黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
海賊船から運び出された荷物は、すべて島の人々の所有となった。
海娘たちは一個も欲しいと言わなかったあたり、彼女らの無欲な性格が出ていると言った所だろうか。
そしてすべてがあらかた片付いた後、俺たちは海娘たちにラディアを追っていることを話し、奴に関して何か知ってることはないか?と尋ねた。
その結果、残念ながらラディア自身について知っていることはないとのことだった。
ただ、セズフィナは気になることを言っていた。
「ラディア自体のことは知らない…けど、彼女の部下たちのことは聞いたことがあるよ」
「え、本当か?」
「詳しく話してください!」
俺とウェニーが詰めるように言うと、セズフィナは続けた。
「まず、ラディアはもともと海人だった。そして、陸人が海を汚し、海人をぞんざいに扱っていることに憤りを覚えていた。再生者になったのも、死の始祖にそこを突かれてのことだった」
「それは私も知っております。もともと彼女は、純正の海人だったのですよね」
「ええ。再生者となった後は、まずは海の統一を重視して活動したと言います」
「え?再生者なのにですか?」
「ラディアは陸人を憎んでいましたが、陸を制圧する前に海を完全に支配しようと思ったのでしょう。彼女は海…特に熱帯から温帯にかけての海域の支配を目的としました。そして、そのために多くの海人を惹きつけ、配下としたんです」
「海人を…あ、死海人にして、ということですか」
「そうです。彼らの活動は、ラディア自身の活動より範囲が広かったそうです。そして、その中でも特に強大な力を持っていた3人の死海人がいました」
「死海人と言うと、アンデッドとなった海人ですね。女性の場合、"デススイマー"と呼ばれることもあるそうで…」
「はい。デススイマーは、私達の同族が不死者となったものです。それで、その3人の死海人はラディア直々に力を受け、数いるラディアの配下の中でも特に盛大に暴れ回り、恐れられました。彼女たちはいずれも異能を持っており、ラディアが封じられるまでの間、それを活かして生者の脅威であり続けました」
「異能持ちか…厄介なアンデッドね」
朔矢の言うように、異能持ちのアンデッドは厄介だ。
数としては多くはなく、低級のアンデッドにはまずいないのは幸いだが、逆を言えば異能持ちは総じて高位のアンデッドであるということでもあり、これが厄介さを上げている原因の一つなのだ。
「彼女たち…ということは、その3人はすべて女性なのですか?」
「はい。なので、デススイマーと言った方が良いかもしれません。いずれも、他のデススイマーと比べても特に美しく、泳ぎが上手かったそうです」
泳ぎの上手い海人、と言われても正直ピンとこない。逆に、泳ぎの下手な海人なんているのか?というのが素直な感想だ。
「その3人、名前は何と言うのです?」
「確か…ミュウマ、アルナーデ、ロゥシィ、という名前だったかと。生前の種族は、アルナーデが海姫、それ以外は水守人だったそうです」
「ミュウマ、アルナーデ、あと…?」
人の名前を覚えるのは苦手なので、復唱する。
「ロゥシィ、よ。どれもラディアの忠実な下僕として、長らく海人の恐怖の対象だった。彼女らを倒そうとする海人もいたけど、結局…」
「まあ、仕方ないな。現に、ラディア自身が封印されるまで野放しだったんだろう?」
「正確には、ラディアが破られるより少し前に仮の封印を受けたらしいけどね…生の始祖は当時、ラディアとの戦いに向けて力を溜めていた所だったから、彼女らを倒せるだけの余裕がなくて、簡易的な封印を施すだけにしておいた。その後、ラディアを倒した時に一緒に封印したんだって」
それだけ聞くと「あ、ならよかったな」と思いそうになるが、それはすなわちラディアの封印が解かれたと同時に解き放たれたということにもなるわけで、全然良くない。
「幸い、復活した後に彼女らが何かしたという話は聞きません。しかし、今後どこで何をするかわかったものではないので、不安です」
「確かに、それは不安ですね。…あれ?」
アレイは、急に何か思いついたようだった。
「もしかして、その3人の死海人って、ラディアとは別に拠点を作ったりしませんでした?」
「え?ええ、確かにそんな話も聞いたことある。特にミュウマは、海に出る陸人を引きずり込んでアンデッドに変える役割を与えられていたこともあって、陸から比較的近い所に拠点を構えていたんだって」
「それ、昔はどこにあったんですか?」
「本土の南…マレイク海にあったって聞く。正確な場所はわからないけどね」
それで、アレイは確信を持ったようだった。
「やっぱり…!」
「?何か気づいたのですか?」
「マレイク海って、アイゼスに面した海ですよね?もしかしたら、ラディアではなくてミュウマがそこに拠点を作ったのかも…!」
「!」
ウェニーははっとした。
「え、まさかウェニー様の町の近くにミュウマの拠点が…?」
「彼女は、昔からマレイク海に根城を置くことにこだわっていたそうだから、可能性は十分にあります!だとしたら…!」
ウェニーは俺達みんなの顔を見、焦った。
「すぐにアイゼスに戻らなくては!何としても死海人の拠点を突き止め、被害が出る前に仕留めねばなりません!」
「でも、こっからどうやって…」
「大丈夫です!」
朔矢の心配を押し切るように、ウェニーは杖を出した。
「私には、帰還の魔法があります。この島を転移先の一つとして登録しておき、一度国に転移して帰ります!」
「そっか、その手があったか!」
転移魔法は、前もって登録しておいた行き先へのワープも可能だから、それをしておけばいつでもここに帰ってこられるわけだ。まあ、ここからだと海娘たちのいる島まで泳いでいかなきゃないが。
「え、もう行ってしまわれるんですか?」
サレーが悲しげな顔をしたが、ファシェがなだめた。
「仕方ないよ。彼女には、国を守る義務があるんだもの」
「はい、その通りです!アイゼスは私の国、何としても守ります!」
ウェニーは、力強くそう言った。