黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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玉座の間の戦い

エイミは大剣を下げ、一礼した。

その作法からは高貴な印象を受ける。

やはりアンデッドと言えども高位の騎士、といった所だろうか。

そして頭を上げてすぐに剣を振りかぶり、龍神さんに斬りかかった。

 

 

「へえ…」

 

「こんなものかよ…!」

龍神さんは、エイミの剣を刀で受け止めていた。

「私の剣を、そんな細い刀で受け止めた奴は始めてよ。

さすが、例の妹を守ってるだけはあるわね…」

本来ならこの間に攻撃すればいいのだけど、先のバスムの術のせいで動きを封じられてしまいできない。

なので、彼には申し訳ないけど私はバスムを狙う。

あいつを倒せば、術の効果も消えるはずだ。

「[ルミエルアロー]」

 

「[サターンシールド]」

光の矢を闇の盾で弾かれた。

ならばと術を放つ。

「氷法 [ブリザードレイ]」

 

「闇法 [グリムボール]」

氷の魔弾を、闇の魔弾で相殺された。

こんなことを続けていては埒が明かない。

そう思った矢先、

「風法 [ゲイル·オブ·ストーム]」

バスムにリヒセロさんの術が飛んできた。

これは飛行特効があったのか、奴にはかなり効いているように思える。

連携が取れないと言っても、あくまで連絡を取り合っての行動が出来ないだけであって、こうして複数人で連続攻撃を仕掛けるのは出来るみたいだ。

「斧技 [マクシムストライク]」

 

「闇法 [シャドーゲート]…!」

間一髪でキャルシィさんの技を受け止め、

「少しばかり分が悪いな…」

バスムは異形を呼び出した。

「出でよ[サラマンダー]…今こそ汝の大いなる力、権現せよ」

赤いトカゲのような異形が現れ、赤い炎を吐き出した。

 

「…ゃっ!」

リヒセロさんが炎を食らった。

「リヒセロ…!あっ!」

それに気を取られた隙に、キャルシィさんも炎を受けてしまった。

「…おっと!」

龍神さんは間一髪、体をよじって炎をかわした。

私の方にも炎が飛んできたけど、冷気の壁を張って炎を遮断してかき消した。

「[フリーズウォール]」

危なかった。氷属性の私が火属性の攻撃を受ければ致命傷になる。

 

 

バスムを狙って矢を射ったら、異形が炎を吐いて焼き払ってしまった。

念のため術を撃っても同じように異形に防がれた。

(どうにかあの異形を倒さないと…)

このままではバスムに攻撃が届かないし、近寄る事もできない。それに加えて、一方的に攻撃される。

バスムの術はいいとして、あの異形の炎が怖い。

リヒセロさん達も、既にあの炎でダメージを受けている。

私が真正の陰陽師なら…と思ってしまう。

私が陰陽師であれば、式神を呼び出してあの異形を倒させる事も出来るのに。

どうすれば…

 

 

 

         ◆

バスムが異形を呼び出したようだ。

水兵組が苦戦しているのはわかるが、どうしようもない。

こっちはこっちで、この死霊騎士とやり合っているのだから。

「[ヒートヘイズ·ショック]」

「[ハイル·ボルテージ]」

向こうは大剣持ちなので動きは遅め…と言いたいところだが、相応の体力があるのか全然そんな事はない。

動きも洗練された騎士のそれだ。よそ見でもすればあっという間に殺られるだろう。

最初の鍔迫り合いの時に電撃を浴びせたが、さほど効いていない様子だった。

だが、ぶっちゃけ電撃が効かなくてもいい。

他の手が通じさえすればいいのだ。

「[トルネードフォーク]」

回転蹴りを入れたが、やはりというかガードされた。

「体術、ねえ…あんまり好きじゃないのよね」

「お前が好きだとかは誰も気にしちゃいない」

「そんなのはわかってる。けどね、闇雲に体術をぶちこむのはやめたほうがよかったりするのよ?」

エイミがそう言った直後、足に激しい痛みを覚えた。

その隙をつかれ、足を掴まれて壁に投げられた。

 

「っ…なんだ…!?」

見ると、両足が紫っぽく変色していた。

「殺人者にも効くみたいね…」

 

「…何をしやがった!」

 

「別に大した事じゃないわ。私の能力(ちから)を流しただけ」

 

「お前の力…!?」

 

「そう…私はあらゆるものを腐らせる力を持ってるのよ。

もとはものを再生する力だったんだけどね、あの方にお仕えするようになった時にすり替えてもらったのよ」

あの方、というのは楓姫…ではなく、楓姫を再生者にした元凶…死の始祖の事だろう。

「お前は、それで良かったと思ってるのか?」

 

「もちろん。

あの方のご意志で授けられた力だもの、拒む理由はない」

 

「ほう…」

穏やかに喋っているが、足の痛みは次第に内側へ伝わり、強くなっていく。

カビの侵食の如く、表面から内部の深くまで腐食が進むのか。

「足を侵されても平然と喋ってられるあたり、さすが殺人者って所ね。

普通は激痛でのたうちまわるものだけど…」

 

「痛みには慣れてるんでね…」

マゾヒストではないが、あまり痛みを日常的に受けすぎると心地よく感じるようになってくる。

その感じは、精神的快楽とも性的快楽とも違う、独自の快楽だ。

体が傷つき、血が流れ、時には脂や骨、内臓が覗くグロテスクな光景は、慣れれば興奮すら覚えてくる。

それは殺人者としての思考によるものか、あるいは…

 

 

単純に、俺自身が異常な存在なのか。

 

 

 

どうにか浮上したが、神経をやられたのか足が思うように動かない。

最初、踝(くるぶし)から下だけだった腐食は、すでに脛(すね)の真ん中の少し下あたりまで広がってきている。

空中にいるなら足を動かす必要はないだろう、と思われるかもしれないが、俺の場合両足と両手で魔力を制御して浮いているので、足をやられると不安定になる。

そして、もしこの状態で地上に落とされれば言う迄もなく終わる。

水兵達が奴らを迅速に倒してくれればいいのだが、望みは薄いだろう。

外からの救援も見込めない以上、かなりきつい状況だと言わざるを得ない。

 

…ん?待てよ?

「どうしたの?だいぶキツそうだけど?」

 

「…お前に心配される事はないね。俺はここでは死なん」

 

「へえ?まだそんな事言える余裕があるの?

水兵達もだいぶ消耗してるみたいけど」

確かに、水兵達はバスムと奴の召喚した異形の攻撃ですり減らされていた。

キャルシィがどうにか守っているようだが、長くは持たないだろう。

「…そうだな」

どうか間に合ってくれ…

そう思った直後、

 

「ぎゃああああ!!!!」

エイミが高い悲鳴を上げ、地に落ちた。

続いて、バスムも同様に落ちた。

 

 

 

 

「間に合ってよかったです」

 

「アレイを連れてくんなら、ちゃんと守りなさいよね」

声の主はもちろん…

 

「マーシィ?それにセレンも!」

キャルシィが援助を求めたレークの水兵達が、来てくれたのだ。

 

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