黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「よし、もうちょいだな」
あれから早数分、甲板のすぐ下までやってきた。
「残りの海賊は、みんな甲板にいるでしょう。船内にいるものは、あらかた片付けたから」
道中では面白いくらいに海賊が次から次へと出てきたので、甲板にいる残りはそう多くないだろう。
「向こうはもう私たちに気づいているはず。こそこそ行く必要もないね」
ファシェを先頭にして、階段を登ってゆく。
甲板に出ると、いきなり矢が飛んできた。
回避したと思っても、すぐに別部隊の矢が飛んでくる。
「!」
そこには、弓を持った海賊が立っていた。
鋭い眼光とボウガンを使っていることからして、おそらく略奪者…狩人の亜種で、町や村を襲って金品を巻き上げることを生業とする異人だ。
「ボウガン…?あまり見かけない武器ですね。もしや、略奪者…!?」
「ご名答!オレたちゃ、この海で海賊をやってる略奪者よ!」
「よく見りゃ、海娘の他にもいるじゃねえか。ちょうどいいや、こいつらも取ろうぜ!」
取る、とは身柄を押さえ、その命を「取る」という意味の隠語だ。殺人者がよく使うものだが、こいつらのように海賊をやっている略奪者も使うことがある。
「略奪者…海賊やってる奴は久々に見たわ」
すると、奴らは朔矢に注目した。
「おお、なかなかいい女じゃんか?海娘並みの上物だぜ、こりゃ」
「えらくきれいだな、まるでダンサーだ」
いや、こいつ元々ダンサーの子だからな…訳あって殺人者にならざるを得なかっただけで。
「へえ…殺人者か。おれたちの仲間になってくれりゃ、いろいろ楽できるぜ?何なら、遊ぶことだって…」
「あっそ」
軽口を一蹴し、朔矢は短剣を投げた。
「おっと。短剣ならこっちも負けないぜ?」
向こうは、矢尻に短剣をつけた矢をボウガンから打ち出してきた。
その速度は弓矢並みにあり、まともに食らえば余裕で体を貫かれるだろう。
場合によっては短剣に毒が塗られている可能性もある。そうなれば、厄介だ。
「[矢封じの雨]!」
ウェニーが飛び道具を封じる水術を唱えた。
これで、奴らのボウガンは使えなくなる。
「…!?」
と思ったら、普通に使ってきた。
「えっ…!?どうして…!?」
「あいにくだったな…
「なっ…!?」
ウェニーは衝撃を受けたようだったが、俺は「今の」という言葉に違和感を覚えた。
「今の、ってことは、元は違ったんだな。一体、何の小細工をした?」
「大したことじゃあない。ちょっと、とある海人に協力してもらっただけだ」
「海人?あなた達に協力した海人がいたの?」
今度は、セズフィナが反応した。
「ああ…真っ赤な髪の、かわいい子だったよ。名前は言えねえけどな、とにかく協力してくれるって言うから、ありがたく助けてもらったぜ」
「誰…?まあいいや、とにかくやろう!」
セズフィナは杖を出し、技を出した。
「[聖王の威光]!」
魔力で光を召喚し、一気に3人を攻撃する。
見た目はシンプルだが、威力は高い技だったはずだ。
海賊たちは、見事に一撃でのされた。
だが、まだ他にもいる。
複数の部隊に分かれているので、適当に分担を決めて相手する。
俺と朔矢は、船尾の方にいる奴らを相手した。
「[マルチショット]」
なんと、ボウガンで弓の技を出してきた…そういや、あれは一応弓の扱いなんだったか。
3人で横に並んだ奴らが、一斉に水平に四方向に拡散する矢を撃ってきたので、ジャンプしてかわす。
「[刺突の早業]!」
短剣使いの海娘が、空中で技を出し反撃する。
さらに、朔矢も短剣を投げる。
「[釘付けの剣]」
短剣は奴らの腕や胸に命中し、動きを封じる。
と言っても身動きが取れないようにするのではなく、その場から移動できないようにしただけだが。
…近接持ちならまだしも、遠距離武器持ちでは効果が薄い気がする。
とはいえ、狙うポイントを完全に決められるのは助かる。右手を突き出し、魔弾を放つ。
「[コイルレイト]」
一撃で仕留められた…のだが、妙に弱く感じる。
もしかして、海人の力を得たから耐性も変化したのか?
「なんか、妙に弱くない?」
朔矢も、同じく思ったようだ。
「ひょっとして、海人の力で属性耐性が変わったの?…だとしたら、楽ね。龍神!」
「ああ!」
朔矢の
「ゾーン」を展開し、合技を放つ。
「「[ライジング・ハリケーン]」」
朔矢が構えた旋刃盤に雷の力を蓄え、投げると同時に周囲に放電する。それは、辺りに黄色い雷が迸ると共に轟音が鳴り響き、範囲内の海賊を消し去るほどの威力があった。
「すごいです!では、私も…!」
え、あんた合技出す相手いんのか?と思ったら、ウェニーは黒の魔典を取り出した。
…そうか、魔女にはそれがあるんだ。
「[デスフォール]!」
一見シンプルに鋭い滝を降らせる術のように見えるが、水に耐性のあるはずの海賊たちを難なく押し流した。
ウェニーが唱えたのは、黒属性…すべての属性を持つ、万能の属性の魔法だ。
「すごい…黒属性だ!」
「本当に魔女なんだ…いや、疑ってたわけじゃないけどさ…」
ちょうど敵を倒し終わった海娘たちは、ウェニーの魔法に見惚れていた。
彼女らは、初めて黒属性魔法を見るのかもしれない。
「私たちも見習わないとね…!」
彼女らも合技を使うつもりのようだ。
しかし、そこで急に残った海賊全員が船首に集まった。
「くそっ、やりやがったな…!」
「こうなりゃ、アレやるか!」
「ああ!」
何をするつもりだ。
残った海賊は5人程度。大したことはできないように思えるが…。
「あっ…!?」
ウェニーが驚くのも無理はない。というか、俺だって驚いた。
奴らは舵の横にあったハンドルを回して、隠されたもう4本目のマストを船首の甲板から出したのだが、それには帆が張られていない。
代わりに、誰かが縛り付けられている。
そしてそれは、なんとアレイだった。
気絶しているのか、目を閉じて動かない。
「あ、アレイ…!?」
思わず硬直すると、奴らはにやりと笑った。
「へえ、おまえらのお友達か。こいつは、この前たまたま海を流れてるとこを拾ってな。若い娘だったから、高く売れそうだと思って捨てないでおいたが…こりゃ好都合だ」
奴らは一斉にアレイにボウガンを向け、言ってきた。
「こいつはまだ生きてる。だが、ちょっとでもオレたちに手を出したら…どうなるかな?」
異人・略奪者
鋭い眼光が特徴の、気性の荒い種族。
盗みや殺しを厭わず、集団で集落や町を襲って略奪を行う。
その有り様は殺人者を彷彿とさせるが、殺人者との種族上の関係はなく、共に行動するようなこともあまりない。
その性質上盗賊や海賊の一員になることも多く、仲間意識や連携意識が強いため、他の異人より危険な存在となる。
正確なルーツは不明だが、伝統的に弓あるいはボウガンと短剣を好んで使う者が多い。