目が覚めるとがっこうぐらし!(実写版)の世界だった。   作:RNKI

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2025/2/14 めぐねえと胡桃の会話139文字加筆修正(全9140文字)


第6話 うんめい

この世界に運命は存在するのだろうか。

私が何もせずとも、物語はハッピーエンドを迎えるとして。

それでも私は、足掻く筈だ。

 

 

 

「真帆ちゃんッ!!」

死を間近に感じていたというのに、湧き出るこの気持ちはなんだろう。

眼前に迫った化け物を蹴り飛ばし、すぐさま私を抱えて走り出す天音。

腕の中から見上げるその顔はとても頼もしく、素直な言葉で表すとカッコよかった。

 

ーー真帆ちゃん....か。

 

 

 

2段しか積み重なっていない未完成のバリケード飛び越え、私達は何とか安全地帯に辿り着く事が出来た。

バリケードの内側から廊下を数秒見つめ、彼らが追いかけてこないと判断して全身の緊張を解く。

「はぁ....はぁ....高城さん、大丈夫?」

「....え、あ、まあ」

彼らに襲われたせいか何処かはっきりとしない返事をした高城さんを地面に降ろした私は、そのまま重力に抗わず尻餅をついた。

ーーつ、疲れた....

高城さんを襲おうとしていた彼らの頭を蹴り飛ばし、そのまま彼女を抱えて全力疾走した為当たり前だが強い疲労感に襲われていた。

このまますぐに動き出してもただ疲れるだけなので、私は座ったまま何度か深呼吸をする。

まだ多少の息苦しさは感じるものの、数秒前よりは確実に楽になっている気がした。

「....天音っ、あれ」

同じく休んでいた高城さんが少しの動揺と共に指を差した方向は、先程走ってきたバリケードとは真逆。

その指先に目をやると、月明かりしか存在しない筈の廊下の一部屋に明かりが灯っていた。

ーーあの部屋って確か...

教室では無い倉庫か何かの部屋、実写版においてその場所は佐倉先生の部屋として存在していた。

「行こう、多分先生だよ」

私は勢いを付けて立ち上がり、そのまま高城さんへと手を伸ばす。

「立てる?」

「....ありがと」

彼女は遠慮気味に左手で私の手を掴むと、そのままこちら側に重心を預けてゆっくりと立ち上がった。

ーー少しは打ち解けられたかな。

自然と手を繋いだままその部屋に向かって歩いていき、扉に手を掛けたその瞬間。

 

「ひゃっ」

高城さんの可愛らしい悲鳴の後に、遅れてスマホの着信音が聞こえてくる。

「えっ?!天音さん?!」

ーーこの声....!

掛けた手をそのままスライドさせて扉を開けると、そこには想像通り佐倉慈先生が立っていた。

「佐倉先生!」

「無事だったのね、天音さんっ!....と、高城さん...」

佐倉先生は私の右に立つ彼女の姿を見て、少し言葉のトーンを落とす。

「先生、どうして私が居るって分かったんですか?」

「丁度電話を掛けた所だったの、それで外から音が聞こえたからまさかと思って」

「あっ」

ーーそういえば高城さんにスマホ預けたままだった!

「...まあ、持ってたのは私だけど」

その言葉と共に、一瞬の静寂が場を支配する。

佐倉先生の反応からして、高城さんの教師内での評価はすぐに理解出来た。

いじめというのはどう頑張っても見て見ぬふりは出来ないもの、粗方教師間の会話を偶然耳にしたという所だろう。

でも、それをこれからに持ち越させる訳にはいかない。

共同生活においての不信感は、例えどれだけ小さくとも集団を崩壊させるきっかけになってしまうのだ。

「持っててくれてありがとう、高城さん」

「べ、別に...それで先生、私達はどうすれば?」

「えっと...そうね、空き部屋が1つあるからそこを使ってくれる?」

「分かりました」

「じゃあ今日は一緒だね、高城さん」

「仕方なく、よ」

ーーうーん...

何とか仲の良さをアピールしたかったのだが、そもそもそこまで仲が良くない為これではただの不仲アピールだ。

「....じゃあその....2人共、着いてきて」

そう言って先を歩く佐倉先生を見ながら、私は明日以降の交流を想像して少し気が重くなるのを感じた。

 

 

 

申し訳程度の毛布を手に取り、それを広げながら地面に横たわる。

あの部屋と同じくらいの硬い床に寝転んでいるだけなのに、環境が変わるだけで安心感が段違いだった。

ーー...疲れた...

隣を見ると、今にも眠ってしまいそうな高城さんがぼーっと天井を見つめている。

お互い故意ではないとはいえ仮眠を取っていたのだが、やはり意味を為さなかったらしい。

私は少し体勢を変え、そのまま天井に目を向ける。

暫くすると本格的に眠気が襲ってきて、私は自然と半目になった。

軽い欠伸を一つして、そろそろ心も眠る準備を始める。

ーーめぐねえ、まだ起きてるのかな...

原作でも思い詰めやすい彼女の性格は、やはりこの世界でも変わらない様だ。

生徒一人一人に電話を掛けて、その都度心を痛める。

良くない行為だと分かっていても、恐らく誰も止めはしないだろう。

ーー....私が頑張らないと。

既に眠ろうと思えば眠れるレベルにまで睡魔はやってきていて、隣の高城さんは既に夢の中らしい。

明日からは校内の制圧が始まる、少しでも体力を回復させて備えよう。

そう思いながら私は、意識を手放した。

 

 

 

私は巡ヶ丘高校の養護教諭だった。

いや、養護教諭だ。

 

「先生っ!」

やや離れた場所で電話をしていた恵飛須沢さんが、真っ先にこちらへ駆け寄ってきた。

「どうしたの?知り合いの人?」

「校内に春...天音春が居るって!」

ーー天音さん?!

「やっぱり春が....?」

私が声を出すよりも前に言葉を発していたのは、妹さんと眠っていた筈の若狭さんだった。

そういえば天音さんと若狭さんは義理の姉妹だと聞いた事を思い出し、それならばこの反応も目を覚ましたのも納得がいった。

そして校内に天音さんが居るのなら、妹さんが無事屋上に辿り着けた事に関しても筋が通る。

「春は無事なの?!今何処に!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ!えっと...何人かと変な部屋?に立て籠ってるらしい、それで合流出来ないかって」

若狭さんに気圧されながらも何とか情報を伝えた恵飛須沢さんは、そのまま私に合流の提案を向けてきた。

「合流...」

出来る事ならその数名と合流したい、これは嘘偽りない真実なのだがそれがそう簡単に叶うとは思えなかった。

「だからさ、あたしは3階を制圧したい」

「...お願いします、先生っ!」

ーー若狭さん...

彼らが時間と共に校門から外へ出て行っているという恵飛須沢さんの証言と、屋上で一夜を明かす事のリスクを考えて出した結論。

それが、3階一部区画の制圧であった。

ーー急ぐ必要は無いって言ったけど...

彼女達が数時間後も生存しているかと聞かれて、確信を持ってしていると答えられる筈も無く。

「...そうね、でももう少しだけ待ちましょう?数が減ってくれるかもしれないし、準備も必要だから」

自分で言った言葉なのに、それは何故か他人事に感じられた。

 

他者を尊び生徒を導く、それは教師になろうと決めた私が真っ先に大切だと思った事。

けれど多分、今の私には。

 

 

 

目覚めは程々に悪かった。

カーテンの隙間から朝日が溢れ、室内は起床に丁度良い明るさになっている。

ーー高城さんは...まだ寝てるか。

私は彼女を起こさない様に、スマホを持って廊下に出る。

あまり学校では感じられない心地良い風は、無人の景色と合わさり少しだけ気分を上げてくれる。

私は近くの壁に寄り掛かると、そのままスマホを操作し通話ボタンをタップした。

ーー....モーニングコールって何するんだろ...?

 

「....も、もしもし...」

スマホから聞こえてきた声は、私の想像していた声とは完全に異なっていて。

思わず自分でも驚くくらい大きな声が出てしまった。

「え、圭ちゃん?!」

「は、春!やっぱり春?!」

「うん、おはよう」

「おはよ〜....じゃなくて!無事だったの?!」

ノリツッコミを決める圭ちゃんだが、その口振りから美紀ちゃんが私の事を伝えていなかったのだと分かる。

ーーあの時圭ちゃんは寝てるって言ってたから、その分美紀ちゃんより早く起きたのかな?

「何とかね、というかやっぱりってどういう意味?」

「起きたら美紀のスマホが光ってて、春の名前が映ってたから」

「あー...実は昨日、美紀ちゃんと電話が繋がって」

「昨日....そっか」

「それでその、美紀ちゃんを起こしてもらえるかな?」

「.....うん、分かった....って、うわ!」

「け、圭ちゃん?!」

「ワン!!」

「え?犬?!」

「ご、ごめんごめん!私と美紀の他に子犬も居てさ」

「急に大声上げたからびっくりしたよ...」

「あはは...あっそうだった、美紀起こしてくるね」

その一言の後、スマホからは微かな環境音しか聞こえなくなった。

今頃美紀ちゃんが叩き起こされている事を思うと、何故だか少し面白いと感じてしまう。

ーー...それにしてもあの声、絶対太郎丸だよね。

他の生存者と生活していない所も加味すると、アニメルートと考えて良さそうだ。

がっこうぐらし!において美紀ちゃんと圭ちゃんには3つのルートが存在している。

1つ目は生存者と共にモールで暮らし、火事によって部屋に立て篭もる原作ルート。

2つ目は概ね原作ルートと変わらないが、生存者は居らず代わりに太郎丸と暮らすアニメルート。

そして3つ目が、食堂に立て籠もり美紀ちゃんだけが生き残る実写版ルートだ。

まあ私的には圭ちゃんが知らない男に惚れる原作ルートなんて絶対認められないから、アニメルートで安心したんだけど...

い、いや別にそんな私欲だけじゃなくて、太郎丸が居るお陰で多少は2人の精神状態も良くなるとかそういう部分もあるんだからね!!

ーー...私は誰に言い訳をしてるんだ。

「ご、ごめん!おはよう春」

物音と共に聞こえてきた声は、先程とは違って今度こそ美紀ちゃんだ。

「おはよう、モーニングコールは失敗って事で良いのかな?」

「まあ私が起こされたのは圭だからね」

「残念、寝惚けた声聞きたかったなー」

「私寝起き良い方だから、期待するだけ無駄だよ」

私は出来る限り、いつも通りの取り留めのない会話を心掛ける。

もしかすると美紀ちゃんもそれを意識しているのかもしれないが、そちらの方が圧倒的に気が楽だった。

そうして軽い雑談を数分程行い、会話が途切れたタイミングで私達は本題に入る準備をする。

「それで...美紀ちゃん達と合流出来たら良いんだけど」

「学校は安全?」

「うん、とりあえず3階の一区画は制圧出来てるみたい」

「そっか...でも流石に...」

「...実は生存者の中に、佐倉先生が居るんだよね」

「佐倉先生ってあの保険の?」

「そう、だから車を出して貰えるかも」

「本当?!良かった...!」

「....でもその、駐車場までが遠くて」

それだけ聞いて察したのか、彼女は小さく息を呑んだ。

私だって出来る事なら今すぐにでも助けに行きたい。

しかしそもそも駐車場は南校舎側に無く、辿り着くだけで一苦労だ。

夜間に向かう事も考えたが、運転にリスクが伴うしライトで彼らが寄ってきてしまう。

つまり...

「...ごめん、すぐには向かえなさそう」

「ううん、それを聞けただけでも良かった」

「あ、でも絶対迎えに行く!...具体的な日にちは分からないけど、1ヶ月以内には必ず!」

「....うん、待ってる」

ただ少なくともこれを伝えておけば、原作の様に圭ちゃんが出て行ってしまう可能性はほぼ無くなる。

"助けが来るかも"と"助けが来る"はたった2文字の差でも大きく意味合いが異なるのだから。

 

 

 

「胡桃ッ!!」

「先輩?」

「逃げろッ!!!」

校庭からこちらに走ってくる先輩の表情は、それが冗談ではない事を示していて。

そうしてようやく、あたしは周囲の喧騒の異常性に気が付いた。

ーーなんだ...これ?

人が人を襲ってる?それに血が...

「胡桃!噛まれてないよな?!」

「...噛まれ?」

「噛まれたら感染する、アイツらみたいに...!」

何を言っているのか全く分からなかった。

噛まれたら感染する、そんな映画のワンシーンみたいな言葉を並べられてただ混乱するのみ。

「きゃああああああ!!!!!」

ガラスの割れる音と悲鳴。

慌てて上を見ると、こちらに向かって落ちてくる女子生徒の姿。

 

そして数秒後、最悪な音が響いた。

「ひっ!」

「胡桃!とにかく逃げるぞ!!」

「で、でも」

ソレから目が離せずにいた私は、すぐに異変を見つけられた。

ーー動いてる...?

仰向けに倒れ、血を流しながらモゾモゾと動き始めるソレ。

生気を失った目がこちらを見つめ、折れた筈の身体を強引に動かし始める。

ーーもしかして、これが...?

「胡桃ッ!!!」

突然背中を引っ張られ、あたしは一瞬宙に浮かされる。

反射的に地に足を着けると、先輩は迷わず校舎を見上げた。

「外はもう駄目だ、とにかく登るぞ!」

 

 

それからすぐだった。

先輩があたしの友達だったモノに噛まれて、屋上に辿り着いて。

 

そして....

 

 

 

『うわああああああああ!!!!!』

 

「ッ?!」

自らの叫び声によって、あたしは強引に起床させられた。

それが夢である事は理解していたが、それでも思わず周囲を見渡してしまう。

あたし以外の3人が目覚めない所を見て、心臓の鼓動が若干落ち着いた気がした。

ーー....最悪だ。

屋上で先輩を殺める夢、というより記憶の方が正しいだろう。

いつの間にか切れていた息を深呼吸で戻しつつ、同時にゆっくりと目を瞑る。

ーー大丈夫...大丈夫....

あたしはその記憶から目を背ける為に立ち上がると、3人を起こさない様に静かに扉を開閉させた。

「あれ、胡桃先輩?」

「....へ?」

電話越しでしか聞けていなかったその声を生で聞いた途端、一瞬にして色々な感情が身体から頭の方まで登ってきた。

ゆっくり声の方向に目をやると、やはりあたしの求めていた彼女が立っている。

「...は、春?」

「胡桃先輩、おはようござっ?!」

春の挨拶を遮るタイミングで、あたしは彼女に抱き着いた。

ーー春の匂い、春の温もり、春の身体だ...!

「....よかった....」

そうして頭まで登った感情は遂に涙となり、止める余地も無く流れ始めるのだった。

「ちょ、先輩くるしぃ」

客観的に見ればたった1日顔を合わせなかっただけ、けれど今のあたしにとってそれは数年単位の再会に等しかった。

両腕に力を込め、ただ全身で春を感じ取る。

そうして微かに伝わってくる心臓の鼓動を、彼女が生きている証拠とするのだった。

ーー...ちょっと速い?まあいいか。

「もう大丈夫だからな...あたしが絶対守るから」

「ま、守られる前に息があ」

「ちょっとそこの先輩、春が苦しそうなんですけど?」

「え?あ、ごめん!」

聞き馴染みのない声によって冷静さを取り戻したあたしは、慌てて春の身体から離れて数歩後ろに下がった。

「....あ、ありがとぉ...高城さん」

ーー高城?

春の目線の先を見ると、やはり知らない生徒が1人腕を組んで立っていた。

「えーっと...」

「2年の高城真帆です」

「あ、あたしは3年の恵飛須沢胡桃」

高城真帆はあたしの自己紹介だけ聞くと、さっさと教室に戻っていった。

ーー....んん、なんかなあ...

直感的に仲良くなれなさそうなタイプだと感じてしまうが、恐らく春の友人である手前それを口に出す事は出来ない。

「それで春はいつ此処に?」

あたしは話題を逸らしつつ、疑問点の解消を始めた。

「えっと...昨日の夜中に何とか」

「....電話くらいしてくれても良かったんじゃないか?」

「あ、その...胡桃先輩頼りになるから、3階の制圧で疲れてそうだなって思って...だから別にそういうのじゃないんです!」

「....ありがとな」

何とかお礼を絞り出すが、やはり不満は残っていた。

春は優しいから、言葉の通り本当に私を心配して電話を掛けなかったんだと思う。

けれどやっぱり、頼られなかった事実が悔しい。

ーーこれからはもう、絶対。

 

 

「姉さん、るーちゃんは?」

「また寝ちゃったわ、多分春の顔を見て安心したのよ」

「そっか」

あの後目覚めてきた姉さんに抱き付かれ、ついでにるーちゃんにも抱き付かれ。

そうして漸く私達は落ち着いて会話する機会を設ける事が出来た。

「佐倉先生、大丈夫ですか?」

「え、ええ...」

やはり思い詰めているのか、今朝から佐倉先生の顔色は優れない。

あくまでも教師である彼女にとって、私達を守る事が何よりもストレスになっているのだろう。

そんな自分を追い込みやすい先生だからこそ、少しでも自分達を頼って欲しい。

その為の心配の問いかけだったが、上手く誤魔化されてしまった。

「えっと、それでこれからどうするかなんですけど」

「まずは食料だろ、あたしらは人数も多いし購買辺りから取ってこないと」

「それにバリケードも完成させたいわね...あのままじゃいつ破られてもおかしくないわ」

「でもさっき見てきたんですけど、もう机と椅子無いですよね?」

「そう....ね」

丈槍先輩以外の全員が言葉を発し、結果としてそれぞれが近しい答えを持った様に感じられた。

「...3階の制圧しか無いんじゃないですか」

高城さんの無機質な提案から数秒経っても、それを否定する者はこの場に誰一人として居なかった。

つまりこれが此処に居る全員の答えであって、きっとそれぞれ口に出すのが恐ろしかったのだ。

こういう時高城さんは頼りになるなと思いつつ、周囲との仲が少し心配になってしまう。

「全員で行けば、何とか...」

「武器が足らないし、何より却って危険ですよ」

「っ...」

ーー高城さん、ちょっと佐倉先生に厳し過ぎない?!

「え、えっとまあ3階の制圧は少数で、バリケードは全員で作る。購買は3階を制圧した人達が様子を確認しながら行くって感じでどうですか?」

「...まあ春が言うならそれで良いけど、誰が制圧に行くんだ?」

ヘイトを完全に逸らす事は出来なかったが、とりあえず話を進める事には成功した。

後はこれさえ通れば..,!

「胡桃先輩と私...だと思います」

「春?!そんなの危険よ!」

真っ先に否定してきたのは、やはり姉さんだった。

「あたしも春は反対だ!」

「でも...」

次いで胡桃先輩にも否定されてしまい、私は若干の焦りを持ち始める。

けれど私にはどうしても行かなければならない理由がある、何とか説得しなければ。

「...私はそれで良いと思いますけど」

「はぁ?」

唯一の肯定意見を出したのは、やはりと言うべきか高城さんだった。

ーーでもこれ、まずいかも...

やや怒りを露わにする胡桃先輩とは対照的に、高城さんはあくまで声のトーンは一定のまま。

「天音が心配で心配で仕方ないのは分かりますけど、少しは冷静になってくださいよ」

「高城だったか?お前いい加減に...!」

「胡桃先輩落ち着いてください!高城さんも!」

2人の衝突が目に見えていた為、私は急いで会話に割り込んだ。

ある意味自分の立場としては助かったのだが、良くない方向に向かっているのは火を見るより明らかだった。

「先生っ」

「そ、そうね...2人に行ってもらうのが良いんじゃないかしら...」

その言葉に軽さを感じたのは私だけだろうか。

それを確かめる暇も無く、高城さんが教室から出ていくのを皮切りに会議は自然消滅した。

 

 

 

教室を立ち去った私は、足を止める事無く昨晩眠った部屋に向かった。

扉を閉め、未だ放置されたままの毛布と閉じられたカーテンを視認し電気を付けずに座り込む。

壁に背を預け、体育座りを半分崩して目を閉じる。

あの状況で言ってはならない事を言ってしまった、そんな自覚は流石にある。

私が特別だっただけで、基本アイツらに噛まれれば人間ではない何かになってしまう。

そうなる事が心配だと言うのなら、私も多少は同じ思いを持っているので共感は出来る。

けれど私にとってあの空間...というよりあの空気は明らかに異常だと感じたのだから、それに口を出す権利くらいはあって良い筈だ。

私は立てていた脚を崩し、もう片方の脚を立てて負荷を分散させる。

いじめっ子なんていう物をやっていた時点で大概そうだが、私は中学高校共にいわゆるスクールカーストと呼ばれる概念の上位に位置していた。

そしてそれはつまり、学校生活において人より多く好意を向けられるという事でもあって。

だからこそ分かってしまう、異常な好意。

天音姉はまだしも、3年生の恵飛須沢胡桃は明らかに変だ。

あの状況での否定に対して突っかかってくる、しかも怒りの感情を含んでいたとなれば互いに相容れない何かを感じても不思議ではない。

 

『えーっと...』

『2年の高城真帆です』

『あ、あたしは3年の恵飛須沢胡桃』

 

だからこそ私は、初対面の時から苦手意識を感じていたのだろう。

ーーそれに...

この学校に居る唯一の大人、佐倉慈先生。

自分から判断する事を極力拒み、なるべく波風を立てない様に安定若しくはその場の流れに沿った選択肢を選ぶ。

これが世間一般で言う大人という存在なのだとしたら、同じく私の苦手なタイプだ。

そうこう考えている内に眠気が強くなり、抗う事無く床に頭を付ける。

恐らく天音はこの後、恵飛須沢先輩と探索に向かうのだろう。

つくづく思う。天音は不思議な人間だと。

私のいじめを止めた時、私をどうにかして救った時、口移し...はまあいいとして、とにかく想像を超えてくる奴なのだ。

ーーまあだからこそ、変な奴らに好かれるのかもしれないけど。

眠気を受け入れて目を閉じる寸前、私もその変な奴らの中の1人かもしれないな、と柄にもない事を考えた。

 

 

 

あれから数分後、私と佐倉先生と胡桃先輩の3人が教室に残っていた。

ーー....そうだ、モールの事伝えないとっ!

「あの、佐倉先生。実はショッピングモールに友達が2人立て籠ってるんです」

「ショッピングモール?」

佐倉先生の疑問に合わせ、椅子に座りながらシャベルを磨いていた胡桃先輩が、視線を一瞬だけこちらに向けた。

「はい、ただかなり距離があって....佐倉先生、確か車通勤でしたよね?」

「そうだけど...どうして知ってるの?」

「そりゃめぐねえの車、赤いし可愛いし」

ーー教室でもたまに話題に上がってたっけ。

「....私の車なら何とかなると思うけど4人乗りなのよね...それに車の鍵も2階の職員室だから」

「行けるとしても多くて3人、それ以前に2階を制圧しないとって事か」

「勿論今すぐじゃなくて、ある程度安全圏が広がってからって感じなんですけど...」

「まあな、そいつらは助けたいけど流石に今すぐってのは....」

そこまで言って急に言葉を止めた胡桃先輩は、直後に謝罪の言葉を付け足した。

ーー顔に出やすいのかな、私。

2人を早く助けたいという思いが前面に出過ぎていたらしく、私は一旦それらから意識を外す事にした。

目の前の事から着実に進めていけば、必ず2人を助ける事が出来るのだから。

その為にもまずは、3階の制圧だ。

 

 

 

「答えろ、春」

「せ、せんぱ...?!」

 

「高城とはどういう関係だ?何でアイツの事ばっかり庇うんだ?」




ーキャラクター紹介ー
佐倉慈
巡ヶ丘学院高校の教師。
原作では国語教師だが、実写版では養護教諭である。
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