黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
西へ向かうこと数十分、海賊が出たという海峡にたどり着いた。
海娘達の島よりも小さな2つの島に挟まれているが、意外と広く普通に川くらいの面積がある。
他の海娘たちと一緒に海面から顔を出してみたが、ここから見る限り船の姿は見えない。
「もう少し、奥に行ってみましょうか」
マーレンの言う通りに進むと、見事に見えてきた。
「あ、あれか?」
真っ黒なそれっぽい雰囲気を醸し出す帆船。あれだなと思ったのだが、金髪に緑目の…サレーだったか?によると違うらしい。
「あれは難破した海賊船。今回報告があった海賊とは、直接関係はないわ」
「そうか」
なんか映画とかに出てきそうな船だったから、いかにも海賊のものっぽいなと思ったのだが…難破してたとは。
…というか、落ち着いて見ると確かに座礁しているようだった。
お宝とかないかな…なんて一瞬思ったが、まあそんなはずもないか。
「あ、いた!」
マーレンの声に反応し、その指差す方向を見ると、そこにはまあなんとも立派な帆船があった。
全体的に茶色っぽく、ヤシの木などで作られたらしいその船は、帆、旗共に真っ白で何の紋章も入っていない。また、船の先端にも何もない。
その時点で、あの船に乗っている奴らが海賊であることを察した。ノワールの船は、どこかに正規に登録しているものであれば、その証が旗なり先端なりに刻まれたり、取り付けられたりしているはずだからだ。
「あの船…どこの所属でもありませんね。確かに、海賊船のようです」
「普通、奪ったエンブレムくらいつけとくもんだと思うけど…今どきあんなわかりやすい海賊船いるのね」
朔矢がそう言うと、セズフィナがその理由を説明した。
「この辺りには有力な国家がないし、大きな船も海賊船を取り締まる組織もいないから、所属証明をつける必要がないの」
「あ、そういう事ね。…考えてみりゃ、そっか」
セズフィナが、先程海賊の出現を伝えにきた海娘に確認した。
「あの船を見つけた子は、どこにいるの?」
「島の人々に、このことを伝えに行きました。今頃は、彼らと一緒に隠れているでしょう」
「ならいいけど。そうだ、あの船が何かを襲ったっていう報告はあるの?」
「いえ、今のところは。ただ、念の為撃退したほうがよいかと…」
「その通りだ。この辺りには海賊はよく現れるし、早めに…」
長がそこまで言った時、マーレンが叫んだ。
「!攻撃してきました!」
「えっ…?」
直後、船のほうの空中から何か飛んできた…
「っ!」
間一髪海に潜って回避したが、危ない所だった。
さらに、それは水に入ると間もなく爆発した。
「…なんだ、今のは!?」
「大砲よ。異人を攻撃するのに特化した、特別製の砲弾を使ってきたの!」
「そんなのあるのか?」
「彼らにとっても、私たちは目の敵だからね。異人に…海人に特効を持つ武器を加工して、攻撃してくるの」
「あ、そういうことな」
武器の加工、というか再利用といったところか。そういうことは、できれば正しい形でしてもらいたいものだが。
「で、これからどうすんのよ?」
「海中から、船の底を破って突入しましょう。海面から行っても、狙い撃ちされるだけ!」
というわけで、深く潜って船の真下まで行き、一気に浮上して船底に攻撃したのだが、壊れない。
「木製の割にゃ、丈夫だな!」
「魔法で強化されてるんだ。それだけじゃない、撥水の加工もされてるだろうから、私たちの攻撃だけで壊すのには時間がかかる!」
「なら、俺たちが行こうか!」
「そうしてもらえると、助かるよ!」
「よし…」
弓を構え、矢を番える。
それと同時に、朔矢は旋刃盤を携える。
「[ボルトショット]!」
「[アラウンドザワールド]!」
俺は雷をまとった矢を放ち、朔矢は旋刃盤を振るう。
すると、たちまち船の底が割れた。
「よし、あとはあれを広げて入ろう!」
手を切らないよう刀で割れ目を広げ、みんなで侵入する。
全員が入り終わると、セズフィナは魔法で割れ目を閉じた。
「閉じる必要あるか?」
「こうしないと、水が入ってきて船が沈んじゃうから」
「いや、最終的には沈めるんじゃないのか…?」
「まあ結果的にはそうだけど、その前に色々やることがあるからね。まずは、沈めずに制圧するの」
考えてみれば、制圧した後は船に積まれているものを下ろしたり、死体を始末したりといった作業がある。船を沈めるのは、その後にしなければならないだろう。
ところで、俺たちが侵入した部屋には火薬や剣などがたくさんあった。恐らく、ここは武器庫なのだろう。
「結構あるわね。これだけあれば、色々できそう」
「海賊から押収したものは、本来は付近の国家に報告すべきですが…シェナー諸島にはそのようなものがないですし、まあ…近隣の島に住んでいる方々が使っても…」
ウェニーとしては、「本来あるべき姿」から外れるのには抵抗があるのだろう。
「もっとも、彼らがどこから武器や火薬を調達してきているのかは不明なんですけどね」
「確かにそうですね。シェナー諸島とその近海では、火薬や鉄の原料は取れなかったはず…となると、一体どこから?」
実は、これには心当たりがある。
海賊は、様々な貴重品や高価なものを手に入れる他に海人の拉致や誘拐も行っており、これらの活動で得たものを陸の悪党に売り渡していることが多い。そして、その対価として奴らから武器を受け取るのだ。
俺もかつて、そのような悪党の一種に化けて海賊と関わりを持ったことがある…もっとも、あくまで海のアンデッド狩りのためだが。
「そんなことより、今は奴らを潰しましょ?」
朔矢が、短剣でペン回しをしながら言った。
ちなみに、彼女の所属であった反社會も海賊と関わりのある悪党集団の1つだったはずだ。
と、上に続く階段から1人の海賊が降りてきた。
「誰だ?そこで何してる!」
そいつは、こちらを見て武器を構えてきた…と思ったら、鋭い音と共に血を噴き出して倒れた。
その眉間には短剣が突き刺さっている。
「あれ、あなた短剣も使えるの?」
海賊の報告をファシェにした海娘が、驚いたように言った。
「ええ。気まぐれで使い分けてるわ」
ここまであまり見てこなかったが、朔矢は旋刃盤だけでなく短剣の腕もかなりのものだ。
踊りとヨーヨーが好きで、元々ダンサーになるはずだった朔矢は、運動能力が高い上に体が柔らかい。その能力と経験を活かし、優雅に舞うことが出来る。そして、短剣の投擲技術も優れている…。
「そうだ、あんた名前は?」
「私はレキナ。…実は、私も短剣使いなの」
「へえ…その割には、スタイルあんまり良くないけど」
「…は?」
朔矢を睨みつける2つの目の間に入り、「まず行こうぜ、な?」とその肩を持つ。
朔矢は俺と同じで、定期的にこういう失言をしてしまうのだ…悪気はないのだが。
階段を登り、船の甲板目指して進む。
世界観・陸の海賊
海を帆船でうろつく海賊のうち、海人以外の異人や人間で構成されたものをさす。
他の船や町、港を襲っては金品を巻き上げる「海の強盗団」であると同時に、拉致・誘拐した海人や高価な盗品を密猟組織や裏ルートに流す、反社会勢力の味方でもある。
レキナ・アイエス
ラノ島の海娘の1人。年齢は17才。
海娘の中では珍しい緑眼と赤髪を持ち、髪型は腰まであるポニーテールのため、海娘の中でも目につきやすい。
結婚願望があるが、体質上痩せづらく他の海娘よりスタイルが良くなりづらいと気にしている。
武器は短剣。属性は火と水。