黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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七人目の皇魔女

城に到着した。

正面から見た限り、正直これと言った変わった所はない。

ただし、門番に妙なことを言われた。

 

「皇魔女陛下は、独特で敏感、しかも素直なお方だ。いかなるものを見たとしても、決してあの方を傷つけるような言動はするな。遠回しな言い方や、陛下の言動を怪しむような発言も慎むように。それと、陛下の前では大きな音を立ててはいかん。いいな?」

 

「あ、ああ…」

独特、敏感、素直、大きな音が苦手…か。

今のやり取りで、俺は何となく察した。

ここの皇魔女って、ひょっとして…。

 

ひとまず、門番から話を聞いた兵士についていく。

 

 

 

 

「陛下。例の2人…星羅の妹たちです」

兵士が立派な扉を叩き、声をかける。

すると、扉の向こうから声がする。

「…わかりました。入ってきなさい」

 

兵士が扉を開くと、玉座の間が姿を現した。

現した…のだが、なんか思ったより小さい。入り口から玉座まで、5メートルほどしかない。

内装もえらくシンプルで、壁は一面白塗り、インテリアは椅子が何個かあるだけ。

あとは、壁際に兵士が一定間隔でこちらを向いて張り付いているくらいだ。

 

肝心の皇魔女は、玉座に腰掛けていた。

その髪は金髪のロングヘアで、目は緑色。服と帽子は全て青一色で、よく手入れされているらしくツヤツヤだった。

 

「ようこそ、来て下さいました。…アレイ・スターリィさん、でよろしいですね?」

皇魔女は、アレイを見て言った。

 

「はい…」

 

「それから、こちらの2人は…」

俺たちは、各々名乗った。

「俺は冥月龍神。殺人鬼だ。アレイと共に旅をしている」

 

「あたしは朔矢。同じく殺人鬼よ」

 

「あっ、そうですか。…お二人のことは、存じ上げています。もちろん、お話も伺っております。…こちらへ来てください」

 

言われた通り前へ進む。

すると、皇魔女は立ち上がった…俺たちが立ち止まる前に。

そして、こちらへ歩いてきた…のだが、これがなんだかおかしい。なんというか…ヤジロベエのように、左右にゆらゆらと揺れながら歩いてきたのだ。

 

その歩き方には、アレイも驚いたようだった。

「あ、あの…」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いえ、なんでもありません。…それより、お名前をお伺いしたいのですが」

 

「名前?あ、私の名前ですね。私はウェニー・ズーウと申します。元人間で、455年前からこの国を治めています。種族は魔女です…」

 

「いや、それはそうだろうよ。あんたは皇魔女…なんだろ」

 

「はい…そうですね。確かに、言うまでもないことでした。それで、その…」

皇魔女は、アレイをじっと見た。

 

「…何でしょうか?」

 

「アレイさん。あなたは…水兵にしては、()()()ですね」

 

「…っ」

アレイはイラッとしたようだった。だが、おそらくこの方はそれに気づいてないだろう。

門番の事前注意、さっきの変な歩き方、そして今の会話。

もはや、疑うべくもない。

この方は、俺と同じなのだ。

 

「あぁ…これだから、この人は」

朔矢がため息をついた。

 

「あの…皇魔女陛下。この子は、そういう事を言われると怒るから、やめてやってくれないか?」

俺がそう言うと、皇魔女は「え?そうなのですか?それはごめんなさい!」と勢いよく頭を下げた。

アレイは「気にしてません」と言ってたが、どこまで本当なのか。

まあ、彼女がそれを知ることはないだろうが。

 

「それで、あぁ…その…そうだ。まず皆さんに、言っておかねばならないことがあります。私は…」

 

「自閉症持ち、だろ?」

俺がそう言うと、皇魔女は驚いたようだった。

 

「な…なぜわかるのですか?」

 

「言動がそれっぽいからな。…かく言う俺もそうだ。安心しな、あんたの特性について四の五の言う気はないし、干渉も否定もしない。…あ、理解はちゃんとするぜ?」

歩き方や喋り方からするに、俺とはまた違ったタイプのようだ。

 

「ありがとうございます。私は、水魔法くらいしか好きなことがなく…人とお話することは、苦手なのです」

 

「だろうな。…で、俺たちを呼んだ理由ってのは?」

 

「あ、それはですね。あなた達に協力してほしいことがあるのです」

 

「なんだ?」

 

「我が国の目の前にある海は、マレイク海と言って、大陸を囲む海の中で最も暖かく深い海なのですが…その海に、再生者ラディア・イグベルの拠点があるかもしれないのです」

それには、俺たちだけでなく朔矢も驚いた。

 

「…本当!?」

 

「はい。以前、別の目的のために城の図書館の蔵書を調べていたら、偶然一枚の文献を発見したのです。それには、『再生者ラディアが次に蘇ることがあれば、その時はケルバー湾の南を拠点とするだろう』とありました。ケルバー湾は、我が国のすぐ東にあります。したがって、我が国から比較的近くにラディアの拠点がある可能性があるのです」

 

「あー、そういうことか。…しかし、なんで俺たちをそれに使おうと?」

 

「先程も申しました通り、マレイク海はとても深いところも多くあります。そのようなところには、私だけではたどり着けません。そこで、ちょうど水兵であり、星羅こころの妹でもあるアレイさんのお力をお借りできれば…と思ったのです」

 

「まあ、できなくはないですが…具体的な場所はわかっているんですか?」

 

「それはわかりません。しかし、該当の場所の海面には渦潮が発生すると、文献にはありました。そして、ここ4年の間は我が国の南から南東にかけて渦潮が発生しています。…つまり、我が国の南から南東にかけての海域が怪しいのです」

 

「渦潮、ですか…確かに、このあたりの海では見かけないものですね。…」

アレイは、何か考えてから言った。

「わかりました、協力させてください」

 

「…!ありがとうございます。それでは、さっそく…」

その時、カラン…という音が響き渡った。

朔矢が、ナイフを落としたのだ。

 

「ひゃっ…!」

皇魔女は怯え、両耳を塞いで後ろを向いた。

そして、何かぶつぶつと喋りだした。

「アクエル、アリーマ、イアメル、イヴェラント…」

聞こえた限り、水魔法の名前を口にしているようだ。

 

「…ウェニーさん?」

アレイが声をかけても反応しない。ただ、お経を唱えるかのように水魔法を呟き続ける。

朔矢がその髪に手を触れると、ビクッと痙攣したように動いて悲鳴を上げた。

 

「ええ…?」

朔矢とアレイが困惑していると、1人の兵士がこちらへ歩いてきた。

「ああ…ちょっと待ってな。ああなったら、しばらく治らないんだ」

 

「マジで…?」

 

「ああ…というか、城に入ってくる時に聞いてなかったか?ウェニー様は、大きな音がお嫌いなんだ。あと、髪に触られるのも嫌だと仰られている」

 

「え?…あ、そういや聞いたかも。しかし、髪に触られるのが嫌って…」

 

「気持ちはわかる。だが、それがあの方なんだ。どうか、理解してほしい」

 

「…はあ」

朔矢は渋々納得したようだった。

まあ俺も同じようなもんなので、朔矢とアレイからすれば慣れたものであろう…俺はあそこまで敏感ではないが。

 

結局、それから二分ほどの間、皇魔女は独り言を言い続けた。

そして、ようやくそれが収まったと思ったら、いきなり朔矢に怒った。

「…武器はちゃんとしまっていてください!いきなり落とすなんて、驚くじゃありませんか!」

 

「え…え?」

いや、確かにそうなのだが…

そもそもあれに反応するとは朔矢も思わなかっただろし、朔矢にものの所持や管理をしっかりしろと言うのは到底無理な話だ。

 

「ウェニーさん、落ち着いてください…」

アレイがなだめたことで、皇魔女は落ち着いた。

そうして、ようやく本題の海へと向かうことになったのだった。

 

 

 

 




国·都市·施設紹介
アイゼス
大陸の南に位置する、マレイク海に接した国。人口は4000人。
水の皇魔女によって治められている「水の国」で、国内の至る所に水や、水に関係するものを象ったオブジェがあるほか、マレイク海からやってきた海人がいる。
沿岸地域のおよそ半分を網羅するアルペ港は、大陸では最大の港とされている。
レークとは海を隔てた場所にあり、レークの水兵が来ることもよくある。

ウェニー・ズーウ
アイゼスを統治する皇魔女で、「水」の属性を司る。
独特な喋り方をし、左右にゆらゆら揺れるような奇妙な歩き方をするが、これはASD(自閉スペクトラム症)を持っているため。
かつて魔法に取り憑かれて勉強に勤しんだ結果、人間から皇魔女にまで登りつめたという。
その魔法の実力は、皇魔女の中でも最強格と呼ばれるほど。
聴力が敏感で、かすかな音でも聴き取れる一方で大きな音が苦手。
また触覚も敏感で、体(特に髪)を触られることを極端に嫌がる。




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