黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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ペレスへ

「それで、情報は?」

彼は、唐突に言った。

 

「情報…ねえ。あ、そうだ。ここから西に行くとペレスって町があるんですがね、先日そこに勇者ラカルが来た…って話はご存知ですよね?」

 

「らしいな。よく知らんが」

 

「え、お客さん…まさか、勇者ラカルをご存知ない?」

 

マスターも驚いていた。

それくらい、この大陸の人々にはよく知られた存在なのだ。

 

「ああ…俺は世間の常識には疎いんでね」

自覚あったのか。

なら、なんで調べようとしないのだろうか。

 

「そうですかい…」

マスターは、ワインボトルを棚に置いて喋り始めた。

 

「ラカルは、最近になって頭角を現してきた戦士の若者ですよ。なんでも、全ての再生者の打倒を目標にしてるとか。直接会った事はありませんが、勇者ってだけあって、それはもう強いそうです。

若いのに、強い。しかも、戦士なのにアンデッドを倒す力を持ってる。すごいですよねえ」

 

龍神さんは、ビールを飲んでから言った。

「…そうだな。アンデッドを倒せる事自体は、そんな珍しいことでもないが」

 

「まあ、それはそうですね。

で、そのラカルがですね、今晩ペレスを立って、バーサクの塔に乗り込むそうです。

今からペレスに向かえば、戦いの準備をしてるラカルを見られるかも知れませんねえ」

 

「なるほど…それはなかなかお目にかかれない光景だな」

 

「でしょう?こんな田舎の町の近所にスーパースターが来るなんて、そうそうない事ですよ。

…それと、ここだけの話なんですがね。ラカルは、実はこの町の出身だったりするんですよ」

 

「そうなのか?」

 

「はい…まあ、本人の希望で、みんな黙ってるんですがね。あ、くれぐれも今の話は、ご内密に」

 

「勿論だ。本人がそれを望んでるなら、そうするよ」

 

「ありがとうございます」

 

ラカルがここの出身だったとは。

そう言えば、今まで彼の出身地に関しては誰も触れていなかった。

 

でも、なぜ故郷の事を隠しているのだろう。

勇者の故郷となれば、この町の知名度も上がるし、経済的にもいい影響が出るはずなのに。

 

私には、ちょっと彼の気持ちがわからない。

 

 

 

 

 

店を出て、私は龍神さんに聞いた。

「それで…行くんですか?」

 

「えっ?どこにだ?」

 

「ペレスの町ですよ」

 

「あ、そういう事な。んー…行ってみるか」

 

「わかりました。歩きで行きますか?」

 

「歩き…って、ここからどれくらいの距離なんだ?」

 

「8キロくらいだったかと」

 

「地味に遠いな。なら、飛んでいくか」

 

「飛べるんですか?」

 

「一応な」

彼は、全身を魔力で包み、浮かび上がった。

 

「アレイもやれるか?」

 

「は、はい…」

私も同様にして、浮き上がる。

 

そして彼と手をつないで空高く飛び上がり、勢いよく飛び出す。

 

 

 

結構な速度で飛んだからか、ペレスへは数分でついた。

「ここだな」

 

門をくぐると、町中に異様なほどたくさんの人がいた。

「すごい事になってますね…」

 

「まるでアイドルの訪問だな」

 

アイドル…か。

まあ、ラカルはアイドルでもおかしくはない。

彼は、それくらいの美青年だ。

 

新聞などで顔を見たことがあるけど、本当にきれいな顔をした人だった。

失礼だけど、本当は戦士ではなく防人では?と言いたくなるほどだ。

 

肝心のラカルは、仲間と共に町外れの空き家に泊まっているらしい。

一応私達も行ってみたのだけど、まわりに人が多すぎてとても中は見えなかった。

 

その後、あちこちで町の人達から色々と話を聞いた。

ラカルに関する情報の他は、バーサクの塔に住み着いているアンデッド・ゼガラルに関する情報が多かった。

 

それで、結構ゼガラルの事を知れた。

ゼガラルは数年前から塔に住み着いている、おそらくはゾンビの一種のアンデッドで、今のところ町に手を出してはいないものの、いつ降りてくるかわからない。

 

さらに、塔のまわりはいつもゾンビが徘徊している。

塔の先には町があるのだけど、そこへ行くにはどうしてもこの塔のそばを通らなければならない。そのため、人々は向こうの町に行けないのだと言う。

 

向こうの町…メルトンとペレスは、昔から親しい関係にあり、密接な繋がりがあるらしい。

そのため、互いに向こうの町に行けない事をもどかしく思っているとのこと。

 

「まあ、ラカルが来てくれたからには、大丈夫だろうよ!」

私が最後に話を聞いた男性は、そう言って笑った。

 

 

 

 

宿を取ろうと思ったのだけど、なんとどこもいっぱいだった。

ラカルの姿を見たいと思う人は、私達の予想以上に多かったようだ。

 

不本意だが、野宿するしかないか…と龍神さんが言った時だった。

「こっちだ」

茂みの中から、誰かが手招きしてきた。

 

 

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