水神と灰の英雄   作:黒プー

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実はこの小説を書くにあたって一番悩んでたのが結末についてなんですよね。
フリーナはともかくフォカロルスを助ける方法を考えるのがマジで大変でした。
ですが一応プロットはできたので書くことはできると思います。


1話

 過去から随分変わったとはいえ、フォンテーヌの豊かな海の景色などは変わっておらず、今でもその美しい景色を楽しむことができる。

 むしろ列車や高い建物から景色を見下ろせることもあって美しい景色を楽しみやすいだろう。

 中でもこの埠頭は私のお気に入りの地だ。他国からの人々がやってくるフォンテーヌ唯一の入り口であるこの場所は、船などを停泊させるべく海がそのままになっており、その美しい景色が保たれているのだ。

 

「……今日は少し風が強いか」

 

 そんなわけで私は今、この埠頭で人探しをしていた。

 今各地で名をあげている、旅人と呼ばれる人物だ。

 モンドは栄誉騎士として風龍を、璃月では渦の魔神を、稲妻では雷神を下し、スメールでは国を覆わんとしたファデュイの陰謀から草神を守り抜いた、まさに物語の英雄のような人物。

 そんな英雄はかつての私と同じように旅をしているらしく。

 どこから情報を得たのかフリーナは彼女らの到着を知り、盛大に出迎えてやろうとしているようだ。

 しかし彼女のことだ、出迎えたはいいものの何かしら失敗するのではないだろうかと私は思い、この国の第一印象を悪くしないためにも、こうしてここに訪れるだろう旅人を探しているのだ。

 とはいえ。

 

「……やはり、人探しはどうも苦手だ」

 

 人探しを目的にしたことが一度もない私は、彼らをどう探せばいいか見当もつかず、仕方なく訪れる人々を観察してなんとか探し出そうとしているわけである。

 ロスリックであの灰鼠を探したときは大して苦労しなかったはずだが、人探しがここまで難しいものだとは思っていなかった。やはり普通の人間が多いからなのだろうか。

 そんなことを考えながら観察を続けていると、私の目にとある二人組が入ってくる。

 見慣れない服を着た金髪の少女に、それに付き従う小さな……何か。

 明らかにこの国の人間ではなく、かといって商人らしいわけでもない彼らは、やはりこの国に入るのが初めてだからか、周囲の人々に何やら話しかけていた。この国に慣れておらず、かと言って他国の住人というわけでもない。ということは、彼らが旅人なのだろうか。

 

「……」

 

 今度はフリーナがお気に入りのマジシャン二人組に話しかけている二人を見ていると、だんだんと周囲が騒がしくなる。そしていつの間にか、警備隊が埠頭の影から姿を現していた。

 今日は警備を増やすような特別な行事は行われないはずだ。ということは。

 

「……本当にわざわざ来るとは」

 

 よほど楽しみにしていたからだろうか、それとも驚いている旅人の顔を見たからだろうか。ご機嫌な様子のフリーナが、埠頭の高台に姿を現した。

 警備隊、そしてこの国でもトップクラスの強者である決闘代理人、クロリンデを連れているだけましだが、よもやこの場に彼女自身が直接来るとは思ってもいなかった。

 

「……流石に後で叱らねばならないな」

 

 彼女だって()()()()神なのだ、いくらなんでも危険すぎる。

 そう考えつつ少し呆れていると、フリーナは視線を旅人に向けつつ口上を述べ始めた。

 

「諸君らの見ての通り、見知らぬ旅人が我が国を訪れた。富めるものも貧しきものも、()()()を持つものも持たざる者も。さあ、杯を掲げよう! ()()()がないものは代わりに腕を! 遠路はるばるやってきた旅人とその仲間に、祝杯をあげようじゃないか!」

「……」

 

 どうやらやはり、彼女は土壇場が苦手らしい。おそらくグラスと言おうとしたところを言い間違えていた。

 だがさすが、演者としては()()()()私が知る中で一番のフリーナだ。旅人がこの国を知らないというのを良いことに、強引にグロシを通そうとしているらしい。

 フォンテーヌの人々も気にした様子はないし、口上は一応は成功したのだろうか。

 誰も何も言わなかったからか、フリーナも引き続き言葉を続ける。

 

「君たち二人がいくつかの国を派手に荒らしてきたことはもう知っているよ。だがそれでも歓迎しよう。だからこそ、僕はこうして君たちをわざわざ出迎えてあげたのだからね。恐れなど小物が抱く感情だ、僕は神としてそんな無意味なことを信条にして警戒したりはしない。君の敬虔さはよく知っているから、安心するといい」

 

 そういうとフリーナは言葉を切り、その視線を上から見下ろすような、高圧的なものに()()、それから言った。

 

「此度の謁見は僕の力と権力を仰ぎ尊んでもらうためのものだ。賢きものは常に正しき旗の元に集う。これ以上に英明なことはないだろう? そして、ようこそ水の国へ! 君たちの旅の価値と意義を、このフォカロルスが認めよう! さあ、思う存分快託を叫ぶといい!」

 

 周りの人々が拍手喝采を捧げる中、フリーナはふふんどうだと言わんばかりに胸を張っていた。

 ……まあ、良かったのではないだろうか。旅人たちと同じように他国を知る身としては、間違いなく他の国と比べて変だという印象を持たれそうなものだが。

 

「……まさかもう水神に会えるとは」

「オイラも状況がまだわかってないぞ…… まだフォンテーヌに着いたばっかりだったのに…… それにこの水神、なんだか前置きが大袈裟っていうか……」

 

 案の定旅人たちは困惑しているようだ。

 この国ではこれは普通のこととはいえ、当然の困惑だろう。 ……まあ、慣れてもらうしかないだろうが。

 そう考えていると、一行のうち白くて小さい方がフリーナに問いかけた。

 

「その……聞きたいんだけど、どうしておいらたちがフォンテーヌにくるってことがわかったんだ?」

 

 まあ当然の疑問だろう。

 正直私も気になっていたものだ。

 そう思いつつフリーナに視線を向けると、やはりフリーナは胸を張ってからこう言った。

 

「うん、君たち異邦人が凡庸な考えを持ってしまうことは十分に理解できる。しかし、神の中にも「平凡」な神と「優秀」な神がいるを忘れないでほしいね。 まあ、君たちが僕の才能に驚いてしまうのも無理はないけれどね!」

「……要するに偶然か」

 

 思わず呆れながら呟いてしまうと、前にいた旅人たちに聞こえたのか少し驚いたようにこちらを見た。

 ……何かまずいことを言っただろうか。

 そんなことを気にする様子もないフリーナは、さらに言葉を続ける。

 

「今一度自分を見つめ直すべきじゃないかい? 君たちが本当に神と会話できるほどの礼節を兼ね備えているかどうかについてね。僕からすれば、君たちの情報を得ることなんて指を動かすのと同じようなもの。これ以上ないくらい簡単なことさ!」

 

 ふむ、やはりフリーナが旅人の来訪を知ったのは偶然のことらしい。具体的にどのように知ったか何も言わないということは、つまり何も知らないからということだろう。

 ……彼女は昔から見栄を張ってしまうところがある。仕方がないこととはいえ、何も知らない初見の相手にまでそれをしてしまうのは少し問題だな。

 

「うわぁ……めっちゃくちゃ偉そうだぞ……」

「自分の神様の地位を強調してくる……」

 

 そう言いつつ旅人たちはフリーナに冷たい目線を向ける。

 流石に彼女も気づいたのか、若干焦りながら言う。

 

「……お、おやおや、なんだいその目は? もしやこのような歓迎の儀にすら満足できないと? ……もっと何か言ってあげれば気が済むかい?」

 

 ……

 どうやら話題を切り出してくれるのを待っているらしい。

 ……こうなるのであればもう少し外国の人間に対する礼儀を教えるべきだったか。

 呆れつつ、この空気をどうするべきか考えていると、周囲の人々がざわつき始める。

 

「なになに、フリーナ様がいらっしゃったって? 何か面白いものでも見られるのか?」

「間違いないな、なんてったって噂の旅人が来てるんだ。きっとフリーナ様がここに来たのも、彼女と素晴らしい対決をくり広げるために違いない!」

「おお! そいつは楽しみだなぁ! やっぱりフリーナ様は俺たちの期待を裏切らない!」

 

 少しまずい流れになっているような気がする。

 だがフリーナは彼らの言葉に笑うと、言葉を続けた。

 

「ふははははっ! いかにもその通りさ! ……しかしそう焦らないでくれ。 全く、僕を信奉する民たちはいつも観衆と一緒になって叫びたがる。少々耳につくが……僕はそれすらも寛容に受け止めよう。 ……これは褒美だと思ってくれ。君たちの想像通り、僕はこの異郷の旅人と歴史的対決をするつもりなのだ!」

 

 その言葉に、思わずため息をつく。

 これは間違いなく、苦し紛れで出した言い訳じみたものだろう。

 普段ならそれで良いだろうが、この旅人はあの雷神を倒したのだ、間違いなくろくなことにならないだろう。

 ……仕方がない、ここは場を納めるとしよう。

 

 

 ♢

 

 

「い、いきなりやるのかぁ? なんだか展開が早すぎる気がするんだが……」

「……とにかく、やってみよう」

 

 そう相棒のパイモンに行った旅人……蛍は、懐に刺していた剣を抜き、それを水神に向ける。

 戦うつもりはなかったが、これでも雷神である影とは何度も戦った。倒すことはできなくても、逃げるくらいはできるだろう。

 

 そう思い、相手がどう出るか観察する。

 だが水神は彼女の姿を見て困惑するばかりだった。……まるで、戦うつもりは初めからなかったかのように。

 その水神が言葉を発そうとしたその時だった。

 

「……失礼。剣を納めてもらえないだろうか、旅人」

 

 蛍が剣を構えている手を下げるように手を重ねつつ、彼女の後ろから全身鎧姿の人物が出てくる。

 彼も彼女かもわからないこの人物……確かさっき、水神に向かって呆れたように呟いていた人だ。

 聞いた時は国の神に向かって随分な言い草だと驚いたけど……。

 

「……旅人。君はこの国は初めてだったはず。であれば、この国のルールを知らないのも無理はない。フリーナの……水神の彼女がいう対決というのは、剣を使った対決ではないんだ。 他国では裁判と呼ばれる物、それが彼女のいう対決だ」

「さ、裁判〜!? おいらたちまだ何にもしてないのに裁判するのか!?」

 

 パイモンが驚いたようにそういうと、鎧姿の人は少しため息をついて言葉を続ける。

 

「……言い方が悪かったか。 この国の裁判は他国とは違い、劇のような形で民衆が楽しむ物でもある。 故に水神の言っている対決は罪を犯した人々によって行われる本格的な裁判ではなく、人々を楽しませるための劇に近い。だから剣を抜く必要はない」

「な、なるほどな……」

「……わかった」

 

 その言葉を聞いた蛍が納得しつつ剣を収める。

 それを見た鎧姿の人物は、今度は水神の方に目線を向けると、なんだか呆れたようにして言う。

 

「……フリーナ。他国の、来たばかりの、何も知らない人物にわが国の常識を押し付けて話を進めるな。……まず何をするにしても相手の話をよく聞きなさい」

「そ、そう言う君は何者なんだい? 僕と旅人の対決の邪魔をするばかりか、この僕に説教するなんて! いくら僕を信奉する民でも許さないぞ!」

 

 その言葉を聞いた鎧姿の人は、さらに深くため息をついてその兜を脱いだ。

 

「……これでいいか、フリーナ」

 

 鎧姿の人物がそういう。だが肝心の水神は、その言葉を聞いている様子はなかった。

 彼女は数瞬固まったのち、大きな声で叫んだのだ。

 

「あ、アッシュ!?!? そんなところで何をしてるの!?」

「……君が随分と旅人のことを気にしていたからな。彼女について調べておこうかと」

「だ、だからってそこまで変装しなくても!」

「変装……? ……これは別に変装ではないが」

「よ、鎧なんて着こまれたら君が誰だかわかんないだろ! 誰かわからなかったらそれは変装だ!」

 

 その鎧姿の人物……アッシュと水神……フリーナは、周囲にいる人をよそに勝手に口論を始めてしまう。

 尤も、主に叫んでいるのはフリーナの方だったが。

 急な展開に蛍とパイモンは思わず固まってしまうが、周囲の人々はあまり驚いている様子はなかった。

 

「なんだ、アッシュ様か。 驚いた、あの方の鎧にまだ新しい種類があったとは」

「本当ね。 ……それにしたってアッシュ様がわざわざ出向くなんて……やっぱりあの旅人は只者じゃないみたいね?」

 

 驚いている蛍とパイモンを見たマジシャンの二人……リネとリネットは、少し笑いつつも二人に詳細を教えてくれる。

 

「ああ、旅人たちは来たばかりだから知らないんだったね。……今目の前にいる鎧姿の方はアッシュ様。先代の水神の頃からこの国を支えている人で、この国でも有数の決闘代理人だよ。 物静かな方だけど、いろんな種類の鎧を日毎に変えているから「鎧姿のアッシュ」なんて呼ばれてるね」

「フリーナ様とアッシュ様は、すごく仲がいい」

「よ、要するにあの鎧の人もすごい偉い人かぁ!?」

「道理で水神を呼び捨てで……」

 

 蛍とパイモンがもう一度口論していた二人の方を見ると、ちょうどフリーナが少し拗ねたようにして高台から去っていくところだった。

 どうやら口論は終わったらしく、周囲の人々も興味を無くしたのかその場から散っていくところだった。

 

 アッシュはため息を吐きつつ、振り向いて蛍に話しかける。

 

「……すまなかったな、旅人。 君のフリーナに対する第一印象は良い物ではないだろうが……あの子は悪い子ではない、あまり冷たい目で見てやらないでくれると助かる」

「大丈夫。気にしてないよ」

 

 蛍がそう返すと、アッシュは安心したように「……そうか、ならよかった」と言った。

 そして懐から懐中時計を出して確認すると、ふむ、と呟きつつそれをしまい、それから蛍に言った。

 

「……すまない、流石にこれ以上は長居できなくてな。……あのような神がいるところだが、この国は良い国だ、ぜひ楽しんでいってくれ」

 

 アッシュはそういうと、その場から去っていった。

 

「フリーナは変なやつだったけど、アッシュはいい人だったな!」

「そうだね」

 

 そう思いつつ、蛍たちはさっていくアッシュの後ろ姿を見送った。

 

 

 ♢

 

 

 私がパレ・メルモニアに戻り、フリーナの私室を訪れると、中は本当に彼女の私室か疑わしいほど静まり返っていた。

 なんとなく中の様子を察した私は、ノックを3回してから彼女の部屋に入る。

 

「……フリーナ、入るぞ」

「……どうぞ」

 

 中には少ししょんぼりした様子のフリーナが、ベッドに座っていた。

 やはり、と少し思いつつ、私は彼女に声をかける。

 

「……旅人と話した時のこと、まだ思い悩んでいるのか」

「……うん。 失敗しちゃったかな、って」

 

 どこか少女らしい彼女の頭を撫でつつ、私は言葉を続ける。

 

「ああ、確かに彼女の君に対する第一印象はあまり良い物ではなかった」

「……そうだよね」

「だが、私の個人的な意見だが」

 

 彼女を抱き抱え、膝の上に乗せてやってから、私はさらに言葉を続ける。

 

「神の言葉としては、あれはそう悪い物ではなかったと思う」

「! ほんと……?」

「ああ、本当だとも」

 

 私は嬉しそうなフリーナの様子に、止めなかったら面倒くさいことになっていただろう、と続けようとした言葉を飲み込み、頭をゆっくりと撫でてやる。

 ずっとそうしてやっていると、フリーナは眠くなってきたのか、頭が少し揺れていた。

 

「……眠いか?」

「ん……だいじょ……ぶ……」

「大丈夫じゃないようだな」

 

 彼女を起こさないようにそっと抱きかかえてやり、そのままベッドの上に寝かしてやる。

 そのまま彼女がゆっくり眠れるように、そばから離れないようにする。

 

「ん……あっしゅ……」

「寝なさい、フリーナ。難しいことは、目覚めてから考えればいい」

 

 そう耳元で囁いてやると、フリーナは安心したのかそのまま眠りへと落ちていった。

 私がそばから離れても、規則正しい眠りのまま目覚めない。

 

「……親離れできた、と言ったところか」

 

 少し前までの彼女であれば、その重責を原因に眠ることはできていなかっただろう。

 毎日今は考えるなと言い聞かせてきた甲斐はあったか。

 

「……」

 

 眠った彼女が起きてしまわないように、少し離れた場所にある椅子に腰掛け、珈琲を飲みつつ持ってきていた書類を開く。

 内容は、今フォンテーヌを脅かしている予言と、人々の持つ呪いに関する物。

 

「……私に、()()()()を守ることはできるだろうか」

 

 眠るフリーナを見つつ、私はそんなことを呟いてしまうのだった。




フリーナちゃんは絶対寝てる時うわ言言っちゃうタイプの可哀想な子なので寝てる時のケアも欠かせません。
皆さんのイメージを固定したくないので顔とかは特に指定しませんが、灰色の髪に女性というのは固定です。銀髪じゃないので召使とは被らない…はず。
ちなみに何がとは言いませんが筆者の性癖が8割です。召使さんすこ。
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