目が覚めるとがっこうぐらし!(実写版)の世界だった。 作:RNKI
「お帰りなさい、春」
「....えっ」
「えって何よ、そんなに寂しかったの?」
ーー.....んんん?
目の前に居るのは間違いなく若狭悠里。
「い、いや....えーっと」
『入学おめでとう』
『春お姉ちゃん、可愛い!』
ーーもしかしてあの時の声ってりーさんとるーちゃん...?
「何でもない、ちょっとびっくりしただけだから」
「そう?なら良いけど」
何とか誤魔化す事が出来たが、依然として状況は把握しきれず。
とりあえず心を落ち着けよう....よし....
ーーいやいやいやいやいやいやいやいやおかしい!!!
どうしてりーさんが此処に?!というか最近会ってない?!春お姉ちゃんって何?!本当にどうなって....!!
その瞬間、突如として私の脳内に流れ込んできた"存在する記憶"。
『お姉ちゃん!遊ぼ!』
『ええ、なら今日もお医者さんごっこね!』
『ね、姉さん...こんな格好...恥ずかしいよ』
『怖がらないで良いのよっ、すぐ終わるから....!!』
『ひっ!姉さんどこ触ってるの...!?』
『ふふっ、春ったらそんな声出して....もっと触りたくなるじゃないッ!!』
ーーななな何やってるのりーさん?!私の知ってるイメージと真逆なんですけど!!
思わず心の中で叫んでしまったが、お陰でようやく私自身を理解する事が出来た。
どうやら私はりーさん....姉さんの義理の妹であり、るーちゃん共々散々可愛がられていた様だ。
ーーなんか後半セクハラだったけど...
「春?」
つまりこの状態での最善の選択は。
「姉さん、肩に顎乗せないでよ」
ーー姉さんに若干反抗するムーブが正解の筈!
「冷たいわね、昔はあんなに可愛かったのに...」
「それ、今は可愛くないって事?」
「嘘よ、今の方が可愛いわ」
「....そ、そう」
ーー姉さんに可愛いって言われた!!!!やばい!!!!
面と向かって好きなキャラクターに可愛いと言われるのは、想像の100万倍破壊力があった。
私は何とか興奮を内に抑え、そのまま姉さんに向き直る。
「それでどうしたの?」
「今日はこっちの家でしょ?だから迎えに来たの」
こっちの家というのは姉さんの家、つまり私を助けてくれた彼女の両親の家だ。
ここは色々あって私が一人暮らししている家、何日に一度かは向こうの家に泊まるというのが決まりとなっている。
ーーうん、完全に思い出した。
昨日の頭痛も合わせて考えると、どうやらこの世界の私の記憶は自分に関係のある人物と出会う若しくは関係のある場所に立つと思い出していけるらしい。
と言っても今ので既に幼少期からの自分を思い出せたので、これ以上何かを思い出す事は無さそうだ。
そしててっきりこの世界の私の人格を乗っ取ってー...みたいな状態かと思っていたが、どうやらこの世界の私と今の私は完全に同一であり言うならば転生前の記憶を思い出した形の様だ。
「そっか、ありがと姉さん」
「春お姉ちゃん!」
玄関の扉を開けた途端、腹部に大きめの衝撃を感じた。
片足で踏ん張りながら飛びついてきた少女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに抱き着いたままこちらに顔を向けた。
「るーちゃん、いきなり飛びついて来たら危ないよ」
「えへへ、ごめんなさーい」
ーー可愛い、天使、かわいい。
るーちゃんは流れる様に私の右手を取り、そのまま玄関まで引っ張っていく。
その楽しそうな姿を見て、私はとある事を思い出した。
『るーちゃん!危ないっ!』
「ッ!!」
これはきっと、本来なら事故に遭う筈だったるーちゃんを助けた時の記憶。
ーーそっか、私...ちゃんと助けられたんだ。
原作で亡くなっているキャラクターを助けていた事を知り、胸が熱くなるのを感じた。
「春お姉ちゃん、大丈夫?」
どうやら記憶を探っている姿が心配に値するものだった様で、るーちゃんが声を掛けてくる。
「ちょっと疲れただけだから平気だよ、ありがとう」
そう言って私は、再び彼女の頭を優しく撫でた。
「お疲れ様です、胡桃先輩」
「おっ、ありがとな」
木陰に座っていた胡桃先輩に水筒を渡すと、彼女は笑顔を見せながらそれを口にした。
あれから数ヶ月が経ち、私は希望通り陸上部に所属した。
実写版の主人公である恵飛須沢胡桃、胡桃先輩とも割と交流を深められている気がする。
ーー何たってお互い下の名前で呼び合ってるからね!
ともかく概ね順調に日々を過ごせているつもりだが、もう1年も経たない内にパンデミックが起こってしまう。
それまでに出来る限り体力を付け、食料や道具等を考えていかないといけない。
だからこそ陸上部に所属した訳だし、こうして昼休みの時間も練習に使っている訳だ。
ーそれにしても....
胡桃先輩、カッコよ可愛い過ぎる!!!
「ん?どうした春?」
「いや、何でもないですっ」
ーーうぐっ、相変わらず名前で呼ばれるとっ...!
どうやら横顔を見つめていたのがバレたらしく、私はダメージを受けながら急いで正面を向いた。
原作での胡桃先輩と言えば葛城紡、つまりOBに恋心を抱いており、めぐねえに何度か恋愛相談をしている描写が描かれていたのだが、今の所私が鈍感でなければまだ想いを寄せてはないようだ。
そもそもこの世界のめぐねえは養護教諭であり、国語の教師ではない。
実写版では怪我をした胡桃先輩が治療ついでに恋バナをしていたので、そうそう狙って会いに行く事は....
「あ!ごめん!!」
「へ?....ぐへっ!!!」
誰かの焦った声を聞き思わず顔を上げると、その瞬間顔面に鋭い痛みが走った。
ーー痛ったッッ!!!!何?!?!
「おい危ないだろ!!春!大丈夫か?!」
顔面を押さえながら涙で滲んだ目を何とか開き、私の顔面に衝突した何かを片手で掴んで引き寄せる。
するとそれは、大方の予想通りサッカーボールだった。
ーーうぅ、運が無い...
「鼻血がっ...立てるか?」
「へっ?」
言われてみれば感じていたこの妙な感覚、とうやらサッカーボールが鼻に激突し鼻血を出してしまった様だ。
不思議と痛みは無かったが、それでも自身の血は見ていて良い感情を生んではくれない。
「後で先生に報告するからな!!...春、保健室まであたしが送るよ」
「あ、ありがとうございます....」
ーー....あっ、保健室。
めぐねえと会話する為の口実は、向こうから物理的に飛んできた。
「もう鼻血は止まったかな...大丈夫?」
「えと....ちょっと頭がくらくらします」
「なら暫くは寝てた方が良いわね、ベッドは...こっちを使って」
めぐねえは私の体に手を回すと、そのままベッドの近くまで肩を貸してくれた。
「ありがとうございます....佐倉先生」
チラッと横を見ると、そこには一面めぐねえの顔。
「ひゅっ.....」
「よいしょっ...何かあったら言ってくださいね」
「は、はい」
ーーやばい!!生めぐねえだ!!!良い匂いする!!!
興奮を抑えながらベッドに横たわり、一度大きく息を吐く。
興奮で血が吹き出てしまうかもしれないから、心臓に悪い事は辞めて欲しい。
ーーまあそうなったら自業自得なんだけど。
ともかくめぐねえと接触出来た事は良かったのだが、まだまだ私の目指している目標、"がっこうぐらし!のメインキャラクター達とある程度の関係値を持つ"には程遠い。
何をするにも信頼が無ければ、きっと本編が始まった際に先を知っている様な行動や言動を怪しまれてしまうだろう。
今まで気を抜いていたつもりは勿論無いが、今一度改めて気を引き締め直そう。
ーー...よし、頑張るぞ。
これからの自分を思い、私は一度大きく深呼吸をした。
まずはーー
「佐倉先生...このぬいぐるみって」
グーマちゃんで攻める!
私の問いかけに反応しためぐねえは、すぐにその意図に気付いたのかこちらに向かってきた。
「保健室のベッドって殺風景だから家から持ってきたの」
「個性的ですね、名前とか無いんですか?」
「それが特に無いみたいで...」
そう、グーマちゃんと言うのは由紀ちゃんが勝手に付けた名前であり、このクマ自体に明確な名前は存在しない。
そして此処から話を広げるにはーー
「...先生って園芸部の顧問でしたよね」
「ええそうだけど...どうして?」
「若狭悠里って生徒が居ると思うんです」
ーー姉さんを使わせてもらう!
「若狭さん?2年生よね」
「はい、普段ってどんな感じですか?」
「知り合いなの?」
「まあ、姉みたいな存在です」
「そうね...授業姿を見てる訳では無いけど真面目な生徒だと思うわ、部活にもちゃんと来てくれてるし」
「ねえねえ!」
「わっ!」
突如大きな声と共にカーテンを開けられ、私は思わず声を上げてしまう。
ーー...由紀ちゃん?!
隣のベッドから顔を出したのは、この作品の主人公である丈槍由紀その人だった。
「丈槍さん、治ったならそろそろ戻りなさい」
「えーっ、めぐねえ酷いよぉ〜」
「佐倉先生、です」
ーーてえてえ....生のやり取りが見られるなんて...!
2人のやり取りを暫く眺めていると、ひと段落着いた所で由紀ちゃんがこちらに顔を向けた。
「えっと、名前は?」
「...1年の天音春です」
「なら私が先輩だ!丈槍由紀、よろしくね!」
「は、はい。よろしくお願いします、丈槍先輩」
「くーっ!先輩って呼ばれちゃったよ!めぐねえ!」
「もう、だからめぐねえじゃなくて....」
ーー思わぬ所で関係ゲット!!
これで原作でメインとなる人達とは、全員大なり小なり関わりを持つ事が出来た。
後は実写版の人達との繋がりさえ持てれば、パンデミック時に必ず有利に働く筈。
原作より人手が多ければバリケードの製作も楽になるし、何より精神面で大きくプラスになる。
ーー絶対に皆を....
「失礼します、1年生の直樹美紀です。天音さんは...」
「あっ、直樹さん」
保健室に入ってきた直樹さんは、ベッドの上に座っている私を見つけると小さく微笑みを浮かべた。
ーー可愛い。
「春!大丈夫?!」
続いて駆け込んできた圭ちゃんは、やや不恰好な走りをしながらベッドの前まで一直線に向かってきた。
「う、うん...ちょっと鼻血出ただけ」
「祠堂さん、保健室では静かに」
「あっはい....ごめんなさい」
佐倉先生の注意を受けて、彼女は申し訳なさそうに顔を下げる。
「それで2人はどうして此処に来たの?」
「天音さんの荷物を届けにきました」
佐倉先生の問いに対し、直樹さんは冷静に返答する。
「ありがとう直樹さん」
「あ....うん」
「春、明日は絶対一緒に帰ろうね」
ーーなんかさっきから圭さんグイグイ来てません?
私は眼前まで迫った圭の顔に緊張しながらも何とか頷くと、校内にチャイムが響き渡った。
「やばっ、じゃあね春!」
「....またね、天音さん」
放課後を知らせるチャイムが鳴り、私は目を覚ました。
どうやらあの後ベッドで寝転がっている内に眠ってしまったようだ。
「天音さん、大丈夫ですか?」
カーテンを開ける音と共に、佐倉先生がベッドに近付いてきた。
「はい、もう平気です」
立ち上がって隣のベッドに目を向けると、カーテンが開いており既に丈槍先輩の姿は無かった。
ーー私が寝てるうちに戻ったのかな?
「1人で帰れそう?親御さんに連絡とかは...」
「あっ、大丈夫で「失礼します」.......姉さん?」
私の言葉を遮るように保健室に入ってきたのは、姉さんだった。
「....春?!何かあったの?!怪我?!それとも」
「ね、姉さん落ち着いて!!」
物凄い剣幕で捲し立ててくる姉さんを何とか止めると、その光景を見ていためぐねえが口を開いた。
「天音さんは昼休みに怪我をしてしまって、さっきまで休んでいたの」
「そうそう、誰かが蹴ったボールに偶然当たっちゃっただけだから」
「.....絶対許さない...後で探し出して.....」
ボソッと二言呟いた姉さんは、そのままめぐねえの方に向かった。
「すみません、園芸部の事でちょっと相談があって」
「分かったわ、天音さんは?」
「そろそろ帰ろうと思います」
荷物を持って歩き出すと、すぐに姉さんが声を掛けてきた。
「本当に大丈夫?」
「心配しすぎだよ、家も近いし」
「そう....事故に気を付けてね」
この言葉の裏には、るーちゃんの影があるのだろう。
私は改めて気を引き締め、保健室を後にした。
「そこの1年生ストーップ!!」
「えっ?!」
慌てて振り向くと、下駄箱に2人の生徒が立っていた。
その内片方はカメラを持っており、こちらを撮影している様だ。
ーーもしかして...梢と実咲?!
梢と実咲、2人は共に実写版がっこうぐらし!の前日譚、がっこうxxxに登場したキャラクターだ。
ーー確かNコンに向けて3年間のドキュメンタリーを撮ってるんだっけ...
カメラを持っている方、篠原実咲はパンデミック当日に襲われてしまい、もう1人の窪田梢も...
がっこうぐらし!という世界の厳しさが分かる前日譚だったが私としては1人でも多く助けたい、そしてその為に交友関係を広げたい。
ここで無視するという選択肢は無かった。
「えーっと」
「ごめんごめん、ちょっと撮影に協力してくれない?」
「そう言いながらもう撮ってるじゃん...あのね、実は私達ドキュメンタリーを撮影してたんだ」
「ドキュメンタリー?」
少々わざとらしく疑問を投げると、篠原先輩が食いついてきた。
「そう!来年のNコンに応募しようと思っててさ、もし良かったらモデルになってくれない?」
「その、少しだけなら」
「ありがとおおお!!じゃあ梢!私が指示するから移動させてあげて!」
篠原先輩はそう言うと、すぐにカメラの位置を調整し始めた。
「巻き込んじゃってごめんね、すぐ終わるから」
「いえ、私も暇でしたし...」
「ありがと、私は3年の窪田梢。であっちのカメラマンが篠原実咲」
「窪田先輩と篠原先輩ですね...」
ーー....あっ、せっかくなら。
確か2人は放送部だった筈、という事は...
「もしかして...ごきげんようの人ですか?」
「えっ?!良く分かったね!そうそう、私達放送部だから」
当てられた事に驚いたのか、予想通り窪田先輩が食いついてくる。
昼休みの放送の最後、ごきげんようで締めていたのを思い出し、それを口に出したのは正解だった様だ。
ーーここで出来る限り仲を深めておきたい...!
「梢!準備出来たよー、後輩ちゃんもお願いね」
「下校するシーンが撮りたいだけだから、変に意識しないでいつも通りで良いよ」
ーーそれ、入学から数ヶ月の1年生には中々難しいと思うんですが...
私以外の普通が馴染んでいない1年生だったら、きっとガチガチに緊張していた所だろう。
しかし私は転生者、ここは過去の経験にものを言わせて完璧な普通をお見せしよう。
窪田先輩に軽く両肩を引かれて位置を調整され、直後に篠原先輩の合図が掛かった。
「はい!回った〜!」
「まさか一発で撮れるなんてッ!!」
私の両腕をブンブンと上下に振って喜ぶ篠原先輩の横で、窪田先輩が口を開く。
「実は何人かに協力してもらったんだけど中々良いのが撮れなかったみたいでさ〜、君が居てくれて助かったよ」
「そうだ後輩くん、お名前は?」
「1年の天音春です」
「アマネハルあまねはる....よし覚えた」
復唱して頭に入れたらしい篠原先輩は、そのまま私に顔を近付けてきた。
「でさでさ天音くん!良かったらなんだけど、これからも協力してくれない?!」
「ええ?流石に迷惑じゃない?」
ーーその言葉待ってました!!
「えっと、私で良ければ喜んで」
「よーし!1年生の協力者ゲット!」
「なんかごめんね....でも実咲、超本気だから」
そう、篠原先輩は超本気だ。
パンデミック当日もカメラを回し続け、自身が襲われるその瞬間まで...
その場面を思い出し、表情が歪んだのが分かった。
ーー私が助けるんだ...絶対。
自宅に帰っても、やる事といえば学校の課題くらいだ。
こういう考えは良くないのだが、言ってしまえば1年後には滅んでしまうので勉強する必要はない。
前世から数えて2回目の高校生活、余計に学業に対するモチベーションは下がってしまうけれど、それでも私は勉強に励んでいた。
万が一滅ばなかった時への保険とも言えるそれは、割り切れる人間にとってすれば無駄な時間を過ごしているのだろう。
「....はぁ」
何とか来週提出の課題を終わらせ、静かに溜め息を吐く。
この勉強の時間でもっと何か出来るのではないか、ランダルに対して行動を起こせるのではないか。
そんな感情が浮かんでは消え、そうして自己嫌悪だけが積み重なっていく。
ーー...よし。
私はこの暗い思考をどうにかする為、部屋に置いてあった木製のバットを手に取った。
何故木製バットがあるのかと聞かれれば、それは単純に元から家にあったから。
ならば使わない手はないので、気晴らしに庭で素振りをしているのだ。
ーー彼らと戦う時にも役立つ筈...多分。
恐らく1年後私が使うのは金属バット、重さは相当違うだろうけど自分なりのフォームは見つけられるだろう。
そんな期待を胸に、私は庭に出て軽く準備運動をする。
「よいしょっ.........え?」
伸びをした格好で外を見ると、何故か圭ちゃんと目が合った。
ーー.....なんで????
よく見ると後ろに直樹さんも居るし、これどういう状況なの...?
「えと、どうしてここに?」
「...わ、わー!奇遇だね!!!!」
ーー圭ちゃん、流石にそれは苦しいです。
2人をリビングに招き入れ、少しもたつきながら用意していたお茶を入れる。
「えと....改めて、どうしてここに?」
ーー2人共私より先に帰ったよね...?
正直私の家に来てくれるのは物凄く嬉しいのだが、もっと綺麗に掃除しておけば良かったとかいきなり過ぎて心臓の準備がとかそういう方面で困ってしまっていた。
「実は貰ったプリント渡すの忘れてて...」
「えっ、わざわざその為に来てくれたのっ?」
「あはは、まあそんな所」
ーーなんて良い子なの圭ちゃん?!好き!!!
「別に天音さんの家に行きたかったからとかじゃないよね〜、圭?」
「はえっ?!あ、当たり前でしょ!!」
「え、そうなの...?」
「あっ、その、えと.....ううううう」
私も直樹さんによってまんまと墓穴を掘った圭ちゃんは、顔を真っ赤にして伏せてしまった。
直樹さんを見ると、どうやら作戦通りに行った事が嬉しかったのか小さく微笑みかけてきた。
ーーかわいい。
「ほら圭、三者面談の渡さないと」
「そ、そっか!はいこれ」
「ありがとう!」
そうして圭ちゃんのバックから出てきたのは、直樹さんの言った通りもうすぐ行われる三者面談のプリントだった。
ーー三者面談か...
「...あんまり長居しても親御さんに悪いし、そろそろ帰ろう?」
「ちぇーっ、もうちょっと春の家を堪能したかったのにな〜」
ーーやっぱりそれが目的だったんだ。
直樹さんの配慮が心を温めつつも、両親が居ない私にしてみれば少し罪悪感に似た何かを感じていた。
今ここで両親について話しても、きっと空気が重くなるだけだ。
「....春?もしかしてまだ体調悪い?」
「へ?ううん全然平気だよ」
顔に出てしまったらしく、圭ちゃんに余計な気を遣わせてしまった。
それによって余計に私の中の何かが高まって、溢れそうになる。
仮に後日両親が居ない事が2人に伝わっても、きっと私に対して一ミリも負の感情を持たないだろう。
けれど私自身としては、何だか隠し事をしている様で胸がザワザワしてしまっている。
ーー....
「あ、あのね...2人にちょっと伝えたい事みたいなのがあって」
「なになに?」
これは、単なる自己満足に過ぎない。
「....私、両親が居なくてさ」
その瞬間、場の空気が一気に凍った。
「ご、ごめんなさい!私!」
慌てて直樹さんが謝ってくるが、私はそれを求めていた訳ではないので急いで否定する。
「違うっ、謝らないで!こんな事喋った私が悪いから」
「でも...」
自己満足だけど、私の求めたものは更にその先なんだ。
「私が喋ったのは、2人に知ってて欲しかったっていうか...隠し事したくなかったっていうか....」
もっと深くて、もっと本質的な所。
「...2人と、もっと仲良くなりたいの」
「私達と...?」
そんな自分への罰として、素直に話そう。
「高校で初めて出来た友達で....大好き、だから」
「じゃあ明日学校で」
「うん!また明日!」
直樹さんと圭ちゃんを送り出し、玄関が閉じてから数秒間を空ける。
今の私の感情は、
「.....」
ーーあああああ私なんであんな事言っちゃったのおおおおお?!?!?!
後悔一色でした。
いやだっていきなり大好きとか超キモいでしょ!!付き合い長かったら分かるけどまだ3ヶ月くらいだよ?!
「ううううう...明日からどんな顔で話せばいいの...」
完全に場の空気に流されたというか、ブレーキが壊れてたというか。
ともかく今の私に出来るのは、声に出して自らのやらかしを叱る事だけだった。
ーー...でも、伝えられた...
勿論後悔はしているが、スッキリした部分もある。
大好きという私の本心と両親が居ない事を伝えられて良かった、これだけは確実に思っている。
その代償はあまりにも大きかったし、多分暫くは夢に出る。
私はこれで良かったと自分に言い聞かせながら、バットを振りに再び庭に出るのだった。
最近少し気になる奴が出来た。
と言っても恋愛方面の気になるではなく、もっと広い意味での気になるだ。
天音春、陸上部に入ってきたばかりの1年生女子。
どうして気になるのかは分からない、別に飛び抜けて足が速いとか運動神経が良いとかじゃないし何なら平均よりちょっと下くらい。
けれど、春を見ていると面白いのだ。
いつも一生懸命で、何故か私にだけ懐いている。
ーー後....可愛い。
そう、春は可愛い。特に笑った顔が。
既に何人かの男子部員が心を奪われたくらいには可愛いのだ。
そんな彼女が他の先輩や同級生ではなく、私にだけとびきりの笑顔を見せてくるのだから気にならない訳がない。
ーー...あたしの事、好きだったり....なーんて。
熱くなる顔を冷房で冷ましつつ、ふと目に入った一冊の漫画を本棚から取り出す。
内容は確か、陸上部の先輩と後輩の恋愛漫画。
そんなありきたりな事、本当に現実に起こるのだろうか。
少なくとも今のあたしには、恋愛なんて縁の無いものに思えて仕方なかった。
ーキャラクター紹介ー
直樹美紀
巡ヶ丘学院高校の2年生(原作開始時)。
原作ではショッピングモールで騒動に巻き込まれ学園生活部に救出されるが、実写版では校内で生き残っていた所を発見され救助される。