黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
その夜、私は夢を見た。
それはニームの神殿で、キャルシィさんと話している夢だった。
「アレイちゃん」
「…はっ!はい!」
「わかってる?これは夢よ」
「…そうですね」
夢というのは、意外と夢であることに気づけないものだ。
でも、キャルシィさんが出てくる時はすぐ夢だとわかる。
「ニームの復興は、どうなりました?」
「まずまずね。みんなに助けてもらったおかげで、思ったよりかなり早く進んでる。
1週間もすれば、元に戻れると思う」
「それはよかったです」
「それより、そっちはなかなか忙しかったみたいね。大変だったでしょう」
「ええ…色々と大変でした。
でも、おかげで新しい技も覚えられましたし、例の死霊騎士も倒せました」
するとキャルシィさんは、急に険しい顔をした。
「果たして、本当にそうかしら」
「えっ…?」
「1つ、面白いものを見せてあげる」
そうして、目の前の景色が変わった―
どこかの屋敷、あるいは館。
その一室に、私は立っていた。
(え…何ここ…)
壁にはおびただしい数のドクロや骨を象った彫刻や道具がかけられており、部屋の中央には古びた黒いソファがある。
ソファには誰かが座っているが、ソファが私から見て後ろを向いているので顔は見えない。
誰か住んでいるのだろうか?
そう思った直後、部屋のドアが開き誰かが入って来た。
(えっ…!?)
私は驚いた。
それは、他ならぬエイミだったのだ。
「う…うぅ…」
(えらくボロボロだけど…あれで生きてたのね…)
と、ソファに座っている誰かが喋った。
「…酷い有様ですね。しかも、バスムも失ったようで。まったく、あれだけ準備を怠らないように言っておきましたのに」
「っ…だ、だって、向こうが太陽術を使ってきたんだもの…!」
「太陽術…?マトルアの連中の中に、太陽術師がいたのですか?」
「いや…あいつよ!例の…例の妹…!」
「例の妹…?」
ソファがぐるりと回転し、エイミの方を向く。
そして、そこに座っている者の全容が見えた。
赤いとんがり帽子を被り、オレンジ色のスカートを履いた魔女。
目と髪は赤く、いかにも火の専攻者らしい格好をしている。
考えるまでもなくわかる…
これが、火の再生者楓姫なのだと。
「例の妹が、太陽術を使って?バスムの呪いを解いた上、あなたにこんな傷を負わせたと?」
「そうよ…あのガキの呪いは、例の妹とマトルアの皇魔女に解かれた。
そして、私は妹の太陽術でこんなにされたの…!」
「そう…。
彼女が太陽術を覚えていたとは驚きですね。
しかも、まさかこれほど強い術を使えたとは…」
「あいつ、このままだと確実に、私達を潰しにくる!どうにか手を打たないと!」
「焦る事はありませんよ。例の妹は一人ぼっち。
太陽術を使えたとて、私達に敵う訳がない」
「例の妹は、一人じゃないわ…
殺人鬼をボディーガードにつけてんのよ!」
すると、楓姫の表情が一気に緊迫したものになった。
「殺人鬼?間違いないのですか?」
「ええ…刀と電の術を使う、男の殺人鬼よ。
名前は知らないけど…相当の手慣れだったわ」
「そうですか…
それは、確かに少しばかり厄介ですね。
しかし、気にする事はない。
その男の属性が水でないならば、恐るるに足りません」
「でも、あいつは水兵よ?
ニームの長あたりに助けを求められたら…」
「それは心配ありません。ニームの長の力は何千年も前に封印済みです。
最も、あの女と部下どもにかけた呪いを解かれれば少々ヤバいですが…」
あの女、とは誰のことだろう。
キャルシィさんではなさそうだけど。
「そう言えばそうだったわね。
ま、あの娘とお仲間がそこまで賢いとは思えないし、それに関しては安心していいんじゃない?」
ずいぶん言ってくれるわね。
思わずそう呟いた瞬間、楓姫がはっとした顔をした。
「エイミ。あなた、誰かお客様を連れてきていませんか?」
「え?私はここまで一人で戻ってきたわよ。
部下のゾンビも全滅したし、バスムもやられたもの、正真正銘一人よ」
「いえ…そんなはずはない」
楓姫は、その眼を鋭く光らせて言った。
「生者の気配を感じます。
この部屋に、命を持つ何者かが間違いなく―」
「はっ!」
途端に、再びワープした。
そこは、キャルシィさんの御前だった。
「危なかった」
「キャルシィさん!今のは…」
「[現地夢]。楓姫の根城で今起こっている事を、私の能力で見せたの。
危うく、気づかれる所だったわ」
「今起こっていること…?
じゃ、楓姫がどこにいるかわかるんですか!?」
「残念だけど、そこまではわからない。
私に出来るのは、あくまで相手の「今」を見せる事だけ。今の夢は、エイミの今を見せるつもりで見せたの。
ただ、今ので色々わかったでしょう?」
「ええ…。死霊騎士エイミは、まだ倒れていない。
そして、楓姫を倒すにはやはり水の力が必要…」
「そう。そして、私が水の力を使えなくなったのはあいつのせいだった、ってこと。
…悔しいけど、私には楓姫討伐の手助けは出来そうにないわ」
「…わかりました。でも、今の夢を見れただけでもよかったです。
それと、明日ニームに行かせてもらいますね」
「いいけど…何か用があるの?」
「はい。気になる事がありまして」
「…?
わかった。じゃ、気をつけてくるのよ」
キャルシィさんはそう言い残して消えた。
同時に、私の夢も覚める。
◆
気づくと、なんか見覚えのある所にいた。
「あれ、ここは…」
「ニームの神殿。その玉座の間よ」
「…あんたは」
玉座に腰掛けた、キャルシィの姿があった。
「元気そうで何よりだわ」
「あんたがいるってことは、これは夢か。何の用だ」
「ちょっと、面白いものを見せてあげようと思ってね」
奴がそう言うと、あたりが白い光に包まれた。
ワープしたのは、どこかの廃墟らしき古い建物。
…の中の、下の階へ続くらしい階段の前だった。
よく見れば、階段の先にはすぐに部屋があった。
入口は閉まっているが、部屋の中から何か声が聞こえてくる。
「…でしょう。このままでは…が…」
よく聞こえないので、恐る恐る階段を降りていく。
「私達には…どうしても必要なのです。
あの方の、復活のため…」
あの方?
と、ここで意識に関係なく体が動き、さらに扉へ近づいていく。
―超速で理解した。
俺は今、誰かの記憶なり体験なりを追体験してるらしい。
目を動かす事はできるようなので、あたりを見渡す。
と、階段脇の壁に浮かんでいた火の玉のうちの1つが動き出し、扉をすり抜けて部屋の中へ漂っていった。
「私は、まだ復活できただけに過ぎない。
かつてのような力を取り戻すためにも…」
声が止まる。
そして俺は、声の主の正体に勘づいた。
「おや?ちょっと待ちなさい。
どうやら、外に珍しい方がおられるようですね…」
視界が揺れ動き、少しずつ後退する。
「出迎えてあげて。6000年ぶりのお客様です、丁重におもてなしせねば…」
扉が開き、真っ赤な部屋の中から誰かが手を伸ばしてきて―
「はっ!今のは…」
キャルシィの前に引き戻された。
「今見せたのは、ある少年の失われた記憶…。
まあ、誰なのかはわかるわよね」
「ああ…ベクス、だな。
そして、あの部屋にいたのは…」
「楓姫…忌まわしい、火の再生者。
私から水の力を奪った、張本人…」
なるほど、そう言うことだったのか。
「あいつが、あんたから水の力を奪ったのか」
「困ったものだわ、ほんっと。
てか、もしかしたら母さんの失踪にもあいつが一枚噛んでるのかも?
だとしたら、余計に許せないわねぇ…。
ねぇ、あなた。明日アレイちゃんがニームに来るそうなんだけど、一緒に来てくれる?」
「もちろんだ」
「ならよかった。あ、そうそう。町はだいぶ復興したんだけど、ちょっと町の子たちが同族以外に会えないって寂しがってて…モチベが下がってるの。よければ、買い物でもして彼女達を元気づけてあげてちょうだい」
「そうだな…」
それじゃ、またね、と言い残して水兵長は消えた。
そして―