黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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古の書物

ユキは神殿の3階の広い部屋にいたー

他の水兵達と共に。

やつは他の水兵と比べて背が高いので、水兵に囲まれていてもわかりやすい。

たぶん、ほぼ一般的なデザインのセーラー服を着てるのがレークの子達で、薄い黄色や青のセーラー服を着てるのがニームの子達だろう。

 

セレンに背負われ、ユキの前で下ろされた。

「ユキさん、彼の呪いを解いてあげて下さい。

彼、腐食の呪いをかけられたようなので」

ユキは俺の足を見て、

「なるほどね。わかった、すぐに治しましょう」

と言って翼を広げた。

 

ユキの翼は3対。数はキャルシィより少ないが、迫力とパワーは同等だった。

蝋を塗ったように光るその白い翼は、夜の闇のように深い黒色のキャルシィのそれとは対称的だ。

そんな翼から抜け落ちた一枚の羽が、俺の足に触れた。

 

変色していた部分がにわかに光り、そして元の色に戻る。

また動かせるようになり、痛みもふっと消えた。

 

「これでいいかしら」

 

「ん…大丈夫そうだ。ありがとう。

しかし、あんた呪いも解けたんだな」

 

「あら、当然でしょう?

私の翼には命を操る能力がある。私は種族こそ水兵だけど、司祭に負けないくらいの光の力を持ってるのよ」

 

「へえ…

じゃ、キャルシィ達は何で助けてやらないんだ?」

 

「彼女らは私と対になる闇の力を宿す存在だからね…私の力が効かないの。

だから、医療班の子に治療してもらってるのよ」

目をやれば、そこで帽子に白い帯が入ったレークの水兵がキャルシィ達を治療していた。

「そうか…」

治療にあたっている子は二人。

キャルシィとリヒセロ、それぞれに一人といったところか。

邪魔を承知で治療している中に聞きに入ってみた。

「どうだ?大丈夫そうか?」

 

「はい。お二人とも魔力火傷を負っていますが、治療は容易です。二週間もあれば治癒するでしょう」

 

「痛みは強いでしょうけど、傷痕が残ったり壊死したりする事はなさそうです。

ただ、水ぶくれになっている箇所もあるので完治には多少時間がかかるでしょう」

魔力火傷は普通の火傷とは違う。

深いものでは、がんのようにまわりの組織がどんどん壊死していく事がある。

仮に軽いものでも、跡が残る事がある。

というか異人としてノワールに生きている者であれば、一個くらいは魔力火傷の跡ができるもんだ。

リヒセロに痛みはどうなのかと聞いたら、

「ちょっとキツいですけど、このくらい大丈夫ですよ…

この程度の火傷、昔はよくしましたから」

との事だ。

そう言えば、リヒセロは昔マトルアで魔法の修行だか勉強だかをしてたって聞いたな。

「キャルシィさんよ、あんたはどうなんだい?」

 

「心配されるまでもない…

けど、回復には時間かかるかも。翼もちょっと焼かれたし…」

 

「翼を焼かれた…って、痛みとかあるのか?」

 

「当然でしょ…これは飾りじゃなく、体の一部なんだもの」

 

「そうだっけか。

てか、なんで水の力を使わなかったんだ?」

キャルシィは、複雑な表情を浮かべた。

「制限に引っ掛かったからよ」

 

「制限?…っていうと?」

 

「私が使う水の力はちょっと特殊でね…

用途に関わらず、一度使うと次の満潮の時まで使えないの」

次の満潮、ということは約二週間後か。

水に棲む種族の長としてはなんというか、しっくりこないな。

「ほう…あ、そっか、昨日呪術師組に使ってたもんな」

 

「そう。だから、さっきはどうしようもなかった。

レークの子達が来てくれて、本当に良かった」

まさしく、だ。マーシィ達が来てくれなければ、たぶんみんな殺されていた。

キャルシィが夢でユキに救援要請を出した、との事だったが、それに数十人の水兵がみんなして応えるとは。

ユキもキャルシィも、さぞ町の者達から信頼されているのだろう。

 

しかし、なぜそんな面倒な制限がかかってるんだか。

 

聞いたところ、もともとこのモニン神殿には水兵長だけがその力を扱える「潮の心」と呼ばれる宝玉があり、ニームの水兵長は代々、それを使って水の力を操っていたという。

 

キャルシィの母メグもそうして水の力を使っており、それで楓姫を倒した。

しかし楓姫を倒してから数年後のある日、メグは突然潮の心を持って数十人の部下と共に姿を消した。

そのため、現在ではキャルシィ達は水の力を扱う事は出来るが制限がかかっている、ということらしい。

 

話し終わると同時に、キャルシィは辛そうに呟いた。

「母さん…どこにいるのよ。

せめて躯なり骨なりだけでも帰ってきてよ…」

 

 

 

 

 

アレイはというと、部屋の奥に一人でいた。

声をかけると、いつもと変わらぬ明るい様子で応えてきた。

大丈夫そうで何よりだ。

「何を見てたんだ?」

 

「これを…」

アレイが見ていたのは、一冊の開かれた書物。

何だかわからないスケッチのような絵と、読めない言葉で書かれた文章が書かれている。

「ん?これって…」

 

「『ニーム手稿』、この町で最も古く、有名な書物よ」

ユキの声が飛んできた。

「これが、ニーム手稿か…」

ニーム手稿の名前は聞いた事がある。

約6000年前、ニームを訪れた生の始祖が自ら手書きで書いたという全304ページの書物。

奇怪な絵と、正体不明の言語を用いた文章が書かれている。

「この書物なんですが…」

 

「あら、あなた達それに興味があるの?」

あたりの水兵達を驚かせながら、キャルシィがこちらに歩いてきた。

「…キャルシィさん、歩いたりして体は大丈夫なんですか?」

 

「平気よ。それより、この書物なんだけど…」

 

「何か知ってるのか?」

 

「私が10歳の時、二人の司祭と一人の陰陽師…今では三聖女って呼ばれてる人達ね…その人達がニームに来たの。再生者楓姫を倒すのに水の力が必要だって、母さんに協力を求めてきた。

そして、見事楓姫を倒して帰ってきた。

それから2年後、だったかしら、三人がまたニームに来たの。

その中の陰陽師…が、突然本を書き始めて、それを1日で書いたの。

それでね、私はいずれここに戻ってくるから、その時までこれを預かっていてほしい、って置いていったの。

彼女はそれっきり戻ってこなかった。けど、生の始祖が書いたものだし、きっと何か意味があるんだろうなって思って、ずっとここで保管してたの」

アレイが何か言ったようだったが、小声だったのでよく聞き取れなかったし、誰もそれを注意しなかった。

「それで、あんたはこれ読めるのか?」

 

「読めるわけないでしょ…書いた本人にしか読めないと思う」

まあそりゃそうよな。

しかし…この本は本当に訳がわからない。

例えば、今開かれている見開きのページには、左のページに真っ黒い人影のようなものと、それが放つ光?を受けている女の絵、右のページに海を漂うボロボロの船の絵が書かれ、空いているスペースにはやはり解読不能な文章が書かれている。

 

これは、一体何なのだろう…

「もしかして、あなた読めるの?」

 

「んー、文字はラテン語みたいにも見えるが、単語の綴りが微妙に違うな。

絵は…全く訳がわからん」

この書物の正体は、生の始祖のそれまでの魔法の研究の結果を書いたものとか、特に意味のないデタラメなものとか言われてきた。

 

そんなに意味がわからないもんなのか?と思っていたが、なるほどこれは確かに訳がわからん。

 

「まあそうでしょうね」

半ば諦めたように言うキャルシィに、アレイが絞り出すように言った。

「あ、あの…」

 

「なに?」

 

「私、これの内容、少しだけ読めます…」

 

「えっ!?」

その場の全員が驚いた。勿論俺もだ。

「アレイ、本当か!?」

 

「はい…」

 

「じゃ、読んでみてくれる?私もこれが何なのか気になるの」

 

「そうよ…読んでみて!」

ユキとキャルシィがガンガン食いついてきた。

「読める、って言っても所々読めない所があるんですが…」

 

「読める所だけでいい、だから読んで!」

 

「で、では…」

アレイは左のページに書かれた文章の最初の所を指差し、以降の文章を指でなぞりながら解読を始めた…

「えーと…

『···回目となる···は、···で行われる。

···が行われたのは、抄の···が···となった事によるもので、これによって世界は乱れ、···』」

次は右のページの文章を差し、

「『···の船。それは···によって作られたもので、その目的はヴァルスを運ぶ事ではなく、これらを閉じ込めておくことであり、···』

あとは読めません…」

いや、十分だ。

理由はさておき、アレイがこれを読めたということは、この書物が少なくともデタラメな言語で適当な文章を書いたものではないという事。

そして、絵と文章に明確な関係があったという事だ。

「ありがとう。少しだけとは言え、長い間の謎が解けたのは嬉しい。

というか、あなた…」

キャルシィは一度言葉を切った。

「何でしょう?」

 

「思ったんだけど、自分自身の過去を見る事は出来ないの?」

 

「残念ながら出来ないんです…

何度も試しました、でもどうしても見れなくて…」

 

「そう。まあ仕方ないわ。まず、みんなで町の修復の続きをしましょう。ユキ、よければ手伝ってくれる?」

 

「勿論よ。そのつもりで来たんだもの」

 

「ありがとう…あなた達はどうするの?」

 

「俺達は…そうだな、引き続き楓姫を追おうか。

アレイ、行こう」

 

「はい」

そうして他の水兵達と一緒に神殿を出ようとした時、セレンとマーシィに呼び止められた。

「どうした?」

 

「私達、あなたに話があるの。いい?」

 

「別にいいが…」

 

「ありがとうございます。では、私達とここに残って下さい」

 

 

アレイは先に神殿の入り口に行き、部屋には俺達三人だけが残った。

「話って、なんだ?」

二人はチラ見しあって意見を交換しあい、

「まず私から」

セレンが名乗り出た。

 

 

 

 

「一体、どうしたよ?」

 

「ずっと言いたかった事なんだけどね…

私を、あなた達の仲間に入れてほしいの」

 

 

 




組織·水兵長
水兵達を取りまとめ、町を運営する部族長。
何らかの属性を宿す翼を有していたり、やたらと身長が高かったりと、その町の一般の水兵とは異なる能力や姿を持っている事が多い。
長が選ばれる基準は町によって異なるが、大抵は最初にその場所に町を開いた者が選ばれ、以降はその子孫が長の座を引き継いでいく。

都市·ニーム
水兵の町の中で大陸最北端に位置する町。
寒い海に面し、深い針葉樹林を越えた先にあるアクセスの厳しい場所でありながら、古くから寒冷地でも逞しく生きる水兵の町として注目され、多くの国々や種族と交易を行い、発展してきた。
建物が全て白と青の単色カラーなのが特徴。
夏は短く、冷涼で、他の国との交易が盛んになり大陸各地から人が集まる。冬は長く、雪が多く、寒さも厳しいが、天気のいい夜には美しいオーロラを見る事が出来る。

都市·レーク
大陸の南東にある水兵の発祥地と言われる町。水兵の町の中では最大の大きさを誇り、大陸の最南端に位置する。
寒冷な環境であることが多い大陸の水兵の町の中では最も温暖な気候で、夏場はある程度気温が上がる。
その地理的条件故、大陸の他の国や都市との直接の交流は(山向こうの都市であるアルノを除き)ほぼないものの、大陸内外を問わず多くの観光客を受け入れている。
もともと船は作られていなかったが、ここ1000年程度は現水兵長ユキの命により、大型の船が盛んに作られている。
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