黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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片鱗

翌日、メルトンへ向けて旅立った。

ペレスで聞いた通り、1日もかからずについた。

とは言え、日は暮れてしまったので、ひとまず宿を取った。

 

翌日、情報を聞き出そうと1人で酒場に行ってみた。

 

店に入ったら、お客さんにもマスターにもチラチラ見られた。

まあ無理もないか。こんな内陸の都市に水兵が1人でいれば、そりゃみんな見るだろう。

 

でも、あいにく私はこんな朝からお酒を飲むつもりはない。

カウンターに赴き、マスターの正面の席に座った。

 

「いらっしゃいませ…」

マスターは、若い男の人だった。

 

「お酒は結構です」

 

「…え?」

 

「何か、情報はありませんか?」

 

「情報…ですか…」

 

「ええ。この町には八大再生者王典の話が伝わっていると聞いたんですが、何か知ってることはありませんか?」

するとマスターはあっ、それなら、と呟き、

「ありますよ、いくつか」

と言ってきた。

 

「お聞きしても宜しいでしょうか?」

 

「ええもちろん。そもそも、この町はドーイの近くに建てられていますからね」

 

「ドーイって、結局なんなんですか?」

 

「ドーイってのは町の名前ですよ。今は廃都になってます。

町とは言っても、実際には殺人者や盗賊の集まる無法地帯だったそうですけどね。

そんな中に、ある時突然王典が現れた。

奴はドーイを死人の町に変え、そこを拠点としてあちこちを襲って回りました。さらに、奴は死の始祖や他の再生者とも結託し、10000年以上に渡ってこのガーニグの地で恐怖政治を敷きました。

それを終わらせたのが…」

 

「生の始祖、ですよね?」

 

「そうです…生の始祖様と、そのお仲間…三聖女と呼ばれる方々が、ドーイの地下洞窟で王典を仕留め、封印しました。

以降は少しずつガーニグ地方の人口が回復していき、新たな都市も増えて行きました。

ドーイの町を復興させようと思う者は現れませんでしたが、再生者の記憶を後世に残しておきたい、という有志らの手により、ドーイの近くに町が建てられました。それがこの町です」

 

まあこれは聞かなくてもいい話だけど、一応聞いておく。

「そうなんですね。

では、今この町はどうなっているんです?」

 

「別に大きな変化はないですが…最近はやたらと地震が多いですね。まあさほど大きなものではないんですが、みんなちょっと嫌だって言ってますよ。

あ、ドーイの廃都は東に行けばあります」

 

「わかりました。

それだけわかれば十分です、ありがとうございます」

そう礼をして、店を後にした。

 

 

次はどこに行こうか。

龍神さんは適当に町を見て回り、昼には教会に行くと言っていたので、私も適当に時間を潰そうと思う。

 

クスルの湊(みなと)へ来てみた。

ここはメルトンを流れる3本の川の一つメド川に作られた、この町唯一の湊だ。

こうして生で見られて嬉しい。レークには海港しかなく、河岸に作られた港というのは話にしか聞いた事がなかった。

どんな感じなのか気になってたけど、海の港と対して変わらない。レークの港とはまた違った活気があるように感じられた。

もちろん、採れる物や立ち寄る人の種族は違うだろうけど。

 

湊の市場で川魚の刺身を使った海鮮丼、という物が売られてたので買ってみた。

川魚は独特の臭みや苦味があるものだけど、これに使われてる魚の刺身はそれらがなくて食べやすいし、なかなか美味しかった。

そういえば、龍神さんも刺身が好きだって言ってたっけ。

折角だし、彼の分も買っていこう。

(龍神さんがレークに住んでくれれば、好きなだけお寿司でも刺身でも食べられるんだけどなぁ…)

でも、そんな訳にもいかないか。

 

 

しばらく街中を歩いてたら、四人組の男性に声をかけられた。

「なあ、そこの水兵さん」

「…私ですか?」

「うん。今、時間あるかい?」

「ええ…」

「んじゃさ、俺達と一緒に来ない?」

「そうそう!良いコトしてあげるよ」

「こんな田舎に来るくらいだ、退屈してんだろ?

真っ昼間から楽しもうぜ?

悪いようにはしないから、な?」

「…」

レークでもたまにこういう事あるけど、こういう人はほんと、どこにでもいるんだなあ…。

「どうよ?」

こういう時は、いつもなら黙ってしまう。

1人ならまだしも、4人もいるとなかなか勇気が出ない。

でも…

「すみません。私は忙しいので…!」

強引に振り切ろうとする。けれど…

「おいおい!待てよ」

やはりと言うべきか、回り込まれてしまった。

「警戒してんのかもしんないけど、俺らは本当に大丈夫な奴だからね?マジで悪い事はしないから。

だからさ、ね?」

「いやです…!やめて下さい!離して下さい!」

相手の腕を掴んで引きはなそうとした。

けど、腕を捻られて逆に肩を掴まれてしまった。

「っ…!?」

「あー、俺達傭兵なんだよね。

君に悪いことしたい訳じゃないけどさ、女の子1人じゃ勝てないと思うよ?

大人しく従ってくれれば、傷つけやしないから」

…傭兵か、ならこの身のこなしも納得だ。

でも、この人達は人間なのか異人なのかわからない。

そうしてる間に、囲まれて連れていかれそうになる。

(最悪…)

「さ、行こうか」

「…!」

心に、並々ならぬ感情がこみ上げる。

「だから…」

「え?」

「やめてって言ってるでしょ…!」

そう怒った直後、4人はそれぞれ違う方向に吹っ飛んだ。

…いや、違う。私が吹っ飛ばしたんだ。

怒った瞬間ぼんやりとだけど、私の周りに結界が現れたのが見えた。

そして、私は今、手に錫杖を持っている。

 

(あれ?なんでこんなもの持ってるんだろう?)

錫杖は白塗りで、先端には銀色の小さな輪が7つついている。

でも、錫杖は陰陽師の武器。

なぜ、水兵である私が出せたの?

 

と、ここで男たちが立ち上がってきた。

そして一つに固まり、私に怒りの声をあげて突っかかってきた。

錫杖をかざし、

「陽道 [白日の瞬き]」

自然と浮かんできた言葉を唱えると、瞬間的に小さいけど強烈な光が複数打ち出される。

歩いている人達や私には影響はない。男たちだけが目眩ましを食らったようだ。

そして、さらにこう唱える。

「陰道 [翳(かげ)に眠れ]」

男たちは倒れ、そのまま自らの影に吸い込まれるように沈んでいった。

 

 

今のは一体?

いや、何が起きたのかはわかる。

問題は、私がなぜ陰陽師の技や武器を使えたのか?

この錫杖といい、今の技といい、本当に不思議だ。

でも考えてはいられない。

今の一連の流れを見ていた人達がひそひそと話している。

私は、その違和感と視線に耐えられずに走り出した。

 

 

しばらく走って、人のいない路地裏で錫杖をショルダーにしまった。

水兵が陰陽師の武器を持っていれば目立つ。

そういえば、さっきのまわりのあの反応、なんだか見慣れてるような気がした。

前々から、ちょくちょく変な事を無意識に言ったり初めて見るはずの物や場所の記憶があったり…ということはあったけど、最近はそれがやたらと多い。

私…どうしちゃったんだろう?

 

 

私の祖先は生の始祖と呼ばれた陰陽師。

その力が、私にも受け継がれているのだろうか。

でも、さっきのは意図せずしてだし、今の今まで錫杖なんか使った事もなかった。呪札も使えない。

それに私は、元々人間で…

「うっ!」

 

―頭がいたい。

何だろう、何か…何かが頭の中にちらつく。

これは…

 

 

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