目が覚めるとがっこうぐらし!(実写版)の世界だった。 作:RNKI
「2人ともありがと〜!!!」
「わっ!」
「け、圭!」
誕生日プレゼントを渡した数秒後、感極まった声で圭ちゃんが抱き着いてきた。
ーーヤバい!圭ちゃんの匂いがっ!!
思わず変態的な思考になってしまい、その後すぐに自己嫌悪へと移行する。
私は頭を切り替えつつ、安堵を声に表した。
「でも良かった〜、喜んでもらえて」
「どうして?」
「だって美紀ちゃんと違って私は高校からだし...ちゃんと喜んでもらえるのかなって」
「春は自分に自信無さ過ぎ、誰だってプレゼント貰えたら嬉しい筈だよ」
「....美紀ちゃん....?....春....?」
ーーいつから名前呼び?っていうか最近仲良さげ?
自宅のベッドに横たわり、放課後の出来事を振り返る。
美紀からは毎年誕生日プレゼントを貰っているが、春からは勿論初めてのプレゼントだ。
決して美紀を下げたい訳ではない、だってどちらも同等の嬉しいという感情を私に与えてくれたのだから。
だけど問題はそこじゃない、私にとって一番大事なのは現在の2人の関係性だ。
この半年間仲良くしてきたのだから、それまでの関係性は完全に理解していると言っていい。
美紀と春は、いわゆる友達の友達。
2人きりで居る所なんて見た事無いし、大抵の会話は私を経由してのもの、何より名字にさん付けだった。
それがどうして、下の名前で呼び合っている。
思い当たる節は....
『春と美紀...?どうして2人で...』
ーーあの時...?
翌朝、教室で私の目に映ったのは春と雑談する美紀の姿だった。
春の机に片腕で重心を預けるその姿は、正しく友人と呼べるそれだ。
「お、はよー!」
見慣れない状況に言葉が詰まるも、強引にそれを完遂させる。
今の挨拶は自然に聞こえただろうか。
美紀に対して動揺を隠すのはもしかするとこれが初めてかもしれない、だからこそ誤魔化せているかが分からなかった。
「おはよう」
「圭ちゃんおはよう」
いつも通りの挨拶を返してくれた辺り、私の嘘は思ったよりも効果的らしい。
私は荷物を置いて春の机に近付き、とりあえずの疑問をぶつけてみる事にした。
「2人で居るなんて珍しいね、何の話してたの?」
「春と映画観に行く相談。明日のお昼にリバーシティで良いよね?」
ーー....え?
知らない事実を淡々と流され、それに着いていけない私は立ち止まってしまう。
2人きりで映画を観に行くなんて聞いてない、というか私を誘ってくれないなんて、そんなのってあんまりだ。
水の流れに乗れず川底に足が着いてしまった私は、恐らく溺れかけている。
「圭ちゃん?どうかしたの?」
「へっ?いや別に...」
春の心配を嘘で返し、私の中の罪悪感は更に大きくなる。
どうして聞けなかったんだろう、ただ一言自分の存在証明をするだけで良かったのに。
そんな私を嘲笑うかの様に、朝のチャイムが鳴り響く。
「....じゃあ」
絞り出した一時の別れの言葉と共に足を動かす。
踵を返して自席に戻るも、私の心はまだその場に留まっていた。
そもそも私はどちらに嫉妬しているのだろう。
普通に考えれば、春に対して美紀を取られたと感じているという認識が正しい筈。
ーー...違う。
筈、そんな言葉を使っている時点で自分自身に嘘を付いている事が分かった。
いつだって自分の事は自分が一番詳しいのだ、ただそれら全てに気付くのが難しくて、無意識に知っている事柄を他人から教えられて初めて自身に取り入れたと思っているだけ。
つまり実際、私は美紀に対して嫉妬している。
ーーほら言い切れた...でも何で?
これも無意識に分かっているのなら教えて欲しい、こんな時もう1人の自分が口を出してくれるならどれだけ楽か。
そんなくだらない事を考えながら、私に背中を向けて座っている春を何となく見つめてみる。
うん、しっかりとノートを取っている、今の私とは大違いだ。
私は勉強が苦手で、中学でも高校でもよく美紀にノートを貸してもらっている。
ただし断じてただの便利屋と思っている訳ではない、私にとって美紀は親友で大切な人間だ。
では春はどうだろう。
高校入学初日に声を掛けられたのが始まりで、2日目には友達という存在になっていた。
『良さげだよ...』
「ッ〜〜!!!」
今思い出すだけでも顔が熱くなる、というか熱くなった。
耳元で囁かれたあの瞬間、恐らくあそこから何かが始まっている。
単純に私の耳が弱いのかとも思ったが、それは今までの人生が否定してくれていた。
つまり、春の声が好きなのか。
ーーん??あれ???
好き、という言葉に全身が反応を見せる。
何だろう、どういう事なんだろう。
好き...だ、うん好き.....え?
ーー私....春が好き...?
それは決して私が季節愛好家になったとか、Likeの方でも無くて。
私は彼女が、春が好きなんだと今更気付いたのだった。
好きという事実に気付いてから3度の授業を受けた昼休み。
私は、おかしくなっていた。
「どうしたの圭、凄い顔してるけど」
「べべべべつに〜!!」
わざとではない、断じてわざとではない。
とてつもなく言葉を詰まらせた事に対してツッコミが入らない筈もなく。
「.....本当にどうしたの?」
昼食を食べながら、怪訝な目で私を見てくる美紀。
その気持ちは痛い程理解出来るが、美紀のその目はちょっと怖いからやめて欲しい。
「圭ちゃん大丈夫?」
「.....ハイ」
ーー目が合わせられないよ〜!!!!
顔を見るだけで心臓が強く脈動する、というか若干痛い。
いつもは癒しの時間である昼休みも、今日に限っては楽しいよりも苦しいという感情の方が優っていた。
ああまずい、どうしても意識してしまう。
3人机を合わせ、お誕生日席と呼ばれている私の席から見て右側の彼女に目線を向けられない。
ーーどうしよう...何なのこの気持ち...?!.....はい、恋です...
奇しくも求めていたもう1人の自分と会話してしまうくらいには追い込まれた私は、とりあえず現状からの解放を求めた。
残り2年半春の顔を見ずに学校生活を行う事は不可能であり、そもそも私も普通に見たいので何とか頑張ろうと顔を上げる。
が、目の前には顔。
「圭ちゃん顔赤いよ...?大丈夫?」
「だいぶです」
「へ?」
ついに日本語を話せなくなってしまったが、それでも気を失うなんて漫画みたいな事は起こってくれず。
結局私は無言のまま、昼休みを過ごすのだった。
翌日、リバーシティトロン1階広場。
私はマスクを付けたまま、遠巻きに入り口を見つめていた。
「美紀ちゃんそのぉ...服似合ってる!!」
「ありがと、春だって可愛いよ」
「えっ、えへへ」
ーーう、羨まし可愛いッ!
というかあれではまるでカップルじゃないか、何度も言うけどほんといつの間に....
結局2人をストーキングする形、いやこの場合は待ち伏せする形が正しいのだろう。
ともかく昨日の会話からヒントを得て、こうして2人の動向を探っている訳だった。
ーー...ずるいな...
「ねえ貴方」
「へっ?!は、はい!」
「静かに!2人にバレるでしょ!!」
「は、はい...」
突然背後から声を掛けられ、思わず大声を出してしまった。
私は慌てて2人に目線を戻すが、幸い隣で行われているピアノ演奏のお陰で気付かれる事は無かった。
ーー....ってか、この人誰?!
軽い恐怖を持ちながら振り返ると、顔にサングラスとマスクを着用した女性が立っていた。
ーー何この怪しいサングラスマスクウーマン?!...いや、マスクは私もか。
「貴方も春の友達?」
「えっ?」
ーーこの人、春の事を知ってる?!
「私は春最愛の姉、そのマスクと行動からして目的は同じみたいね」
最愛の姉、という部分をやたらと強調しているのは気になるが、その人は春のお姉さんらしい。
「....もしそれが本当なら、どうして此処に?」
しかしそれはあくまでも一方的な意見に過ぎない、人は簡単に嘘をつけるしそれを誤魔化す事だって出来るのだ。
「私の目的?」
「はい」
そのお姉さんは顎に手を当てて数秒思考した後、突然腕を振り下げ握り拳を作り出した。
「春が知らない女狐とデートしてるのよ?!これを監視せずして姉が務まると思う?!?!」
「め、女狐ですか...」
クールなヤバいお姉さんから、ヤバいお姉さんにイメージが変わった。
たった4文字しか変わってないがそれでも私にとっては大きな変化だ。
ただまあ春を想う気持ちに嘘は無さそうだし、ほぼお姉さんで確定かな。
「で、貴方も2人をつけてきたのよね?」
「....まあ、はい」
「なら協力しましょう」
「はぁ...協力?」
「ええ、あの2人が良い感じになる前に止めるの」
ーー言い切っちゃったよ!
「でも妹の交友関係まで...」
「貴方、春の事好きよね?」
「へっ?!」
「その反応だけで大体分かったわ、なら貴方も恋のライバルに先を越させない様にしないと、ね?」
「....ハイ」
「本屋ね...」
「まあ美紀は本が好きなので」
女子高生2人をストーキングする女子2人。
絵面的にギリ捕まらなさそうだが、やはり客観的に見るとおかしな光景だ。
「...ところで貴方、名前は?」
「今更ですね....祠堂圭です、後春と一緒に居る子は直樹美紀って言います」
「私は若狭悠里、春と名字が違うのは義理の姉妹だからよ、つまり結婚も出来るわ」
「いや、無理だと思います」
世界が終わったりしない限り無理だろうし、そうなったらきっと結婚なんて考えている暇はないだろう。
ーー...無理....か。
無理、このたった2文字はとても強力で、大抵の場合ひっくり返せないものだ。
女性同士の結婚、それが法律によって禁止されている事は、幼い頃から何となく知っていた。別に法律のどこどこにとか、憲法がとかそういうのは知らないけど。
「あの、若狭さんって....春の事」
「好きよ、愛してるわ」
何の迷いもなく言い切ったそれは、一切の不快感も感じられない清々しいものだった。
ーーカッコいいな...
多分今の私だったら、言い淀んで誤魔化すか、中途半端に言葉を紡いで恥をかく事しか出来ないだろう。
だからこそ、こうしてハッキリと明言出来る人間を私はカッコいいと思ったのだ。
「あの子が小さい時からお医者さんごっこと称して色々してたくらいにはね」
前言撤回、この人ただの割り切った変態だ。
そんな事まで言い切れるのか、と恐怖すら感じていた私は、視界の隅で何かが動いたのを確認した。
その何かとは勿論春と美紀、それぞれ本を手に取っている事からレジに向かうのだろう。
「そろそろ移動するんじゃないですか?」
「そうね、私達も移動しましょう、あそこの角ならどっちに行ってもバレないわ」
手際が良いと言うか何と言うか、ともかく若狭さんはストーキングが上手だと感じた。絶対何度もやってる。
その後も2人を追っていると、CINEMASと書かれた施設に入っていく姿が見えた。
「映画館...みたいね」
「....今日は、それが目的だって言ってました」
分かりやすく下がった声のトーンは、それが自身のものである事も含めとても情けなく感じられる。
ーーどうして誘ってくれなかったんだろ...
あの場、映画の話題が出た時には私も居たし、何か一言あっても良かった筈だ。
「あの映画を観るみたいね...祠堂さん、私達も行きましょう」
「は、はい...」
本当は分かっている。
たった一度誘われなかった程度で落ち込んで逆上して、こうして尾行までする自分がおかしいのだと。
でもそれをおかしいと正論で抑え付けられる程、自身に厳しく生きてきていない。
そう、これは私の我儘だ。
2人きりのデートなんて許さない、美紀も春も、私の居ない所で仲良くなって欲しくない。
だから私は監視する、その仲良くなる瞬間を知る為に。
ーーいやああああああああああああああああああ!!!!!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!!!!
拝啓数分前の自分へ、もう少し物事を客観的に見てください。
私は流れ続けるホラー映画から意識を外す様に、思考の海へと逃げ込んだ。
思えば簡単な話で、ホラーが苦手だったから誘わなかったのだ。
それを私は誤解して、配慮を排除と勘違いして。
本当に、私はなんーーーー
ーーひいいいいいいいい!!!!!!!無理無理無理!!!!!!!
「...どうしたの?」
「...自分の愚かさを憂いています」
「そ、そう」
引かれた、確実に引かれた。
けれど許して欲しい、私だって気付かなかったのだ。
そういえば映画のタイトルが美紀から誘われた際のそれと同一だったのを思い出し、私は更に落ち込んでいく。
ーー.....てか、それにしても怖過ぎだってアレ...!
上級者向けだから相当怖いと思う、という美紀の言葉通りの内容で、終わる頃には完全に腰が抜けていた。
「それで、何かあった?」
「え?」
「さっきよりも良い顔してるわよ」
「げっそりの間違いじゃないですか?」
そう言いつつ顔を触って確認してみるが、やはり自分では分からない。
しかし気持ちの整理がついた事実が表に出ているという事は、少なくともその整理の結果はネガティブな方向では無いらしい。
「....何かが分かった、それか納得したって所?」
「多分....それだと思います」
精一杯濁した返事を受けて、若狭さんは静かに笑った。
「そう....今日は助かったわ、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「貴方、巡ヶ丘の生徒よね?もし学校で会ったらお互い誤魔化しましょう」
その提案に頷くと、彼女は満足げに歩き出す。
ーー...帰ろう。
明確に得られたものは無かったが、それでも何かが変わった気がした。
それはとても些細で、でもとても大切な何かだった。
足音と呻き声が、私を夢の世界から引き戻した。
毛布を被りながら身体ごと隣に回転させると、親友の背中が見える。
この生活を始めて十数日、その間一切変わり映えのしない毎日は私と美紀の仲を悪化させるのに十分な材料だった。
つい数日前までは手を繋いでいた筈なのに、今ではお互いに背を向けて眠っている。
助けは、まだ来ない。
「....春」