【完結】がっこうぐらし! 『誉れある死』獲得RTA   作:ハイカスカス

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お話の出来が微妙なので初投稿です。

前回の投稿、8月ですってよ奥様。時間が経つのって早いのね。もう12月…12!?うせやろ!?まだ多分11月だよ。
ここまで遅れた理由としましては、単純に私の気分の関係で筆が進みませんでした。本当に申し訳ない。


暖かい場所。いつか去る場所。

 

暴れ出した先生を鎮圧し、廊下には重い空気が漂っている。

るーちゃんとりーさんは倒れた理奈先生に抱きつき、貴依と圭は息を切らしながらも心配そうな目線を向けている。めぐねえに至ってはその場で立ち尽くしている。

走っていった美紀を追ってゆきもどこかに行ってしまった。

かくいう私も左腕が痛みを訴え続けており、なんだか動かしにくい。

というか痛い。さっきまではアドレナリンが出ていたからかあまり痛くはなかったが、だんだんと痛みが大きくなっている。

 

「っ!そうだ恵飛須沢さん大丈夫ですか!?痛い場所とかは!?」

「あー、さっきからこっちの腕が痛いな…」

「すみません少し触りますよ!」

 

そう言って左手を触診するめぐねえ。少しずつ手を動かしていくと、前腕に鋭い痛みを感じる場所があった。

 

「いっ…!」

「多分折れてますね…こういう時は折れていても折れていなくても折れていると考えた方がいいです。救急箱から幾つか応急処置用の物を持ってくるので待っていて下さい!」

 

そう言って走って去っていく。

 

「恵飛須沢さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫、じゃないかもしれない。ちょっと──」

 

──命の危機を感じた、と言おうとして口を閉じる。こんな空気で、しかも今まで助けてきてくれた理奈先生にそんな事を言う気にはなれなかった。

 

「──痛みが続いていて」

「すみません!お待たせしました恵飛須沢さん!」

 

そんな声と共に救急箱や保冷剤だったり教科書だったりを何枚か持ってきてめぐねえは私の前に座り込んだ。

 

「寝転んで、この台に腕を乗せてください。板で添え木を作ります。そのまま色々と処置をしますから、今日は絶対安静ですよ」

 

そう言って教科書で作った添え木をガムテープで固定し、そのまま三角巾を固定する。タオルで包んだ保冷剤も三角巾の間に入れ、そのまま寝かされた。

 

…まだ痛い。いや、痛みが引くことなんてそうそう無いだろう。でも…それでも、あの優しい先生を疑いたくない。

 

 


 

 

胡桃さんとりー先生を寝かせた後、すぐに掃除やバリケードの設置し直しが始まった。

さっきの下校放送で校内の元生徒達はほとんどが居なくなっていて、幸いにもバリケードの設置は早く終わりそうだ。

 

「それにしても、まさかこんなことになるとは思いませんでしたね…」

「雨が降っただけでこんな大惨事になるとはな…」

 

道中にある動かなくなったかれらを窓から投げながら、隣を歩いているりーさんと話している。こうして日常的な会話をしながらも死体の処理ができるようになってきた辺り、私も慣れてきたということだろう。

正直に言って、あまり慣れたくなかったが。

階段の前に到着したので、バラバラに崩れた机や椅子を拾い集め、組み合わせてバリケードを作っていく。

 

「ごめん、テープが切れた…まだ持ってる?」

「はい、ありますよ。少し待っててください」

 

りーさんがダクトテープを手渡してくる。タイミングが良かった、と言うべきか。遠征…ゆきが言うには遠足によってバリケードのための物資は有り余っていた。いくらでも使えるというわけではないが、昨日までの状態に戻す程度ならわけないだろう。

 

1階と2階を繋ぐ階段から進めてきたこの作業も、いよいよ最後の一つとなった。爆音に驚いてここを見にきたら、食堂に行ったりー先生が息を切らしながら帰ってきたことが懐かしい。まだ1週間も経っていないはずの出来事だったが、それでもここ最近の出来事が濃密すぎて一カ月ぐらい経ったような気すらする。

作業に集中し始め静かになったために軽く今までのことに想いを馳せていると、ふとこう思ったのだ。

 

────そういう面倒事、大体あの人(堀本理奈)が原因では?────

 

ふむ、よく考えればそうな気がする。物資を取りに行く提案も、遠征の提案も…今日、一階の方を見に行く提案をしたのもそうだったか。

振り回されているのも事実だが、それで私達は助かっている。私が助かったのも、りー先生が勝手に動いたからだと聞いているし。

 

……恩は、ある。信頼もしている。はっきり言って、あの時に暴れていたのが先生本人とは思えない。

 

「なぁ、りーさんはどう思う?」

「どう、って?」

「…さっきのやつだよ」

 

そう言って、一番上の机を固定する。ガタガタと軽く揺らしてみても崩れないことを確認して言葉を続ける。

 

「正直に言ってさ、私もあの人の人となりとか、細かいところまではよく知らないんだ。助けてくれたのも数日前だし。でも、あんな事をする人には思えない。刀を私達に振り回したり、遠慮なく蹴りを入れたり…」

 

それに、私は知っている。ゆきに構ったり、るーちゃんの遊びに付き合ったり。根っこはとても優しい人だ。

 

「それでもあの時は何かに乗っ取られてたり、それともやつらみたいになってたのかも分からないけど、ああなったのは絶対に先生の意思じゃないと思うんだ」

「…私も、同じ。色々なことで助けてくれたわ。るーちゃんを事故から救い出してくれてからの付き合いだけど、それから色々気にかけてくれて…」

 

「だからってわけじゃないけど、信じてる。それに」

「それに?」

「今まで助けられてばっかりだから、せめて苦しんでるだろう時は支えてあげたくて…」

「そうだな…どうせまた、1人で突っ込んで無茶をするだろうし」

 

恩返しだ、と言って続ける。

 

2人の間に変な空気が漂って、それがまた変で、2人で声を上げて笑ってしまった。

 

 

 

……廊下中の血痕の掃除で、また気を落とすことになるが…まあ、そこは話さなくてもいいだろう。

 

 


 

 

死んでしまったかのように動かない。眠っている。意識はなく、ただ穏やかにすやすや寝息を立てながら目を閉じている。

髪を撫でてみれば少し傷んでいるのが分かる。さてはこいつ面倒だからと髪洗ってないな?女の命と呼ばれるぐらいなんだからもっと大事にしなさい。

 

 

「起きたんですね理奈!異常はないですか!?大丈夫ですか!?変な状態になっていたりとか…」

「大丈夫だよ。ただ…ちょっと嫌な夢を見てた気がする」

 

なんか、ここのみんなと戦っていたような気が、と起き抜けにそんな事を言い出した親友に感情が爆発して抱きつく。

 

「本当に…本当に心配したんですよ!!」

「…ごめん」

 

そう言って抱き返してくる理奈。眠っている間はいびきや寝返り一つなかったので心配していた。魘される様子は無かったので、そこだけは安心していたが。

 

一度立ち上がろうとして、ふらつきそうになった所を支える。正直に言って、こういう姿はあまり見たことがない。ここ数日で急にこういう姿を見せるようになったが、風邪にでもかかったのかと思って聞いても、なんでもないの一言で済ませてしまう始末。

私が頼りないかと言えば目を伏せて申し訳なさそうにするだけ。…そういうところが私は気に食わないし、そういうところがほっとけないのだが。

 

「いってて…お、起きたか理奈先生」

「恵飛須沢さん動いちゃいけません!」

「大丈夫だって。もうだいぶ痛みも引いてきたし」

 

「おはようくる…は?」

 

まずい。理奈が最近精神的に不安定なのはわかっていた。だったらなんとかしてこの事実を隠しておいた方が良かったのは自明の理だったのに…これは私のミスだ。

 

「は、はは。うそ…だろ?」

 

血の気が引く、という表現を自分以外に対してここまで使いたくなる瞬間は無かっただろう。

動悸が激しくなる。顔を覗けば瞳が揺れている。肌には脂汗が浮かんでいる。

 

「じゃあ、あの夢は?ぜんぶ、ぜん…ぶ」

 

その全てが、彼女に重くのしかかるストレスと責任感を表していた。

 

「胡桃に斬りかかったのも、蹴りを入れたのも、あの時、2人に抑えられたのも…?はは、なあ、冗談なんだろ?嘘だと、う、そ…私、わたし、が?」

 

救いを求めるように胡桃に縋り付いている理奈。そこにあったのはいつも見せていた頼れる教師の姿でも、1人の友人として精一杯振る舞おうとする仕草でもなく。

 

「わたしが、やった、のか?わたしが、まもるべき子ども、を…?」

 

ごめんなさい、とうわ言のように呟き続ける。

 

…そこには機械のように刀を振って戦っていた戦士でも、教師として皆を導こうとする教師でもなく、ただ恐怖と責任への重圧と戦い、押し潰されている1人の等身大の人間がいた。

 

「理奈先生、落ち着いて…大丈夫。私はここにいる。腕は折れちゃって動かないけど…それだけ。無事だ。大丈夫。私は生きてる」

「うあ、ぁ?」

「私に謝ってくれてありがとう、先生。でも大丈夫。理奈先生はこんなことはしない、優しいってみんな分かってるから」

「…」

「しばらくしたらまたゆっくり話そう。それまで待ってるから…」

「……少し、1人で考えさせてくれ」

「行こう、めぐねえ」

「…あっ、ごめんなさい」

 

つい、ぼーっとしていた。

 

「ごめん、慈」

「…分かった、私達は一旦出ておくわね。無理をさせてごめんなさい」

 

そうしていなければ

 

「げほっ、げ、がっ…!」

 

この小さな綻びに気づけたかのしれないのに。

 

 


 

 

「…私の心配を返してくれない?」

「ごめんなさい」

 

理奈先生が無事に起きてしばらくしたらここに来るだろうと言われ待っていると、その言葉通りにドアを開けてやってきた。

…大きい機械を抱えて。

 

「言い訳!言い訳させて!もしもの時に救助を呼べるようにしたかったの!」

「…言い訳は、それだけ?じゃあ私からかける労いの言葉は、わざわざこれを地下から運んできてご苦労様、ってところね」

 

あああぁぁぁぁ…という情けない叫び声を響かせながら、理奈先生は別室へと引き摺られていった。昨日の夜は通夜のような静けさだったのが、今は部屋の隅々から堪えるような笑い声が響いてくる。先生の元気な姿を見られて安心したからなのか、私も気が抜けてしまっているのかもしれない。

ふふふと笑いを漏らして、ふと傍にいるるーちゃんの頭を撫でる。

 

「…また、楽しくなりそうね」

 

満開の笑顔をこちらに向けられながら、そう呟いた。

 

 

 


 

 

 

「ごめんりー先生!ちょっとトイレ行ってくる!」

「ん?ああ、いいぞ。いってらっしゃい由紀。私はこっちで太郎丸と…わぶっ、ちょ、やめ、やめて…わははは!!ちょっ、舐めるなって!」

 

もみくちゃにされるりー先生を置いていってトイレにかけこむ。遊んでて気づいたらちょっとあぶなくなってて…ギリギリ間に合った!

 

 

 

 

 

 

すっきりしたので流す。ふぅと息を吐いた。

でも、何かがひっかかる。なんというか、見逃してはいけない何かがあるような…

 

「…これ、血?」

 

壁に少し跳ねて飛んでしまったような血痕がある。軽く指でなぞれば、指を動かした通りに赤い軌跡が描かれる。そして、元々血痕があった場所には赤くて丸い痕が残っている。

ただ血痕があるだけなら良かった。それだったらよくある事。教室なんかでさえ隅々まで掃除ができていないのに、トイレ血痕の一つや二つ、気にしても仕方ないだろう。

だが、拭えば痕ができた。これは血が乾き、固まる前…つまり最近、それも数時間と経つ前にできたものだ。

 

ふと周りを見回してみれば、壁の低い位置には同じような血痕がついている。

 

…なんだか、いやな予感がする。

 

胸騒ぎを心の中にしまってトイレを出た。

 

「ただいまー!」

「おお、おかえり。おーよしよしよし。太郎丸はいい子だなー」

「わたしもなでてー!」

 

おなかを見せてわふわふ言っている太郎丸と、抱きついて頭をなでてもらっているるーちゃん。

うーん、楽しそう!

 

「私も混ぜてー!!」

「ひゃっ!さすがに今飛びかかられるとさすがにバランスが…ウワーッ!」

 

がらがらとまわりの物をまきこみながら部屋を転がる。

壁にドシンとぶつかっても先生はイテテと言いながら立ち上がって、そのまま笑った。

 

 

そのままみんなで笑った。

部屋をめちゃくちゃにしたからか、りーさんには怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーだん?」

 

「…そう。雨の時からずっと考えてたけど、どうしても理奈先生が悪い人とは思えなくて…なんというか、色々と教えてほしい。あの人がどんな人か」

「ふふーん!分かった!りー先生はね…」

 

ああ、でも、なにがあっても。みんなが揃っていれば乗り越えられる。そんな気がして止まないのだ。

 


 

 

あめがふってからすう日がたち、私たちの生活もおだやかになってきた。

ごはんなんかも落ち着いてきていて、みんなゆっくりしている。

 

「今日も飯が美味いなぁ…」

「うん。おいしい」

 

ラジオからはどこかで聞いたことがあるようなクラシックがながれている。ここだけ見ればふつーのにちじょうだ。まどの外と廊下を見なければ。

でも、なんだかまんぞくしている私もいる。

こうしてゆっくり、ゆっくり。こうしてのんびりするのは、いがいと楽しい。

 

…ただ、そんな中でもトラブルはおこる。それはめずらしくラジオからだった。今まではすこしおはなしをして音楽をながすだけだったのに、きゅうにこんなことを言いだした。

 

『あー、うん…さあ!今日は特別にゲストの募集をするよ!』

 

空気がぴんと引きしまる。それはまるでたたかっているときのようで…

 

『リスナーのみんなも私1人が話すだけは飽きてきちゃっただろうし、ここらでゲストをお呼びしたいと思ってるんだ』

 

そうなんだ。行ってみたい!と思う。そのほわほわした考えは、すぐ後にきこえたのりー先生の声できえてしまった。

 

「っ…!るーちゃん、メモとペンある!?」

「ちょっとまってて!」

 

えーと、たしかこの辺にお絵かきに使ったペンが…

 

「あった!」

「でかした!」

 

『それで、住所は────』

 

しばらく、ペンを走らせる音だけがへやにひびいた。

 

…このあと、先生は1人でこのラジオのおねえさんのいばしょに行こうとしておせっきょうされた。それとこれとは話が別だよりー先生!

 

 

 


 

 

 

なんとか

 

『…病み上がりでしょう!?無理しないでください理奈。本当に、無理、だけは…』

 

親友と生徒達を

 

『……理奈先生、大丈夫なんだな?いや、大丈夫じゃないだろ?』

 

説き伏せ

 

『わっ…かりました。正直、本当に、ほんっとうに行かせたくはないんですが、今回だけは許しましょう。た!だ!し!何かあったら絶対にこの無線機で報告すること!…1人だけで死ぬなんて、許さないですよ』

 

られずにほぼ独断で出奔した。極め付けにあの目。あれはどうしようもないバカ息子相手に約束をする母親の目だった。

自分でもなぜここまで信用されているのか不思議ではあるが、まあ、出れたのだから良しとしよう。

ボロボロになったアスファルトを踏み締めて歩く。時折地面の穴に足を取られながらも、なるべく音を立てないように目的地へ向かっていく。

 

「おっとと…ふぅ、危ない」

 

最近はちょっとした段差でもつまづきそうになった。

…分かっている。分かっているよ。もう先が長くないことぐらい。でも、体に鞭を打っても動かなきゃいけない。あの子達がしっかりしているとはいえ、慈1人ではちょっと心配。だから…私以外にもう1人、いてほしい。

 

「おい、この辺にまだ物資が残ってるってほんとかよ」

「んー、まあ大丈夫だろ。ここ最近は人の気配しなかったし」

 

(人…!?)

 

「にしてもやばかったなー。雨の時どうしてた?」

「ひたすら逃げ回ってたわ。あいつらほんとキリが無くてさ」

「ははは、分かる。全員で居たら足引っ張り合ってたかもな!」

「そうなったらまず切り捨てるのはお前だな!」

「なにおう!」

 

まずい。相手が友好的だという保証は無いし、下手に見つかれば逃げるだけの体力は無い。どうする?どうすべきだ?

 

とりあえず、ここから離れないと…

 

「うそ、なんっ…!」

 

体が思い通りに動かない?なんで…

 

その疑問に答えるように、足はアスファルトを踏み締めて前に進んでいく。

そのまま、私を動かす『何か』を感じて、私の意識は閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い眠りから醒める。

足元が水っぽい。足場を確かめるように足を踏みしめれば、べちゃべちゃとした感覚が返ってくる。

目を開く。

視界を支配したのは一面に広がる赤。鼻を衝くのは強い鉄の匂い。

 

頭が否定する。

 

私が殺したんじゃない。

 

心が否定する。

 

刀がやったんだ。

 

状況が肯定する。

 

お前以外に誰がやった?

 

思考が肯定する。

 

なぜ殺したんだ?

 

 

…はは、そんなわけがないだろう。殺す理由が無い。

だが、あらゆる現実が、そんな思考を叩き潰す。

散った肉片が。地に垂れる血液が。腐っていない臭いが。

そして、こちらを見つめる首が。

 

関係は無い。だけど、その頭が、一瞬、本当に、一瞬、私が傷つけた生徒と重なって…

 

自分が嫌いになった。

 

『何か』が肯定する。

そうだ。お前は最低な人間だ。ここに居た青年と同じように、お前の大切な人も、お前が殺す。

そうだ、堀本理奈。

 

 

 

 

 

 

お前が殺した。

 

 

 

「うう、ゔ…あ゙ぁ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっっっっっっ!!!!!!」

 

 

 

 

地面に倒れこんで呻き声をあげる。落ちた首がこちらを見つめている。

肌が、湿った布に触れている。服が血に濡れたのは初めてだった。

 

 

 


 

 

 

らしくないことをしたと思った。

放送が単調になっちゃうから、なんて理由をつけたけど、結局私があんなことを言ったのは寂しいからだ。

 

シェルターの中では時間の把握すら難しい。いや、時計はある。でもそれだけだ。日光は大して入ってこないし、話し相手も居ない。インターネットすら繋がらないからここから外の情報を集めるなんて不可能だ。

 

はっきり言う。怖い。

 

このまま誰とも話せず死んでしまうんじゃないか?誰も私のことを忘れてしまうのではないか?今までの私の行動は、全て無駄だったのではないか?

そういう考えがずっと頭の中をぐるぐると漂っていた。

 

「すみません、開けてください…」

「…誰か来たのか?」

 

…声がした。幻聴だろうか。

 

「すみませーん…放送を聞いて来たんですけど…」

 

ああ、そうだ。きっと都合のいい思考誘導に決まってる。

 

「開けろ!デトロイト市警だ!」

「ひぅえ!?」

 

…こんな事を言うなら幻覚ではなさそう。とりあえず、ドアを開けることにした。デトロイト市警ってなに?

 

「よかった。開けてもらえた…」

「ええっと、あなたは?」

「近くの小学校で元々教員をしていた者です。あなたの救出のためにここまで来ました」

 

そう言って目の前の彼女は頭を下げる。服や肌にはべっとりと血がついているが、その顔を見る感じ凶悪さなんかは感じない。今の判断材料だけでは信用しきれるか微妙なところだ…

 

「助け…に?まさか、あの放送を聞いて?」

「はい。今は色々あって高校の方に身を寄せているんですがね」

 

はははと乾いた笑いが口から漏れている。目元を見れば隠しきれていない隈が目立っていた。相当苦労しているのか、それとも恐怖に震えていただけなのか。

 

「…私、犬飼なぎさ。とりあえずよろしく」

「堀本理奈です。よろしくお願いします」

 

握手を交わす。その手からは確かに暖かさを感じた。

 

「それで、私の放送を聞いてくれてここまで来てくれたんだよね。こうやって聞いてくれる人が居てくれて嬉しいよ。誰かがこの放送で希望を持てれば、って始めたけど、実際に私以外の人が居るなんて確証は無かったから」

「あはは、本当に助かってましたよ。『私達以外にも、生きてる人が居るんだ…!』って。うちの生徒達も食い入るように聞いてて」

「へえ、一緒に避難してた子供達もわざわざ聞いてくれてたんだ…嬉しいな」

 

この言葉は裏も無い事実だ。実際にこの放送で救われた人が居るのなら、私としても誇らしい。

 

その後は労いとしてただの水で乾杯をして、その後しばらくして、こんな提案をされた。

『私達の学校に来ないか?』と。聞いてみればここと同じような通信設備は確保できているらしい。1人で居るよりも楽しくできるだろうと。

 

このまま彼女の善意に甘えてしまっていいのだろうか。…いや、いいのだろう。今この世界に残った人間がどれほど居るのか分からないが、その中で生き残っている人の善性ぐらい、信じよう。

 

 

 

 

 

空腹だったであろう彼女に水のお返しとしてお菓子を振る舞った。指を拭って恐らく学校の方の仲間に無事を伝えた彼女は、なるべく早くに出発しようと言う。

こちらにあった物資の大半をちょうど停めてあるキャンピングカーに移動させている。途中彼女がすっ転んでしまう事故が起こったが、無事に積み込みは終わった。

 

「準備できたよ。すぐに行く?」

「ああ。ありがとう」

 

さっさと乗り込みエンジンをかける。バッテリーや燃料が切れている!なんてことはなく、小気味いいエンジン音を鳴らしてキャンピングカーは走り出した。

 

助手席を覗くと、手慰みに刀をかちゃかちゃと弄っている彼女が目に入る。何か遠慮しているのか、怖がっているのか。しかししばらくして、この静けさが気になったのか口を開いた。

 

「…少し、話したいことがあるんだ」

「話したいこと?私に?」

「というよりも、頼み事って言った方がいいかな」

 

一息ついて、また話し出した。

 

「私は、もうこの先長くない」

「!?」

 

空気が凍る。

 

「別に、アイツらの同類になるってわけじゃない。ただ、ちょっと治らない病気にかかってるってだけだ。…自分の体のことは、自分が1番よく分かっている」

 

「だから…もし何かがあって私が危険になった時は迷わず私を見捨ててほしい」

 

何を言っているんだこいつは?

 

「正気?それに、なんで会ったばかりの私に言うの?…そもそも、私以外の避難してる人はあなたの決断を知っているの?」

「会ったばかりだから言うんだ。私が言うのもなんだが、私の友人も含めて、あの子達は優しすぎる」

 

もちろん、それはいいことなんだけどね。と付け加えている。

 

「だからこそ、君に頼みたい。…もちろん、君がとても優しい人だということは重々承知だ。だけど、もう君しかいないんだ」

「本当に、何を言って」

「私の死に、彼女達を付き合わせたくない。もちろん、君も。ただ、これは誰かがやらなきゃいけないことなんだ。…これはただの我儘だ。友人に私の死を背負わせたくないからと、昨日まで顔も知らない他人だったあなたに代わりに背負わせようとしている。それに…伝えるのが怖いんだ。こんな秘密を、打ち明けてしまっていいのか、と。全く、自分は本当に情けなくて、卑怯で、わるいやつだ」

 

「私を見捨てて殺してくれ、なんて。本当に反吐が出る」

 

そう言って顔を覆って天井を見た。そして、車内にはまた静寂が満ちる。

 

「随分と自分勝手なんだね」

「そうでもしないと隠しきれないのさ」

 

頭の中で考えを回す。本当に、そんなことをしてしまっていいのか?私の恩人に?助けてくれた人に?

 

「もちろん、断ってくれてもいいさ。そうなったらそうなったで、私は私で頑張るよ」

 

でも、なんだか、やってもいいか、というか。そんな感じに思ってしまう。本来ならば人の命をもっと重く感じるべきのはずだ。麻痺、してしまったのだろうか。

 

「…分かったよ。その事はやっておく。ただ、あまり期待しないでよ?」

「本当に、本当にすまない。迷惑と心労をかける」

 

 

気づけば、車は目的地に到着していた。

その後の自己紹介も、校舎の案内も、なんならその次の日に放送した日課だったラジオも、どこか上の空だった。

 

急に人の命を背負ったという事実が、私に重く重くのしかかっていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

空が茜色に染まり、校舎がオレンジ色に染まる頃。私はある人を探していた。

 

「ぁ…いた…すみません理奈先生」

「ん?どうかしたか?」

「…少し話をしてもいいですか?」

 

話を切り出す。そこで何かを察したのか、そのまま手をちょちょいと動かして使われていない教室へと誘導された。

 

「周りに誰も居ない時に言いにきたから、ちょっと言いにくいことかと思って。余計なお世話だったか?」

「いえ、わざわざ気遣ってくれてありがとうございます」

 

これは紛れもない本心。

実際にみんなの前で話すには勇気のいるものだったし、少し、躊躇というものは、ある。

 

口の渇きを感じながら、息をふっと吸う。

 

「あのぉ…ご、ごめんなさい!私、堀本先生のこと誤解してたみたいで…」

「…」

 

…先生は俯いたまま話を聞いている。

 

「あの時助けてもらったのと、あの時に暴れていたのがどうしても同じ人だとは思えなくて、あの刀が私に向けられたらと思うと…もう、怖くて」

 

 

「大丈夫」

 

そう言って肩に手を置いてくる。

 

「それが『過ち』だと思ったなら、そこはこれから直していけばいい。あなた達はまだまだ長い人生を歩んでいくことになる。十分時間はあるんだから、ね。それに私と会ったのなんて、1週間と少し前ぐらい。お互いのことが何も分からないのは当然だから…」

 

優しい笑みを浮かべて肩に置かれた手が撫でるように頬に添えられる。

 

「これからもっと互いを知っていこう。いつかまた、私がそうなってもソレを別人だと呼べるように、ね」

 

 

「! ありがとうございます!改めて、これからよろしくお願いします!!」

「よかったー!」

「わわっ」

「2人ともなかよくなれたみたいでよかった!!」

「ゆきちゃん!?なんでここに…!?」

 

「…ふふっ」

 

穏やかな時間が流れ始めた。これからもずっと続く、優しい時間だ。




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