黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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星気霊廟・生存者の試練3

まずは、片方の女の式神が手で口元を覆いながら、妖艶な目で龍神さんを見つめた。

さらに、もう一人の女の式神は髪を梳(す)き、これまた色っぽい目つきで彼を見る。

 

あれはただ色っぽいだけの仕草ではなく、れっきとした誘惑術だ。

彼を魅了し、精神を支配しようとしているのだ。

 

でも、あのくらいの誘惑術なら水兵もよく使う。

私はやったことないけど、キュリンさんやアメルが外部の男性相手にやってるのは見たことがある。

そこまで強力なものではないけど、無耐性の人であれば大抵落とせる。

 

でも、彼の場合は大丈夫だろう。

 

私の予想通り、彼は式神達の誘惑など気にかけず斬り込んでいき、二人の式神を切り裂いた。

 

 

「さすがにこの程度は平気なようですね…

では、これならどうでしょう?」

 

女式神達は一度目を手で覆い隠し、サッと手を払って彼を睨みつけた。

これは、さっきのよりも強力な誘惑術だ。

 

でも正直なところ、どんなに強力な誘惑術や技をやっても無駄だろう。

殺人鬼であり、吸血鬼狩りである彼に誘惑が効く訳がないのだ。

 

殺人者は生物でありながら繁殖能力を欠く特異な種族であり、特に男性の殺人者は異性の体を求める感情が殆どない。

そして、吸血鬼狩りはどんな誘惑を受けても耐えられるよう訓練されていると聞く。

 

「それで誘ってるつもりか?」

彼はあっさりした反応を見せ、なかなか強烈な月術を見舞った。

「月術 [ソウルショック]」

 

「ぎぃいぃやゃぁぁぁ!!!」

式神達は醜い叫びを上げ、倒れた。

 

 

 

残るは男の式神達だけだ。

「その男は十分に魅力があるようだな。

では、女はどうかな?」

 

片方は私を見つめ、優しく微笑んできた。

片方は顔を覆ってから手を避け、爽やかな表情で私を見てきた。

 

これも立派な誘惑術。

業務上何かと女性が必要になる術士や祈祷師の男性が主に使用するものだ。

 

この程度の誘惑術には慣れている。

レークで、よく私達に絡んでくる術士などから受けているから。

 

無耐性の人であれば落ちるかも知れない。

けど、私は大丈夫だ。

 

私が表情を変えずに佇んでいると、二人は術を解き、

「ふむ…お主、それなりには魅力があるようだの。

やはり若い娘は違うのう」

 

「お若いのにその美しさ…それは、罪ですよ?」

とか言ってきた。

…なんか、ちょっと嫌な感じね。

本来の使命を忘れてるのかも?

 

「では、次はこうだ」

二人揃って紫色の霧…魅惑の霧(ハートフェロモン)を使ってきた。

これも慣れたもの。

いかに霧を吸いこもうと、落ちはしない。

 

「む、これも耐えるか?ならば!」

次は「惑わしの光」を使ってきた。

魅了術としての効果は高いけど、その分高難度の術なので普段受ける場面はまずない。

まあ、受けたとしても大した問題じゃないけど。

 

「…」

そろそろ飽きてきたので、無言のまま弓を構える。

そして弦を引き絞り、矢に魔力を流し込む。

それを見た式神たちは、途端に慌て始めた。

「!!い、いかんな。すぐにあの女を落とさねば!」

 

「そ、そうですね!」

二人は、全力の誘惑術であろう同胞の誘い(リィーズアラン)を使ってきた。

 

でも…

あいにく、私には効かない。

彼らの術をかき消すように、技を放つ。

 

「弓技 [オーロラリバー]」

二人の式神に強烈な冷気の光を浴びせる。

 

 

 

「頭が冷えたかしら?

これで、本来の職務を思い出して貰いたいんだけど」

 

私は、かつてのシエラと同じ無性愛者。

人に愛情を抱かない訳では無い。人に恋愛感情を抱く事もないし、性的感情も抱かないだけだ。

 

「は、はいぃ…」

 

「よーく冷えた…ぞい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

式神たちに色欲の試練の合格を認めさせ、次への扉を開かせる。

それと同時に、体の傷が全て癒え、魔力も回復した。

 

次の部屋はとにかくだだっ広い部屋だった。

部屋の中央に、式神が立っている。

 

「よくぞ参られました。

ここは生存の試練、本試練の最後の試練です」

 

どんな試練なのか、私には見当もつかなかった。

でも、龍神さんはなんとなく見当がついているようだ。

 

「やっと来てくれたか…こういうのを待ってたんだぜ」

すると、式神が反応した。

「おや、試練内容がわかるのですか?」

 

「見当はつく。おおかた、無限に湧いて来る敵から生き延びろ、ってとこだろ?」

 

「左様です。この試練では、8体の星霊から10分間逃げ延びて頂きます。なお、星霊は無限に復活します。捕まれば脱落、お二人の両方が星霊に捕まれば失敗です。

どちらかが脱落しても、残された方が生き残れれば試練終了後に復活します」

 

「ようし、やってやろうじゃんか」

龍神さんは、私の方をチラリと見て、小声で言った。

「気張れよ、これは吸血鬼狩りの入団試験と似たようなもんだからな」

 

「えっ…?」

彼は式神の方に向き直り、

「さあ、さっさと始めてくれ。こっちの準備は万端だぜ?」 

と、手を広げて言った。

 

「かしこまりました」

式神がそう言うと、壁にびっしり並んだトンネルから星霊が8体、ピシッと横一列に並んで現れた。

フォルムは人型だけど、歯が異常なほどびっしり生えて歪んだ口と赤く光る目はアンデッドそのものだ。

 

「では、生存の試練を始めます。

貴方達の、絶望的状況で生き残る信念と力…

それを、存分に発揮して下さい!」

 

 

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