黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
その後は家に帰って寝た。
意外と家の居心地は良かった。
まあ、今日しか泊まらないかもしれないけど。
翌朝、あの戦士にお礼をしようと思ったのだけど、龍神さんは「そんな事気にするな」と言って、家を出た。
町の市場へやってきた。
「さて、何食べる?」
「うーん…あっ、じゃああれにしませんか?」
私は、パンの屋台を指差す。
「おっ…よし、じゃあそうしようか」
「わかりました。じゃあ買ってきますね」
龍神さんを待たせ、私が買い出しに向かった。
屋台には人が並んでおり、龍神さんの顔をあまり多くの人に見せたくないと思ったからだ。
パンを7つ買った。
あとは、龍神さんの所へ戻るだけだ。
そして歩いていたら、滑って転びそうになった。
「おっと」
目の前にいた男性にもたれかかり、間一髪で倒れずに済んだ。
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、大丈夫だ。君こそ大丈夫かい?」
その人の顔を見て、驚いた。
それは、濃い青色の髪と瞳の若い男の人…勇者ラカル、その人だったからだ。
「…」
「どうした?大丈夫か?」
「は、はい…」
一瞬、意識が飛んだ。
こんな形で、みんなの憧れの存在に出会うなんて。
思いがけない形で、思いもよらない幸運が舞い込んできたと思った。
「あれ?君はもしかして…水兵かい?」
「はい、私は水兵です…」
すると、彼は目の色を変えた。
「やっぱりそうか!すごい…本物を見るのは初めてだ!
っていうか、よく見たらなかなか可愛い子じゃないか…いいねぇ、朝から気分が晴れ晴れするなぁ!」
彼の反応にはちょっと引いた。
確かに、水兵は珍しがられる種族だけど…まさか、こんなにはしゃぐなんて。
彼も、冒険の旅に出会いを求めているのだろうか。
「朝から何してんだ」
ラカルの後ろから、赤い髪のがたいの良い男性が声をかけた。
「ん?いや、ちょっとね。本物の水兵さんに会えたもんだから、つい…」
「水兵?」
その男性は、私に目線を移してきた。
「…確かに水兵だな。驚いた。こんな内陸の町に水兵がいようとは」
「だろ?だから、さすがの僕も驚いたんだよ!
しかもこの子、僕の前で転んで、僕に倒れかかってきたんだよ?いやぁ…いいよねえ!」
「やめろ、こんな子の前で」
「…なんだ、この子が幼いって意味かい?いやいや、この子は相応の年だと思うよ。それに、可愛い子に年齢なんて関係ない!」
「あ、あの…」
私は、赤髪の男性に向かって言った。
「ん?」
「狂戦士バムス…さんですよね?」
ラカルには3人の仲間がいる。
狂戦士バムス、僧侶オリア、魔法使いメーレイ。
バムスは自身の命を危険に晒しても仲間を守り、オリアは僧侶でありながら高位の回復や蘇生の術を使いこなし、メーレイは魔女に匹敵するほどの魔法を扱うと言われる。
「ああ、そうだ」
「お話はお聞きしています。頑張って下さいね」
「応援感謝する。てか、よく俺の事を知ってるな。うちのパーティでは、ラカルばっかり目立ってるからな」
「皆さんの事は、町でも評判ですから」
「町…?あ、そっか。水兵さんは町を作るんだっけ」
「そうだ。で、お前さんはどこの町の出だ?」
「私はレークという町の水兵です」
「レーク…?あんな遠くからわざわざ来たのか。
てか、お前さんはここで何をしてるんだ?」
「私は、ある人と旅をしてるんです。
それで今、買い出しをしてる所なんです」
「なるほどね。じゃ、あと3日くらいこの町にいるといいよ」
「どうしてですか?」
「決まってるだろ?凱旋する僕らを、間近で見られるチャンスだからさ!」
ラカルは、誇らしげに言った。
「凱旋…?あ、もしかして…」
「そうさ…今日の昼には、バーサクの塔へ向けて出発する。
僕らは、あの塔を支配するアンデッドを倒す。そして、この町に戻ってくる。
だから、それまでいたほうがいいと思うよ」
「3日で足りるかはわからんぞ」
バムスはそう言うけど、大丈夫だと思う。
ラカルは、相当に強い。
もちろん、その仲間である彼もだけど。
そんなこんなで話をして、二人と別れた。
なんだか、胸が暖かかった。
みんなの憧れの人に会えた上に、短い時間ではあるけど喋れた。
それが、とても嬉しかった。
◆