黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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ニームにて…

「そう言えば、君はニームに行った事あるのか?」

 

「ええ。初めて行ったのは、水兵になって間もない頃でした。

今でも、数ヶ月に一、二回程度行っています」

 

「そうか。俺は一回も行ったことないんだが、いい町なのか?」

 

「はい!建物の外見が白と青で統一されてて綺麗ですし、他の国や大陸との交易も盛んなので珍しい食べ物なんかも沢山あります。

町自体はレークより小さいですが、すごく栄えてる所ですよ」

 

「へえ…

こんな状況でなきゃ、観光したかったな」

そんな会話をしながら神殿裏のワープに入り、ニームの入り口にワープした。

ワープした…のだが…

 

 

 

 

「ひどい…!」

アレイが嘆く。

町の家々は壊され、街道にはアンデッドが徘徊している。

そして、そのあちこちに骸が倒れている。

「やっぱりこうなってたか…」

神殿が落とされたなら、町も落とされていると考えるのが自然だ。

「どうして?どうして…!」

アレイが涙声を上げる。

するとその声に反応したのか、一体のアンデッドがこちらに向かって飛びかかってきた。

「[満月円斬]」

真っ二つに切り裂いて一撃キルする。

そして、アレイを励ましつつ急かす。

「気持ちはわかるが、今は泣いてる暇はない。神殿に急ごう!」

恐らく、ここは落とされてから時間が経っている。

残念だが、生き残りはそういないだろう。

ならば、神殿に急行した方が良いに決まっている。

 

 

途中で度々アンデッドに襲われたが、その中には恐らく元は水兵だったと思われるものも少なからずいた。

アレイは最初それらを攻撃するのを躊躇っていたが、

「自分が同じ立場だったらどうして欲しい?」

と言ったら、涙を呑んで弓を構えた。

 

とは言え、これまでこういう戦いを知らずに生きてきた者にとっては辛いことだろう。

気持ちはわかる。俺は平気だが…普通は、親しい者だった存在を討つのは躊躇うもんだ。

変な情けをかければこちらが滅びる事になるのだし、変わり果てた相手を殺してやるのは最後の情けでもあると思うのだが。

 

 

町を駆けること数十分。

アレイは悲しげな顔こそすれ、もう目に涙を湛えてはいなかった。

「町を襲ったのは、一体何者なんでしょう…」

 

「わからん。だがヒラの奴ではないだろうな。

再生者の僕か、奴らを崇める上位の異人か…」

水兵の町を壊滅させるくらいなのだから、相当に強い奴である事は間違いないだろうが…襲撃者の正体は全くわからない。

 

ところで、俺達を襲ってきているこいつらはゾンビや亡霊の類いではない。

"死なずの者"と呼ばれる、特別なアンデッドだ。

基本的にはロトゥンと変わらないが、生前の技や術をそのまま扱えるため、ある程度強い異人が元であればかなり厄介な存在だ。

とは言え、奴らはここ1000年以上もの間姿を見せていなかった。

俺も前に戦った時のことはほとんど覚えてないし、奴らが一体誰に生み出されたものなのかも知らない。

だが、現れたとなれば、倒すまでだ。

それに、今回奴らと戦う意図があるのは俺だけではない。

同族を殺された水兵が、奴らと戦う事を希望し、覚悟しているはずだからな。

 

っと、そんな事を考えてるうちに神殿に到着した。

入り口の左右には二人の水兵が立っており、こちらを見るなり槍と薙刀を向けてきた。

「…」

無表情かつ無言で武器を向けてくるのはなんとも無機質で不気味だ。

しかし、アレイが、

「ユキさんの命で来ました。キャルシィさんに会わせて下さい」

と言うと目を見開き、武器を下げて口を開いた。

「あなたは…たまに来てくれる…」

 

「アレイです。

昨日レークのみんなが、陰りの泉が荒らされるという夢を見ました。キャルシィさんの見せた夢だと思うので、確認させて下さい」

 

「わかった。

そっちの男性は?」 

 

「彼は、殺人鬼です」

すると、再び二人が警戒を強めた。

「大丈夫ですよ…彼は、先だってのリアースの事件の時、私達を助けてくれた殺人鬼の一人です。

ユキさんにも、彼と同伴する事を認めてもらっています」

 

「ならいいけど」

とまあ、こういう訳で入る事ができた。

 

 

 

と言いたい所だが、門番の二人は無言で互いを見つめあい、時折顔をしかめたり眉をひそめたりしていた。

何してるんだ、と思ったが、

「普通に喋って下さい。陰口叩いてるみたいで、見てるのが嫌です」

とアレイが注意すると、口を開いた。

テレパシーみたいなもので会話してたのか。

「町が襲われたってのに、神殿に殺人鬼なんか入れていいのかな…不安なんだけど」

 

「レークの長が認めてるんなら大丈夫なんじゃない?

それに、水兵と一緒にいたんなら、少なくとも今回襲ってきた奴とは関係ないでしょ」

 

「その襲ってきた奴ってのはどんな奴なんだ?」

二人の会話に割り込んだ。

「変な仮面を被った、赤いローブの男。たぶん、祈祷師の類いだと思うけど…そいつが異形をいっぱい呼び出して、町を襲った」

 

「異形を呼び出して?」

 

「そう。町の子達が応戦したんだけど、あまり数が多くて…

それで、何人かの生き残りが今、ここに逃げてきてる」

 

「生き残った人…何人くらいですか!?」

 

「今確認してるのは五人。他にもいればいいけど…」

 

「…。

でも、生存者がいてくれてよかったです」

 

「そうね。

今は神殿は襲われてないけど、いつ襲われるか…」

 

「その、ローブの男はどこにいった?」

 

「わからない。ただ、陰りの泉の石碑を壊していったから、結界の破壊が目的だったんだと思う」

 

「石碑が、壊された?」

 

「ええ。あいつは異形に私達を相手させて、その間に泉の石碑を壊していった。

そのせいで、今この町は無防備状態。だから、最大限の警戒を敷いてるの」

 

「そうか…

まず、入れてくれないか?」

すると、彼女らは嫌々ながらも扉を開いた。

「変な事しないでよ」

 

「大丈夫です。私が保証します」

アレイが俺の保証人になってくれるらしい。

 

 

 

 

 

「ここの水兵長も、玉座にいるのか?」

 

「そのはずです。玉座は、あっちです」

レークの神殿と違い、玉座の間に向かうにはひたすらまっすぐ進めばいいようだ。

 

 

 

玉座の間の扉を開くと、誰もいなかった。

「いないですね…」

 

とその時、

「おお…これはこれは珍しいお客様だな…」

耳障りな声が聞こえてきた。

 

「何者だ!」

赤いローブを纏い、奇怪な仮面を被った男が宙に浮いていた。

「私はバスム…八大再生者楓姫様を崇める祈祷師さ」

祈祷師ねえ…

下級種族が、ずいぶんと大それた事をしでかしてくれたもんだな。

「あなたが、町を襲った犯人ね!」

 

「左様だ。そして、忌まわしい結界を壊したのも私の業よ」

それを聞くなり、アレイは矢を放つ。

しかし、奴はそれを軽くかわしてきた。

「乱暴な娘だな…

して、お前さん方はここの長を知っているかな?」

 

「長…キャルシィさんに、何をしたの!?」

 

「大した事はしておらぬ。

それより、奴はお前さん達に会いたがっていたぞ?

なあ、キャルシィ水兵長?」

奴がそう言うと、水兵の長が現れたのだが…

「…!」

 

 

上から降ってきたそれは、腕や足の筋肉が異常な程に発達し、全身から異様な魔力を放つモノだった。

顔立ちや衣服から元が女であることは辛うじてわかるが、水兵の長とは思えない。

 

「これが、キャルシィさん…!?」

 

「そんなに驚いてやるな。まあ、じっくり話し合うがいい!」

 

 

奴は高笑いしながら窓の外へ逃げていった。

 

 

玉座の間に、アレイの叫びと、水兵長だったモノの雄叫びが響く。

 

 

 

 

 

 

 




キャルシィ·ファンド·レームド·メニーム
モニン神殿に暮らす、第21代目ニーム水兵長。
「夢想」の異能を持ち、他者の夢に干渉したり夢を用いて何かを伝えたりできる。
水兵以外には[黒夢の水兵長]とも呼ばれている。
備え持つ黒い翼には見た目通り闇の属性を宿し、戦いでは闇と水の力、そして斧の技を組み合わせた華麗な戦術を見せる。
性格は冷静で用心深く、時には冷酷な面を見せることもある。
ユキとは古くから親交があり、闇の力を宿す水兵長として光の力を宿すユキと対を成している。
陰りの泉の管理者でもあり、アレイ含むレークの水兵達を快く思っているが、アレイ達が着いた時にはバスムによってクリーチャーに変えられてしまっていた。
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