黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

50 / 298
ペレスの酒場

「な…っ…」

ゼガラルは、何が起きたのかわからないという顔で倒れた。

そして、アレイもまた、動揺を隠せずにいた。

 

「どうした?」

 

「すごい…胸を撃ち抜いても倒せなかったのに…!」

 

「そんな驚くことか?首を落とせば、肉体がある奴は大抵やれる。人間だってそうだろ?」

 

「は、はい…」

アレイは、あっけにとられてまともに喋れないという状態になっていた。

そんな引くような事ではないと思うのだが…。

もしかしたら、俺の感覚が麻痺しているのかもしれない。

 

まあ、とにかくこれでここでのイベントは終わった。

あとは、次の町へ行くのみだ。

 

       

 

 

 

        ◇

 

 

 

 

 

塔を降りる間、ずっとゼガラルの最期が頭から離れなかった。

私は終始奴の気迫に押されて、体を思うように動かせなかった。

正直、もし奴が私に向かってきてたら普通に食らってただろう。

 

でも、彼は違った。

彼はゼガラルの異様な気迫に全く怯えることなく、冷静だった。

そして、奴の隙を突いて背後に回り、奴を一撃で…。

私が胸を撃ち抜いても倒せなかった高位のゾンビを、容易く葬った。

 

いや、でも、彼は殺人鬼だ。

長年培ってきた技術、知恵があるのだろう。

それをもってすれば、あのような芸当も…。

 

あるいは、彼が吸血鬼狩りであるからか。

私は正直、吸血鬼狩りというのがどんなものなのかよく知らない。

でも、恐らくは吸血鬼…というかアンデッドを倒す為の豊富な知識や技を持ち、彼らを倒すのに特化した異人の集団…要はアンデッドを相手にする暗殺組織のようなものだろう。

 

とすると、殺人鬼である彼が吸血鬼狩りなのにはなんか納得がいく。

人のみならず、生きた屍も殺したいと考えたとか、そういうことだろうか。

 

 

 

 

町に着くと、龍神さんがラカルが死んだ事を皆に話そうと言い出した。

私は、反対した。

ラカルはこの町の…いや、この大陸の人達の希望だ。

彼らが倒れたと知れ渡れば、人々は想像もつかないほどのショックを受けるだろう。

 

だから、私は黙っていた方がいいと思った。

けれど、彼は打ち明けた方がいいと言った。

 

「既に結果として出ている事だ。黙ってても、ろくな事にならないぜ」

 

「それはまあ…そうかもしれません。でも…!」

 

「真実を皆に語るのは、真実を知った奴の役目だ。それを知った奴らがどう言おうが、真実は覆りはしない。

現実ってのは、残酷なもんだ」

 

「…」

私は、それ以上言い返せなかった。

 

 

 

 

その後、私達はペレスの酒場に行った。

マスターは、若い女性だった。

食事をしながら彼女と話し、ラカル一行が全滅したことを言った。

マスターは驚きつつも、「そうか…」とすんなりと受け入れたようだった。

 

「驚かないんだな」

 

「正直、仕方ないと思う。ラカルは強かったけど、あくまで戦士。王典に歯向かうなんて、おおよそ無茶だったんだよ」

 

「でも、彼の仲間には僧侶もいましたし…」

 

「僧侶くらいじゃ、到底歯が立たないよ。王典は元殺人者だ、並の異人じゃ話にならない。というかそもそも、吸血鬼狩りですら勝てないのに、普通の下級種族の異人が勝てるわけないよ」

 

「吸血鬼狩りでも…?」

 

「そう。あの塔の向こうにはメルトンって町があって、そのすぐ近くにはドーイっていう廃都があるんだけど、王典はそこのどこかにいるって言われてる。

今まで、何人もの吸血鬼狩りが王典に挑んだ。でも、誰一人帰ってはこなかった」

 

マスターは、無表情でそう言った。

 

「なんで、何人もの吸血鬼狩りが挑んだってわかるんだ?」

 

「…」

マスターは黙り込んだ。

そして、改めて口を開いた。

 

「あんた、命の酒って知ってるかい?」

これの事は、私も聞いたことがある。

「ああ。死者に飲ませれば息を吹き返し、生者が飲めば若返る事ができるっていう魔法酒だよな」

 

「そう。この町とドーイは、命の酒の件で深い関係にある町だった。ドーイで採れた材料を使って、この町で命の酒を作ってたんだ。

ドーイは殺人者とかがたくさんいる町だったけど、みんな素直で、こっちとも素直に取引してくれてたし、互いにいい印象を抱き合ってた。

でも、ある時王典が現れた。

みんなで立ち向かったけど、歯が立たなかった。

結局、ドーイは壊滅さ。命の酒の材料になる作物は全て枯れた。ドーイは王典に乗っ取られて、生きた死人の町になった。

この町は、滅亡は避けられた。でも、命の酒を作る事は、もう出来なくなった。その時、この町は死んだんだ」

 

淡々と、でもどこか切なげに喋るマスター。

私は、そんな彼女にある種の違和感を感じた。

 

「町が、死んだ…?」

 

「そう。命の酒が作れない以上、この町はもう死んだも同然さ。メルトンでは、ただ、住民の意志と未練から、辛うじて存続してるだけ。

…ま、私みたいなもんだね」

 

その言葉で、私は違和感の正体に勘づいた。

そして、それとなく言った。

「…もし、王典を倒してくれる人がいたら?」

 

「そりゃ…いいね。この町が息を吹き返す事はできなくても、活気はつくだろうさ。そうなれば、もう私にも思い残す事はない」

 

「そう、ですか…」

私は、出されたカクテルを飲んだ。

 

「王典…か」

龍神さんはグラスを光に透かし、彼もまた、カクテルを飲み干した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。