黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
その発言には少し驚いた。
「…え?」
「あら、惚けるつもり?わかってるのよ、あなたも私とやり合ってみたいんでしょう?」
「なんでそう思う?」
「殺人鬼が目の前で高度な模擬戦を見せられて、黙ってられるとは思えない…
今ので私に…いや、正確には私の強さに興味が出てきたんじゃなくて?」
「…はあ」
よーく勘づくなあ…。
「なに?ため息なんかついて」
「いや、よく勘づけるなって思ってな」
「経験よ」
「今までに殺人者と戦った事があるのか」
「ええ。他の異人や人間と組んで、私達を狙ってくる事があるからね」
殺人者は普段暗殺依頼の他、用心棒や傭兵をやってるので多分それだろう。
「その度に返り討ちにしてきたのか。
大したもんだな」
「勿論私一人で勝ってきた訳じゃないわ。他の子達と協力して打ち勝ってきたのよ。
でも、殺人「鬼」と戦った事はないわね」
「なら、貴重な経験になるんじゃないか?」
「…そうね。よく考えれば、明確に強い奴と戦えるまたとない機会だわ。
せっかくホームグラウンドでー」
言い終わる前に斬りかかっていた。
「…龍神さん!?」
アレイが驚きの声を上げているが関係ない。奴もこうなることはわかってたはずだ。
その証拠に、キュリンは見事扇で俺の刀を受け止めていた。
「…素敵な先制ね」
「だろ?」
離れて刀をしまう。
…ふりをして再び切りつける。
これもまた受け止められた。
「ほほう…」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと小手調べをしただけだ。
それで、思ったよりやるなと思ってな」
「言ってくれるわね?」
キュリンは蹴りで俺を突き放し、
「扇技 [色法一閃]」
すぐさま扇を横に払ってきた。
武器を横払いして放つタイプの攻撃は普通、伏せれば回避できるもの。
しかしこいつは強い。下のほうも範囲に入ってる可能性を考慮し、ジャンプしてかわす。
奴はすぐに追撃してきた。
「[昇り花吹雪]」
刀を構え、
「[雷(いかずち)の壁]」
電気の壁を生み出してガードした。
同時進行で刀を振り上げ、
「[雷月落とし]」
急降下して攻撃する。
…と見せかけ、奴に当たる寸前でキャンセル。
広げた扇に刀の切っ先を突き刺して前転、背後に回り込む。
「[見返り花魁]」
しっかり振り向いて反撃してきた。
バク転して飛び退くと、奴はすぐに突っ込んできた。
「[露払い]」
再びバク転してこれを回避しつつ足元を狙って電撃を撃ったがジャンプで回避された。
「へえ、やるじゃんか」
「それはどうも。…[旭日昇天]!」
身を翻しつつ、地面から火球を打ち出してきた。
奴に飛びかかり、火球を回避しつつ斬りかかる。
扇と刀で鍔迫り合いをしている間に、足払いで転倒を狙う。
奴は意外とあっさり転んだので、すぐに右腕を踏みつけ、刀を顔に突きつける。
…と思いきや、顔の前に結界を作りだして防いできた。
さらにそのまま左手で刀を掴んできて、
「奥義…[刀狩り]」
なんと片手で刀を弾き飛ばしてきた。
さらにそのまま、
「奥義 [重力怒涛]」
重力球をくらい、空高く吹っ飛ばされた。
奴はそのままジャンプして追ってきた。
相手が武器を手放しているのに油断せず、追撃を見舞うその姿勢は見事な物だ。
だが!
「[螺旋蹴り]」
回転しながら急降下し、蹴りを入れる。
当然ガードされたが、本当の目的は攻撃ではない。
奴もそれに気づいたようで、ガードの手をいきなり緩めてバランスを崩してきた。
すれ違いざまに肘打ちをかました。
奴もバランスを崩し、落ちていく。
そして一足先に地上に降り立ち、刀を取り返す。
一旦刀を納め、奴が降りてくる直前に、
「奥義 [雷鳥返し]」
電撃の力を宿した斬撃を放つ。
奴は当たる寸前で受け流した。
「さすが、殺人鬼は格が違うわね…」
「あんたこそ、水兵なのがもったいないくらいだよ」
刀を納め、地面に両膝をつく。
これはジークの作法で、相手に敬意を表す意味がある。また模擬戦や決闘においては、戦闘の終了·降伏を意味する。
それをみたキュリンは、「へえ?」と呟き、同様の仕草をした。
立ち上がり、彼女に近づく。
「見事だった。あんたみたいな奴がいるんなら、ここの水兵達は大丈夫そうだな」
「ありがとう。実力を殺人鬼に認められる日がくるとは思ってもなかったわ」
「龍神さん!キュリンさん!」
アレイが駆け寄ってきた。
「アレイ、どうだった?」
「なんていうか…すごかったです!」
「随分幼稚な返答ね?」
「いや、だって…
迫力がありすぎて、他に何て言えばいいのかわからなくて…」
「ふふっ、そうですか。
…しかし」
キュリンは改めて俺を見てきた。
「正直驚きました。まさかあなたにジークの作法の心得があったなんて」
「そりゃあ、異国に渡る上で最低限必要なものだからな。
それに、ないと何かと不便だろ?」
「そうですね…
それじゃ、龍神さん。改めてアレイを頼みます」
「お、知ってたのか」
「ええ、その旨はユキさんから伺っていますわ。
これほどの実力があるのなら、私の心配は無用でしたね」
なるほど、そういう事だったのか。まんまと嵌められたな。「さて、ではそろそろ終わりにしましょう。
今から戻れば丁度いい時間です、アメルも待っているでしょうから」
「ありゃ、そっちの事情も知ってるのか」
「連絡がありましたからね。
それでは」
とまあこうして、唐突に始まったキュリンとの模擬戦は終わった。
この所はアンデッドとの戦いでも、ここまで燃えた事はなかった。かなり久しぶりに楽しめた…ってのは内緒だ。