黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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成りすまして

翌日、指定された通り町の南東に向かった。

言うまでもなく、私一人で。

 

そして、指定の家の前に来た。

町の最南東の水色の屋根の家…というとここで間違いないはずだけど、周りの家と比べても特に違和感はない。

 

でも、こういう「何の変哲もない所」にこそ、悪党は巣食っているものだ。

私が「本物」の殺人者だったとしても、こういう所を根城にするだろう。

 

入り口の前に来ると、扉を3回叩く。

すると、数秒もしないうちに住人が出る。

一見、背が低いだけのごく普通の男性だけど…おそらく彼も、フィージアの一員だ。

 

「…名前は?」

 

「セアラト」

名前を確認すると、彼は無言で中へ入れと指図してきた。

 

 

 

家の中は、外見からは信じられないほどに広く、豪華な家具が並んでいた。

床には分厚く柔らかいカーペットが敷かれ、部屋にはしっかり暖房が入っており、この時期でもまったく寒くないようになっている。

そこからも、彼らの組織の財力が伺える。

 

私を連れてきたやつを含め、室内には3人の男がいる。

彼らはみな、奇怪な仮面をつけて顔を隠している…私を連れてきた男も、部屋に入るや否や仮面をつけた。

 

ここには、一応の仲間しかいないというのに。

 

これが、フィージアの兵士。

誕生から数十年間、独裁体制を維持し続けてきた軍事国家の、道具となった者たちか。

彼らが人間か異人かは、もはや私たちにはわからない。

 

いや、きっと彼ら自身にとっても、もはやどうでもいいことなのだろう。

 

「来たな…?」

 

リーダーと思しき、黒装束の男が口を開いた。

 

「俺は『R-134』だ。こっちは『R-156』。で、こっちのチビは『R-125』だ」

 

フィージアの兵士に名前はない。

すべての兵士…とされた者は、今彼が言ったように番号で呼ばれる。

そして、彼らは祖国のための使い捨ての駒として…

文字通り、『道具』として使われる。

 

「そう。私は…あ、知ってるか。なら言わなくていいね」

 

「そうだな。…では、さっそく本題に入ろう」

 

男…『R-134』は、自分の前のテーブルを挟んだ位置にある椅子に座れと案内してきた。

 

ちなみに、この様子はすべてウェニーさんたちに見えているし、聞こえている。

朔矢さんがつけてくれたブレスレットのおかげで。

 

さらに、向こうにつけていることが気づかれないよう、ステルスの魔法もかけてくれている。

これなら、安心していいだろう。

 

「依頼の基本的な情報は、昨日話した通りだ…言ってなかったが、期間は1カ月だ」

 

「短いのね」

 

「仕方ないんだ。本国の方から、1カ月後にはアイゼスから撤退せよとのお達しが出てるんでな。

言うて俺たちも、ついこの前言われたばっかりなんだけどな」

 

「どうして、急に?」

 

「さあな。けど、俺たちが気にすることじゃあない」

 

「そうだ。今回の撤退は、冬の帝様の…ひいては『水母(くらげ)』様の思し召しだ。我々がケチをつけることではない」

青いマントの男、『R-156』がそう言った。

 

それで、私は一歩踏み込んだ。

 

「『水母』って、どんなやつなの?」

 

名前からすると、おそらく「十五人の指導者」のうちの一人だろう。

フィージアにおいて、番号ではない名前を名乗ることが許されるのは指導者、またの名を「フィジアル」と呼ばれる存在だけらしいから。

 

「なんだ、お前さん…『水母』様を知らないのか?」

 

「あいにく、フィージアのことには疎くてね」

 

これは本当だ…けど、今回の私の目的はちょっと違う。

彼らの悪巧みの証拠を掴み、同時にその命を出している指導者について聞き出すことだ。

 

その為には、彼らに正体に気づかれるのは元より、怪しまれてはならない。

 

「…まあ、殺人者なら仕方ないな。『水母』様は、3年前に指導者の第十四階の称号を授けられたお方だ。

万物を閉ざす闇と、あらゆるものを穿つ水を操る…長髪のお美しい方だ。元は外部の者だそうでな、海を故郷と呼んでおられる」

 

言い方と行動、履歴からすると、女の海人だろうか。

まさかとは思うけど、水兵ではないでしょうね。

 

「あの方は、指導者となって程なくして、俺たちの主人となった。

そして、俺たちに金融面での活動を推進せよと命じられた。

…まあ、元々俺たちの仕事はこれだったから、結局何も変わっちゃないんだけどな」

そう言ったのは、チビと呼ばれた男…

『R-125』だった。

 

「それで、その『水母』があんたたちに色々と口を出してきてるわけね?」

 

「俺たちはフィージアの忠実な一員。『十五人の指導者』様の意思とあらば、従うまでだ」

 

つくづく忠順なものだ。

立派だ…けど、同時に彼らから何か、殺人者以上の恐怖と冷淡さを感じる。

 

「その『水母』様って、どこにいるの?」

 

「確か、今は本国にいたはずだ。近いうちに、近くの町に行くそうだがな」

 

私は、驚いて尋ねた。

 

「それって、水兵の町?」

 

「ああ。確か、ニーム…だったか。正体を隠して、お忍びで行かれるんだとよ。

一体どういう(はら)なんだか知らんが、あの町にフィージアの者が入れるってのは、なかなか衝撃的なことだと思うぜ」

 

「そう…ね」

私は、衝撃と驚きをなんとかごまかした。

 

「それで、依頼なんだけど…」

 

「ああ。そうだ、その前にこいつを」

 

『R-134』は、複数枚をまとめた書類を出してきた。

 

「こいつが、今回のターゲットたちの名簿。こっちは、奴らの今の住所。

そしてこっちが、奴らの借用書だ」

 

それらはいずれも、一見すると特におかしな所は見られない。

でも、これを使って暴力的な取り立てをすると考えると、読みたくもない。

 

「全部で50、金額にして1億2100万。利息を含めると、3億5800万だ。わりかしショボい額だよな」

 

どこがショボい額なのか。

というか、名簿や借用書を見た限り、どれも本来ならとうに時効を迎えているものばかりだ。

 

「…しかしまあ、それなりに膨れ上がってるわね。金利はどれくらいなの?」

 

この大陸では、金利の上限は年に20%までと決まっている。

もちろん、それを超えていれば違法だけど…まあ、結果は正直目に見えている。

 

「借用書の下、よーく見てみな?」

 

言われた通り下を見ると、小さな字で「トイチ」と書かれている。

つまり、「金利は10日で1割」ということか。

仮に元が10万だとしたら、10日後には11万、1カ月後には13万。

 

これだけなら大した額に感じない人もいるかもしれないけど、そのまま計算すると半年後には28万、1年後には46万返さなきゃないことになる。

 

しかも、これはあくまで10万借りた場合の話だ。

元手が多ければ、当然その分増える。

 

年利にすると、365%。めちゃくちゃだ。

上限の実に18倍で、違法以前に道徳的におかしいだろう。

どう考えたって、こんな額の利息を取っていいわけがない。

 

しかも、こんなに端っこに、それも小さく書いているなんて。

 

これは、後になって「明記してあるのに読まなかったあなたが悪い」と言って責任を逃れるためだろう。

なんともたちが悪い…けど、悪質な金貸しにはよくあることだ。

 

「…なるほどね。常套手段だわ」

 

これは、皮肉も何も一切なしの、思った通りの本音だった。

 

「俺たちなんか、まだ可愛いもんだぜ?…っと、それはさておき、あんたに頼みたいのは、そのリストに載ってる奴らの制裁だ。

もし返せないって言うんだったら、そのまま素材として回収すればいい。な、簡単だろ?」

 

確かに、こいつらにすれば簡単なことかもしれない。

でも、回収される人からすれば、こいつらは単なる悪魔、死神だ。

 

「…確かに簡単ね。見た限り、そんな位の高い異人もいないようだし」

 

これも悪質だなと思うのが、リストに載ってるのはみんな人間か下級種族の異人なのだ。

水兵は昇格がないにしても、未来も昇格先もある術士や魔法使いも含まれている。

 

弱いものいじめと同じだ。

こんなの、許せない。

 

「だろ。…で、どうだ?やってくれるか?報酬は昨日言った通りだ」

 

私は書類を置き、少し悩むふりをして答えた。

 

「わかった。引き受けましょう」

 

「おお、そりゃありがてえ。じゃ、さっそく明日から頼むぜ」

 

「今日からじゃなくていいの?」

 

「今日一日だけは、奴らに最後の情けをかけてやろうと思ってな」

 

…情けになってない。

元の額に1割プラスαの金額なんて、おおよそ1日で出せるわけないじゃない。

 

「まあ、こんなとこだ。それじゃ、お開きにしようぜ」

 

「ええ。…『いろいろありがとう』ね」

 

最後に、私は最大級の皮肉を込めて言い放った。

 




世界観・フィージア
大陸北方の軍事国家シュンズネーアイの組織。
「冬の帝」と呼ばれる人物によって治められる独裁国家であり、強引な外交や犯罪、あるいはそれに近い行為も平気で行う。
その内部には膨大な数の軍隊と、それを指揮、統括する「十五人の指導者」が存在する。
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