黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
まずはこちらから行く。
弓に矢を番え、弦を引き絞る。
ミュウマはこちらを睨み、ガン飛ばしのような技を出してきた。
「バインド」…相手に恐怖を与え、動きを牽制する性質を持つ技か。
セラさんか、他の水兵なら食らっていたかもしれない。
でも、今の私には何の意味もない。
バインドは、アンデッドに限らず邪悪な異人や異形がよくやってくる技だ。だからこそ、対策を取るのは難しくない。
吸血鬼狩りともなれば、尚更だ。
それで私が怯まないと見るや、今度は大きく息を吸い込んだ後にものすごい咆哮を上げてきた。
これも、異形がよくやる技だ。
そして、特に音に敏感な者には有効な行動停止手段でもある。
海人は大きな音に弱い傾向がある。ミュウマも元はと言えば海人だから、それをわかっているのだろう。
けれど、これも私は平気だ。
耳をふさぐまでもない。
むしろ、この時間はいい攻撃チャンスだ。
「[五点射ち]!」
一気に5本の矢を放つ。
すんでの所で防がれ反撃が飛んできたけど、避けるのはそう難しくない。
渦巻く竜巻のような水を起こす「マリンストーム」、そして水で生成した槍を数本飛ばす「トライデントニグラス」、いずれも海術だ。
海術は紛れもない水魔法の一種であり、海人なら誰でも扱える術だ。故に、ミュウマも汎用攻撃として使っている。
もちろんミュウマはアンデッドだから、本来の海術に不死者の力を足して威力を強化して使ってきているのだろう。
それは、術で生成される水の全てが真っ黒であることからもわかる。
けれど、私だって水兵という種族の海人だ。海術の扱いは元より、それの対策もよく心得ている。
生まれた時から異人だった相手には敵わないにしても、それ以上に大きな力が私にはある。
さっきセラさんを蘇らせたのと同じように。
海術があまり効果がないと判断したミュウマは、シンプルに触手で攻め立ててきた。
まるでタコの腕のような数の触手を使った連続攻撃は、まさしくアンデッドや異形の仕掛けてくる技という感じだった。
…思えば昔、レークの海でタコ型の大きな異形と戦ったことがある。
私達の家よりも大きな体躯と太い腕を持ち、鋭い目をした異形で、その腕を用いて連撃を叩き込んできた。
今のこいつの攻撃は、あの時の異形の攻撃とよく似ている。
あの時私はまだ町に来て間もなく、弓の腕もそこまででもなかったが、お世話になっていた他の人達を守るために戦った。
例えそれがアンデッドであったとしても、立ち向かっていただろう。
「…っ!」
やがて業を煮やしたミュウマは、それまで別々に振るっていた触手を一度止め、私の周囲の床目掛けて一斉に伸ばしてきた。
そして私を檻に閉じ込め、もう逃さないとばかりに降りてきた。
確かにこうされれば、動き回って回避することはできない。実際、私は直後に飛んできた魔弾数発を食らった。
でも、この程度では倒れない。
向こうもそれをわかっているのか、魔弾を撃ち終わった後は手を止めて別の術の構えを取った。
なんとなくわかった。
ミュウマ、もといラディアの下僕が使う術。それは…
「[ソウルブレイク]」
相手の体を一切傷つけず、生命力だけを奪い取る凶悪な死者の術。
かつては多くの海人がこの術によってその尊い命を失った。
けれど、今はもう違う。
「…ば、バカな!なぜこの術を避けられる!」
ソウルブレイクは紫の球体を集中させ、概ね3秒後に即死効果をもたらす。
私はそれをわかっていたから、タイミングを合わせて光の結界を張り、即死を防いだ。
「別に、私が特殊なんじゃないわ。あなた達の使うソウルブレイクは、長らく海人の恐怖として語り継がれた。だから当然研究され、対策が講じられていった。そして今から5000年前、その対処法が発明された。少なくとも私にとっては、それは生まれた時からあったもので、教育を受けるうちに授かったもの…意図しなくとも、避けられる」
「なっ…私達の極意たる術を…ラディア様の力を、そんな容易く…!」
ミュウマは数秒の後に震え上がり、その手に短剣を持って突っかかってきた。
自身の、ひいてはラディアの術を容易に躱され、しかもそれが私に限らず、多くの海人間に伝わっているものであると知って、思う所があったのだろう。
その怒りはよほどのものであるらしく、ミュウマは何も言わずに短剣を振るってきた。
武器を一切使わない完全術師とは思えない程の勢いと立ち回りで突き刺し、斬りつけてくるその様は、確実に私を殺しにきている。
けれど、これはチャンス…というか、そもそも始めからこれが狙いだ。
「[切り返し]!」
刀身で短剣を受け止め、直後に逆に斬撃を見舞うカウンター技。
本来は剣の技だけど、この「星巡りの刀」は剣と刀、そして短剣の技を扱える。故に、今のような反撃技を繰り出すことも出来る。
斬撃を返されたミュウマは、にわかに血を流し後退した。
そしてその隙に、「スターライトブリザード」を放つ。
ミュウマの体を氷に閉じ込め、叩き割る。
…と思ったら、剣を受け止められた。
自らの体を包む氷を割り、手を出して一太刀を受け止めてくるあたり、やはりラディアの下僕だ。
私はすぐに手を離し、飛び上がった。
そして、上方から矢を放つ。
「[ブレイクスリンガー]」
重い矢を放ち、氷を粉砕してダメージを与える。
さしものミュウマもこれは効いたようで、さっきよりも大きく後退した。
「っ…わ、私を凍らせ、その上氷砕きを仕掛けてくるとは…!」
氷砕きとは相手を凍らせ、または氷に閉じ込めた上で叩き割る戦法。
古くから行われてきた方法だけど、海人でそれをやる者は珍しいと聞く。
「しかし、これであなたの力はよくわかった。…次は、私の力を見せてくれる!」
ミュウマは息を吸いこみ、体を少し反らしつつ両手を広げて咆哮を上げた。
そしてその直後、光速とも取れる速度で私に手を伸ばしてきた。
それを防ぐと、今度は片足を軸にして回転しつつもう片方の手で突いてきた。
「海狼の進撃」。
その悍ましい咆哮が、海の異形である海狼のものにも似ていることからつけられた技。
時にはそのまま聴覚機能を半永久的に奪ってしまうほどの咆哮を上げ、直後に腕を伸ばして刺し貫いてくる。
しかもそれを防いだとて、すぐに2発目、3発目と撃ち込んでくる。
その腕を伸ばしてくる攻撃は骨を簡単に貫くほどで、まともに食らえばほぼ死は免れない。
…何も知らない者なら。
大きな威力を誇る技故か、これをやった後はミュウマは息を切らし、しばらく立ち尽くすような隙を見せる。
私は、そこを突く。
「[斬裂舞]」
回転しつつ周囲に3つの刃を召喚し、そのまま突っ込んで斬りつける。
周囲の刃も同様に斬りつけ、連続で攻撃を仕掛ける。
これでミュウマが怯んだところで、私は詠唱する。
「陽法 [神性聖印]」
ミュウマの胸に、強力な光の力を込めた刻印を刻む。
そしてそれは強い光を放ち、やがてその体を破裂させる。
この術は、元々ミュウマのような異常なほど高い再生能力を持つアンデッドを仕留めるために作られたもの。
故に、ここにおいては最高の攻撃手段となる。
術を受けたミュウマは、微かなうめき声を上げた。
「や…やはり…あなたは…あの…」
今際の際に私の正体を悟ったミュウマは、倒れることなくふらついて姿を消した。