黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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海娘の長

案内された先は、背の低い草が生い茂る草原の中に存在する集落。

やはりというか、床を高く上げたタイプの家が多く、また建物自体も何かの植物で作られた壁に茅葺きの屋根といういかにも先住民族の家という感じだった。

 

なんか、水兵の町とは雰囲気がだいぶ違う…というか、仲間の種族の住処であるとは思えない。

ついでに言えば、この暖かさも水兵の町にはないものだ。まあ、夏場は違うんだろうが。

 

 

3人は、一際立派な家の前で立ち止まった。

そして、1人が叫ぶ。

「長ー、漂着者を連れてきましたー」

すると、入り口らしき扉が開いて「長」が現れた。

それは髪が金色で、小麦色の肌を持った、思いの外背丈の低い女だった…少なくとも、今までに見てきた水兵の長と比べると低い。何なら、俺とほぼ同じなまである。

そしてその身なりも、他の海娘とほとんど変わらない…ワンピースのような服を着て、目の色が左右で異なり、帽子に立派なオレンジ色のリボンがついていること以外は。

 

「ご苦労さま」

長は、俺を見てきた。

 

「あなたが漂着者?…なるほど、確かにシェナーの者には見えないね」

 

「ジークの方から来たからな。…水兵と同族と、魔女と一緒に」

 

「同族?…あ、殺人鬼、ってことね」

すると、周りの海娘達がギョッとした。まあ、仕方ないが。

 

「よくわかるな。この辺に殺人者なんかまず来ないだろうに…」

 

「長く生きてると、色々とわかるものよ。…でも、あなたは私達に手を出すつもりはない。そうだよね?」

 

「ああ。そもそも君らを殺しちゃ、俺も帰れないしな」

裏の市場では、海娘は水兵と同等かそれ以上の値段で取引されると聞くが…あいにく俺はそんな密猟をする気はないし、金が欲しいわけでもない。今は手持ちがたんまりあるし、もしなくなっても、必要ならその都度調達すればいいわけだし。

それに、今も言った通り彼女らに手を出せば帰ることができなくなる。

 

「殺人者がここに来ることがあるとすれば、おおかた略奪か殺戮が目的でしょうけど…あなたは、端からそんなことをするつもりはないでしょ?そもそもあなたは意図せずしてここに流れ着いた身だし」

 

「御名答だ。しかし、なんでわかる?」

 

「私は[懲悪]の異能を持ってて、悪い企みをしている者は一目で見抜けるの。でも、あなたに悪意があるようには見えない」

長がそう言うと、他の海娘達は警戒を緩めた。

「長がそう言うなら…」

誰も疑う様子を見せない限り、彼女らの長への信頼は厚いようだ。

 

「それで?話は少しばかりこの子達から聞いたけど、元々は水兵と一緒にいたの?」

 

「そうだ。で、もう一人の殺人鬼とあと魔女と一緒に海を進んでたんだが、途中ででっかい渦潮に巻き込まれてな…」

 

「それで、気づいたらあそこに流れ着いていた、と。…よかったね、色々と」

 

「ん?」

 

「あなたが無事に流れ着いたのもよかったし、場所もよかった。あそこは『アテの小島』って言って、私達がよく近くを通る場所なの」

 

「あ、だから早く見つけてもらえたわけか…」

 

「それに、狼煙を上げてくれたのもよかった。…まあいずれ誰かが見つけてはいただろうけど、わかりやすい目印になった。ありがとうね。私達としても、漂着者は早くに助けたいから」

 

「事前に君らの存在を知ってたからな…話に聞く程度だが」

シェナー諸島の島々には大きな港がなく、大陸から来ようとすると空を飛んでくるか、海を何らかの方法で渡ってくるかしなければならない。

故に大陸からの移動が難しく、観光客などはほとんどいないのだ…一応、レークからは船が出てる?らしいが。

 

「まあ、とりあえず今はゆっくり休みなさい。一体何日漂流してたのかもわからないのだし、まずは体力を回復させることが優先よ」

 

「そうだな」

 

その時、誰かがこちらへ向かって走ってきた。

そいつは、俺のすぐ後ろのあたりで止まった。

「長!ラノ島から、漂着者が流れ着いたとの報告がありました!」

 

「え、ほんと!」

 

「はい。なんでも2人の女性だそうです。そのうち片方は、水の魔法を扱う魔女だそうです」

すぐにピンときた…あの皇魔女だ。

 

「魔女?…殺人鬼に続いて、珍しいお客さんだね。それで、私達はなにかする必要があるの?」

 

「いえ、特にそういうわけではないのですが…その魔女は、仲間とはぐれたと言っているそうで。なんでも、水兵と一緒にいたけどはぐれたと…」

 

そこで、俺は口を開いた。

「それだ!それは俺と一緒にいた魔女だ。もう一人の女は、俺の仲間で同族だ。…無事だったんだな!」

 

「なら、早く合流しないとね。リーザ、ファシェに伝えて…こっちにも漂流者がいる、男性の殺人鬼。彼女らの仲間かもしれないから、これからそっちに向かう…って」

 

「はい」

リーザと呼ばれた海娘は、来た道を戻っていった。

ふと気づいたが、彼女達海娘はみなサンダルに近い靴を履き、靴下は履いていない。また水兵のようにタイツはつけておらず、程よく日に焼けた足は両方とも剥き出しだ。

…これは、人によっては水兵よりきれいに見えるかもしれない。背丈の割に長く、アレイのそれのように引き締まった足は、なんともセクシーだ…樹とかなら、おそらくナンパしてただろう。

 

まあ、俺は女に興味は無いが。

 

「それじゃ、行きましょうか。あ、あなたは大丈夫?ちょっと泳ぐけど」

 

「大丈夫だ。…あんたらが力をくれるんだろ?」

 

「ええ。これから向かう先は、西に70キロの所にあるラノ島という島よ。私の泳ぐ速度だと、1時間ちょっとかかる。…大丈夫?」

 

「ああ。…そうだ、あんた名前は何て言うんだ?」

 

「セズフィナ。セズフィナ・メリッド・アルバート。この島…メッド島の海娘の長。あなたは?」

なんか妙に名前が長い…まあ、水兵の長もこんな感じだったし、関係がある種族である証拠だろうか。

 

「俺は龍神…冥月龍神だ。さあ、行こうか」

 




・シェナー諸島
ジーク大陸の南東に位置するエルデア海に浮かぶ、27の島々で構成された諸島。
言語はどこの島でもおおむね同じだが、文化や主な種族は一部異なっている他、島の全てが統一された1つの国になっているわけではない。
基本的に温帯から寒帯に属するジークの大陸とは異なり、大半が熱帯や亜熱帯に属している。
通称「南方諸島」。


・エルデア海
ジークの南東に広がる美しい色の海。
大部分の海水温が1年を通して30℃を上回る熱帯の海で、非常に多くの海人や水棲生物が棲息している。
特に、この海にのみ棲息する水兵の亜種とされる海人の一種「海娘」はその可愛らしさと穏やかな性格から人気が高い。
一方で年中海水温が高いため、時として強力な低気圧が発生し猛威を振るうこともある(ヴェゼルと呼ばれる)。


セズフィナ・メリッド・アルバート
シェナー諸島北部の島、メッド島近辺に生きる海娘たちの長。年齢は18歳。
優れた魔力を持っており、術の属性は水と火を、武器は杖を扱う。
[懲悪]の異能を持ち、邪な企みを持っている者は一目で見抜き、相応の裁きを下す厳格さを持つ一方で明るく素直な性格のため、海娘たちからの信頼は厚い。
ちなみに水兵の長とは異なり翼は持たない(海娘の長に共通)。
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