氷結系最強になりたくて!   作:無銘のヲタク

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まじでサボっててすみません!!!


闇をも凍てつく銀氷

 

場面は、グラス(のフリをしたニュー)と教団員(の皮をかぶったグラス)が出ていった後の大講堂。

 

「くっ!はあぁぁぁ!!」

 

学園生徒と教団で入り乱れる戦況、その一角でローズは一人で多くの教団の先兵を相手に獅子奮迅の活躍を見せる。ほとんどが下っ端のチルドレン3rdとはいえ並の魔剣士以上の強さを持つ教団員を幾人も相手にできることに彼女の圧倒的な技量の高さが伺えるだろう。

 

だが、そんな彼女でもほとんど魔力を失った状態で戦い続ければ限界が来る。体力も底をつき、集中も途切れてきた状態で彼女はその場で自分ができる役目を模索する。

 

「はぁ…はぁ……はぁ…っ!

 

(体力も使える魔力も残りわずか…今の私にできることは…!)」 

 

明らかに疲労が見て取れる彼女の金色の瞳は確かな覚悟をもって、教団員で溢れた戦場の先に佇む全身鎧の騎士を睨みつける。

 

「(グラス君が敵の実力者を相手取ってくれている!ならば私も限界が来る前に少しでも奴に────ッ!!)」

 

そう決意するとともに、彼女は周りを囲む2,3人の教団員を押しのける。そして目標の相手へと一矢報いてみせようと一直線に駆け出す。

 

「────ッ!!」

 

「ッ!!くっ!!?」

 

だがその決意もむなしく、その男に届く前に別の教団員によってその刃は阻まれる。そうして剣を交えている間に先程まで相手にしていた奴らも追いついてきて、ローズの周囲を囲む。

 

「──っ!(ここまでか…!いや…!)」

 

暗く、諦念に沈みかけた瞳は内なる闘志で再び光を取り戻す。

 

鍔迫り合う剣を上手く弾き、彼女は自身の剣を力強く構える。

 

「(例え私が倒れたとしても、皆が後に続く…!私が、(シド君)の思いを受け継いだように……!!)」

 

かつて散った(※生きてます)青年の姿を心に浮かべ、振るった斬撃は────

 

 

────彼女の人生史上、最も美しくそして最も洗練された一撃となりて、敵を一刀両断した。

 

 

「!!今のは……!」

 

驚愕の表情を浮かべる彼女の脳裏には、かつて月下の宵闇の中、自らの敵を滅する者の姿が浮かぶ。

 

「(────ふっ)」

 

自分の人生に大きな影響を与えたその者が振るった剣に限りなく近い一撃を放ち、彼女は周囲の教団員からとどめを刺されそうな中、何処か喜ぶように笑みを受けべ、自身の終わりを受け入れる。

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の元に、は堕ちる。

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

天井のガラス窓を突き破り、夜闇の如き漆黒を身に纏いて舞い下りた存在────

 

 

シャドウの登場に、ローズも教団員達も驚愕し目を見開いていると、その元凶たるシャドウが口を開く。

 

「見事だ。美しき剣を振るうものよ」

 

「────!!」

 

ローズが茫然としていると、周囲から誰かの呻き声が聞こえてきて思わず、ローズだけでなくその場の全員が周りに目をやる。そこには、二階席一帯に謎の黒装束の集団、『シャドウガーデン』の面々が立ち並んでいた。

 

誰もが突如変貌した状況に理解が追い付かない中、シャドウは次の行動に移す。

 

 

 

「我らは『シャドウガーデン』────」

 

 

「「「「「陰に潜み、影を狩る者」」」」」

 

 

シャドウが自身の黒剣を掲げ『シャドウガーデン』の宣誓を唱えると、彼はその剣を眼前の敵へと────振り下ろす。

 

その動きに合わせるように『シャドウガーデン』は教団へと牙を向ける。対して教団側もそれを迎え撃つ……だが、

 

「(強い……)」

 

『シャドウガーデン』と名乗るその誰もが、教団の兵士よりも強かった。剣を打ち合えば彼らの黒剣の前に刀身は打ち砕かれ、その身は刹那の間に切り刻まれる。

 

そうして『シャドウガーデン』は教団員の数を瞬く間に減らしていく。

 

ようやく頭の整理が出来てきたローズは、いきなり現れた新勢力に戸惑いながらも、先程自分のことを助けてくれたことと今教団と戦っていることからこの場では仲間であると判断。

 

この好機を逃すまいと生徒達へ指示を出す。

 

「今のうちに講堂を出るんだ!怪我人を運び出せ!!」

 

「わかりました!」「よし、皆急げ!」

 

生徒会長である彼女の呼びかけで動き出す生徒たち。ただ動き出すのは彼らだけではない。

 

『痩騎士』と呼ばれた男もまた、敵味方渦巻くこの大講堂、その舞台の奥へと進んでいった。

 

「……」

 

シャドウは教団員の剣を片手間に捌きながら、その様子をただ静かに眺めている。

 

 

次の瞬間、突如講堂に置かれている灯りが爆発し講堂全体が火の海と化す。

 

 

「っ!?火が!」

 

「このままでは全員酸欠で死ぬぞ!?」

 

「会長…!」

 

「っ!剣圧で道を作れ!とにかく皆を外に…!!」

 

突然の火災によって脱出が難しくなったことで生徒たちに動揺が走る。

 

 

その様子を頭上より眺める者たち。その一人である藍髪の女性、ガンマは僅かに呆れたような驚いたような表情でその光景を覗いていた。

 

「自分のテリトリーでしょうに大胆なこと」

 

「ガンマ様…あちらも」

 

傍にいる部下の言葉に横に見てみると、そこには大講堂以外にも学園の何もかもが炎に包まれている光景が確認できた。

 

「あらまぁ。大惨事ね」

 

 

 

「────ほんと酷い有様だな」

 

「「「!!」」」

 

 

突然、聞こえたその声にガンマも含めその場の全員が目を丸くする。

 

 

「ゼロ様…いつからここに」

 

「ついさっき。いや本当にニューには感謝しかない」

 

「…あまりあのような手段はお控えてくださると助かります。使えるべき主に刃を向けなければならない者が不憫でなりませんから」

 

「ニューにも同じようなこと言われたよ。そんなに気にしなくていいんだけど……まぁとりあえず、俺も行ってくる。シャドウ一人に任せるわけにもいかないからな」

 

「かしこまりました」

 

そう言ってゼロは割れた天井窓から飛び降りる。そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

「【氷域(ニヴルヘイム)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただのその一言で、彼から溢れ出した凍気はただ燃え盛る炎のみを凍結させ、講堂を灼熱の地獄から一瞬にして青氷の凍土へと変貌させる。

 

「「「!!?」」」

 

「なん、だよ…これ……」

 

「炎が……『凍った』?」

 

講堂の中にいる者たちは、そのあまりにも異様な光景に目を見開き驚きを隠せないでいる。

 

当然生徒たちも同様に固まっていたが…

 

「────行け

 

「!!全員、今のうちに脱出しろ!!」

 

ゼロの指示にローズは冷静に戻り、生徒たちを連れて講堂の外に急いで離脱する。

 

それを見てから、ゼロは目の前にいたシャドウに歩み寄る。

 

「ここは俺に任せろ。お前はあの鎧野郎を追え」

 

「…ぬかるなよ?」

 

「誰に言ってんだ」

 

その返答にシャドウが僅かに笑みを浮かべ、『痩騎士』の後を追うように舞台袖へと消えていく。

 

「────さぁ」

 

ゼロは決して表情の見えぬ仮面越しに、講堂内に残っている教団員へ目を向ける。

 

 

死にたい奴から、かかってこい

 

 

「「────ッ!!」」

 

その煽るような言葉に、二人の教団員がゼロの正面から切り込んでくる。

 

対してゼロは二人の攻撃を武器も使わずに両手で軽くいなし、勢いが死んだ剣を掴んで凍らせるとそのまま砕く。

 

「「なッ!!」」

 

「正面からってのは芸がないな」

 

ゼロは驚くの二人の顔を手で覆うと、もののわずかな時間で全身を凍結させる。そして顔を覆っていた手でその顔を握りつぶす。

 

「次────」

 

今度は三人がかりで、別方向から攻撃を仕掛ける。

 

正面から向かってきた男の攻撃を右手に生成した氷剣で受け止める。その間にもう二人の男がそれぞれ背後左右から攻撃を仕掛けようとする。

 

「いいねぇ、もっと抗ってみせろ…!」

 

ゼロは相手が両手で押さえ付けていた剣を片手で軽く流し、体勢が崩れたところを逃さずに男の身体を蹴り飛ばす。すかさず背後から迫る二刃もそれぞれ上と下に受け流し、がら空きの胴体に掌底を打ち込んで突き飛ばす…どころかそのまま腹に風穴を空ける。

 

「少しでも凍らせれば、脆くなった身体を壊すなんて簡単だ」

 

地に臥す仲間の死体を見て一度たじろぐも、教団員は今度はさっきの倍以上の数で周囲から一斉攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「【氷槍(トライデント)】」

 

 

だが、その攻撃すらも宙に現れた無数の槍によって一人も残すことなく腹を刺し貫かれて終わる。

 

「待つだけってのも面白くない」

 

ゼロはそう言って、槍に刺さっている奴らを適当に捨てると槍を自分の周りに浮かべて、更にはそこに高速回転をかける。

 

「防いでみろ」

 

射出された槍は空気を抉りながら標的へと進む。槍の大半は教団員の腹を刺し貫くが、幾つかは何とか反応して避けたことで講堂の床へと突き刺さる。

 

「「「今──ッ!!」」」

 

避けることが出来たことで、教団員達は反撃に出ようとゼロへと向かう。

 

 

 

「なんで()()()()()()()()()と思ってるんだ?」

 

 

 

その言葉と同時に、さっきまで刺さっていた槍が再度浮き上がりゼロに向かっている者達を背中から貫いた。

 

一度持ち主の手元を離れた武器がもう一度動き出す、という普通はありえない光景を見て誰もが足を止める。

 

「おい、何止まってる。お前達に休んでる暇なんてないぞ」

 

しかし、そんな停滞をゼロは赦さない。唖然としている者たちへと、いつの間にか現れた氷剣が雨のように降り注ぐ。

 

無尽蔵に降り注ぐ氷剣に次から次へと、あれだけいた教団員はどんどん数を減らしていく。

 

そんな状況に誰かが近くにあったランプを無理やり爆発させると白い煙が一瞬にして生まれ、視界を覆い尽くす。

 

「なるほど。漂う冷気を利用して煙幕を張り視界を奪う。その隙に相手の死角から奇襲をかける。悪くない策だが────【氷盾(イージス)】」

 

ゼロは自分の言った通りに背後からの奇襲によって振り下ろされた剣を氷の盾で容易く防ぐ。

 

「!!?」

 

「俺の目から逃れるつもりなら、気配も魔力も限りなくゼロにしないとな。そんな殺気だだ漏れじゃ駄目だ」

 

 

巨人の氷腕(スリュム)

 

 

そう唱えた瞬間、背後の教団員の左右に開いた状態の巨大な氷の手が現れる。男が動揺するのも束の間、ゼロが身体の前で掌を強く合わせる動作をすると、それに合わせて氷の手は急激に接近し、そのまま一瞬にして男を押し潰した。

 

氷の手の隙間から潰された男の血液が激しく噴き出す。血が収まって両手を離すと、そこには常人であれば吐き気を催す程に見るも無惨に四肢が歪み轢き潰された死体が現れる。

 

「おぉ、スプラッタ。流石にグロいな」

 

ゼロはその死体を凍結させ、足で粉々に踏み潰す。散った氷の破片は彼を取り巻くように宙へと舞う。

 

「よし…さて他の奴等は……これだけか」

 

すっかり煙幕が晴れた講堂の中には、降り注ぐ剣雨によって串刺しにされた大量の死体と辛うじて傷を負いながらも肩で息をして立っている数人だけ。

 

だが、その数人も恐怖によってか身体が震え、満足に剣を握ることも出来ずに戦意喪失した者ばかり。

 

「はぁ……」

 

呆れたようにため息をつくと、ゼロは立ち尽くす生存者たちへと掌を向ける。するとその開かれたその掌へと先までとは桁違いの魔力が集約し始める。

 

既に気力も残っていない兵士達は圧倒的な力の前についにはその剣を地に落とす。

 

武器を手放し、神々しい魔力の光の前に膝をつくその光景は神の裁きを待つ罪人のようで────

 

「せいぜい来世はまともな生まれだといいな」

 

身体から溢れる濃密な魔力の奔流はゼロの身体を捻れ伝い右手へと収束し、時間を経るごとにその白銀の魔力はより一層光り輝く。

 

 

 

「あばよ──────【氷光槍(ロンギヌス)】」

 

 

 

真名と共に解き放たれた魔力は、ゼロの数倍の大きさの極光となり、立ちはだかる万象を飲み込まんと放出される。

 

進む先に存在する教団員を含む全ては瞬く間に凍りつくが、それだけに留まらず魔力の奔流によって粉々となり結晶となって宙を舞う。

 

最後には、眼前の教団員を全て飲み込んだ砲撃はその先にある講堂の壁すらも呑み込み、建物の外まで溢れ出る。

 

「────ふぅ…」

 

軽く息を吐き、仮面の内側に隠れた青い瞳は静穏に目の前の光景を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

「………………魔力(ちから)加減間違えたな」

 

 

 

 

 

 

 

講堂にぽっかり空いた特大の風穴とそこへ続くように広がる破壊の痕跡を眺めてゼロはポツリと呟く。

 

「いや、うん…久しぶりにここまで派手に魔法使えて浮かれちまったな。学園破壊してどうすんだよ…」

 

想定しない程の被害に内心少し焦りつつも、「まぁ、テロリスト倒すためだし仕方ない仕方ない」と理由をつけてゼロが自分を納得させていると…

 

 

「そこまでだっ!!」

 

ゼロに静止させるような叫び声と共に紅髪の女性とそれに連なるように魔剣士の集団がその大穴から姿を現す。

 

「(お、ようやく騎士団のご到着か。それに前の彼女は────)

 

また会ったな。紅蓮の王女、アイリス・ミドガル」

 

「!!お前は……!!今の膨大な魔力やこの現状はお前の仕業か!」

 

「仕業とは人聞きが悪いな。窮地に陥っている状況を前に指揮権の争いなどしている愚かな騎士団の代わりに制圧してやったのだが?」

 

「貴様ッ!我らを愚弄して────」

 

 

 

黙れ

 

 

 

ゼロの言葉に怒りを抱き、騎士団の一人が反論しようとするも、粛然と放たれたその一言に誰もが発言を許されることなく圧し黙る。

 

(やみ)も知らぬまま、(ひかり)に生きるお前達の矜持に意味などない」

 

「────っ、彼らは『教団』とは一体何者なのっ!?」

 

「文句が言えなくなれば、今度は質問か?無知故の蛮勇かは知らんが……」

 

 

 

知るからにはそれなりの覚悟がいるぞ?

 

 

 

突然、ゼロを中心に謎の圧迫感がその場を包む。それはまるで数倍の重力のかけられたかのごとく、多くの者に膝をつかせる。さらに実力者であるアイリスでさえも瞠目し冷や汗が流れる。

 

「(これは────『殺気』…!?)」

 

その通り、謎の圧迫感の正体はゼロから放たれる濃密な殺意だ。自身が窮地に陥った時に初めて感じられる『死の気配』がアイリス達の周りを渦巻く。

 

「さぁ、闇に飲まれうる『死への覚悟』を示してみせろ…!」

 

ゼロは今もその威圧感が消えることなく、目の前の者達に試練を、乗り越えた者の問いにのみ答えようという意志を示す。誰もがその場を動くことも言葉を発することすらも出来ずに這いつくばっている…一人を除いては。

 

ただ一人、アイリスだけはその顔から恐怖が薄れたわけではないが、確かに目の前の敵へと刃を向ける。

 

「…ふむ、流石はアイリス王女。この程度の『死』は超える覚悟はあるということか」

 

「王国の民を導く者として私は…臆するわけにはいかない!!」

 

「王女として『義務感』のようなものか。俺が望んでいた解答とは違うが…まぁいい」

 

すると、ゼロは虚空から氷剣を生み出して構える。

 

「では、次は『実技試験』といこう……さぁ、来い

 

「ッ!!はぁぁぁ!!」

 

ゼロの合図と同時にアイリスは足から魔力を放出させて、アイリスは目の前の相手へと肉薄。両手で振りかぶった剣をゼロが迎え撃ち衝突した瞬間、あたり周辺には衝撃とともに烈風が吹き荒れ、膝をついていた騎士も纏めて吹き飛ばす。

 

 

「ぐぅ!!?あ、アイリス様っ!!」

 

「アイリス様が戦っておられる!我等も加勢に──」

 

 

邪魔をするな

 

戦いの衝撃でようやく体が動くようになり、アイリスを援護しようとする彼等を見て、ゼロは自身とアイリスの広く周囲に指を振るう。

 

その瞬間、走りだそうとする騎士たちの目の前から、戦う二人を囲うように円状の巨大な氷壁が一瞬にして出現し、ゼロは他の人間の介入を妨害するようにフィールドを造り出す。

 

「!!」

 

「あんな足手纏いに居られては興が冷める。お前もそう思うだろ?」

 

「私の目的は貴方から彼らの情報を聞き出す、それだけだ」

 

彼女は返事し終えるのと同時に今度は剣を上から振り下ろしてくるが、ゼロは片手で持った剣にてその一撃を受け止める。余裕そうな様子にアイリスは歯噛みし、無理矢理押し込もうと更に魔力を放出する。

 

「確かに強力な一撃だが、魔力の使い方が雑すぎる」

 

ゼロはその加速した勢いを利用して、そのままアイリスの剣を後ろに受け流す。急に抑え込まれていた力が消えたことで体が前のめりな姿勢になるアイリスに向けて、ゼロは回し蹴りを放ち、防御するように構えられた剣ごとアイリスを氷壁まで吹き飛ばす。

 

「ぐっ!!?…まだっ!!」

 

アイリスは直ぐに剣を握り立ち上がり、今度はゼロを中心に氷壁を利用して高速で飛び回る。

 

「壁を利用した立体機動によって相手を撹乱する。俺も使うことのある戦術だが……」

 

アイリスはゼロの死角に回った瞬間に、壁を思い切り蹴って一気に距離を詰めて剣を振るうも…ゼロは彼女の方を見ることもなく剣の切っ先を弾いた。

 

「なっ!?」

 

「魔力の軌跡が丸見えだ。それに…」

 

その瞬間、ゼロの姿がアイリスの視界から突然消える。そして彼女の上に現れ、彼女が驚く暇もなくゼロは頭を掴んで床に叩きつける。床に衝突した衝撃でその場を中心に床がひび割れる。

 

「そもそも速さが足りない」

 

「がぁっ……はな、せ!!」

 

叫ぶと同時に後頭部が押さえ込まれた状態のままアイリスは自身の頭上にあるゼロの首目掛けて剣を振り抜く。その斬撃をゼロは上体を反らして躱すが、その時に頭を押さえていた手を離してしまい、その隙にアイリスは跳躍してゼロの間合いから一気に距離を取る。

 

「(まだ吹っ切れてないな。あんたの潜在能力(ポテンシャル)ならもう少しいけるはずだろ。ちよっと煽ってみるか…)

 

まったく、威勢だけはいいな。剣技も身のこなしも中の下、魔力量はかなり多いようだがコントロールがてんでなってない。残念だ。かの王女がこの程度の弱者とはな」

 

 

「ッ!!!それは……!」

 

 

『弱者』。

 

彼女はこれまでの人生で、そんな言葉をかけられたことは一度としてなかった。幼い頃の剣の指南役も王国中の騎士も国民も誰もが彼女を『天才』と称し、ただの一度の挫折もなく彼女は常に『強者』であった。

 

そしてそんな民の期待に応えるため、そして自分自身が『弱さ』を許さないためにもアイリス・ミドガルはさらなる『強さ』を求め続けた。

 

そんな彼女にとって、自分が『弱者』であるなどとは認められるわけがない。それは他の何よりも許されないことだ。

 

王国民の期待を一身に背負う者として、王国の剣として、そして妹の目指すべき姉として彼女は強くあらねばならない。

 

「わた……な…ない」

 

「ん?」

 

「私は……『弱者』では、ない!!!」

 

その叫び共に彼女の体から膨大な魔力が溢れ出し、ゼロはそれを見て少し下がって距離を取る。

 

アイリスは身体中に魔力を湧き出させたまま腰の剣を抜いて構える。

 

「私は王女として…アレクシア(あの子)の姉として『強者』であり続けるのですッ!!!」

 

「……姉としての矜持(プライド)か。いいだろう」

 

そう言うと、ゼロの足元が凍結していくとともに魔力の昂り、そして得も言えぬ圧迫感がアイリスを襲う。

 

「ッ!!」

 

「第二ラウンドだ。せいぜい…『死』に抗ってみせろ」

 

戦闘再開を告げるように数本の氷武器を生成し、アイリスへと射出、その攻撃をアイリスは瞬時に横への移動による回避に成功する。しかし次の瞬間、何か嫌な予感がしたのと同時にアイリスは直感的に上へ跳び上がり、直後には先程まで彼女がいた場所に砲撃のような魔力が直撃した。

 

今のが当たっていたらという恐怖を感じつつ彼女がゼロのいる方向に目をやると、その横には先程までは無かった氷で作られた複数の大砲が置かれている。

 

「(魔力を圧縮して砲弾として放つなど…そんな離れ業…ッ!!)」

 

彼女が驚愕するのも束の間、そんな彼女に考える暇を与えないといったように全ての砲身が動き出し、彼女へと狙いを定め、銀色に魔力が光ると同時に一斉に放たれた。

 

「(『死』──────ッ!!?)」

 

次の瞬間には、アイリスのいた場所が衝撃と共に激しく発光し、土埃が上がる。

 

「────────────上か

 

ゼロがそう呟き上に目を向けると、そこには体の所々に氷が張っているものの五体無事なアイリスの姿があった。砲撃が当たる直前でどうやら自分の体を魔力で覆って凌いだようだ。

 

「ここっ!!」

 

アイリスは体から一気に魔力を放出し、剣をゼロに振り下ろさんとする。落下の勢いも合わせた一撃は弾丸の如き速さでゼロへと向かう────が、それでも彼には届かない。

 

ゼロがアイリスへと伸ばした腕の先に一枚の人間大の盾に現れる。そしてその盾によってアイリスの渾身の一撃は容易く阻まれる。

 

「(固いっ!!見るからに薄い盾なのに!なんて凄まじい魔力密度ッ!!)」

 

「俺の武器生成の隙を狙ったようだが、その程度なら一瞬で作れるさ」

 

ゼロが空いてる手で指を鳴らすと、アイリスの左右に先程教団員をスプラッタにした巨大な氷の拳が出現し、彼女を押し潰そうと動き出す。それに気づいたアイリスは咄嗟の判断で目の前の盾を蹴り飛ばして拳が衝突する数瞬前にその場から離脱する。

 

「(今のも防がれるなんて、一体どうすれば……!!)」 

 

「いい反応だ。少し、興が乗ってきたぞ…!」

 

するとゼロの纏う気配が膨れ上がり、同時に感じられる魔力も増大していく。さらにはその魔力の膨張に合わせるように周囲にその一つ一つが普通の魔剣士一人分レベルの魔力が多数渦巻き、集約し周囲の空気を凍てつかせ、吐く息も冷たく白くなる。

 

「なん、なの……この魔力は…っ!?」

 

アイリスだけではない、他の周囲で様子をうかがっている騎士達も体を震えさせる。その震えは単純の空気の冷たさが故のものではなく、人一人で到底起こすことのかなわないような現象、そしてそれを成すゼロへの恐怖と戦慄がその震えを引き起こしている。

 

 

 

「────顕れよ」

 

 

 

その言葉と共に、周囲で渦巻いていた魔力が徐々に変貌し、ある一つの形を成していく。そして、その姿を見た周囲の者たちは自身の口から驚嘆の声とある存在の名を口にする。

 

 

「あれは……氷の…『竜』…!?」

 

 

そう。ゼロの周囲に出現したのはおとぎ話でしか聞かないような存在である『龍』。尤も、現れたそれはすべて氷でできていて、爪と長い胴体の途中までが地面から飛び出ているような不完全なものであるが、その鋭い牙と爪、頑強な体躯は紛れもなく自分達人間とは別格の存在であることをアイリスたちに理解させてくる。さらにその超越存在が複数体現れたことがアイリスをさらなる絶望へと叩き落す。

 

「こ、こんなことが……」

 

「さぁ、アイリスよ。これをどう乗り越える────」

 

ゼロはそうアイリスに問いかけるが、一方アイリスの方はあまりの自分との力の違いに茫然としていてゼロの言葉は聞こえていないようだが、ゼロもゼロで今まで使えてこなかった自分の力に少し興奮気味になっているせいかアイリスの様子に気づいておらず、ただ少し俯いている程度にしか思っていない。

 

「抗ってみせろ!紅蓮の王女よ!!」

 

ゼロの叫びを号令とするように、地面より現れた氷龍全てがアイリスへと向き、その大きな口を開いてみせたかと思えば、先程の大砲とは比にならない程の高密度の魔力が口元に集約する。そして、その絶望的な光景を目の当たりにし、アイリスは────

 

「あ、あぁ──────」

 

 

 

 

今まで彼女を支え、闘うための力となっていた王女としての義務感も、姉としての矜持も、その全てが完全に消え去ってしまう。

 

 

 

 

「っ!!」

 

今まさに一斉砲撃を始めようとしていたゼロであったが、脅威を前に剣を手放し、膝をついてしまった彼女の姿を見て、その攻撃を停止し、龍自体もゼロの魔力の抑制に合わせるように消えていった。

 

「(何やってんだ俺は、教団に関係ない王女様虐めてどうすんだよ。いやでも、教団に関わっていくつもりならそれなりに覚悟と強さは必要なのは事実だしなぁ…!まぁ、にしてもやりすぎだな。反省しよう)」

 

ゼロは魔力に関すると興奮が抑えきれなくなる自分の性格を反省しつつ、片手間で講堂中を埋め尽くす魔力の氷を散らしていく。

 

 

「ん゛んっ────すまないな、アイリス王女。お前の覚悟を試すためとはいえ、少しやりすぎたようだ」

 

「──────」

 

今まで散々食って掛かってきていたにもかかわらず、今はもうゼロの言葉にアイリスは何の反応も示さない。

 

「心ここにあらずといった感じか。自分の支柱となる『強さ』が折れてしまっては無理もないな」

 

実際、強敵に敗れてしまいそこからの全てを諦めてしまうというような者は少なからずいる。だからアイリスの状態は別に珍しいことではないし、諦めたのなら所詮その程度の人間だった、というだけ終わりなのだが…今のゼロにはそれ以上に、彼女のことを『もったいない』といったように感じていた。

 

「(おそらく彼女はこれまで挫折というものを一度も経験したことがないのだろう。故に俺に完全に負かされる前にただ強大な力を見ただけで自分の『強さ』の芯が折れてしまったんだ)」

 

ゼロの予想通り、確かにアイリスは今まで挫折もなく、これといって大きな壁にぶつかったこともなかった。それは王女で甘やかされたからなどではなく、彼女が生来の強者であったが故に彼女の周りの存在では彼女の壁になるには足りなかったのだろう。

 

それ故に彼女自身の中では「これが絶対的なものなんだ。正しいものなのだ」と彼女の強さは確立されてしまう。

 

そして周囲もそれを否定できない…いや、否定しない。

 

何故なら自分達に勝ったのだから。自分たちが正しいと信じる剣が破れてしまったのならば、それはつまりアイリスの方が正しかったということなのだ。例えそれが魔力一辺倒のゴリ押しであっても、勝ってしまえばそれが正解となるのだ。それがこの世界の魔剣士の悪い点と言えるだろう。

 

それ故にアイリスは自分の強さの正確性と絶対性に絶大な信頼を置く。自分は絶対的な強者であると確信してしまう。実際は曖昧かつ脆い基盤によって作り上げられ、一度崩れれば高みには返り咲けぬような『偽りの強者』であることなど露知らずに。

 

だから強者に敗れてしまうという今回の経験は彼女の自信を打ち砕くには十分過ぎた。しかも今まで一度も明確な敗北を知らずに来たのに、突然訪れた最初の敗北がよりにもよってゼロとなれば、彼女の精神が壊れるのも必然と言える。

 

故にゼロは彼女に感じたのだーーーーーー『もったいない』と。

 

磨けば光る力があり、理由は何であれ『強さ』を求める意志があるというのにここで終わってしまうのは非常に惜しい。今まさに『最強』を目指す道半ばであるがゆえに『強さ』を求める者に対しては何かしてやりたいと思うのがゼロであり、グラスの性分なのである。

 

「はぁ…聞け、アイリス

 

ゼロはアイリスに歩み寄り、俯き座り込んでいるアイリスの頭の位置に膝立ちの状態で高さを合わせ、顎に手を添えて、無理矢理自分の方に向ける。通称『アゴクイ』と呼ばれるこれは通常男女がやっていればどこか甘酸っぱい雰囲気になるものだが、片や眼が虚ろな王女に片や表情すら分からない仮面の不審者だ。

 

「(周りの騎士たちが飛んでくる前にさっさと終わらせよう)

 

いいか、アイリス。お前は…弱い。そんなものでは教団、世界の闇に立ち向かうにはまだまだ足りない」

 

ゼロは如何にも意気消沈しているような者にかけるとは思えない言葉をしっかりとアイリスの目を見て語り掛ける。

 

「だがこのままというわけにはいかない。お前はこの国の王女だ。いずれこの国の闇に立ち向かわなければならない日が必ず来る。だから強くあらねばならない、お前の愛する国民や…妹を守るためには、な」

 

「──────っ」

 

「そして、敗北の沼に沈むお前に一つ教えてやる……

 

 

 

お前は強くなれる」

 

 

 

 

 

「────っ!──」

 

自身を下した絶対強者のその言葉に、失意に沈むアイリスの瞳に僅かに光が戻ったように見えた。ゼロは顎に沿えていた手をどけて話を続ける。

 

「むしろ、ここでの敗北がお前の成長に必須なファクターとも言える。ではそんなお前に俺からのアドバイスを少し。一つは技術的な問題だ。お前ってかお前ら王族は魔力の使い方が雑すぎる。もう少し洗練させられればさっきの俺の即席の盾くらいは砕ける。そしてそんな雑な魔力操作に合わせて剣術の方も大雑把になっている。そこを改善しろ」

 

さっきまで自分が戦っていた相手であることを理解しながらも、アイリスは自然とゼロの言葉に耳を傾ける。

 

「二つ目は、強くなるためのモノは何でも取り込め。ただ卑怯な技を究めろなどと言っているわけではない。例えそれが他の奴から馬鹿にされるようなものであっても自分の目で見て、自身の強さに必要だと思ったのなら一度試してみるんだ。駄目だったらまた別のを試す。そうやって試行錯誤し続けろ。最初に試してみるならそうだな……『凡人の剣』とかな」

 

「!!そ、れは────」

 

「無意識のうちに避けてる節があったんじゃないのか?『凡人』というその肩書を」

 

「──────」

 

アイリスは少し思うところがあったのか、ばつが悪そうにして目をそらす。

 

「まあいい。さて、俺から言えることはこれぐらいだ。いいか、これだけは覚えておけ。

 

敗北を恐れるな。

 

死は恐れ、覚悟するものであっても敗北は違う。敗北は成長の糧だ。

 

勝者が得るのは僅かな賞賛と自分の強さへの曖昧な自信だが、敗者が得るのは自分には足りないものがある、そしてそれ故に自分はまだ強くなれるという『事実』だ。

 

それを理解しておくんだな」

 

アイリスは仮面越しでありながらも、面と向かって真剣な口調で言われた言葉を了承するように首を縦に振った後、口を開く。

 

「────何故、わざわざ貴方は私にこんなことを…?」

 

「なに…強者が自身以外の多くの要因で道半ばで折れるのは我慢ならなかっただけだ。それにこの強さ故に退屈なことが多くてな。俺を楽しませてくれるような強者になってくれるよう期待しておくぞ?」

 

「────ええ。いつか、貴方のそのおかしな仮面を切り捨てて、貴方の吠え面を拝んでみせます…!」

 

アイリスの目が以前のように力ある紅色へと戻り、自身に向かって減らず口を叩いてくるのを見て、ここまでボコボコにしてしまった分はこれでチャラにできたと心の内でゼロは安堵する。彼女にここまでしたのはさっきの理由が8割こっち2割といったところである。

 

しかし、そんないい感じで終わる雰囲気の中、ゼロはある一つの単語が引っかかってしまう。

 

「(『おかしな仮面』だって?この俺のハイセンスによって選ばれた頂点たるこの仮面を『おかしい』と言ったのか…?フフフ……なるほど、そっちが喧嘩腰ならこっちにも考えがある。王女様の名誉のために黙って直して去ってやろうかと思ったが…残念だよ…!)

 

相変わらず威勢がいいな。ならば最後の最後に貴様にアドバイスだ」

 

ゼロは仮面の下で物凄く悪い顔をしながら、アイリスの耳元へと顔を寄せる。

 

「次闘う時までには、強者に屈さない精神性(メンタル)を持つことだ。こちらも一々脅えられてそのように『大洪水』を起こされてもかなわんのでな」

 

「え?……………~~ッ!!!?!?」

 

アイリスは咄嗟に()()を隠すように、内股になり更には前屈みになり、加えてその美しい顔を自身の髪の毛と遜色ないほどに赤く染め上げる。

 

「最低ですっ!!この変態!!!」

 

「おっとこれは誤解を招く言い方をする。それはお前が勝手に漏r────」

 

「フンッ!!」

 

アイリスはそれ以上先は言わせまいと、近くの剣を手に取ってゼロに向けて顔を赤面させたまま振るう。だが当然今もなお必死にナニかの跡を隠そうと内股なまま振るわれる剣などゼロには掠りもしない。

 

「これ以上ここに居ては、清廉な王女様の怒りがいつ爆発するか分かったものではない。俺はこの辺りでお暇させてもらおう!!」

 

「な、待ちなさ────」

 

逃がさないといったように伸びてくるアイリスの手を置き去りに、俺は背中に生やした氷の翼を以て講堂に開けた大穴から阻む騎士たちを押しのけて外に出る。そこから学園外の夜の街の上空を飛行する────

 

 

 

「ゼロ──────────────!!!!」

 

 

 

猊下から僅かに聞こえる叫び声にほくそ笑みながら……

 

 

 




ここから上がると…思います………多分!
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