黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「…えっ?」
「あんな奴らの言葉なんか、気にしないで。あなたと私は、同郷の仲間。あなたはもう1人じゃない」
「でも、わたしは…」
「あなたは何千年もの間1人で戦い続け、
「…」
「長い間恐怖と孤独に屈せず、不死者の甘言を拒んだ。その事実が、何よりすごいと私は思う」
アレイはセラの手を握った。
そして、その手から優しい光が
それには、皆が驚いた。
「あ…アレイ…!?なんだ、この光は…!」
「見覚えのある光景だ…この力、まるで…!」
「えっ…!?そ、そんなまさか!」
光は急激に強くなり、辺りの全てを照らした。
激しくも優しく、ほどよく温かい光。
それを浴びた海賊たちは、もがいた。
さっき巨大化したやつは、元通りに縮んだ。
そしてミュウマもまた、苦しんだ。
「うっ…!く、苦しい…!温かい生の光…苦しい…っ!」
生の光、ということは…もしかして!
俺たちの視線の先で、アレイは唱えた。
「死して尚、不死者に抗ったいにしえの同胞よ。あなたに敬意を示し、今一度生きる力を授けます。…陽道 [巡り
陽道…ということは陰陽道、つまり陰陽師の術だ。
そして…
光が収まった時、セラは変わらぬ様子で立っていた。
ただ、その体からさっきまではなかった力を感じる。
「…私に何を?」
「胸に手を当ててみて」
セラは恐る恐る、自身の胸に手を当てた。
そして数秒後、感激の声を上げた。
「聞こえる…鼓動が聞こえる!それに…温かい!」
さらにセラは自身の頬をつねり、顔を歪めた。
「痛い…ってことは!私…!」
「ええ、そうよ。あなたはもう、死にきれなかった悲しい死者じゃない。正真正銘、私と同じ『生きた』水兵よ」
アレイは優しく諭すように言った。
その様子を見て、エーリングがつぶやいた。
「や…やはり彼女は、あの方の…」
と、ここで背後からどやされた。
「な…何をしているのですか!早く奴らを殺しなさい!」
「そ、そうだ!…ええい者共、何をもたついておるのだ!かかれかかれ!」
船長が手を振り上げると、海賊たちが一斉に向かってくる。
まずい…と思って振り向いた刹那、奴らは一斉に斬り裂かれた。
杖の先に緑の風の刃をつけ、セラが一撃を決めたのだ。
その顔は、水兵とは思えぬほど引き締まっていた。
「…セラ!」
「ごめんなさい、色々と心配をかけて。彼女のおかげで、私はかつての肉体と力を取り戻した。皆さん、一緒に戦いましょう。そして…ミュウマを倒して、この呪われた船を沈めましょう!」
心做しか、声もさっきより落ち着いている気がする。
それで俺は、かつて初めて水兵の吸血鬼狩りに出会った時のことをにわかに思い出した。
「…ああ!」
「はい!」
ミュウマの力で、海賊たちはすぐに再生する。
慣れてはいるが、たとえ体を真っ二つにされようとも、片方が動き出して元通りくっつくのはいささか不気味だ。
しかし、もはや海賊たちは怖くも何ともない。覚醒したセラとアレイ、そしてウェニーが蹴散らしてくれるからだ。
おまけに、奴らは再生するとはいってもそれには少し時間がかかる。つまり、倒したそばから復活されて囲まれて…なんて事にはならない。
そして3人が雑魚を牽制してくれている間に、俺とエーリングは飛び立つ。
狙いは、当然ながらミュウマだ。
奴は、俺達が向かってきたことに驚いていたが、すぐに構えた。
そして片手でそれぞれ水の結界を展開しつつ、魔法陣を張って闇の波動を放ってきた。
水の結界は電撃で簡単に壊せるし、闇の波動は、元々光よりは闇に近い存在である俺には大した傷にならない。
何なく接近し、結界を叩き割りつつダメージを叩き込んだ。
「っ…や、やるじゃない…」
やはり、ミュウマとて元は海人なのだろう。電撃を叩き込んだら、目に見えてふらついた。
そこを、エーリングが畳み掛ける。
槍を持ったまま盛大に回転し、ミュウマの周囲を旋回して斬りつける…という技を繰り出した。
結構通っただろ…と思ったが、やはりというか傷はすぐに塞がった。
「まさか忘れたのですか?私には、無限の耐久があることを…」
ミュウマは言いながら髪を伸ばし、エーリングの胸を突いた。
無論こちらも突こうとしてきたが、刀でガードする。
「知っている…だから、あの時…私達は…」
ミュウマはふっと一息吹き、エーリングの首を絞め上げる。
そうは行くかとばかりに、俺は刀を振るう。
奴の伸びた髪を切り落とし、ついでに腕も斬りつけた。
当然ながら、奴の注意はこちらに向く。
「半端者が…アレイ様をここまで守ってきたとて、頭に乗らないことね!」
何か術を詠唱した…と思ったら、下から黒い水の柱を伸ばして突き刺してきた。
素早く左にステップして回避すると、続けて上の空中からも突き刺してきた。
なので、思い切り体を反らしつつバックして回避する。
奴がこっちに注意を向けている間にエーリングが…と思ったが、奴はなぜか動かない。ふと見たら、体を水のリングで縛り上げられていた。
なので、弱い電撃を飛ばしてリングを破壊する。
そしてミュウマがそちらに目を奪われた隙に、「雷鳴斬り」の技を打ち込む。
痙攣するようにビクッとした後、ミュウマはこちらを振り向いた。
気配を察知して素早く飛び退き、術を回避する。
「これを躱すとは…相当な経験の持ち主ですね?これは失礼しました」
今の術には見覚えがあった…確か月の即死術。
必中ではないが、そもそも当たらないよう避けられたのは幸いだった。
晴れた空に、輝く月が浮かぶ。
ミュウマは高く飛び上がってそれをバックにし、怪しげに微笑んだ。
「アレイ様がご無事にここまで来られた以上、もはやあなた達は用無し…この夜、この海で、消えてもらいましょう」
セラ・レムリナ
ミュウマに支配された海賊船「マーホル号」に捕らわれていた水兵。
カディ海賊団に捕らえられてから6000年以上もの間、自身が既に死んでいることに気づかず1人で海賊とミュウマに抗いつづけていた。
しかしその本来の強さ、そして精神力と勇気は、後の吸血鬼狩りと比べても遜色のないものだった。