黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
適当に海賊どもを蹴散らそう…と思ったら、いきなりウェニーが魔法でそれをやってくれた。
「[ペルセニム・フォートラス]!」
周囲の地面から黒い光の柱が現れて波紋状に広がっていき、海賊たちを空中へと吹き飛ばした。
ちなみに、今の魔法は見たことがある…数年前、セントルで昔からの友人たちと冒険した時、仲間の中にいた魔女が唱えているのを見た。
確か黒魔法だったと思ったから、同じく魔女であるウェニーが使えるのも不思議はない。
もっとも、あちらはまだまだ幼い子供の魔女だったが、こちらは少なくともアレイよりは年上だ。
続けて、ウェニーは別の魔法を唱えた。
「[ラムフェティ]!」
海賊たちの頭上に黒い球体が現れ、押し潰すように落下する。
これもまた、黒魔法だ。
ウェニーは水の皇魔女だが、海の海賊はまごうことなき海人なので、水には耐性がある…というわけで、黒魔法を使うのは正しい判断と言える。
吹き飛ばされ、潰されてもなお海賊たちは起き上がってきた。
驚異的な生命力だ…と言いたいところだが、奴らからはどうも不死者の匂いを感じる。まあミュウマの下僕となっている以上、そうなのだろう。
一応、上空で浮いているミュウマを狙撃してみたが、やはりというべきか躱された。まずは、地上の海賊どもを片付けないことには始まらないのか。
しかし、ウェニーの攻撃を食らっても沈まないような連中だし、そもそもアレイの話通りなら、倒したところでミュウマが復活させるから意味がない。とすると、どうすればいいのか。
ちなみに、何気にエーリングが戦っているのを見るのは初めてなような気がした…のだが、技や術の銘の宣言や詠唱は一切していなかった。
技はともかく、術に関しては詠唱をせずに唱えられる者は限られるから、このことは奴の実力を物語っているとも言える。
…魔騎士と一緒に戦うのは久方ぶりだ。
アレイとセラは、2人で組んで戦っていた。見た感じセラの武器は杖、属性は水と風のようだ。で、2人は互いについさっき出会ったばかりのはずなのだが、びっくりするくらい息が合っていた。
伊達に同族ではない、といったところか。
まず、セラが杖を振るって攻撃する。しかし範囲が狭く、すれ違いに剣や斧の攻撃が飛んでくるので、アレイが氷の壁を展開する。
そしてそのまま飛び上がり、弓を放つ。
一方でアレイが前に出る時は、弓を引いている合間にセラが出てきて結界を張ったり、杖で攻撃を全て受け止めたりする。
意外とセラは体術もできるようで、横から来た斧持ちの手を蹴ったり、突っ込んできた剣持ちの攻撃をジャンプして躱しつつ顔を蹴ったりして舞っていた。
よく見るとその体、特に足は引き締まっており、まさしく武術に精通している奴のそれだった…もっとも、こんな言い方をするとアレイに申し訳ないし、変な勘違いをされるかもしれないが。
やがて、ミュウマが口を開いた。
「ずいぶん頑張りますね…しかし、これならどうでしょう?」
奴は手を払い、何かのパワーを海賊たちに送り込んだ。すると、奴らの体は謎の黒いオーラに包まれると同時に、二周り以上大きくなった。
具体的には、さっきまで俺と同じくらいの背丈だった奴が、1メートル以上の大きさにまで巨大化した。
これにはウェニーも驚いていた。だが、エーリングは「来たか…」という感じだった。
「やはりやってきたか…ウェニー様!焦る必要はありません。あれは、攻撃の威力を増す代わりに速度と回避を犠牲にする術。向こうの攻撃を確実にかわし、反撃するようにすれば問題ありません!」
「わ…わかりました!」
確かに、体がでかくなればその分回避が難しくなるのは道理だ。その図体に見合った能力があるならともかく、こういう能力は物理的なパワーが増すだけでそれ以外は変わらないか、あるいはむしろ弱体化するだけだ。
ウェニーは再び黒魔法を唱えた。
「[ベティ]!」
人ほどの大きさの黒い球を生み出し、海賊めがけて飛ばす。
サイズと向こうの体のデカさからして、避けられることはないだろうと思ったのだが、意外にも避けられた。
それはウェニーも同じだったようで、「えっ!?」と声に出していた。
さらに、そのまま反撃してきた…のだが、これが驚くほど素早く、見事に食らってしまった。
幸い技ではなく、タックルついでに切りつけるというものだったから大したダメージはない…と言いたいところだが、手にした斧に毒が塗られていたのか、傷口からやたらと血が溢れてきた。
「[さざ波の雫]!」
セラが詠唱した…と思うと、たちまち全員の毒が消えた。どうやら、状態異常回復の海術を使ってくれたようだ。
それが癪に障ったのか、今しがた俺達を斬ってきた海賊はセラを狙った。
アレイが氷の壁を張ったが、容易く破壊され…
「…!!」
結果から言うと、セラは盛大に胸を斬り裂かれた…のだが、なんと平然としているどころか血も出ていない。
それは本人も疑問に思ったようで、
「…あれ?何だろう、全然痛くない…」
と首を傾げていた。
すると、海賊の船長が出てきた。
「おいおい、今さら何を言っているんだ。そんなの、当たり前ではないか」
「…え?」
セラはまったくわからないのか、船長の言葉にも首を傾げていた。
「なんだ、まさか忘れておるのか?…いいだろう、ならば教えてやる。セラよ…お前の体は、とうに死んでいる!」
本人だけでなく、みなが衝撃を受けたようだった。
だが正直、さっきから何となく違和感を感じてはいた。この子は、アレイとは何か違う…と思ってはいたのだが。
「えっ…!?では、彼女はアンデッドなのですか!?」
「まさか!どう見ても生きた水兵…私の同族よ!」
「ふん…まあ良いだろう、この際お前たちにも教えてやろうか。ミュウマに命を奪われた者は、生前と変わらぬ見かけの肉体を持ったまま、死後もその駒として働かされるのだ。…我らのようにな!」
船長、そして周囲の海賊たちは、上着の首元を大きくはだけさせた。
そこにはむき出しの骨があり、中には何もない真っ暗な空間が広がっていた。
「なっ…何これ!しかも…心臓がない!」
驚くアレイの横で、セラは自身の胸の内を探った。そして、
「…!!わ、わたし、死んでる…!?」
同じように服をはだけさせ、骨こそむき出しになっていないが、胸に何もない真っ暗な空間がぽっかり開いているのを見てショックを受けていた。
…自覚のないアンデッドといったところか。ある意味、一番悲しいタイプだ。
「…そういうことです。しかし、あなたは少々事情が違います」
ミュウマが喋り出した。
「他の海賊たちは、素直に私の配下となりました。しかし、あなただけはどういうわけか私の支配が及ばなかった。故に、牢に閉じ込めていたのです。アレイ様の反応もしかり、もしかしたら水兵という種族自体がそうなのやもしれませんね…いずれにせよ、あなたは我らと同様の存在…それだけは、変わりません」
「そ、そんな…」
セラは涙を浮かべ、座り込んだ。
そんなセラに、船長が語りかける。
「落ち込むことはないぞ。今の我々は、寿命の概念から外れた存在。日光を浴びない限り消えることはないし、ミュウマ様、ひいては再生者ラディア様がこの世におわす限り、我々の命は無限だ」
そして、船長は大笑いした。
「どうせ、外ではもう何千年も経っているのだ。お前の知り合いも、もう誰もいない。そいつらからも、心臓をえぐり取ってやれ!」
ウェニーとエーリングは、嘆きと怒りを浮かべていた。
「な、なんて残酷な…」
「酷い…あまりに酷すぎる…!」
肝心のセラは、いよいよ涙を零し始めた。
そんな彼女たちを見て、海賊たちとミュウマはご満悦だ。
だが、そこへアレイが手を伸ばした。
「…大丈夫。あなたは、必ず私が助ける」