黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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交渉

川は次第に狭く浅くなっていき、やがて浅瀬になった。

ここまでくれば、リスウェ湖まで後少し。

 

源流につく前に陸に上がり、湖には入らない。

テリトリーを荒らしに来たと思われるとまずいからだ。

 

「緊張するか?」

 

「は、はい…」

この湖に住んでいるのは、白水兵と呼ばれる種族。

格好は水兵に似てるけど、私達の仲間じゃない。

一応、ニームとは昔からある程度交流があったらしいけど…少なくとも、レークではあまりいい印象は抱かれていない。

 

「そんな緊張する必要はないぞ?奴らは俺の親戚みたいなもんだ」

 

「親戚、ですか?」

 

「ああ。だから相手は任せろ」

よくわからないけど、スムーズに交渉が出来るならそれに超したことはない。

ここは、彼の言うとおり任せよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖のほとりをしばらく歩いていくと、植物の茎で作られた門が現れる。

その門にいるやつに顔を見せると、無言で通してくれる。

 

奴らが着るセーラー服ようの服は、"白水兵"の名前の由来通り真っ白く、帽子にも服にも帯はない。

そこが水兵との違い、と言えなくもないが、水兵と白水兵ではもっと根本的な違いがある。

 

 

 

集落の中央まで歩き、あたりを見回す。

数多の白、または黒の瞳がジロジロとこちらを見てくる。中には怪訝な顔でアレイを見てくる奴もいるが、まあ予想通りだ。

実害はないので、放っておけばいい。

 

白水兵の集落。

ちょっと久しぶりに来たが、やはりなかなか悪くない。

この雰囲気が、俺は割と好きなのだ。

 

「あの…」

アレイが気まずそうに言った。

「どうした?」

 

「ここ、なんか居づらいです…早く長に会いに行きましょう」

 

「そうだな」

 

アレイが居づらさを感じるのは仕方ないだろう。

白水兵は血の気が多く、気が短い奴が多い。

故に、ここはいつきても異様な殺気が漂っている。

「長がいるのは、こっちだ」

 

 

 

集落の奥にある、他の家より大きめの建物。

他の家と違って入り口に松明が立てられており、わかりやすく特別な立場の者の家、だ。

「どうやって入るんですか?」

 

「普通にいくんだよ」

ドアを軽く叩くと、奥から声がする。

「入って」

 

 

入り口から奥までまっすぐ伸びた、紫色の絨毯(じゅうたん)

奴は、それを前に見て鎮座していた。

「久しぶりだな」

 

「あなたは…」

リスウェの白水兵の長、アリク·マリーロ。

彼女は、俺を見て目を丸くした。

 

「この方が、白水兵の長なんですか?」

 

「ああ。こいつとは結構長い付き合いになる」

 

「そうなんですね。私はアレイと申します」

 

「そう。私はアリク。その格好だと水兵のようだけど…どこの子?」

 

「レークです」

 

「レーク…あ、ニームの長がよく言ってる所ね」

 

「ニームの長…って、キャルシィさんが、ですか?」

 

「ええ。向こうとは、色々と交易させてもらってる」

 

「ニームとリスウェ湖の白水兵との間では交流があるって聞きましたが、本当だったんですね」

 

「交流、なんて言えるかはわかんないけどね。ま、確かに良い関係なのは間違いないね」

 

「ならよかったです」

 

こうして見ると、二人は仲睦まじく喋っているように見える。

まあ、仲良くするに越したことはないのだが。

「…こう言ってはなんですけど、アリクさんは良い方ですね。失礼ながら、白水兵ってあまりガラがよくないイメージがありました」

 

「あら、言ってくれるねぇ。でもね、それは半分正解で半分外れ」

 

「えっ?」

 

「私は善人なんかじゃない。ガラがよくないってのはその通りよ。…私達は、そういう種族だから」

最後の方は、どこか哀愁を感じる言い方だった。

 

「そうなんですか…?あっ、そうだ。いつか白水兵に会う機会があったら聞こうと思ってたんですが、白水兵って、結局何て種族の仲間なんですか?私の…水兵の仲間ではない事は、なんとなくわかりますが…」

 

「そうねえ…」

アリクは、ため息をついた。

 

「そうね、確かに私達は、水兵とは別の種族。私達は…彼の仲間と言えばわかる?」

 

「えっ?」

アレイは、少々驚いた様子でこちらを見てきた。

 

「彼の…ということは、殺人者…?」

 

「そう。私達はね、こう見えても殺人者なのよ」

彼女の言った通り、白水兵は水兵…というか海人ではなく俺と同じ殺人者の仲間なのだ。

だからこそ、殺人鬼や通り魔などの殺人者系の種族とは親戚のような存在であると言える。

 

「そうなんですか?殺人者には見えないですが…」 

 

「まあそうでしょうね。でも、これを見てもまだそう言える?」

奴は後ろのバッグからあるものを取り出す。

…またか。いっつもやるな、ホント。

 

「…!そ、それは…」

 

「真正の水兵なら、見たことないかもね。

10年前に、どっかの国の軍隊がいきなり押しかけてきて、湖を盗ろうとしてきたの。

で、その大将の首がこれ。結構気に入ってるのよ?」

 

「そ、そう、なんですか…」

全く、何回言っても変わんないな。

自分の力を誇示したいのはわかるが、殺人者以外にはおおよそ理解されない趣味なんだから、見せる必要はないのに…。

 

「やめろ、アリク。アレイが引いてるだろ」

 

「あら、そう?それはごめんね。でも、これで私達が殺人者だってわかったでしょ?」

アレイは、小刻みに震えながら頷いた。

 

ここで本題に移る。

「それで、今日は何の目的で来たの?」

 

「大したことじゃない。最近、この湖の近くで異形が大量発生してると聞いたんだが、知ってるか?」

 

「もちろん。それでうちらも奴らの駆除を考えてた所なの。何?あなたがかわりにやってくれるの?」

 

「ちょっと違うな。それについて、いい知らせがある。一週間後に、ノグレとマトルアの連合軍が異形の討伐作戦を実行するそうだ」

 

「へえ…それ、私達も参加していいの?」

 

「多分な。…で、俺たちはこの情報をお前らに伝えるために来たんだ。この湖は事実上お前らの管理下にある訳だし、そっちからしても、このまま異形どもに蔓延(はびこ)られると困るだろ?」

 

「…そう、ね。わかった。とりあえず、他の子達にも伝えとくね」 

 

「ああ、頼む。んじゃ、そういう事だ」

踵を返して帰ろうとしたが、呼び止められた。

 

「待って!」

 

「あん?」

 

「折角来たんなら、モイの所に行ってあげて。

あの子、なんか最近あなたに会いたがってたし、異形の掃除をどうするか悩んでたっけから」

 

「あいつが…?わかった、行ってくる」

 

 

 

モイとは知り合いの白水兵の一人だ。

孤独を好み、集落から少し離れた所の湿地で一人暮らしをしている。

集落を出て向こうに行く途中、アレイと少し話した。

「白水兵って、殺人者の仲間だったんですね」

 

「ああ。だから、俺にとっては親戚みたいなものなんだ。水兵だって、他の海人系の奴とは仲良いだろ?」

 

「まあ、それはそうですね。・・・」

 

アレイは、突然立ち止まって黙りこんだ。

「どうした?」

「っ…」

そのまま膝をつき、動かなくなってしまった。

「おい!大丈夫か!?」

「急に、お腹が空いて…」

「お腹が空いた…?」

 

こんな唐突に立てなくなるほど強い空腹感を感じるのは、明らかに自然の摂理ではない。

となると…まさか。

 

 

念のため、電膜を張ってみる。

すると、東の崖の上に霊的存在がいるのがわかった。

やはり、そうだったか。

 

 

持ち歩いている水を一口飲み、アレイにも飲ませる。

すると、何なく立ち上がる事が出来た。

「…ありがとうございます。一体何が起きてるんでしょう?」

「見ろ」

 

崖の上にいる、全身が灰色っぽい人型のモノを指す。

「あれは…」

「"餓神(がしん)"…人の腹を空かせて餓死させ、自分達の仲間にするアンデッドの一種だ」

 

 




異人·白水兵
ジーク各地の湖や川、海の近くで生活する半水棲種族。
セーラー服のような衣服を着ている点や長を中心とした組織を構成して水辺に暮らす点は水兵に似ているが、水兵とは性質も文化も異なるまったく別(分類上は殺人者に近縁)の種族。
気性が荒い者が多く、外部の者に対してはやや攻撃的とされる。
古くから水兵と誤認され、近づいて犠牲になった者が多かったため、「不運な者のための水兵」「偽水兵」などと呼ばれる。

アリク・マリーロ
リスウェ湖に住む白水兵達の長。性格はサバサバしており、細かい事は気にしない。
社交的な面がある、剣を専門に扱うなど、殺人者にしては珍しい性質をいくつか持つ。
他の白水兵と同じく12年の命を持ち、現在は23歳と5年目。


クリーチャー解説
餓神
ヒダル神、飢餓霊とも呼ばれる亡霊系アンデッドの一種。
餓え死にした人間や異人の魂がアンデッド化したもので、生者に仲間であっても肉を求めて喰らいつくほどの猛烈な空腹感を与え、最後は餓死させて仲間に加える。
もし襲われた場合、何か飲食物を口に入れるか手の甲に"米"と書くと助かるという。
霊体系のアンデッドとしてはかなりタフだが、水属性の攻撃に弱い。

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