黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
手の主は、立派な髭をたくわえた男性だった。
見た感じ、戦士だろうか。
「ついて来い。いい場所がある」
男性は、私達についてくるように言うと、森の奥へ進んでいった。
しばらく進むと、家が見えてきた。
でも、それはちょっと変わった家だった。
「…へえ、ツリーハウスか」
木の上に建てられた家。
なんか、鳥の巣をイメージする。
「あそこを使え」
「いいのか?」
「ああ。どうせ誰も使ってないからな」
誰も使ってない…?と思ったけど、よく見ると家の屋根はうっすらと埃をかぶり、入口の扉も壊れていた。
「入口が壊れてますね」
「直せばいいだけだ。中はまだきれいだしな」
木にははしごが立てかけられていたけど、このはしごもだいぶ古びていた。
「登ってる途中で折れたり…はしないよな?」
「大丈夫だ。さあ、登れ」
とりあえず、家の中を覗いてみる。
古いベッドやテーブルが置かれ、葉っぱや枝が散らかっていたけど、掃除すれば全然家として使えそうだ。
「わりときれいだな。ちょっと掃除すれば普通にいけそうだ」
「だろ。ここを宿代わりにするといい」
「じゃ、さっそく片付けましょう。扉は…その辺の木を切ってきて使えばいいですね」
「そういう事だな。じゃ、頑張れよ」
「…え、手伝ってはくれないんですか?」
すると、戦士は立ち止まり、振り向く事なく言った。
「…悪いな、俺は手伝う事は出来ない。
俺に出来るのは、家を紹介するまでだ」
戦士は、それだけ言い残して去っていった。
(何なの、あの人?)
私は不満に思った。
普通は、宿として使える家を紹介するからには、相手がなるべく心地よく過ごせるようにしておくものだと思ったからだ。
でも、龍神さんは違ったようだ。
「…よし、掃除するか。今からやれば、夜までには終わるだろ」
いまいち納得がいかないけど、まあ仕方ないか。
龍神さんは外で扉の材料にする木を切ってくると言って出ていったので、私は家の中を掃除する事にした。
改めて家の中を見渡す。
古ぼけた家具や外の葉っぱが散乱している他に、天井には穴が開いていて、一部の床や壁も腐っていたり、穴が開いていたりしている。
これは、真面目に直そうとすると大変そうだ。
なので、修繕魔法を使う。
「[ランドル・メラーラ]」
呪文を唱えて手を右から左に払うと、たちまち壁や天井の穴が塞がり、腐っている所も元通りになる。
扉は、あえて直さなかった。
あとは、普通に中の掃除をした。
葉っぱや枝はかき集めて外に捨て、家具も黄ばんでいるものや壊れているものは魔法で直した。
そして、それらの作業が終わりに近づいてきた頃、 龍神さんが戻ってきた。
「おっ、だいぶきれいになってるな。魔法を使ったか?」
「はい。修繕魔法だけですが」
「そうか。…あ、扉のサイズ合わせするから手伝ってくれ」
「わかりました」
龍神さんは、大きな平たい木の板を持ってきていた。
どうやら、一本の木を切り倒して中をくり抜き、魔法で無理やり曲げて平たくしたらしい。
ずいぶんと荒っぽい事をするものだ。
「アレイ、押さえといてくれ」
一度家の外に出て、木の板を入口にくっつけ、倒れないように押さえる。
正直、すごく重い。
レークではあまり見ないから忘れていたけど、木というものは、意外と重いのだ。
龍神さんは、家の中から扉のサイズ合わせをし、ちょうどいい大きさに切った。
そして、切った板を魔法で扉に繋いでドアにした。
「これでよし…だな」
中はもうきれいにしてあるので、あとは寝るだけだ。
ベッドは直してあるので使えるけど、一つしかない。
これは、私が使うことになった。
龍神さんは、ごろ寝でいいそうだ。
気づけば、もう日が暮れていた。
「なんか…お腹空きましたね」
「町に戻って、なんか食ってくるか」
町の方は未だに人がたくさんいた。
もちろん、料理店もかなり混雑していた。
長い間並ばされた後、ようやく席に座ることができた。
「さて、何食う?」
「そうですねー…」
私は、メニュー表を見ながら唸った。
「それじゃ、この『白身魚の魚介パスタ』ってやつにします」
「そうか。…やっぱり、水兵なんだな」
「あら、私は元々好きですよ」
「ん?パスタがか?」
「じゃなくて、魚介料理が、です」
「あ、そういう事な」
注文を済ませ、料理が来るのを待つ間、龍神さんと話した。
「アレイは、元々飲食店にいたんだっけか?」
「はい」
「てことは、料理好きなのか?」
「ええ。料理と、あと人と話す事が好きです」
「そうか。俺とは真逆だな」
「え、そうなんですか?」
「ああ。俺は不器用だし、料理は得意じゃない。あと、人と話すのも苦手だ。相手の発言が理解出来ないこともあるしな」
理解出来ない…ってどういう事だろう。
少なくとも、今こうして彼と話している限りでは特に違和感とかはないけど…
「理解出来ない、ってどういう事ですか?」
「そのままだ。なんというか…具体的な対象を示してもらわないと、何のことを言われてるのかわからなかったり、相手の気持ちを読めなかったりする。まあ…要は、言われた事をそのままの意味で捉える、って感じだな」
てことは、彼には冗談やお世辞は通じないのか。
というか、彼は本当に相手の気持ちがわからない人だったのか。
しばらくして、料理が来た。
「あれ?ポテトサラダも頼んだんですね」
龍神さんはハンバーグの他に、ポテトサラダも頼んでいた。
野菜が嫌いなんだと思ってたから、意外だった。
「ポテトサラダだけは好きなんだ。
昔、一緒に旅をしてた異人とよく一緒に食べてた料理でな」
それを聞いて、また彼の過去を覗いた。
1000年以上も前、龍神さんは一人の魔女と旅をしていた時期があった。
そして、その魔女の好物がポテトサラダだったらしい。
もっとも、本当はある特定の店のものだけだったようだけど。
(魔女…か)
魔女とは術士から分岐する種族の一つで、主に光と闇以外の属性魔法を扱う「魔法使い」という種族の異人が最後にたどり着く種族。
水兵と同様に女性しか存在しない(男性の場合は魔王と言う)。
強大な魔力を持ち、あらゆる属性の魔法を扱う事ができるとされる異人で、魔法使いはもちろん、他の種族にも一目置かれている種族だ。
でも、最上位種族故か、あまり見かけない。
魔導王国を収める魔女、なんてのもいるにはいるけど。
でも、それも『今は』だ。
昔は、違ったのかもしれない。
…そう言えば、私の祖先は陰陽師だって龍神さんは言ってたっけ。
陰陽師は、魔法使い同様に術士から分岐する種族で、闇を専門に扱う種族である「祈祷師」系の最上位種族。
闇だけでなく光も扱い、さらに専用の武器や強力な術も扱える種族だけど、昇格するのは本当に大変だと聞いたことがある。
私の祖先は、どれくらいの時間をかけて陰陽師になったのだろう。
そんな事を考えながら、料理を平らげた。