黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
かくして、アイゼスに戻った…のだが、どうやって海を調べるかが問題となった。
マレイク海は、大陸を囲む4つの海、通称「四大洋」の中の一つであり、その中では2番目に小さい海だ。だが、それはあくまで「4つの大洋の中では小さい方である」というだけのこと。
少なくとも、陸の者にとっては十分過ぎるほど広い。
だからこそ、どうやって死海人の拠点を探し出すかがポイントとなるのだ。
前回のように「渦潮があればその下が怪しい」というような目印や手がかりがあるわけではないし、その拠点というのが具体的にどのようなものなのかもわからない。
残念なことに、セズフィナが知っていたのは彼女の一族に伝わる話であり、また一族は誰も死海人本人やその拠点を見たことがないという。つまり、このままでは全くのノーヒントだ。
一応、今は城の図書室で書物を片っ端から調べているが…たぶん、出てこないような気がする。
もしあるのならば、とうにウェニーがその存在を認知しているだろう。
一応、奴らのせいでこの国に深刻な被害がもたらされたのであれば記録は残っているかもしれないが、そもそもアイゼスはラディアが封印されたのとほぼ同時期に建てられた国だ。時期的に、それは考えにくい。
ちなみにウェニーは図書室にある2万の書物のうちおよそ半分の内容を覚えているらしいが、その中にラディアの下僕の死海人に関わる記述はないとのことだ。
数時間後、俺たちは町に繰り出していた。
読書は好きだが、自分のペースで読めないのはどうにもストレスが溜まる。
アレイもあまり大量に本を読むのは苦手なようだし、朔矢に関してはそもそも本を読むという事自体が困難だ。
それで改めて思ったのだが、読み書きがまともにできないというのはかなり重たいハンデになるのではないか。まあ当たり前とも言えるが。
「アイゼスの城下町か…まあ、住めば何とやらって言うしね」
以前言っていた通り、朔矢と2人の元組員は町の南西にある空き家を使えることになった。それで、今はまずその2人を拾いにいく所なのだ。
「それで、誰々を拾うんだっけ?」
「フィーマとジュノス。種族は無情者と殺人者。…あ、もしかしたらアレイとは分かり合えるかも」
「どうしてですか?」
「あの2人は、どっちも元々水兵か、その仲間の種族だったの。だから、アレイとは仲良くなれるかもね」
アレイは、いまいち浮かない顔をしていた。たとえ同族と言えど、殺人者になったということから何となく抵抗を感じているのだろう。
別にそんな獰猛な奴らでもないから、警戒しなくていいのだが。
◇
「奴らは海人上がりの殺人者だが、別に悪い奴らじゃない。だから…警戒するな」
龍神さんはそう言ってくれたけど、正直そうもいかない。アンデッドになったわけではないにしても、殺人者になったということは、見方を変えれば道を踏み外した、つまり「堕ちた」ということだ。
水兵の間では、アンデッドや異形になるのも禁忌だけど、殺人者になるのも許されざる行為、最大級の悪事であるとされている。でも、それは仕方ない。
陸に上がってからというもの、長い時間をかけて独自の社会を築き上げてきた水兵にとって、社会の平和を乱す存在は排除すべきものだし、そもそも殺人者を歓迎する種族なんていないだろう。
朔矢さんは水兵の仲間、とも言っていた。
水兵…というか海人の仲間で陸地に上がれる種族には、水兵の近縁種の「水軍」、さらにその亜種で寒い所に住む「白水軍」なんかがいる。けど、いずれの種族も殺人者を歓迎したりは絶対にしない。
水軍から殺人者になるなんて…何があったのだろうか。
と、色々思うところはあったのだけど、実際会ってみると彼の言葉が間違いではないことが何となくわかった。
まず元水兵だという方は、きれいな金髪と色味の薄い肌、青い瞳をしていた。おまけにほんのりと潮の香りがしたので、制服を着ていなくとも水兵の出であることがわかった。
そして、結構スタイルが良かったのだけど、こういう時に限って素直な殺人者にも関わらず私の体格に言及してこなかった。
「あれ、現役の水兵?うわ、なんか懐かしい気分だわー。あたしも昔水兵だったんだよね。ま、同族なら言うまでもないか」
軽い口調だった。明確な根拠はないけど、きっと悪い人ではないのだろう。
名前は、こちらがフィーマというらしい。
そして、もう一人の方は男性だった。
青い髪に黒い瞳をした、私より少し年上の凛々しい青年…といった見た目をしており、殺人者というか、人を平気で殺すような異人には見えない。
こちらも、体から微かに潮の香りがした。
「俺は元々水軍だったんだ。単潜にいたから、よく海に潜ってた。それで匂いがついてるのかもな」
彼はそう言っていた。
ちなみに、こちらはジュノスという名前だそう。
単潜とは「単独潜水班」の略で、その名の通り体一つで海に潜る部隊を指す水軍の言葉だったと思う。
水軍は水兵と違って海での戦闘をメインとする種族だから、そのような言葉も必然的に生まれたのだろう。
2人は朔矢さんを慕っているようで、彼女に同行を求められると「言われなくても!」とばかりに同意した。
そして、ウェニーさんから与えられた家を見てとても喜んでいた。
町の外れにある全て隣接し合った3つの空き家。それらはどれも、5年ほど前から空き家になっているという。
クランが解散して以降、ほとんど路上生活をしていたという彼らにとって、雨風をしのげるまともな家というのは、きっと喉から手が出るほど欲しかったものだろう。
私は、そんな家を見て言葉を漏らした。
「町の家みたい…」
「だよね!あたしもそれ思った!てか、ひょっとしてあなたレークの所属?」
「ええ、私はレークの…」
「そっか!ならやっぱり仲間だね!あたしも昔はレークに住んでたんだ。料理が好きでね、料理人になるために頑張ってたんだ」
「あ、料理人志望だったんですね。もしかして、その手…」
彼女の右の手首から先は、銀色の義手になっていた。
「まあ、そんなとこだね。10歳の時、町の外で吸血鬼に襲われて、右手を食いちぎられてさ。すぐに義手をつけたんだけど、種族柄その状態で店に出るのは難しくてね。他にしたいと思えることもなかったから、町を去った。その後は…まあ、色々あったって感じ」
何があったのかは聞かないし、覗くこともしない。かつての同族の過去を掘り下げるのは気が引けるし、殺人者の過去は知るのが辛い。
ちなみに、ジュノスさんの方は詳しいことを言ってくれなかった。彼は元々水軍であるということ以外、喋らなかった。
まあ、別にいいのだけど。
それと、彼は星占いができるそうだ。
フィーマさんの話によるとよく当たるそうなので、今晩占ってもらいたいものだ。
フィーマ・カナリス
元「花摩流」の一員。種族は「無情者」。
武器は弓と扇。属性は水と闇。
きっちりした性格で、朔矢の良きお目付け役でもある。
10歳の時に負の吸血鬼に襲われて右手を失った経験からアンデッドを憎んでおり、義手をつけて吸血鬼狩りの一員として活動している。
今はもう制服を着ることはないが、その鮮やかな金髪と色の薄い肌、そして青色の目は、かつて確かに水兵だったことを物語っている。
ジュノス・バルトゥール
元「花摩流」の一員。種族は「殺人者」。
武器は剣と爪。属性は氷。
踊りが好きで、朔矢を姉のように慕っている。
元は水軍という種族だったが、厳しい社会に適応できず殺人者に身をやつした。
星占いができるという特技がある。