黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
箱の中身を手に取った直後、突然ワープした。
その先は、月の試練の入り口と同じデザインの場所だった。
奥に続く通路の入り口に式神が立っているのも同じだ。
「この先は生存者の試練です。受けますか?」
「はい。でも、生存者の試練って何ですか?」
「いかなる状況、いかなる強敵相手であっても、生き残れるかを試す試練です」
「へえ、面白そうだな」
龍神さんにとっては、「生存者」というワードがピンときたのかもしれない。
以前彼の過去を見たとき、あまり見たくないものを見てしまった。
彼は、これまで何度もアンデッドや異常な存在が蔓延る場所を体験し、その都度生き延びてきたらしい。
彼が伝説的な吸血鬼狩りとして語り継がれているのには、そのような経緯もあるのかも知れない。
彼がどんな気持ちだったのかはわからないけど…
どんな状況であっても、生き残るしかなかったのだろう。
奥へ進むと、1体の式神が通路を塞いでいた。
それは女性のように見えたけど、声を聞いて男性だとわかった。
「ようこそ、生存者の試練へ。
最初は厳しい試練だが、受けるか?」
厳しい試練、とはどういう事だろう。
「受けないという選択肢はないな」
龍神さんが答えると、式神はそうか、と呟き―
7つの腕を持ち、その全てに剣や槍、斧など何かしらの武器を装備した真の姿をあらわにした。
「汝らの武器の技量、見せてもらおう」
最初に私が、魔力を込めた矢を放った。
式神は、短剣を持った腕で矢を受け止めつつ、その手に持った短剣を投げてきた。
体を反らして交わすと、今度は槍で突き刺してきた。
これも交わすと、次は斧を振り下ろしてくる。
横に飛んで交わしつつ、飛びかかってマチェットで斬りかかる。
槍で受け止められ、硬直した所をハンマーで殴り飛ばされた。
ならばと再び弓を構え、上に矢を5本撃つ。
そして矢が落ちてくるまでの間に、術で式神の動きを止める。
「氷法 [氷閉じ]」
7本ある腕のうち、3本を封じた。
そして素早く弓をマチェットに持ち替え、残りの腕の切断を狙う。
「剣技 [水平閃光]!」
龍神さんにも言っていなかったけど、この武器は剣と短剣、両方の性質を持つ。
つまり、剣と短剣の技を扱える。
「刃技 [千剣襲名]!」
複数本の刃を飛ばし、先に飛ばした斬撃に続く形で攻撃する。
これで、動ける腕を全て切断した。
そして、ここで上から5本の矢が降り注ぐ。
矢は全て、無防備状態の式神に刺さった…
と思いきや、腕を封じる氷を強引に引き剥がし、ハンマーと剣で矢を全て弾いてきた。
そしてそのまま、ハンマーと剣を私目掛けて振り下ろしてきた。
私はそれを、後ろに飛び退いて交わす。
と、横から龍神さんが式神に斬りかかった。
今、式神の腕は3本。
うち2本は、私に攻撃した直後で武器が地面にめり込んでいる。
今がチャンスか。
しかし、式神は残る一本の腕に持った大剣で彼の攻撃を防ぎ、その間に残りの腕に持った武器で彼に反撃した。
龍神さんはハンマーで壁に吹き飛ばされ、剣で胸を貫かれたけど死んではいなかった。
彼はすぐに立ち上がると、何を思ったのか、刀を横に持って目を閉じた。
当然の如く、式神は3つの武器を持って彼に襲いかかる。
そして、大剣の切先が彼の手に突き刺さる…
その瞬間、彼は目を開けた。
「刀技 [明鏡止水の構え]」
速すぎて何が起こったのかわからなかったけど、私の目には刀を緩やかに鞘に収める龍神さんと、式神の腕が全て切断され、地面に落ちる様子が見えた。
ここで、私が攻める。
この式神、術への耐性は結局いかほどなのか。
「氷法 [ブリザードレイ]」
とりあえずダメージは与えられたようだけど、あまり効いている様子はない。
そう言えば、さっき腕を氷に閉じた時も、氷を強引に引き剥がしてたっけ。
あくまでも武器の技で戦え、ということなのか。
ならば…
丁度いい頃だ。
あの夜、オーロラを見て閃いたアレを使おう。
式神は腕を再生し、怒涛の連続攻撃を打ちこむ。
龍神さんはどうにか耐えているようだけど、長くは持たないだろう。
(お願いします、どうかもう少し持ちこたえて下さい…)
私は、弓に魔力を流しながら祈った。
でも、心配はいらなかった。
何故なら、彼が耐えてくれているうちに私の方の準備が出来たからだ。
これまで、私の術は魔力をそのまま使って放つだけだった。
でもこれは違う。弓に魔力を通し、何度も循環させる。
そしてそれをしばらく続けると、弓が白く光りだす。
これで準備は完了だ。
渾身の力で弦を引き絞り、全てを穿(うが)つつもりで離す。
「奥義 [破魔ノ矢・極光]」
氷の術であり、弓の技でもある。
私の持てる限りの魔力を込めた、現状最強の奥義だ。
そして、この奥義には最も大きな特性がある。
それは…
術や氷属性の耐性を無視できる事だ。
私の技は振り向いた式神の体を貫き、空中に鮮やかなオーロラようの光のカーテンを生成した。
「ごは…ぁっ………!!」
式神は大きく仰け反り、倒れ伏した。
「アレイ…!やったな!」
「いえ、まだです。試練はまだ、終わっていません」
「…」
龍神さんは、倒れた式神を見下ろした。
この試練は、"厳しい"試練。
この程度で、クリアにはならないだろう。
「左様だ…」
式神が唸ったかと思うと、地面から腕が現れて私達をわしづかみにした。
「試練は、まだ終わりではない!
汝らの力で、私(わたくし)に地を舐めさせてみろ!」
とはいえ、これはちょっとまずい状況だ。
魔力を回復させるのにも少し時間がかかるし、手は使えないし…
ここは、一旦龍神さんに任せるしかない。