黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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人質

「っ…」

ウェニーは、立ち尽くした。

 

「サイテー…よりによって、こいつらが拾ってたなんて!」

朔矢に、大いに同意する。

 

「あれ…あれって、水兵だよね?」

 

「ええ…ひょっとして、あれがアレイさん…?」

 

「そうっぽいね…そうじゃないとしても、腹立つけどね!」

海娘たちは、本能的に水兵がわかるようだ。いや、さっきレークに行ったことあるって言ってたっけか?

とにかく、アレイを助けなければ。

 

「さてさて、どうするんだあ?」

奴らは、意地の悪い顔をしてこちらを見る。

海娘たちは悔しさを浮かべて硬直していたが、こういう状況でするべき行動は決まっている。

 

武器を収め、両手を広げる。

「…え?ちょっと?」

海娘たちが驚いているが、構わない。

こういう時は、下手に動かず降参したほうがいいのだ。迂闊に逆らえば人質をやられかねないし、場合によっては自分の身も危ない。

すべてに関して言えることだが、命あっての物種だ。死んではどうにもならない。

 

「そうね、ここは…」

朔矢も同様に武器を収めたのを見て、海娘たちも渋々ながら武器を収めた。

 

「確かに、ここは彼らに従ったほうが良さそうです。海賊の要求には、下手に逆らうと危険なので…」

皇魔女も、よくわかっておられる。

 

「へえ…ずいぶん聞き分けがいいな。そんじゃ、まずは武器を置いてもらおうか」

 

「っ…」

言われるがまま、武器を置く。

他のみんなもまた、同様にする。

「よし…次は、そうだな。女だけこっちに来てもらおうか。男の方は…まあ、適当に縛って始末するか」

 

「えっ…!?そんな…!」

海娘たちは慌てたが、まあ大丈夫だろう。

こういう時は、意外と何とかなるものだ。

 

「いいぜ?何とでも好きにすりゃいい」

 

「言われなくたって、してやるさ」

 

 

 

そうして、結局俺だけ縛られて船首に立たされることになった。

海娘たちは心配してくれているが、何ら問題はない。もし従っていなければ、アレイは元より海娘たちにも迷惑がかかっていただろう。

俺と朔矢は、どうせとうに死んでいるも同然の命だ、いつ死んでも何ら問題はあるまい。だが、彼女らを…海娘たちと皇魔女を死なせるわけにはいかない。

 

「龍神さん…!」

ウェニーが悲痛な声を上げた。彼女もまた、海娘たちと同様に縛られて捕まっている。

「なに、心配ないさ。俺は…いつ死んだって問題ないしな」

そうして、海の方を向く。

 

「お、なんだ、自分から行くってのか?…さすがに根性あるなあ」

 

「ま、なんだっていいさ。それより、この女ども…へへ、見れば見るほどいいもの揃いだぜ。この魔女なんか…」

 

「ひゃっ!?や、やめてください!」

ウェニーの悲鳴が聞こえた。おそらく、変に髪でも触られたのだろう。

「ありゃ、ずいぶん色っぽい声出すな。こりゃ、思ったよりお宝だぜ」

 

「っ…このっ…!!」

魔女は焦ったのか、魔法を使ったようだった…が、結果は考えるまでもない。

まあ、焦ると相手に耐性があることとか忘れるのはわかるが。

 

「何してんだ?…まあいい。おら、用無しの男はとっとと逝っちまえ!」

 

「…」

海を覗き込み、二つ返事を返す。

「やめて…!」

海娘達が悲鳴をあげるが、問題はない。

「大丈夫だ…あばよ!」

みんなの方を振り返り、後ろ向きに頭から飛び込んだ。

 

 

 

 

海面までは結構な高さがあった。

そして着水の瞬間、ザブンと大きな音と共に水柱が上がり、俺は海に沈み…はしなかった。

ある人物が、助けてくれたのだ。

それは、さっきのウェニーの術で呼び出された存在。

 

真下を泳ぐ、大きなイルカのような生物。

その体は雪のように真っ白く、俺を背で受け止めて静かに泳いでいる。

こいつはあれだ。ウェニーが使う道具で呼び出す、海人の霊。

名前は…えっと、そうだ。ルーデウスだ。

やっぱりどっかで聞き覚えがあるような気がする…ってのはさておき、こいつのおかげで助かった。

正直、出てきそうだなとは思ってたから驚きはしない。ただ、一言だけ礼を言っておく。

 

「…助かったぜ」

奴は、何も言わなかった。

喋れないのか、それとも喋るつもりがないのかはわからないが、とにかく何も言わなかった。

 

「さて、ここからどうするかな」

下から船底を見上げ、この後を考える。

とはいえ海は主戦場ではないので、動きづらい。一応、ここ数日の女海人たちとの行動である程度勝手がわからなくもないが…。

 

侵入の際に船の底に開けた穴は塞がれているから使えないし、そもそもどこにあるかわからない。

となると、どこから入るか。

「どっから入ったもんか…」

 

しばらく見ていると、はっと閃いた。

そうだ、確かあの時海賊たちはみんな船首に集まっていた。

そして、奴らにとって実質唯一の邪魔者である俺が退場した…つまり一仕事終えた海賊は、根城に戻るだろう。ということは…?

 

「行くか…!」

返事も何も無いのでわからないが、とりあえず言うだけ言う。

 

 

 

「よし。たぶん、このあたりだな…」

適当な所の真下に行き、ストップをかける。

「止まれ」という指示を理解したので、こいつは言葉がわからないわけではなさそうだ。

てことは、もう少し考えを膨らませてもいいだろう。

「ルーデウス、だよな。お前、ウェニーがいなくても異人の姿に戻れるのか?」

 

「…」

言葉では答えなかったが、落ち着いた目で見てきたことから答えをなんとなく理解した。

「そうか…なら、このまま真っ直ぐ突っ込むぞ!」

この物言わぬ海人の霊と共に、俺は船底目掛けて飛び上がる…目の前に結界を張りながら。

 

 

 

船底を破り、どこぞの配管工のごとく腕を上げてジャンプするような体勢で突撃する。

バキバキと船板を破り、やがて減速して着地する。

 

向こうが驚いている間に、奇襲を仕掛ける。

この手の戦法は、昔からの得意技だ。本当は、相手の配置をある程度把握してからのほうがいいのだが。

 

「えっ…!?」

聞き覚えのある声に驚き、動きを止めた隙に墜落してしまった。

 

「あれ、あなたは…」

声の方を見ると、なんとセズフィナだった。

 

「セズフィナ…!?って、あっ…!」

なんと、みんなが閉じ込められていたのだ…アレイも含めて。

 

「龍神…どっから出てきてんのよ!」

朔矢に突っ込まれたが、みんなを助けるためだと言って逃れた。

 

「あなた…海に飛び込んだはず…!あれ?」

 

「ああ、そうです…!忘れていました!ルーデウスを呼び出しておいたのでした!」

今、やつは異人の姿になっている。が、ウェニーに何か答える様子はない。

「こいつ、喋れないのか?」

 

「いえ、彼の言葉は私にだけわかるんです。…」

ウェニーは、奴から何か聞いているようだった。

 

「そう、あなたが彼を…ありがとうございます。えっ、彼女を?…わかりました、色々ありがとうございます」

そうして、ウェニーは霊を宝玉に戻した。

 

「彼が、龍神さんを助けてくれたそうです。龍神さんは落ちる前に海中を覗き込み、彼の存在を認識していたそうです」

 

「あ、そうだったの?」

まあ、うっすらとだが。

 

「それと、アレイさんのことですが…もう少ししたら、目覚めるだろうと。気絶しているだけだそうなので、よかったです」

 

「そっか。じゃ、それまではここにいたほうがいいな。とりあえず縄だけ切っておこう」

みんなの動きを縛る縄を切り、自由にする。

 

「あれ、それカランビットじゃない?」

いつも使っている短剣を見た海娘の1人…短剣使いと言っていたか?が反応してきた。

「お、知ってるのか?」

 

「私も近距離戦でよく使うの。でも、そんな金縁のは見たことない」

 

「そりゃ、裏の組織で作られたものだからな」

 

そんな会話をしているうちに、全員の縄を切れた。

それと同時に、アレイが目を覚ました。

 

「…あ、龍神さん。あと…ウェニーさん?それに…えっ!?海娘さん!?」

彼女は、何がどう起きて今に至るのかわからないようだった。

 

 




ファシェ・ラノエル・メリッソ
ラノ島の海娘の長で、年齢は20歳。
水兵や海娘の長には珍しく、女言葉をほとんど使わない。
姉御肌で背が高く、髪は金髪のロングヘア。目は緑。
海娘たちには姉のように慕われている。
武器は大剣を扱い、属性は水と電。 
戦闘ではカウンターを得意とする。
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