It is calm and it is a passionate magic boy. 作:桜井舞人
バニングス家のとある一室に僕は最後のけじめをつけにやって来た。
「アリサ……僕の一番。僕の太陽だった君。
アリサ。悪い……約束、守れなかった。
ごめんなアリサ。
僕は……僕は出て行くよ。
やりたいこと……いや、やらなきゃならないことがあるんだ。
だから……サヨナラだ。元気でやっていて欲しい。」
僕は額にキスをして、魔法をかける準備をする。
そこに表情は無く、仮面などではなく、まるで人形のようだった。
「マスター……本当にそれでいいんですね?」
「構わない。」
「貴方を否定することになるんですよ??」
「構わない。僕は……俺はマスケラだ。」
「後悔はしませんか??」
「無論だ。コイツを巻き込んだほうが後悔する。」
「分かりました。」
アリサの記憶から、花菱叶(ボク)が消えた。
俺が今消したから。
役所からも僕の名前を消した。
この世界で僕のことを知っているのは会社の人間と那賀川さん達だけだ。
後は痕跡を消すだけ。
ひとつひとつ確実に消去していく。
そこに花菱叶(ボク)なんて存在がなかったかのように。
痕跡を消していく。
部屋には塵一つ、髪の毛一つ残さないように運び出した。
誰にも見えず、声も聞こえず、気配を感じられない。
まさに僕ははこの世(地球)で幽霊みたいな存在になってしまった。
もうアリサに会うことはないだろう。
なのはもはやても。
そしてすずかちゃんにも……
デビットさんには何もいえないことを残念に思っている。
何も残せないことを悔やんでいる。
でもやっぱり、地球(ここ)は僕の居場所じゃない。
もとより分かっていたはずなのに……
何でこんなに悲しいんだろう。
何でこんなに涙が出るんだろう。
何で近くにいるアリサがこんなにも遠いんだろう。
こんなにも愛しくて、いつも素直になれない自分が悔しくて、悲しくて。
いつもああしてたら、こうしてたらと後悔する。
今になってこんなににも後悔するのだったら、いっそ言ってしまえば良かった。
ただ一言。
目の前で。
愛しい君に。
「愛しています」と……
僕は握っていたアリサの手を離し、その場を立ち去った。
否、立ち去りたかった。
そう、“俺”は立ち去れなかった。
“僕”の手を握る女性によって阻まれたからだ。
「待ちなさいよ。」
一体どういう事なのか。
魔法が効いていない??
だが、役所はこれで大丈夫だった。
学校の人達もこれで平気だった。
なのに、何故、何故彼女には効いてくれない。
「アンタ……どこに行くつもりなの?」
「私と貴方は知り合いではないはずですが―――答えるべきですか??」
「はぁ!?何バカなこと言ってるのよ!
アンタはアタシの家族!何すっとボケたこと言ってんのよ叶!」
何故……何故効いてくれないんだよアリサ!
僕の事を忘れてくれなくちゃ!
お前だけは僕の事を忘れてくれなくちゃだめなんだ!!
迷ってしまう。
行きたくなくなってしまう。
決意が鈍る。
仮面を……仮面をかぶる事が出来なくなってしまう。
「叶―――どなたの事でしょう。
私の名前はジョルジェット・G・スカリエッティ。
出身はミッドチルダ。
管理局本局第1096航空隊所属、コードネームマスケラ。
マスケラ執務官だ。
叶などという存在は知らない。」
徐々に記憶を消す魔法をかけていく。
「違うわ!貴方は、貴方は花菱叶。
アタシの大切な家族で、いつでも一緒にいて、最近帰ってこない事もあるけど……
アタシの!アタシの大切な……大好きな男の子よ!!」
「―――ッ!!」
こうなってしまったら実力行使しかない。
「目を閉じるんだ。
目を閉じて寝て起きたら忘れてるよ。
僕の事も、きっと忘れられる。
だからサヨナラですアリサ―――アリサ・バニングス。
僕も君の事を愛していました。
でも僕はジョルジェット・G・スカリエッティなんです。」
「絶対に忘れないわ。
絶対に忘れない。たとえアンタがアタシを忘れても、絶対に忘れてなんかやらない。
だから―――」
アリサは僕に口づけをした。
不意に僕の目から……そして彼女の瞳からも涙がこぼれた。
「サヨナラは―――しないわ。またきっと会うから。
会ってみせるから。
だから、また、ね。」
そして彼女を意識が落ちた。
睡眠魔法が効いたのだろう。
「いいえ、やはろサヨナラですよアリサ―――」
こうして俺は外に出た。
仮面をかぶりマスケラとしてバニングス家を後にする。
外に出ると予想外の人物が立っていた。
「やはり行ってしまうのですねマスター。」
「お前のマスターははやてだ、リインフォース。」
そこには銀髪の美しい女性がいた。
空から白い冷たい涙が降ってくる。
雪だ。
目の前の女性がこんなにも似合うなんて思ったこともなかった。
「貴方も私のマスター……いえ貴方こそ私のマスターです。」
「夜天の魔導書ははやてのものだ。」
「貴方がそういうと思って置いてきました。守護騎士達も……
本来私は消えるべき存在。
いえ、消えるはずだった存在です。
私が今ここにあるのは貴方のおかげに他なりません。
貴方が望むなら消えましょう。
貴方が何も言わないなら付いていきます。
貴方が望むなら力になります。
貴方が望むなら支えになります。
全ては私の望み。
私に命令をして下さい。
貴方の真実の声で。
貴方の本当の望みを、私に教えて下さい。」
「僕は………僕の望みは………」
「では先に言わせて欲しい。
私の望みは先ほど言ったとおり、貴方の側にいることです。
もっともデバイスとしては欠陥だらけですが。」
僕の……望み??
僕の望みって一体なんだ?
僕は何の為に生き、何の為に戦うんだ??
分からない。
答えは誰にも分からない。
返ってこない。
「勝手にするがいい。」
「はい、勝手にします。」
すると隣に立ち、腕を組んだ。
「なぜそんな事をする必要がある。」
「マスターが勝手にしろといったんですよ?」
「………勝手にしろ。」
「はい。勝手にします。どこまでも。いつまでも。マスターの側に……」
そして僕らは戦場へ。
僕が……俺が起こす、反逆という名の戦場へと向かう。
Side out
Side アリサ
目が覚めたら何か違和感があった。
隣の部屋には何か大切なものがあったはずだった。
ソレがなんなのか実は分かっている。
だが、ソレが薄っぺらしく感じる。
花菱叶という存在は確かに私以外に知っているのは本当に数人しかいないみたい。
お父様に聞いても押し黙ったまま何も言わないし……
なのはもすずかも、あの転校生のはやてとかいう子に聞いても分からないという。
アルバムを開いても、どの部屋を覗いても、携帯を見ても存在しない。
来る日も来る日も胸がモヤモヤする。
でもアタシはアイツに会うと約束をしたのだ。
でも、徐々にアイツの記憶が消えていく。
叶と過ごした日々を。
叶への想いを。
叶……アタシは忘れてなんかやらない。忘れてなんかやらないんだから!!
Side out
そして月日は流れていった。
~10年後~
「ん……マスケラくぅん、出かけるのぉ??」
目を擦りながらもベッドからのっそりとこっちに来るクイント。
こんな姿をゲンヤさんに見つかったら殺されるな。
と思いつつも的確に、短く、必要最低限の返答をする。
「あぁ、出向だ。」
「貴方が!?」
「そうだが。」
驚いたらしい。
1096隊隊長が新設の部隊になんかに出向になることが。
普通ならありえない。
左遷もいいところだ。
部隊長は俺よりも階級が下の奴。
他の奴らもそうだ。
正直言って迷惑もいいところだ。
「受けたの??」
「局長命令でな。逆らえんよ。」
「そう……ねっ、次はいつ帰ってくるの??」
ニコニコとこちらを見るクイント。
まるで新妻だ。
「知らん。もう時間だ。行く。」
「もう……じゃぁ行ってらっしゃい。」
チュッと軽くキスをする。
ますます新婚のようだ。
もっとも相手は人妻なのだからありえないがね。
「あぁ。そうだ……そろそろ動く準備をしておけ。」
「了解!全ては貴方の仰せのままに。」
クイントのその言動に罪の意識を感じた。
俺は局長室へと向かった。
局長室に向かうと、何やら室内でいい争いが聞こえる。
「なんで会えへんのや!」
「ちゃんとした理由があるのなら会わせるけれど??
あるのかしら、私を納得させるだけの理由が。」
「だからゆーてるやないですか!
新設の部隊に来ていただくから、部隊長として事前にお礼と挨拶をって!」
「は、はやてちゃん!上司!上司だからね!落ち着いて!落ち着いてよぉ~。」
また面倒ごとか。
しかも話の内容的に、今度の俺の上司じゃないか。
面倒だ。
しかも局長の奴、弄って楽しんでやがる。
ぜってー俺を呼んだの忘れてやがるな。
「その程度の理由で(コンコンッ)何!?もう時間か。
……お前運がいいよ全く。
ちょうどその例の奴がここに来た。
挨拶とやらを済ませてとっとと帰れ。
入れっ!」
ドアを開けると、局長と女が3人程いた。
一人はショートで活発な感じ。
一人は教導隊のエースオブエース。
「失礼します。マスケラ一佐入ります。」
「「一佐!?」」
調べが足りんな。
全く持ってお話にならん。
「局長。どのようなご用件でしょうか。」
「む、こいつらが例の部隊の奴らだ。
ソレについても話があったのだが、タイミング悪かったらしい。」
「そのようで。外まで聞こえてましたよ。」
急に居心地の悪そうになった2人。
そうなるなら最初から言い合いにしなきゃいいのにな。
「ご所望のようなのでご挨拶を。
マスケラ一佐です。
お飯事の様な子守を引き受ける気はありません。
が、仕事はちゃんとしますからご安心を。」
「な……なんやて??」
「言い直しましょう。
新人の世話をする気はないといっている。
第一私はこの配属に不満を持っている。
主力なるメンバーに新人が加わるなんて馬鹿げている。
引き抜くならもっとまともな奴にすればいい。
いるだろう?お前達のネームバリューなら選り取り緑だ。」
するとその発言が癇に障ったらしく、顔が真っ赤になる。
「確かに部隊としては土台もしっかりしてる。
部隊として成り立つ逆三角形のパラメーターだ。
しかし、上の人間の殆どがリミッター付き。
いつでもほいほい解除できるわけでもない。
で、一番強い魔導士の八神はやてが余り戦闘に出ない。
高町は最前線には出ず、新人のフォロ-する。
つまり仮に俺が入ったら、前線には信頼できない新人と俺。
とてもじゃないけど嫌だね。
いつでも新人のフォローしつつ最前線で戦うなんて無理だ。
自分達がその立場になって考えてみろ。
相当の恐怖、あせり、葛藤を味わうぞ。
無論味わうのは我々でなく、その新人どもだということも知れ。
第一ウチの部隊から何人引き抜いたと思っている。
おかげでこちらは活動できず、一度解体することになった。
その所為でこの私が出向する羽目になったんだ。
反論は聞かん。以上だ。」
言うだけのことを言った。
八神はぷるぷる震えてるし、高町は目に光がない。
「それで??局長が私を呼び出した件はなんでしょう?」
「ん?あぁこの部隊の件だ。
まぁ少しは手伝ってやれと言いたかっただけだ。」
「そうですか、なら私はこの辺で。引継ぎがありますので。」
すると八神は俺を引き止めた。
「何だ……どけ。俺は忙しい。」
「ウチ等が使えるようにする。
ウチ等が使えるようにするから……手伝って下さい。
お願いします。」
部屋の真ん中。
俺と局長の見える位置で頭を90度まで下げ、お願いをする八神。
正直乗り気ではない。
だがこの部隊には、俺の中でも厄介者の種がかなりいる。
手伝ってやらないわけでもない。
「ふん。精々頑張るんだな。
基本的には俺一人で制圧できる。
俺の邪魔をしない奴を育て上げるんだな。」
そういって今度こそ局長室を離れた。
これが、俺と6課との始まりの物語。
正直この後こういう展開になるとは考えてなかった。
いや、候補には合ったが、一番確率が低かった。
世の中なかなかうまく回っていないと本当に思う。
Side はやて
「な……なんやねんアイツは~~~っ!!」
「はやてちゃん、抑えて抑えて!
上司の前、上司の前だからねっ!」
ついムカついて、その場で地団駄踏んでもうた。
えぇいなのはちゃん離してーな!
「何が俺一人で制圧できるや!
仲間があって、部隊があってこそ生きてやっていけるちゅうねん!
それが普通やっちゅーに!
隊長ならそれくらい理解できるやろ普通!」
突如局長がマカボニーの重厚で威厳のある机にひじを付いた。
今まで重く、開かなかった口が開いた。
「部隊長だからだ。」
「え??」
「部隊長だから……他人の命を預かる立場だからだ。
人の命は平等に重い。
重いからこそ、なるべく危険にさらしたくない。
さらしたくないから自分でかたを付ける。
ソレを繰り返してきたらこそ隊長で、一佐なんだ。
だからアイツの部隊は怪我あっても死なないし、死なせない。
1096舞台の黒い噂の殆どは昔のことであって、今ではない。
今は殺されず、殺さず、法を犯さない。
正に部隊長の鏡であり、局の誇りだ。
アイツを見て学び、いい所を吸収しろ。
そうさせる為に組み込んだのだ。
精進しなさい、八神はやて。」
まるで後光が出てるような感じや。
窓からもれた夕日で局長の表情を読み取ることが出来ないが……
恐らく、いや十中八九笑顔なんやろうな。
しかしアノ局長にここまで言わせるなんて……
というか学ぶものなんてありはせん!
あんな仲間を役立たず呼ばわりする奴から学びたくないわ!
「はやてちゃん。局長の言う通りだよ。」
「なのはちゃん!?」
なんでなのはちゃんまでアイツの肩を持つんや!
ウチがおかしいんか?
ウチの言っとる事まちごうとるか!?
「あの人は優しい。
口は悪くなってきちゃってるけど、いつも他人を心配してる。
私のことだってそう。
9歳の時、局に引き抜かれそうだったの。
ソレをあの人は義務教育が終わるまで待てって言ってたらしいの。
これはリンディさんに聞いた話なんだけどね。
だからソレまでは事務の仕事から、トレーニング。
ゆっくり、ゆっくりやらせてくれたの。
だから今まで大きな怪我もなくやってこれたし、やっていけてる。
言い過ぎとは思うけど、エースオブエースって呼ばれるまでやってこれた。
ソレはあの人のお陰。
だから私はあの人に……あの人の力になりたいと私はそう思っている。
はやてちゃんの事もそうだよ。」
「う、ウチの?」
ウチのなにをしったちゅーねん。
別に身の覚えもない。
「基本的な話は同じ。
でも違うのは一つ。
ヴォルケンリッターのこと。
おかしいと思わない?
あんなに強い騎士達が、はやてちゃんの騎士なんだよ。
しかも絶対に違う部隊にはならない。
これって結構おかしな話なんだよ。」
「それについては緘口令が敷かれているのを忘れたか高町。」
「でも……」
緘口令ってなんや。
ウチがなんかいけん事したっちゅうんかい。
と考えていると局長がやれやれと言い辛そうに言った。
「簡単に言うとだ……
お前とあいつ等が今でも一緒に入れるのはアイツのお陰って事だ。」
「どういうことですか。」
「それ以上は言えん。
ただ……アイツはお前が思っているよりも優しい存在だということさ。
管理局という光をもっと輝かせるための影。
ソレが特務隊であり、あいつ自身だ。
アイツをそんなに怒ってやるな、絶対にアイツをお前達を支えてくれる。
お前が信じてやれ。
隊長なんだ。
お前が支えてやるんだ。
私に出来ることはここまでだ。
後は……頼んだぞ。」
極上の笑顔から放たれた別れの言葉。
正直最初は意味が分からなかった。
後で知ったときはもう時が許してくれなかった。
そして、局長の言葉は本当のことだったのだと知ったのだ。
実は内容を若干変えました。
それによって大幅にフラグが立ちました。
勿論アリサの。
それでは次回お会いしましょう。
ではまた来世。