黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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素顔

「なっ…こいつは…!?」

龍神さんも驚いていた。

 

これまで何度も敵対してきた祈祷師、バスム。

その仮面の下の顔が、ベクスだったなんて。

私達はみな、しばし硬直してしまった。

 

「ふ…うふふふふっ…!!」

エイミが気味の悪い笑いをした。

 

「…お前!」

 

「これはどういう事なの?

何か知ってるんでしょ、言いなさい!」

 

「見てわからないの?そいつは、いわば私達の捨て駒。魔法使いのガキのお守りをしてるマスカーに、祈祷師の魂を吹き込んでこき使ってたのよ」

 

「祈祷師の魂を吹き込む…?そんなことが…」

 

「そいつは、楓姫が直々に魂下ろしの呪いをかけて作った忠実な部下。

例の妹を見つけるのと、楓姫の計画の邪魔になるものを潰すのの手伝いをさせていたの。

でも、バレて呪いを解かれた以上、もう使えないわね」

エイミは、大剣を構えた。

 

「まあ、いいけどね。おかげでここまで来れたし。

そいつは、なかなかいい子だったわよ。私達のために、色々と頑張ってくれた。

けれど、もう用無し。お前達も、そいつと一緒に始末してあげる!」

 

「っ…!」

 

「死霊術法 [墓碑銘(エピタフ)』・殲滅(ジェノサイド)』]!」

エイミの声と共に無数のドクロのような死霊が現れ、襲ってきた。

 

 

 

「太陽術 [シャインバリア]!」

光の壁が現れ、死霊を弾き飛ばす。

そして、エイミ自体にも強烈なダメージを与えた。

 

「な…!」

 

「えっ…!?」

それを見て、みんなが驚く。

なぜなら、今の術を放ったのは…

他でもない、私だったからだ。

 

「アレイ、あなた太陽術を使えたのですか!?」

 

「いいえ。今朝の裁判で、私に濡れ衣を着せようとしてきた殺人鬼を取り込んで、使えるようになったんです」

 

「え、取り込んだ…?」

リヒセロさんとロザミは「ええ…」という顔をした。

まあそれはそうだろう。

 

「説明の時間はありません。とにかく、私は今、太陽の術を使えます。みんなでエイミを倒して、ベクスとマトルアを守りましょう」

 

「…そうだな!」

龍神さんにならい、二人も構える。

 

「最悪…よりによって、太陽術なんか引っ下げてくるなんて!」

エイミは辛うじて立ち上がってきたが、今ので無視出来ないダメージを受けた事は間違いないだろう。

 

「こうなれば、もう私達の勝利は目前ですね…。

死霊騎士エイミ!もうお前に勝ち目はない。

大人しく投降しなさい!」

 

「ちっ…!

小娘と若造が何を言う!

お前達こそ、ここで血を吐かせてくれる!」

 

エイミは大剣を振り上げ、技を放つ。

「奥義 [死者の(デッドマンズ)面影(ヴェスティージ)]!」

 

「奥義 [自惚れ屋への天罰(プライド・ネメシス)]!」

エイミとリヒセロさんの剣がぶつかり合う。

その間に、私達も攻撃する。

 

「奥義 [黒い夢の童謡(ナーサリーライム)]!」

 

「奥義 [エレクトロキュート]」

 

「奥義 [スターライトブリザード]」

エイミは片方の手で盾のような結界を張り、私達の術を防ごうとした。

しかし完全に防ぎきることは出来ず、そのうち結界が割れてモロに術を食らった。

 

「くっ…」

エイミが膝をついた所で、私は再び術を放つ。

「太陽術 [ドラウトオーブ]!」

 

「がはっ…!!」

波動がエイミの胸を貫き、エイミはにわかに血を吐く。

 

私はマチェットを抜く。

「星具降臨 [セクトス・フィクサー]」

武器を高く掲げ、太陽術の力を刀身に集め、そして…

 

「[ゼクセクト・ドーン]」

縦に、薪を割るように振り下ろす。

 

エイミは表情を変えることもなく、静かに倒れた。

 

 

 

 

「…終わった、のか?」

龍神さんだけはそれを気にしていたけど、私達はみなベクスと仮面(マスカー)を心配していた。

 

「とにかく、町の中に入れましょう」

リヒセロさんの言葉に従い、彼らをみんなで町の一角にある休憩所まで運んだ。

 

 

「大丈夫でしょうか…」

 

「エイミの言い方だと、少なくとも殺してはない、っていうような感じだったな。ロザミ、治癒魔法使えるか?」

ロザミは治癒魔法を使ってみたものの、ベクスも仮面も目覚めない。

 

「効かない…まさか…」

ロザミは不安を浮かべた表情で彼の胸に手を当てた。

 

「どう、ですか?」

 

「…脈はありますね」

 

「はあ…よかった」

すると、彼がその重々しい瞼(まぶた)を開いた。

 

「…?」

 

「お、起きた!」

 

「ベクス!よかった!」

 

「…アレイ?

って、えぇ!?何だよこの顔ぶれ!?」

 

「おお、元気だな。これなら心配なさそうだな」

 

「治癒魔法が効かなかったのは、外傷を負っていなかったからだったようですね。

しかし、後遺症の類いもなさそうで安心しました」

 

「ロザミ様…?それにリヒセロさんも…。

あ、そうだ!あいつは!?」

 

「あいつ…?」

 

「あの仮面か?なら枕元だ」

彼は例の仮面を見るなり、

「ああ、よかった…!

ヴェット、起きろ、起きろ!」

と言いながら仮面を揺さぶった。

すると、仮面の目と口の部分がほのかに光った。

 

「…」

 

「お、来た!ほら、起きろ!すごい人達が集まってくれてるぞ!」

 

「むぅ…?

…おぉ、これはロザミ陛下にリヒセロ殿!

ご無沙汰しております…」

 

私は、思わず声を上げてしまった。

「か、仮面が喋った!?」

 

「あら、彼はただの仮面ではありませんよ?

『マスカー』という存在です」

 

「そうだ…私はマスカーのヴェットと申す。

もしや、マスカーをご存知ないか?」

 

「え、えぇ…」

マスカーなんて知らない。

喋る仮面なんて、見たことも聞いたこともない。

 

混乱する私に、龍神さんが声をかけてきた。

「アレイ、落ち着け。こいつはれっきとした異人だよ」

 

「…え?」

これが、異人?

どう見ても仮面なんだけど。

 

「これはマスカーって言う種類の異人でな…ま、要は意思を持つ仮面だ。

肉体がない霊体系の異人だが、安心安全な奴らだから安心してくれ」

 

「そ、そうなんですか…?」

恐る恐る、声を絞り出す。

 

「いかにも。我々は仮面を本体とする霊体異人。断じて不審な存在ではない…」

仮面が本体の異人?

そんなものが存在したなんて…

 

 

―いや、そんな驚く事でもないか。

 

 

何故だろうか、そんな考えが浮かんでくる。

 

「そう…ですか。それはすみませんでした」

 

「アレイ、あなたがマスカーを知らなかったなんて驚きましたよ。

私の詩にもよく出てきますでしょうに」

 

「え…?あっ、もしかして『仮面の者』ってやつ…?」

ロザミもまた、詩を詠ってくれる。

マーシィの時とは別の詩だけど、こっちはこっちで好きだったりする。

…そう言えば、確かにロザミの詩には仮面の者って言葉がよく出てくる。

しばらく聞いてないから忘れていた。

 

「そうです。彼らは数千年前に現れたばかりの、水兵以上に新しい異人。殺人者と同じ祖先を持ちますが、殺人者よりずっと穏やかな種族です」

 

「じゃ、悪い種族じゃないんですね?」

 

「はい。むしろ、他種族の子供や弱者の守護者となって助けるなどする、善良な種族です」

 

「俺は生まれてすぐに家族がみんな死んじまってな、今までずっと、こいつに世話してもらってきたんだ。

こいつがいなきゃ、俺は人間の子供のまま死んでた」

 

「私は彼の両親からの頼みでな、30年間ずっと彼を守ってきた。だが…不覚だった。彼を守るべき私が、彼を巻き込んで再生者の呪いにかかってしまうとは…」

 

「呪いにかかってた自覚はあるんだな」

 

「呪い…?あ、そうだ!

あいつが…楓姫が、俺とヴェットに呪いをかけたんだ!」

 

楓姫、と聞いて私達は顔色を変えた。

「楓姫に会ったのか!奴はどこにいるんだ!?」

 

「あいつは…うっ!」

ベクスは頭を押さえて苦しみ出した。

 

「あぁ…頭が…痛い…!!」

 

「ベクス!」

 

「記憶縛りの呪いも一緒に受けたのかもしれん。

かく言う私も、奴に出会った場所を思い出せぬ…」

 

「そんな…」

 

「…。

まあ仕方ない。それより、兵士の状況を確認しよう。

ロザミ、何か連絡あったか?」

 

「はい。負傷者はいますが、損害はないようです」

 

「ならよかった。

まずみんな、今日はもう寝よう。

ルーユにも、結果を伝えてやらないと」

 

 

 

 

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