「…。相変わらず、見る目がない奴だ。まあ、お前にはもとより何も期待していないが」

 

そして、最後に私を見てきた。

「星羅の妹…私は、お前だけは殺すつもりはない。本当は殺してもいいのだが…やはり、生きたままのほうが価値がある」

 

「私を、連れて行くつもりなのね」

 

「お前は本来、そちらにいるべきではない。お前の姉と同じく、我らの側につくべき存在だ」

 

「そんなの、あなたに決める権利はない。私が生きるか死ぬかは、私が決めることよ」

 

「己の定めに気づいていないから、そんなことが言えるのだ。…お前は、此度の忌み子。それはすなわち…」

 

その言葉を切り、私は言った。

「ええ、そうね。でも、私は既に一度命を落としている。その時にそうならなかった以上、再生者にはならないわ」

 

「甘いな…定めは定め。人間としての死が転機にならなくとも、異人としての死が転機となろう」

 

「なら、私を殺すと言うの?」

 

「必要に応じて、と言われているからな…やむを得まい」

 

と、ここで2人が口を挟んだ。

「おっと、そうはいかないな。アレイの命は、レークの長からの預かりものだ。こんなところで消し飛ばすわけにゃいかねえぜ」

 

「貴様こそ、その前に自らの首が飛ぶことを心配するのだな」

 

すごんだ2人はなかなかの迫力だった。

でも、流未歌は相手にもせずに嘲笑った。

「哀れだな、同情したくなるほどだ。自身の身の程を弁えず、勝てもしない戦いを自ら挑むとは。まあ、それも人の子らしくてよかろう。…我がかつての宿敵とその子、そして定めに抗わんとする忌み子よ。お前たちの(からだ)と心、我が風で切り刻んでくれよう」

 

 

 

 

まずは、私が技を出した。

「[レイヴンバレット]」

汎用技の一つとして使ってきた技だけど、実は鳥系や有翼系に特効がある。

流未歌は元鳥人だということで、もしかしたら特効が通るかも…と思ったのだけど、そんなことはなかった。

躱されはしなかったけど、大して効いていないようだった。

「生憎だが、私には有翼特効は効かんぞ」

流未歌はそう言いながら、反撃をしてきた。

「[シグマブラスター]」

手を翳したかと思うと、白色のビームのようなものを飛ばしてきた。

体をよじって回避したけど、なんとすぐにもう片方の手からも同じ攻撃を放って追撃してきた。

しかし、なんとルーヴァルが乗り出して私の身代わりとなってくれた。

 

「…」

出血こそなかったものの、魔力からして結構な威力があったように思える。でも、ルーヴァルは表情を一切変えていない。

殺人者系種族は痛みや負傷にめっぽう強いと聞いたことがあるけど、反逆者である彼はそれの極致とも言える領域にたどり着いているのだろうか。

 

 

次は、龍神さんがいった。

「[ネクロス]!」

以前の修行で私も習得した、闇の魔導書で攻撃を仕掛けた。

これは明らかに効いていて、流未歌は若干ながら怯んだような様子を見せた。

そこまで強力な魔法でもないのだけど…闇に弱いというのは、本当だったようだ。

 

続けて、彼は「ヘル」を唱えた。

これまた以前習得した魔法で、灰色のドクロを召喚して黒いブレスを吐きかけるという演出だ。

流未歌は仰け反ったり怯んだりはしなかったけど、攻撃を受けた左手をかばった。

 

さらに、そこへルーヴァルも攻撃する。

剣を高速で振るい、計3発の斬撃を見舞う技…と言いたいところだけど、ひょっとしたら技じゃないかもしれない。

なぜなら彼はその後も回転斬りや、薙ぎ払いのような剣技を声も出さずに繰り出していたからだ。

私達にとっては銘を宣言するような技であっても、彼にとってはそんな必要はない、普通の剣技であるのかもしれない。

それらの攻撃は流未歌に防がれることもあったけど、完全には防がれていないようで、少しずつダメージを蓄積できているようだった。

 

一応試してみたのだけど、氷は効かないようだ。

氷の魔弾を放っても、流未歌のまとう透明な風に防がれた。こちらはルーヴァルの攻撃と違い、少しも削っている様子はなかった。

…なんか、セレンのことを思い出した。

私と同じ町の出身で、薙刀を使う水兵、セレン。

彼女は風属性で、大半の攻撃を防ぐ風をまとう奥義を使うのだけど、それに似てる。

最も、あちらは同じ風属性の攻撃に穴があるけど、こちらは闇以外では破れない。

 

私も闇の術を使った、けどどうもあまり火力が出ない。どうやら、私は元々闇属性に適性がないため、本来の威力を発揮できないようだ。

でも、ルーヴァルが力を飛ばしてくれたおかげで、流未歌の風を打ち消すに近づくくらいの威力は出せた。

 

流未歌が繰り出してくる技は、どれも威力が高い。

「[裁断の風]」

今もまた、風の刃を作り出して飛ばしてきた。けれど、やはりというかルーヴァルが盾になってくれる。

おかげで私たちは無傷で済むけど、このままでは彼に申し訳ない。

なので、私は一際強力な技を繰り出した。

 

「[氷花冷撃]」

ここまでの攻撃で、今は一時的に流未歌のまとう風が弱まっている。なので、きっと氷も通る。

そう思っての技だったけど、果たして…。

 

 

「…!!」

突如、流未歌の背中の輪が光りだした。

そしてその一部が分離したかと思うと、何やら変形を始めた。

それは不気味な音を立てて見る見る変化していき、苦しんでいるような人の顔になった。

 

「!?」

私が驚いている中、龍神さんは舌打ちをした。

「やっぱりそう来たか…ったく、趣味が悪いぜ…!!」

彼の反応からすると、巣と同様に取り込んだ者の顔を出しているのだろうか。

 

その顔は、表情を歪ませながら炎を吐いてきた。

何とか避けたけど、危ないところだった。

 

「お前は確か、氷の使い手だったな?ならば、火に弱いのは必然だな…星羅の妹よ」

流未歌は私を見つめ、そう言ってきた。

 

「私の背には、常に3人の眷属がいる…お前たちの相手は、1人ではないのだ!」

彼女はそう言いつつ、その顔と一緒に技を放ってきた。

 

「[クロスブルーム]」

 




世界観・忌み子
復活の儀を生き延びた異人の中で、死の始祖によって選ばれたとされる者。
優秀な魔導の才を秘めているが、死した後に新たな再生者となる宿命を背負っている。
これまでに合計10人の忌み子が現れているが、その宿命を覆したのは、現在に至るまで生の始祖のみであった。

皇京流未歌
死の始祖に仕え、死の始祖の復活と生者の世界の征服を目論むアンデッド「八大再生者」の一人。
刃が湾曲した刀を扱い、「風」の属性を司る。
元は鳥人だが、さらに以前は人間だった。
シエラの子孫であるこころが再生者となりアルピアの封印が解けて自由になったが、アレイが生きておりスタールの結界が消えていないために力を取り戻せていない。
かつて自らが破壊したナアト聖王国と同じ立地にある国ナアトの壊滅を目論み、魅了した通り魔や配下のアンデッドを送り込んだりしていた他、アレイの前に自ら姿を見せ、挑発も行っていた。

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