黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
慌てて回復しようとしたら、狙ったかのように風の刃が飛んできた。
ルーヴァルが剣で弾いてくれたけど、危なかった。
回復のタイミングを考えたほうがいいか…でも、あれはすぐに回復せざるを得なかった。
体力や根性のある人ならいいのかもしれないけど、私は傷を負ったらすぐ回復する…そこまで痛みに強いわけではないから。
言い訳がましいと思われるかもしれないけど、私はそもそもこの旅が始まるまで戦いとはほぼ無縁だったし、元々人間だった身だ。生来の異人と比べると、どうしても劣る面がある。
その一つが、耐久力と心。
体の耐久と、心持ち…人間にあり、異人にはない感情があるという点は、劣っていると言わざるを得ない。
私は、今でも異人としては体力が低く痛みにも弱いほうだと思うけど、これはたぶん、元が人間であるが故のことだ。
きっとそれを変えるのは難しいだろう。少なくとも、20年で変わるものではなかった。
けれど、なんとなくこれはこれでいいような気もする。肉体がどんなに変わっても、心の核心は人間のままであるということなのだから。
人間は異人と比べると低く見られがちだけど、私は全然そんなことないと思う。
確かに能力は劣るかもしれない、けど人間には人間の良さがある。
そもそも異人は人間が進化した存在だ。人間がいなければ、異人は存在していない。人間は、異人の祖先と言える存在なのだ。
異人が人間をバカにしたり、蔑んだりしていいわけがない。
…とまあ、このような考えも流未歌は否定するのだろうけど。
「幼子にこのような傷を負わせるとは…いや、わかりきっていたことではあるが、やはりお前たちは化け物だな」
「人殺しの怪物には言われたくないな。私には心がある、だがお前たちに心はあるまい」
「我らにないのは、余計な感情を抱かせるような不要な心だけだ。我らは極限まで心身を磨いた存在、貴様の思うような怪物でもなければ、冷たい機械でもないわ」
「ふん…」
流未歌は喋るのをやめ、両手を組んだ。
「『万物を奪い去る』…」
その詠唱から、次に来る技を予測した私は闇の魔導書を詠唱した。
「[トワイライト]!」
黒と白を上手く混ぜ合わせたような色の光が迸り、流未歌のまとう風を解除しつつ技を妨害する。
なんとなくわかったのだけど、今彼女は奥義を使ってこようとしていた。だから、一か八かで闇魔法を唱えて風を消し、妨害できないか試してみたのだ。
「見事だ!」
ルーヴァルはそう叫んで、私の手を取ってきた。
彼は、そのまま大きく旋回する。
風が、私の頬をさするように吹く。
私達を追うように放ってきた弾をすべてかわし、ルーヴァルは流未歌に向かって突っ込む。
「"星羅の妹よ…"」
「…!」
私は驚いた。
頭の中に、直接彼が話しかけてきたのだ。
「"奴を倒すには、皆で力を合わせねばならん。それは、すなわち技を合わせるということ…意味がわかるかな?"」
「"…はい"」
これもまた、なんとなくわかった。
「"では、行こう"」
そして、彼は私を離した。
「[謀反の一太刀]!」
ルーヴァルが技を放つ。
それは単に剣を振り下ろすのではなく、瞬速の速さで目の前のすべての範囲を斬りつける技だった。
それは2つの顔を切り裂くことができたようだけど、流未歌自身に傷をつけるには至らない。
反逆者の技でも傷をつけられないとは、恐ろしい頑丈さだ。
しかし、今回の攻撃はこれだけではない。
少し離れた所から、私が魔弾を放った。
そしてこれは、いつものとは違う。
ルーヴァルの力を受けた、より強力な魔弾だ。
さっき彼に手を離される直前、彼からパワーを受け取った。それは思ったより強大なもので、一瞬バランスを崩しかけたけど、どうにか耐えることができた。
そして、その力と共に魔力を解き放ち、魔弾としたのだ。
いつもなら私の手より一回り小さいくらいの大きさの魔弾が、今回は倍以上ある大きさになって飛んだ。
大きさ以外の見た目はそこまで変わらないが、その速度と威力は別物だ。
現に、魔弾を食らった流未歌の眷属たちは一瞬だけど大きくその顔がへこみ、動きを止めているのが見えた。
そして、流未歌自身にも魔弾は当たった。
けれど、これで終わりじゃない。
ルーヴァルが一度下がり、勢いよく払い抜けるのと同時に私が闇魔法を放つ。
使ったのは、さっきと同じ「トワイライト」。忘れがちだけど、かなり威力の高い魔法だ…必要な魔力は大きいけど。
さらに、私は続けて奥義を放つ。
この時、思いついた詠唱を新しく追加した。
「『冷たい星の光』…奥義 [スターライトブリザード]」
吹雪の攻撃は、流未歌に直にダメージを与えた。
また、一緒にルーヴァルも斬撃を放つ。
この時、私達は一緒に技名を叫んだ。
「「[ツインクロウズ]!」」
海と空。2つの世界に住む異人が力を合わせ、再生者を討つ。考えたこともないシチュエーションだけど、なんだか心が震える。
私達にとって、逃れ得ぬ脅威である流未歌を、こうして偉大な異人と共に討てるのだ。
「っ…」
流未歌は若干後退し、眷属たちを回復させつつ新たな眷属を出現させた。
それは彼女自身の左胸から飛び出した、牛かサイのような怪物の顔で、その目はぎらついており、焦点が合っていない。
正直、これまでの眷属より不気味だ。
けれど、確実に追い込めてはいるはずだ。
流未歌も若干息を荒くしているし、さっきの眷属を回復させるのにも体力を使っているようだった。
きっと、もう少しだ。