黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
外に繋がる扉が開き、二人の水兵が走ってきた。
どちらも緑の帯が服に入っている。
「キャルシィさん!」
二人は俺達をそっちのけで倒れた長に駆け寄り、安否を確認していた。
「脈はある…よかった」
「ああ、なんて醜い姿に…」
「キャルシィさん…」
アレイが、申し訳なさそうに呟く。
「死んではいないはずだ…」
そう言った直後、二人のうち一人がこっちを向いて掴みかかってきた。
「長に何をしたの!」
彼女の目には、強い悲しみと怒りが写し出されていた。
「ラニイ、落ち着いて…彼は悪人じゃないよ」
「そうですよ。彼は私の連れです、キャルシィさんがこんなになった原因とは無関係ですよ」
「…っ!」
二人にそう言われて、彼女は手を離した。
そして、もう一人のほうが釈明した。
「申し訳ありません、姉は気が動転していたようです。
私は、この神殿で長のお手伝いをしておりますティーサ·アテニアと申します。
彼女はラニイ…私の姉です」
「姉…」
言われてみれば似てる。
「門番より、お話は伺っております。
長を静めて頂き、ありがとうございます」
「気にするな。
それより、この長だが…」
俺は、床に倒れ、ぴくりとも動かない水兵長を見下ろした。
「今言った通り、死んではいない。アレイが気絶させただけだからな」
「アレイが?」
ティーサは、アレイを驚きの目で見た。
「ええ…キャルシィさんを気絶させたのは私です」
「そう…
うう、キャルシィさん…」
ティーサはぽろぽろと涙をこぼした。
「どうしてこんなことに…」
「"再生者の胚"だ…」
そう言うと、3人は一斉にこっちを見てきた。
「再生者の胚、って…」
「知ってるのか?」
「ええ、私は吸血鬼狩りだもの。
てか…あ!あなたは!」
ラニイは俺の正体に気づいたらしく、
「ごめんなさい!失礼極まりない事を…!」
と頭を下げてきた。
「そんな事で頭を下げなくていい。
しかし、一時の感情に流されるのは関心しないな」
「っ…
それは、その…」
「まあいい。気持ちはよくわかる」
「…。それより、長を元に戻しましょう。
再生者の胚で変異させられたなら、胚を取り除けば…」
「その通りだ。だがな、こいつをよく見てみろ」
ラニイは、その肢体をしばし調べ、そして気づいた。
「あっ…」
「そういう事だ」
「あの、一体どういうことなんですか?」
アレイとティーサが首を傾げているので、二人にもわかるよう説明する。
「キャルシィが変貌した原因は、再生者が作り出す"胚"を植え付けられたことによるものだ。
その胚を取り除けば、元に戻す事ができるんだが…」
「何か、取り除けない理由があるのですか?」
「胚は普通、普通に見てわかる場所に植え付けられてるものだ。
だが、今回は違う」
「えーと、つまり…?」
「体の中にある、ってことよ」
ラニイが言ってくれた。
「え…?」
「外科的に植え込まれたのか、はたまた飲まされたのか…
いずれにせよ、胚はキャルシィさんの体内にある。
その正確な場所がわからない以上、外から取り除くのは難しいわ」
「そんな…」
「ここに医者でもいれば別だが、多分いないだろうし。他の所から呼んでくるにしても時間がかかる。
そしてこいつは今気絶してるだけだ、このままだといずれ目を覚ましてまた暴れるだろう」
「それは困ります…」
「どうすればいいの?
まさか、長を殺せなんて言わないでしょうね?」
ラニイが、泣きそうな顔で言ってくる。
「普通は言うところだ。けど…」
「けど、何?方法があるなら言って!」
「私も知りたいです!お願いします!」
水兵姉妹に頭を下げられた。
そんなことしなくてもいいのに。
「助ける方法は、あるにはある。
ニラルの山の深部にあるという煌めく清水…あれを飲ませれば、再生者の胚を死滅させられるかもしれない」
「本当ですか!?」
「確証はないが…他に良さげな方法はない。
ニラルの山に入る許しさえ貰えれば、すぐにでも行こう」
ニラルの山はニームの南西にある山。
詳しくは知らないが、環境保全のためにニームの水兵達によって入山制限がかけられているという。
「ニラルの山ねえ…」
「いいんじゃない?仕方ないよ」
「そうねえ…」
二人はしばらく懇談した末、許諾してくれた。
「わかりました。あなた達がニラルの山に入る事を、私達が許可します」
「本当は長が許可するものだけど…特別よ。
それと、これを持っていって」
緑の丸い石を使ったブレスレットをラニイから渡された。
「あ、これって…」
「アレイ、見覚えあるのか?」
「はい。これは、ニームにとって特別な意味のある人にだけ渡されるブレスレットです。
お二人とも、ありがとうございます」
「それを持って、ニラルの入山口に行けば山に入れます。
どうか、お願いします」