黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
海に出て、しばらく進んでいるとやがて日が海の向こうに沈み、完全な夜となった。
泳いでいて思ったのだが、エーリングはやたらと髪が長く、ヒレのように後になびいている。これは、少なくとも水兵にはないものだ。
まあ、元々水棲の種族と陸棲の種族を比べても仕方ないが。
途中、エーリングが語りを始めた。どうやらやつも、キャルシィに夢を見せられたらしい。
「彼女は昔、レークの水兵長からこんな話を聞いたことがあるそうだ。昔、レーク周辺のどこかの海域で、一夜にして姿を消した海の海賊団がいた…と。その者たちの消息は今なお不明だそうだが、今回我々が追っている海賊と何か関係があるかもしれない…とのことだった」
「でも、陸の海賊と海の海賊って別物だよな?」
今回エーリングが捕まえて、仲間の船の居場所を吐かせたという海賊は陸の海賊、つまり陸の異人の海賊だ。混血の海人で構成される海の海賊とは別物。
「仲間…と言っていたのは、あくまで海賊という分類の上で…という意味かもしれない。もしくは、以前戦ったか何かした艦隊の情報を売ってきたという可能性もあるな」
「奴らがそんなことするかな…」
ふと、嫌な考えが浮かんだ。
「もしかしたら、何かの罠じゃないか?」
「そうだろうか?しかし、陸の海賊よりは海の海賊の方が危険性は低いと思うのだが」
確かに一般的にはそうだ…少なくとも船がやられるまでは。
「いや、それはそうだが…うーん…」
どうも、すっきりしなかった。
「なあ、ウェニーさんよ。聞きたいことがあるんだが」
さっきアレイから聞いたことの真相を確認すべく尋ねた。
「…はい、確かに三海霊の1人リームレットと再生者ラディアは、深い関係があります。ですが、詳しいことは私もよくわかりません」
「ありゃ、そうなのか…」
「でもせっかくですし、この際聞いてみましょう。…模倣の海霊よ、顕現せよ!」
ウェニーは石を取り出し、それを呼び出した。
それは、青い髪に水色の目をしていた。
ただし、やはり全身が薄い白色のベールに包まれている。
「これが、三海霊の1人…」
「彼がリームレットです。さあ、聞いてみましょう」
ウェニーは海霊の方を向き、尋ねた。
「リームレット。あなたに聞きたいことがあります。あなたは、再生者ラディアの部下の1人である死海人ミュウマと関係があると聞きました。それについて、詳しく教えてくれませんか?」
相変わらず奴は喋らないが、ウェニーは何やら「はい、はい…そうですか」と頷いていた。
「直接喋ってもいいそうですが、それよりアレイさんに見てほしいそうです」
それで、アレイはえっ?と言った。
「私…ですか?」
「はい。彼は、アレイさんの異能を見てみたいそうです。…なんでも、かつて彼と戦った冒険家の中に、アレイさんとよく似た異能を使う人がいたそうで」
「…よくわかりませんが、そう言うのなら。『古の記憶よ、ここに甦れ』」
アレイが詠唱すると、辺りの光景が突如変わった。
そこは、どこかの海底だった。
そして、恐らく子供…の水守人が1人佇んでいた。
恐らく、こいつがかつての…幼き日の、リームレットだろう。
一応声をかけてみたが、やはり反応しない。
そしたらアレイに「これは過去の映像ですから、干渉はできませんよ」と言われた。
しばらくそいつは無言で俯いていたが、そこに誰かがやってきた。それは、燃えるような赤い髪をし、どこか切なげなピンクの目をした女の海人。
そいつに気づくと少年は顔を上げ、女は声をかけた。
「ごめんね、遅れてしまって」
「父さんたちは…?」
「今は会えない。でも、必ず会える。…このあたりの岩場には、食べものはたくさんある。少しずつ食べれば、しばらく持つでしょう」
「姉さんは…?」
「ごめんね、姉さんは…父さんたちを探しにいかなきゃない。もし姉さんが10日以内に戻らなかったら、この海域から逃げなさい」
「姉さんはどうするの?」
「姉さんは…大丈夫よ。危ないから、あなたはついてきちゃだめ。いい?」
「うん…」
すると女は安心したようで、再びどこかへ泳いで行った。
「…」
そこで、アレイの映し出した映像は終わった。
「今のって…」
「彼の、数千年前の過去です。恐らくあの女性が、彼の姉だと思います」
「…つまり、ミュウマはリームレットの姉だったのか。そして、恐らくこの後彼が姉に会うことはなかった…」
エーリングが呟いた。
映像は短く、明言されたことはほぼなかったが、奴の過去に関するいくつかの情報が得られた。
ウェニーは明言されないことはわからないだろうが、エーリングはそれをわかっているのかちゃんとはっきり言ってくれた。
「彼らの両親は、陸の者に命を奪われた。当時ミュウマは、幼い弟を安全な場所に置いた上で、危険を承知で両親を助けに向かった。しかし、弟の顔を再び見ることはなかった」
ウェニーは海霊の顔を見た。そしてしばらく見つめ合い、何かを確認したようだった。
「この後、彼は長い間1人で放浪生活を送ったそうです。時折、姉に会えない寂しさと悲しさで泣いたこともあったとか。後にルーデウスとキリルに出会い、3人で組んで行動するようになったそうです」
「…そういうことだったのか。それなら、陸の者を恨んでいたのかもしれないな。それでラディアに出会って、あとはそのまま…」
「それが真相でしょうね」
しかし、そうだとするとわからないことがある。
「でも、ミュウマは基本海人しか襲わなかったんだよな?どうして陸の者への恨みから…?」
「誰かを利用したかったラディアにとって、ミュウマの陸人への恨みは単なる動機づけに過ぎなかったのでしょう。未練さえあれば、強力なアンデッドとして生まれ変わらせるのは容易ですから」
「なるほど、そういうことか」
よく考えればそうだ。生前、強い未練を抱いていた者は強力なアンデッドになりやすい。
…というか、なんでアレイがそれを知っているんだ?
「まあ、詳しいことはミュウマに出会えばわかることです。いずれ私達の前に現れるでしょうし」
アレイがそう言った直後、ウェニーが何かに反応した。
「船です!船です!船が出てきました!」
海面に顔を出し、ウェニーの指差す方向を見ると、確かに一隻の帆船がいた。
もしかして、あれが問題の海賊の船か。
そう思ってたら、何かが船から伸びてきた。
「…!」
それは数本の縄だった。
すぐに潜ったが、普通に海中に伸びてくる。しかも、なぜか攻撃しても切れない。
そうしているうちに、あっさり捕まって船に乗せられてしまった。