宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
『元人間と言った方がいいかな?呪術で体を無理矢理変えられてる。』
ナナミンの電話相手は家入硝子さん。彼女が検死を担当してくれた。
今でも信じられない。
悠仁やナナミンが戦っていたあいつらが、人..?
「あの、」
思わず口を挟んでしまった。
「反転術式を使って、直せないのか...?」
『無理だ。』
家入さんは即答する。
『私も真っ先に試したさ。でも、彼らの体は見た目の通り、ほとんど呪霊のようなものだった。反転術式は呪霊にとって猛毒。あとは言わなくても分かるな。』
え、反転術式って、呪霊にとって猛毒なの!?
いや、そこじゃない...!
「つまり、一度変えられた人は.......」
『ああ、助けられない。犯人の術式がなければ、元に戻すなんてことは不可能だ。』
「そうか..........」
『あと、虎杖は聞いてるか?』
『あ、うっす。』
『こいつの死因は改造によるショック死だ。キミが殺したんじゃない。』
『............はい。』
家入さんとの電話が終わる。部屋の空気はズシリと重かった。
『これは、趣味が悪すぎだろう。』
「...........同感だ。」
しばらくして、映画館から逃げ出した少年の身元が判明した。
吉野順平。
被害者の同級生。ただ、カメラの映像を見る限り、呪詛師(悪質な呪術師をこう呼ぶらしい)である可能性は低そうだ。
だが、必ず何かある....!俺と悠仁は彼の調査を担当することになった。
我が師匠、伊地知潔高と共にな!!
「会いたかったぞ!!我が師よ。」
『ひいいい!!いきなり宿儺!!??』
師匠は相変わらず、弟子の俺に対しても謙虚な姿勢を崩さない。さすがだぁ。
「俺の強さはますばかり!!これも全て、貴方が教えてくれた技のおかげだ!!」
『ええ、私のせい!!??』
『..........両面宿儺に、何を教えたんですか?』
『ちょ、七海さんまで!!??いえ、私が教えたのはただの....』
「(帳だけどそれをきっかけに俺の技はすごく成長した訳だし、まあ、実質)領域展開だ。」
『濡れ衣ですぅぅぅぅ!!!!!!!』
◆
伊地知潔高は胃が張り裂けそうだった。
車に乗り込んでの張り込み、ここまではいい。慣れっこだ。問題は助手席に座っている相手。
「師匠、少しいいか?」
(呪いの王、両面宿儺!!!!虎杖くん、早く戻ってきて!!!)
「実は。貴方に少し、相談事があってな。」
『わ、私なんかに聞かないほうがいいのでは......』
(正直、もう何も話したくない!!!)
帳を教えたばっかりに。両面宿儺は結界術を使用する度に、
「伊地知師匠!貴方の技、使います!!」
的なことを叫んでいると聞く。
おかげで自分は、補助監督の中ではちょっとした有名人だ。もちろん悪い意味で!!
『ヒソヒソ。あの人が伊地知潔高...?』
『ヒソヒソ。何でもあの人、呪いの王の師匠らしいぞ。』
『ヒソヒソ。噂によると、菅原の血を引いてるとかなんとか....』
『ヒソヒソ。俺の聞いた話だと、実は彼、5人目の特級術師で......』
尾びれのつきすぎた過大評価は、もはや一周回って風評被害だった。頼むから、もう巻き込まないで欲しい。
「頼む。大事なことなんだ。貴方にしか聞けない。この通りだ。」
そう言って呪いの王は、一補助監督でしかない自分に頭を垂れた。
勘弁してくれ......そう言いたいところだが.......
自身を見つめる宿儺の目。それは、どこまでもまっすぐだった。あれに見つめられては、断れるはずもない。
『分かりました。何でも聞いてください。』
伊地知潔高は根っからのお人好しなのだ。
「では、教えて欲しいんだ。俺の結んだ、縛り。それが....どうなるかについて。」
◇
すっくんが自身に課した縛り。
1、人を殺さない
2、悠仁の関係者を守るよう行動する。
すっくんと虎杖の縛り
1〜4は割愛。
5、[HEY 悠仁]と言うことで、
身体の支配権を譲り受ける。
なお身体の支配権がすっくんにある時は、
・人を殺さない。
・悠仁が[HEY すっくん]といえば、
身体をすぐに取り返される。
6、悠仁を裏切らない←NEW
「まあ、ざっとこんな感じだ。分かりにくかったらすまん。」
『人を殺さない縛り......ですか。あの、両面宿儺が...?』
「問題は、その縛りだ。」
俺は思い出す。改造人間の死に顔を。俺は........
「改造人間を、“人”だと、そう思ってしまう...この場合、縛りはどうなる?改造人間は、縛りにおける“人”に該当するのか?」
『.....縛りには、当事者の認識が大きく影響します。』
《原作での虎杖悠仁は“誰も傷つけない”という縛りに自分を入れていなかった。そのため、『契闊』した宿儺は自分の指をモギモギすることに成功している。》
『ちなみに、虎杖くんは..........』
「俺と、同意見だそうだ.......彼らを『人』だと。そう思っている。」
悠仁、気に病んでないといいが....
あの時、俺が無理にでも身体を替わっておけば.....
『では、そうですね......貴方の縛りにおいて、改造人間は『人』に該当するでしょう。』
やはりか。ということは........
『結論から言います。宿儺さん。』
「すっくんでいい。」
『す!?す、すすすす、すっくん.....』
「続けてくれ。」
『すっくんは、改造人間を殺せません。
すっくんが自身に課した縛り-
1、人を殺さない
殺せない、ではなく殺さない。
これは呪力の強化と引き換えに、己の行動を制限する縛りです。その縛りによって、改造人間への殺意を伴った行動、その全ては実行が不可能になるでしょう。』
殺意ある行動を制限する.....
なるほど。そういう形になるのか......
待てよ、殺意....?
「俺の撃った技が外れて、たまたま改造人間を殺す。この場合は?」
それなら、俺の行動に殺意はない。縛りによって、実行が制限されることもないんじゃ.....
まあそんなケース、考えたくはないがな。そもそもこの俺が、そんなミスを犯すとも思えないし。
『......それならば、結果的な改造人間の殺害は可能でしょう。』
「そうか..........」
『しかしほんの少しでも、改造人間の死を期待した行動であるならば、実行はできないはずです。』
この攻撃でワンチャン死ね〜!えいっ!!!
みたいなことはできないわけか。まあやろうとも思わんけど。
つまり......
「殺意がゼロの行為でしか、俺は人を殺せない。そういうことだな。」
『まあ、そうなります。』
「って言うか、そんなことできるのか...?」
殺意ゼロの行動で殺す...?
そんなの矛盾しているだろ。
『まあ不可能かと......』
だろうな。
『それにです。改造人間を殺せたとしても、
・身体の支配権がすっくんにある時は、人を殺さない。
その縛りを破ったことによる、ペナルティーを受けることになるでしょう。』
ペナルティー、か。
『あのさ〜、質問!』
ん、どうした悠仁?
『ペナルティーって、具体的に何なの?』
『実際に下るまで、それは分かりません。』
《何なら、この作品の作者もよく分かっていない。だって、原作で描かれてないんだもん。(執筆当時)》
『じゃあ俺がさ、そのペナルティーってやつをチョー軽いやつにしちゃうのは?デコピンとか。』
『ペナルティーの内容を、当事者が決めることはできません。』
『....そっか。ごめん!2人とも、邪魔した!!』
いや気にするな。悠仁なりにアイディアを出してくれたんだろう?
さて、伊地知師匠。最終確認だ。
「要は、今の俺にはどうやっても人を殺せない。そうだな?」
『ええ......まあ、はい.........』
そうか。そうなのか。
俺にはどうしたって人を殺せないのか。
そっか.....
「よかった〜」
『???』
俺は全身の力がヘナヘナと抜けていくのを感じる。そうかそうか。俺には人を殺せない。うん。マジでホッとした。
正直に言う。俺は言い訳が欲しかった。
改造人間を殺さないで済む言い訳が。俺にだって、分かっている。
改造人間はもう助からない。
彼らを仕留めなければ更に被害が出る。対処法としての最適解が、殺害だっていうことくらい、
俺にだって........
でも殺せないんじゃあしょうがねえよなぁ!!
別の手を、考えるしかねえ!拘束とか封印とか.....まあ、それはその場しのぎにしかならないかもしれないが......
きっと、俺にも何かできることがあるはずだ。
やっぱり、俺は人を殺したくはない。
俺、心が弱いかなぁ〜。主人公の相棒、失格かなぁ〜。
だってしょうがないじゃん!なんせこちとら、数ヶ月前まで一般人ぞ!人を殺す覚悟なんて、そうそう決めれるわけないだろ!!
自分と同じ生き物を殺す。それは俺にとって、呪霊を祓うのとはわけが違うのだ.....
「ありがとう、伊地知師匠。」
『え、あ、はい?』
「貴方のおかげで踏ん切りがついた。なんとか、探してみるつもりだ。人を生かす道をな。」
◆
伊地知潔高は、困惑する。
両面宿儺が、『人を殺さない縛り』を結んでいたことにも驚きだが、宿儺は本心から自分が人を殺せないことに安堵していた。
殺人への強い忌避。
今の彼の心の機微は、まるで術師になったばかりの一般人だ。彼はかつて、殺戮の限りを尽くしていた呪いの王。その筈なのに...
最初は疑っていた。
『人を殺さない縛り』、奴はそれをくぐり抜けるための答えを探しているのではないかと。
だが彼が求めていた答えは明らかにその逆。一連の質問は、自分が人を殺せないことを確信するためのものだったのだろう。
伊地知は大いに困惑しながらも、この一件で自分が知り得たことを、五条悟に伝えると決めていた。
◆
宿儺の生得領域。
畳やちゃぶ台、本棚が並んだ割と居心地の良い空間。虎杖悠仁は、すっくんが身体の支配権を得ている間、ここから外の様子を眺めている。
『すっくんじゃ、どうやっても人は殺せない......』
彼は先ほどまでの話を思い出していた。
『でも、俺なら...............』
その小さな呟きは誰にも届くことはない。