人には皆、人生において何か夢がある。
『大金持ちになって裕福に暮らしたい』
『スポーツで世界一選手になりたい』
『有名人になってみんなにチヤホヤされたい』
夢に高尚なものかどうかは関係なく、皆一様に強く望む願望であり、人が人生を歩む原動力となる存在。
それが『夢』である。
かく言う俺にも1つの大きな夢がある。
それは思春期の男子だったり、アニメをよく見る人だったら、一度は誰しもが願い…子供っぽくて周りに馬鹿にされてしまう....
『魔法を使いたい』という有り得ない幻想。
大抵の人は「そんなのは夢物語だ」とすぐに見切りをつけて早々に匙を投げるんだけど、俺はどうしてもそうやって諦められなかった。
皆が勉強だったり部活だったりに精進する傍ら、俺は一人子供の頃から抱くその夢を実現しようと邁進する。ん?皆青春してて羨ましくなかったのかって?
.......全然?
ん、ン゛ンっ!とにかくっ!俺はそこからあらゆる手段を用いて『魔法』という超常現象を再現しようと試行錯誤し始めた。
炎の魔法はガスバーナーを改造して手から噴射させたり、水の魔法は足裏からの高圧噴射による高速移動を可能にした。
風の魔法は最初は強風機を使おうとしたが、うまくいかなかったので、体を極限まで鍛え上げ、さらには剣術をとことんまで極めることで、木刀を振るった風圧で風の刃を飛ばして再現できた。
ん?それもうただの物理だろって?まぁまぁまぁ、よく考えてみてくれ。
自分で言うのも何だが、身一つで突風を生み出せるとか、それはもはや魔法って言えるでしょ......ね?(圧)
はい。
次の雷の魔法は静電気や自身の生体電気を自分の体を使った実験で支配し、人間の限界を引き出すことによる、近距離での感電攻撃や一時的な身体能力強化を実現。
そんな感じで、他にも色んな魔法を時には科学、時には筋肉を使って自分が納得できる形での再現に成功してきた。
だが、そんな俺でも、ある魔法だけはどうしても再現できなかった。
それは......
氷の魔法だ。
他の魔法は実戦でも使えるレベルだったが、こいつは駄目だった。
氷の魔法って言えば、手で触れることで相手を一瞬で凍結させたり、足元から圧倒的な物量の氷の塊を出して相手を押し潰したり、さらには氷の武器を作り出して相手を飛ばしたりするもんなのに....
出来るのは、1,2時間かけてようやく人一人分の大きさを凍結させられるまともに使えやしない冷却機。
少量の氷を作り出して投げつけてこけさせる小技。
最後は造形だけは完璧だけど強度はカス、おまけに壊れたらそれ以上はもうない一回ポッキリの氷の剣とは名ばかりのただの鈍器。
いやほんと『折れる』だけに一回『ポッキリ』ってか?ははははははは.......
ふざけんな?
なんだこの見た目も地味!性能も微妙!!こんなの俺が
....ここまで、聞いてくれた人なら気づいている方もいるかもしれない…そう。俺が一番好きな魔法は氷魔法なんです!!
主人公達が苦戦している敵をクール感じで瞬殺したりする、『氷結系最強』とかいうのに憧れちゃう年頃なんです!!
なのに....こんなことが、あっていいのか.....!
そこから俺は荒れに荒れて、作った氷の剣(打)を手に取って夜の闇に一人飛び出し、手当たり次第のそこら辺にいるゴロツキ共を成敗するという名目で、ただの八つ当たりをして回った。
そんな荒動を日夜繰り返していたある日、俺は一人の男に出会った。
そいつの名前はスタイリッシュ暴漢スレイヤー。緑の目出し帽を被り、黒い装束に身を包み、2本のバールを振り回す、それはもうあからさまな不審者であった。
(かく言うこいつもファー付きの紺色のダウンを着て、フードを目深に被り、腰には投擲用の氷を、背中に氷の剣を差しているとかいう、普通にこいつも不審者極まりない格好である)
ただ、俺には分かった。目の前の男は自分と『同族』だと、手が届かないような遥か遠くにある理想を追い求める、一人の『勇者』なのだと。だからを俺は背中の剣に手を伸ばし、その男に切っ先を向ける。
「!!君は....」
「お前と同じ、遠い理想に夢見る愚か者だ」
「その武器....!なるほどお前も『こっち側』の人間か」
「あぁ....手合わせ願おうか」
「ふっ....いいだろう!」
そこから始まった決闘は人生史上最高に熱かった。そこらのチンピラとは一線を画す強さ、高速で振るわれる二本のバールによる怒涛の攻撃を氷の剣を壊さないように受け流し、さらに追い詰めたと思った瞬間、バールの先を逆手で持ったかと思えば、まるでトンファーのように扱い始めたのには一瞬焦った。
激しく鎬を削るこの戦いに、俺は自然と笑みが溢れる。目の前の男も表情こそ分からないが、身体からは歓喜や興奮のような雰囲気が滲み出ており、その衝動に身を任せ、俺たちの戦いはさらに激化していった。
あの後も俺たちは戦い続けていたのだが、最後は俺の氷の剣が折れてしまい。勝負は途中で終わってしまったが、いやぁ....本当に楽しい夜だった。それから俺はスタイリッシュ暴漢スレイヤー―――影野ミノルと交流を続け、二人で魔力や魔法を得るために切磋琢磨した。
そして、俺はミノルの思想に影響され、他の手段による魔法の再現だけでなく俺自身も魔法を生み出す、『魔力』という存在や支配の仕方を探したり、様々な実験を繰り返していたのだが......
ある日、魔力と同じようなエネルギーを作り出そうという考えに至り、装置を作っていたところ、突然のエネルギーの膨張による爆発に巻き込まれ…
俺―――
「――――――お父様、お母様!!お生まれになられましたよ!!」
「元気な元気な男の子です!!」
そして気がつくと、何故か赤ちゃんになっていて、俺の第二の人生が始まりましたとさ。
――――――――――――――――――――
それから十年の月日が立つ間にいろいろなことがあった。
まず、生まれたときにも薄々感じてはいたが、この世界には前の人生で死にものぐるいで求めていた魔力で溢れていた。
しかし、この世界は魔力は存在するのだが、魔法と言う概念は存在せず、魔力自体の使い道は身体と武器の強化がメインとなっている。
更に魔力は自分の体から離れると途端に制御が効かずに霧散するといった性質があるようで、実戦での遠距離攻撃手段としては実用化されていない。
そのため、魔力伝導率が高い剣を戦闘の主流として用いる『魔剣士』というのが一番ポピュラーな戦闘職らしい。
俺は大いに嘆いた!!せっかく魔力という長年求めていたものが手に入ったのに、肝心の魔法が使えないなんて....!
だが!
永劫叶わぬ夢なのだと絶望していた俺に、ある日『奇跡』は起こった。
その夜、家族に隠れて近くの森で憂さを晴らすために剣を振っていた俺は、もう100万回くらい振り終わった頃、疲労感故か、日頃行っている魔力操作が乱れていたのもあったのだろう。
俺が近くの木に寄りかかった瞬間、手が触れた所が「ピキピキ」という音とともに
そう!!!なんと、俺は
これには流石の俺も興奮せずにいられなかった。
しかも、使えたのはまさかの氷魔法!!しかし、何故自分だけが使えるのか、そこに少し疑念を感じた俺は家に戻って寝た翌日、父上の書籍に潜り込んで自分の家系についての書物を調べ上げた。
それで分かったのは、俺の家系―――『コーリ家』は氷神クリスティリアとかいう神の眷属の末裔らしい。
おそらくだが、その影響で俺に氷を扱う力が発現したのだろう。
もっとも、今までそんな力を持ったものが一人も生まれたことはないらしいが…
そんなことは今はどうでもいい!!(お前が疑問に思うって言っただろ。)
せっかく偶然にも与えられたこの力....使わない手はない!
それから俺は氷の魔法を制御するために修行を始め、今ではアニメで見た氷結系キャラがやってきたことのいくつかを再現できるようになった。
そんな今の俺がやっているのは....
「あぁ?なんだこのガキ....」
「一人でのこのここんな場所に来て、覚悟はできてるんだろうなぁ?」
ちょうどこの近辺に盗賊が出没しているという噂を聞きつけて来てみたのだが....
「......」
「おいおい。ビビって声も出せねえのかぁ?」
完璧だ。
ボロボロのスカーフにさびれた装備、全員の顔には前世のヤクザもびっくりな傷跡が幾つも付いていて、しまいには自分の剣を抜いて表面を舌なめずりをする....俺が想像していた通りの盗賊姿にもはや感動すら覚える。そんな彼等にはお礼として、俺の異世界最初の実験台になってもらおう。
「....【
俺はその言葉に合わせ、自分の周りに氷の剣を二本出現させると、それを高速で射出し、ヘラヘラしている盗賊二人の眉間に突き刺さって激しく血を噴き出し息絶える。よし。速度、威力共に問題なしと。
「なっ!!?が、ガキてめぇ!!!」
「ふざけやがって!!!」
仲間が二人瞬殺されたこともあり、余裕が消え、激昂して、さらに二人の盗賊が襲いかかってくる。
じゃあ今度は強度テストといこう。
俺は両手に氷剣を生成し、二方向から振るわれる剣を同時に受け止める。
うん、強度も問題なし。
ちなみにこの氷剣は俺の魔力で作っているため、その魔力伝導率はなんと脅威の100%。
しかも、魔力の許容量に限界がなく、魔力を込めれば込める程強度と切れ味が増していく。
いやぁ....わざわざ壊れないようにいなす必要がないとは、なんて素晴らしいことだろうか。
「死ねっ!!!」
「....【
二人が俺の動きに止めている隙を狙って、後方から矢を飛ばしてくるが、空中に六角形の盾を出現させて防御する。硬度も問題ないな。次は....
受け止めている二人の剣を弾き飛ばし、体制が崩れた隙をついて両者の首を鷲掴みすると、
「【
「「っ.....!」」
叫び声を上げる間もなく、一瞬して二人を氷像に変える。
よし、
氷像になった二人を投げ捨てると、地面に衝突し、粉々に砕け、その様子に他の盗賊たちは恐れたように後退りする。
「.....もう終わりか?」
「っ!!舐めやがって....!!てめぇら!纏めてやっちまえ!!!」
「「「う、うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
うんうん、素直にこちらの挑発に乗ってきてくれるからやり易くて助かるよ。
俺は地面に手をつけて身体からそこに魔力を流す。すると次の瞬間、巨大な氷の刃が無数に地面から出現し、突然の出来事に盗賊の殆どが回避も防御も間に合わずに身体を貫かれ、あっけなく絶命。残るはリーダー格っぽい男だけだった。
「お前....よくもあいつらを......!!」
「....お前達も多くの者の命を奪ってきたんだ。殺されても文句は言えないだろ」
「....なんなんだよ....何なんだよお前は!!」
「これから死ぬ奴に教える意味はない」
「っっ!!うおぉぉぉぉぉ!!!」
決死の表情で抗おうと、盗賊達のリーダー格っぽい奴が剣を振るってくる。それは荒々しくはあるが、芯には何処か正統な剣の型があるように感じられた。俺は叫びながら迫る男の剣を片手に持った氷剣で冷静に捌いていく。
「どうだ!!今では盗賊なんてもんをやってるが、昔は王都の騎士団に所属していてな!ブシン流の皆伝なんだよ!!」
「......他よりマシ、それだけだな」
「っ!!死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
力に任せて俺の剣を上に払い、ガラ空きなった俺の身体に男は渾身の付きを放つ......俺はそれを刺さる直前で左手の人差し指と中指で挟んで止める。
「なっ!!」
「生憎とお前みたいな噛ませ役に殺られるほど俺の命は安くない」
「くそっ....!この、化け物が......!」
「褒め言葉だな」
男は最後の最後に抑えられてない方の腕で殴りかかろうとするが、その前に魔力が剣を伝って身体を凍結させる。そして、完全に氷像と化した男を細切れにして、その場に残った氷塊を全て霧散させる。
「ふぅ....最高。まさしく、俺の求めていた『氷結系最強』らしい戦いだった。満足満足。じゃあ、帰りますk....ん?」
帰ろうとしたところで、さっき倒した盗賊達の乗ってきた馬車のようなものが見えて、近づくと底にはダンボール1個分に満杯に入った大量の金貨があった。
「......俺がやったんだし、もらっていいよな」
巨大な氷の手を出現させ、そこに金貨の入った箱ごと乗せて、我が家に向けて歩き始める。思わぬ収入も入ったし....今日は本当に最高の1日だったぜ。
こうして俺―――グラス・コーリの『氷結系最強』を目指す物語が幕を開けたのだった。
「ヒャハハハハハ!!!てめぇら、金、を.....ってあれ?」
グラスが去った後、そこにはコートを着て奇声を発する少年の姿があったとか....
グラス・コーリ(前世:唯一 氷真)
・見た目は水色の髪に白い瞳。
・戦闘時はファーとフードが着いたコートを着ている。ちなみにこの服は細い氷の糸で作られており、その強度はスライムコートに勝るとも劣らない。
名前の由来
・グラス=glace(仏語)コーリ=氷
・前世の名前は氷の魔法だけが唯一再現できなかったのを表している。真=魔
・シャドウと違い、普通に他人にも関心があるが、前世は魔法再現に没頭していたせいで友達はいない。これだけ見ると、シャドウより多少マシに見えるが、「氷属性のキャラはスープとか温かいものが好き」とかいう訳分からん理由で、自分に暗示をかけて、それを無理矢理好物にしたりしてるので、こいつも割りと頭おかしい。