目が覚めるとがっこうぐらし!(実写版)の世界だった。 作:RNKI
休日、夏の暑さを感じながら私はショッピングモールの前に立っていた。
ーーリバーシティトロン...この世界でもあったんだ...
百聞は一見に如かず。
当然此処に来るまでの道のり、更に言えばそれ以前に待ち合わせる段階で存在には気付いていたが、いざ自分の目で見ると当たり前の事実にも驚いてしまう。
「天音さん!」
すっかり聞き馴染んだその声の主は、少し汗を馴染ませながらこちらに近付いてきた。
「直樹さん、こんにちは」
直樹美紀、通称みーくん。
どうして彼女が此処に居るか、それは勿論待ち合わせをしたからだ。
「それじゃあ....行こっか」
微妙な距離を感じながら、私達はモールの中に入っていった。
私と直樹さんの関係は、所謂友達の友達。
2人だけで会話する事はあまり無いし、基本は圭ちゃんが真ん中に入っている。
では何故その2人が、わざわざ休日に買い物をしているのか。
それは...
「圭ちゃんってやっぱりCDが好きなのかな?」
「んー、まあCDプレイヤー持ち歩いてるくらいだからね」
ーー圭ちゃんの誕生日プレゼントを選ぶ為!
「これで一先ず大丈夫かな」
それぞれが渡す物を手に掛けながら、ゆっくりとモールを回っていく。
「えーっと...どうしよっか」
少しの沈黙が私達を包み込む。
大目標を達成してしまった私達の間には、またしても若干気まずい空気が流れ始めていた。
ーーこういう時は原作知識...!何か無いかな...
周囲に目をやりながら会話のネタを考えていると、少し先に本屋を発見した。
ーーこれだ!!
「本屋さん!寄って行かない?」
「え、うん...良いけど」
突然の振りに驚いたのか、少し声を小さくする直樹さん。
多少強引な誘いだったが、どうやら彼女もこの沈黙の時間を終わらせたかった様だ。
ピンチはチャンス、何とかこのタイミングで直樹さんと仲良くなっておきたい。
ーー原作で一番好きなキャラ、直樹さんだから!!
本屋に到着した私達は、それぞれ特に会話も無く本を漁り始めた。
ーー直樹さんはホラーが好きだった筈...だったら!
ただホラー好きなだけなら、浅い会話で終わってしまう。
けれどもしそれが、彼女が大好きな作品なら。
「....あった」
私は何とか目的の本を探し出し、彼女の近くでそれを前に出す。
「この本好きなんだよね、私」
「......えっ?それ好きなの?」
一度本の題名をじっくりと確認した直樹さんは、先程とは打って変わって目を輝かせた。
「うん、翻訳版じゃないやつも読みたいなって」
「だ、だよね!私も読みたいと思ってたの!」
ーー凄い食いつき!!あと顔近いですヤバいです!!!
「直樹さんって...もしかしてホラー好き?」
「うん、映画とかもたまに観に行くよ」
「なら今度公開する とか」
「それ!勿論観に行く予定なんだけど...圭は苦手みたいで」
ーーチャンス!
「..良かったら一緒に観に行かない?」
「えっ、うん。良いけど」
ーーよし!一歩前進!
直樹さんは原作でもトップクラスに冷静な人物だ。
ロジカルで判断力があり、感情的になり過ぎない。
それが原因で衝突してしまう事もあったが、彼女のその姿勢は見習わなければならない。
そしてその為にはもっと彼女を知る必要がある、だから尚更積極的に仲良くしていきたいという訳だ。
「この本とか知ってる?」
私の思考がひと段落着くと同時に、直樹さんが本を見せてくる。
一瞬分からなかった場合の展開が頭をよぎるが、幸い知っている本だった為心の中で大きく息を吐く。
「知ってるよ、ショッピングモールのシーンとか好きだったなぁ」
「分かる!シリアスになり過ぎないのが良いよねっ!」
「....ふふっ」
「どうしたの?」
自分でも気付かないうちに、笑みがこぼれてしまった。
「いやその...ようやく直樹さんと話せた気がして」
「....そうだね」
彼女は本を元の位置に戻すと、こちらに体を向けてきた。
「....名前で、呼ぶ?」
「へっ?!」
「春と美紀...?どうして2人で...」
時間が過ぎるのはあっという間。
何度も聞いた言葉だが、私は最近その言葉を思い出す機会が増えていた。
夏の暑さも陰りを見せ、紅葉が綺麗に咲き始める。
入学してから、およそ半年が経過していた。
「春、一緒に帰ろ?」
机の上にバッグを置き、その中に荷物を詰めていると圭ちゃんの声が聞こえてきた。
一度手を止めて顔を上げると、彼女の隣には美紀ちゃんの姿もあった。
「うん、ちょっと待ってね」
私は手早く荷物を纏めると、椅子を下げて立ち上がる。
するとその直後、廊下からこちらに向かって声が発せられた。
「春、今ちょっと良いか?」
慌てて廊下の方を見ると、そこには制服姿の胡桃先輩が立っていた。
「知り合い?」
「うん、陸上部の」
圭ちゃんの疑問に答えながら、私は胡桃先輩に近付いた。
「どうしたんですか?」
「実は....先輩!いや、葛城ってOB居るだろ?」
ーーこ、これはもしかして、恋愛相談イベントですか〜?!
「はい!!!」
「ちょ、声デカいって!」
「それで、その先輩が?」
「....好き..,.だと思うんだ」
ーーキター!!!!
「お前の事!」
ーキテナーイ!!!!
「えっ?!え?!?!」
予想外の言葉に、私は驚きを隠す事無く大声で表現する。
「ど、どうしたの春?!」
その言葉に反応した圭ちゃんが、慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「あー後輩!なんでもない!ただの恋愛相談だから!!」
「恋愛相談?!誰のですか?!」
「春のだよ!」
「春?!」
ーーやばいやばい拗れてきた!
「どういう事?!誰なの?!」
「違うから!!私のじゃないから!!」
「圭、とりあえず落ち着いて!」
見かねた美紀ちゃんが助太刀に入り、何とか圭ちゃんを落ち着かせようとしている。
私はとりあえず、状況の整理を最優先とした。
「胡桃先輩、さっきの話をもう一度お願いします」
「え?良いけど...」
「つまり、その先輩が春を狙ってるかもしれない、という事ですね」
胡桃先輩の説明に美紀ちゃんのまとめが入り、何とか話がまとまった。
「それで実際どうなの?」
美紀ちゃんが聞きたいのは、恐らく私が好意を持っているか否かだろう。
正直に言ってしまうと、先輩の事は殆ど眼中に無かった。
そもそも部活中は胡桃先輩に夢中だった為、尚更考える余地が無かったとも言える。
「うーん...部活中は胡桃先輩の事ばっかり考えてたから」
「なっ!...は、恥ずかしい事言うなよ」
ーー.....あっ。
適当な言い訳を重ねるつもりが、思わず本音を話してしまった。
「わ、私は?!」
ーーどうして圭ちゃんが張り合ってくるの?!
「え?!勿論圭ちゃんも....美紀ちゃんも....その.....みんな大好きだよ!!」
「え、えへへ」
「....そう...」
ーーダブル可愛い。
何とか誤解は解けたが、想定外の事態に対しては未だに理解が追いついていない。
どうして私なのか、そもそもそれは事実なのか。
疑問が溢れて止まらず、かと言ってその疑問は解消出来ない為中途半端な感情だけが残る。
ーー...そうだ、胡桃先輩は...
先輩の事が好き....なのだろうか?
「胡桃先輩はどうなんですか?...先輩の事」
「んー...良い人だとは思うけど...」
ーーうわこれガチで恋愛対象外のヤツだ!!
ついに発生してしまった原作との乖離点。
それがよりにもよって、胡桃先輩が覚醒するキッカケとなった先輩関係の話だから尚更まずいのだ。
「えーっと、とりあえず分かりました」
やや強引に話を終わらせ、教室内に設置された壁掛け時計に目を向ける。
「引き留めちゃってごめんな、また改めて話そう」
「分かりました」
どうやらまだ気になっている事がある様だが、時間を気にしてくれたのか彼女自身も話を切り上げてくれた。
「じゃあ帰ろっか」
「そうだね.....圭?」
スムーズに歩き出した美紀ちゃんとは対照的に、俯いたまま動こうとしない圭ちゃん。
「....へ?あ、ごめん!ちょっと考え事してた」
自宅に帰り、ベッドに体を倒す。
物音の無い静かな部屋は、考え事をするにはピッタリだ。
「半年....か」
残された時間、1人でも多く知り合いを救い、自分自身も生き残る為の準備時間。
私は改めて、自分が関わってきた人間について思考を巡らせた。
ーー学園生活部は全員...佐倉先生とはあんまり話せてないけど。
保険の先生という事がやはりネックになり、特別何かない限り交流する事は無い。
「保健委員にでもなろうかな」
私は寝返りを打ち、一度布団に顔を埋めた。
ーー実写版に登場するキャラで話せてないのは...
部活紹介で見かけた沢渡先輩と山神先輩、そして同級生の原田璃子さんと高城真帆さん、他にも小泉先輩や倉橋先輩も居る。
沢渡先輩と山神先輩に関しては、陸上部に所属している以上部活動での交流は難しい所がある。
沢渡先輩は、来年から小泉先輩と倉橋先輩が居る演劇部に入部する為、更に交流難易度は増すはずだ。
そして同級生である原田さんと高城さんは、そもそも別クラスである為関わり様がない。
前途多難という言葉より、先が見えない恐怖があると言った方が分かりやすい。
ーー原作知識に頼り過ぎちゃ駄目...って事かな。
自らを鼓舞する様にそう言い聞かせ、私はベッドから起き上がった。
肌寒い日でも、運動すれば暖かくなる。
確かにそれは正しいけれど、私にとっての問題は運動するまでの時間だった。
紅葉は枯葉に変わり、吐く息も白くなった放課後。
私はジャージの袖で手を包みながら、胡桃先輩の隣に腰掛けた。
「うぅー、寒い...」
口に出したら余計に寒くなる気もするが、今はこの寒さを共有したい。
私が凍えているのに対して、胡桃先輩はいつも通りの笑顔をこちらに向けてきた。
「走れば暖かくなるだろ?」
「問題は校庭に来るまでなんです...」
「だったら更衣室から走るしかないな」
冗談なのか本気なのか。
そんな事はさておいて、陸上部に入部してからもうすぐ1年が経過する。
明確に体力が付いた事を自覚しているが、それでも胡桃先輩には及ばない。
ーー流石はシャベル様...
「...どうした?」
「へ?!いやあの....今日もカッコいいなって」
「なっ!....そんな急に恥ずかしい事言うな!」
「ほ、本当の事ですから!」
お互いに顔を赤くし、体温が上昇する。
知っての通り胡桃先輩はカッコいい。
最近よく告白されている所を見るし、そのうち半分は同姓だった気もする。
ーー同姓をも惚れさせるなんて....恐ろしい子ッ!!
「おーい、胡桃!」
そんな中、胡桃先輩を呼ぶ声が一つ。
すっかり聞き馴染んだそれは、OBの葛城先輩の声だった。
「じゃあ行くか、春」
「そうですね」
走る事は多少の苦痛を伴う、息が切れれば苦しくなって、走り始めた自分に対して少しの怒りを覚えてしまう。
しかしこれから起きてしまうであろう惨状に比べれば、この時間は恐らくとても幸せなものなのだろう。
ーー今は少しでも体力を付けないと...
着実に近付いてくる惨劇に対し、私は怯えながらも照準を合わせていた。
そして、月日は巡り。
「はぁ...はぁ....っ!早く!!」
高城さんの手を引きながら、記憶を頼りにシャッターの奥を目指す。
後悔、罪悪感。
それら全てから何とか目を逸らし、私はひたすらに脚を動かす。
「な、なんで私を....」
困惑した高城さんの声を聞きながら、私は隣を走る原田さんに目を向ける。
やはり短くなってしまった彼女の髪は、奇しくもそれ自身が運動の邪魔にならないように思えた。
階段を降り、血まみれの廊下を走り続ける。
ーー....あった!!
シャッターの閉じた場所を見つけ、私は急いでそれを持ち上げる。
「...な、何やってんの?」
「良いから、先入って!!」
多少怒鳴るような言い方になってしまったが、高城さんは何とか受け入れてくれた様でシャッターを潜っていく。
「原田さんも早く!!」
「...あ、ありがとう」
2人が中に入ったのを確認して、私もシャッターを上げたままそれに続く。
直後に聞こえてきた扉の開く音、恐らく2人が中に入ったのだろう。
私も急いで階段を降り、小部屋に体を捩じ込んだ。
鍵を掛けずに扉を閉め、そうして近くの壁に倒れ込む。
ーー....助かった.....ッ!
ほっとしたと同時に、急激な頭痛が襲ってくる。
「痛ッ....」
なすすべなく床に倒れ込むと、原田さんが心配そうに近付いてくる。
ーー....だめ....まだ....2人が....それに....
この頭痛に怒りと自己嫌悪を向けながら、私は深い眠りに落ちていった。
がっこうぐらし要素を出さずに行けるのは3話までだろうと思っていたので、第3話では大部分をカットしてパンデミックまで持っていきました。
カットした部分は番外編として投稿する予定なので是非。