宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
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補助監督・伊地知潔高はすっくんから相談を受けた『縛り』について五条悟に報告していた。
『人を殺さない縛り?あの宿儺が......?』
『はい.......』
『何かのブラフって可能性は?』
『恐らく、それはないでしょう。ただの心証ですが。彼は本気で、人の命を.....守ろうとしています。』
『......オッケー。引き続き、悠仁のサポート頼むよ。』
電話を切った五条はため息をついた。
奴と一度だけ戦ったあの夜を思い出す。呪いの王・両面宿儺、そのポテンシャルは本物だ。警戒すべき。間違っても心を許すべきではない。
なのに、奴には妙な親しみが湧いてしまう。
『やっぱ、似てるんだよな〜、“アイツ”に。』
五条は今の宿儺にとある人物の面影を見ていた。
『意味不明なことばっか言う癖に.....全力で、何かを守ろうとしてるところ、とかさ。』
五条悟は回想する。あれは確か、10年以上前。自分がまだ学生服を着ていた頃....
◆
『出てくるならさっさとしてください。』
とある下水道。対峙するのは、一級術師・七海建人と一連の事件の犯人、特級呪霊・真人。
『いやーよかった。あんまり弱いと、実験にならないからさ。』
『残業は嫌いなので、手早く済ませましょう。』
原作の流れと同様に、両者は激突する。
◇
こちらすっくん、こちらすっくん!
現在吉野順平の追跡中であります!
ケヒヒッ、俺から逃げられると思うなよ?っていうか、吉野順平...私服?
学校はどうした学校は?この不良少年め!
お、ふむふむ。家に帰るところだな?
あれ、家の前に誰かいる?ポッチャリ系の...教師か?
キャラデザ的に、メインキャラじゃ無さそうだ。
『吉野、どこ行ってたんだ?』
順平に話しかけるポッチャリ。うん、声的にもメインキャラでは無さそうだ。あのキャラデザで声優が有名だったら、それはもうコナンの犯人なんよ。
『外村....先生.......』
順平の顔に影が差す。
『聞いたか?佐山、西村、本田、亡くなったって。お前、仲良かったよな?』
順平の顔が、目に見えて曇った。
『友達もいないお前をよく構ってやってたろ。それなのに葬式にも出ないで.....全くお前は、一緒に行ってやるから、線香だけでもあげにいこう。』
ちょ、外村気付けって!順平の顔見てみろって!!
『何ブツブツ言ってんだ。引きこもっておかしくなったか?なんて。ハハ.....』
「もういい。お前は喋るな。」
『うわっ!?なんだ、君は、どこから現れた!?』
ヤッベ。
すっくんってばつい、2人の間に飛びこんじゃった.....
まあいい!言いたいことを言ってやらあ!!
◆
突然の乱入者に、順平は驚く。
顔に紋様のある黒づくめに赤パーカーの男が、いつの間にか、自分を外村から守るようにして立っていたのだ。
(動きが速すぎて見えなかった...?)
この人の気配...
何ていうか、真人さんに似てるような...
「外村だったか?順平が傷ついてるのが、分からないのか。」
(僕を、庇ってくれている...のか?)
『なんだと!?誰だか知らんが、失礼だなキミは!!』
唾を飛ばしながら何かを喚き散らしていた外村。その安そうなスーツとズボンが、突然3枚におろされる。
『な、なんだ!?いきなり服だけがビリビリに破けたぞ!?どうして俺が、こんなエロ漫画みたいな目にーーー!!!』
ズタボロになった服を抱えた外村は、大事なところを隠しながらその場を走り去る。
(間違いない。真人さんと同じ不思議な力。この人は...!)
◇
すっくん、反省.....
カッとなって、ちょっとやりすぎちゃったかも。
あの外村とかいう教師も、悪気があるわけじゃないんだろうな。色々と配慮ができていないだけで。
あと、おっさんのラッキースケベを強制的に見せられた順平、ごめん。
『あの、』
恐る恐るといった感じで、順平が話しかけてくる。で、どうしよ...
つい勢いで追跡対象の前に出てきちゃった。
いやだってさ、順平の顔すっげえ辛そうで...見てられなかったんだよ...
『ありがとうございました!』
俺に向かって頭を下げる順平。
ほえ?
『外村のあれ、貴方がやってくれたんですよね?』
ああ、それが分かるのか。とりあえずこの子は呪術適性ありと。
っていうか...
「俺を怖がらないのか?」
『ええ。貴方も、呪い...なんですよね?』
「あ、ああ。呪いの王をやらせてもらってる.........え、ホントにビビらないのか?」
『僕はそういうのどうでもいいので。』
◆
既に真人という前例を体験している順平は、呪い、特に人型で理性を持っている呪いに対して、ある種の信頼を置いていた。
彼らは人間ではない。だが、自分の最も嫌いな奴らよりは、よっぽど人間らしい存在だ、と。
それどころか...
『君たちマナーは守ろうね。』
呪いなんかよりも、よほどタチの悪い害虫を排除してくれる。
『君との会話はストレスが無くて助かるよ。』
安全圏から決して出てこないあいつらとは違って、自分の声に耳を傾けてくれる。
『俺は順平の全てを肯定するよ。』
自分を認めてくれる。
吉野順平にとって、呪いは自分の味方だった。故に彼は臆さない。
そんな彼のスタンスはすっくんにブッ刺さる。
「順平!貴様めちゃくちゃいいやつだな!!!」
『え、いや、そんな........』
「いいや、貴様はいいやつだ。お前が初めてなんだ、初対面でこの俺にビビったり、警戒したりしなかった人間はな。」
強者ゆえの孤独.。
とはちょっと違うかもしれないが、すっくんは両面宿儺に転生して以来、あらゆる人間にビビられて、あるいは警戒されていた。
彼の転生先を思えば、それも仕方のないことなのだが。
◇
思い出すなぁ〜。この作品の1〜8話あたりだったか。
あの頃は、悠仁を含めたほぼ全員から疑われまくっていたっけ。
実はすっくん、普通に傷ついてたんだからね!
俺は元々普通の高校生。
漫画脳で多少誤魔化されているとはいえ、そのメンタルは人並みなんだ。もっと優しくしてほしい。
「ま、そんな俺も今じゃ理解ある相棒ができたんだがな。だろう?悠仁。あれ、悠仁....?」
『......................ああ、悪い。ちょっと、考え事してた。』
「いつもより、元気なさそうだぞ。大丈夫か?」
『.......おお。モーマンタイよ!』
そう言って悠仁は奥へ引っ込んだ。大丈夫かな....?
あれ、何の話だっけ?そうだ、順平はいいやつって話だ。俺は順平への賛辞を送り続ける。
「順平。お前のその分け隔てなさは素晴らしい美徳だ。誇れ」
『いえ僕は、つまらない拘りに囚われたくないだけで....』
◆
順平は謙遜しつつも、その口元を自然と緩ませていく。
真っ直ぐに自らを肯定してくれるすっくんは、順平にとって、真人と同等の劇薬だった。
「俺は両面宿儺。すっくんと呼んでくれ。よろしくな、順平。」
すっくんはその手を差し出す。
『あ、どうも。す、すっくん。』
順平は迷わずその手を取った。
◇
順平めっちゃいい子!ノータイムで握手してくれた!!
俺がこの身体に転生してから、何度握手を断られたと思ってる!?この子、マジで呪いを差別しないな。
『す、すっくん........あの、そういえば.....』
「どうした、順平。何でも聞いてみろ。」
『なんで僕の名前を知ってるんですか?』
ギ、ギク!!!
「あ、えーーーーーと.............」
どうしよう。任務のこと、どこまで話していいんだっけ...
今の俺には断言できる。順平は犯人じゃないし、人を殺すような奴でもない。
全く誰だよ、順平が真犯人とか言ってたアホは。とはいえ、一応まだ調査対象だし...
『もしかして、真人さんから僕のこと聞いたんですか?』
...マヒト?
「誰だ、そいつは。」
『え.......あ、いや........』
そこで初めて順平は、自分の失言に気づいたようだ。その反応からなんと無く察しがつく。その真人ってやつは...
「呪い、なんだな?」
◆
順平はようやく気づく。すっくんの服についた、うずまきのボタンに。
(真人さんが言ってた、呪術師.....?)
◇
「順平答えろ。そいつは呪いなんだな。」
順平には悪いが、大事なことだ。確認しなくてはな。
『.....はい。人から生まれた呪い、本人がそう言ってました。』
何!?人から生まれた...だと!?
『でも、彼は悪い人じゃありません!!』
◆
この時の順平は原作のあの時とは違い、真人によって改造された人間の惨たらしい姿が、脳裏をよぎることはなかった。
いや。
たしかに脳裏に浮かんだ上で、見て見ぬふりをしたのかもしれない。彼は、自分の理解者を守りたかった。
「その真人ってやつは、お前の友....なのか?」
『........はい、そうです!』
「そうか..........最後に一つ聞かせてくれ。数日前、キネマシネマでお前の同級生3人が死んでる。それについて、何か知ってることは?」
『いえ、何も。』
順平は、咄嗟に嘘をついた。ついてしまった。
もう、後には引けなくなってしまう。
『突然みんなが死んで...怖くなって、その場から逃げた。それだけです。』
「信じて、いいんだな?」
『はい。』
「そうか............」
その問答を終えた後、すっくんはしばらく黙り込む。
その表情は、外村に向けたものとは比べ物にならないほど、険しいものだった。それからさらにしばらくして、すっくんはようやく、順平の方へと向き直る。
「順平、お前は高専に来い。真人と一緒にな。」
『......え?』
「そこそこ強い教師や、頼りになる仲間がたくさんいる。皆、お前と真人の力になってくれるはずだ!!」
『ちょ....』
「お前の同級生を殺した外道も必ず見つかる!」
『いや...』
「必ず報いを受けさせてやる。一緒に戦おう!!!俺と、順平と、悠仁と、真人の4人で!!!!』
『.........はい、そうですね。』
順平は、考えるのをやめた。
◇
「真人は呪い、なんだな?」
『.....はい......人から生まれた呪い、本人がそう言ってました。でも、彼は悪い人じゃありません!!』
「その真人ってやつは....お前の友......なのか?」
『........はい、そうです!』
「数日前、キネマシネマでお前の同級生3人が死んでる。それについて、何か知ってることは?」
『突然みんなが死んで...怖くなって、その場から逃げた。それだけです。』
「信じて、いいんだな?」
『はい。』
◇
順平から、聞きたいことは全て聞けた。点と点がつながって、この事件の全体像が見えてくる。
まず、順平と真人。この2人は、
俺たちの追加戦士だ!!!!!!
術師と呪霊のタッグ。組み合わせとしても申し分ない。
特に、俺が気になっているのは“人から生まれた”という呪霊、真人だ。
順平の話では、彼は長身色白で髪は灰色の長髪。おまけにイケメンイケボときた。
これで味方じゃないとかある?
おまけに。
『人から生まれた』
つまり真人は、呪霊の父親と人間の母親、その禁断の愛の末に生まれた、呪霊と人間のハーフ!!!
そういうことだろう。きっと壮絶な過去があったんだろうな.....
今、すっくんの脳内に溢れ出す存在しない記憶!!!
真人パパ
『真人。お前は父さんに似て、強い。だから、人を助けろ。』
真人ママ
『もお〜、パパったら〜、お母さんに似て、でしょ?』
優しい父、頼りになる母、その2人の愛をたっぷり受けて育った息子、真人。真人ファミリーは、それはもう温かい家庭だったのだろう。そこには、種族を超えた美しい愛があった。
だが、そんな彼らの幸せは脆くも崩れ去る。アイツの手によって。
魔虚羅
『マーコマコマコォォ!!真人パパ!!人間に与し、特級呪霊たる誇りを捨て去るとは、見損なったマコよ!!』
魔虚羅の剣が家族の仲を引き裂いていく。
真人
『パパァァ!!ママァァ!!』
真人パパ
『真人、お前は逃げろ!!』
真人ママ
『逃げなさい!!私が魔虚羅を素手で抑えているうちに!!』
魔虚羅
『く、人間ごときが、中々やるマコねえ!!!!』
真人
『やだよ、離れたくない!!!パパとママと、ずっと一緒にいたい!!!』
真人ママ
『逃げなさい!!早く!!!!』
真人パパ
『世界は広い!!ありのままのお前を受け入れてくれる存在と、必ず出会えるはずだ!!!だからそれまで....頼む....!』
真人夫婦
『『生きてくれ!!!!!』』
両親の犠牲により、何とか魔虚羅の追跡を逃れた真人。彼は父からの教えに従い、呪いの身でありながら、呪いを祓い、人間を守っていた。
だが......
どんなに人を助けても、呪霊の血を引いているというだけで、人間たちからは迫害されてしまう。
モブA
『この化け物め!!貴様がいるから人が死ぬんだ!!!!』
モブB
『頼む、村から出て行ってくれ!!これ以上、村人に死んで欲しくないんだ......』
モブC
『きゃあああ!!やめて!!!私の息子に近寄らないで!!領域展開!!!!!』
生きる意味を見失いつつあった真人。
そんな彼が出会ったのは、呪霊を差別しない青年・吉野順平だった。
真人
『なんで逃げないの?僕、呪いなんだよ....?』
順平
『そんなこと、どうでもいいでしょ?』
2人はゆっくりと、しかし確かに友情を育んでいく。
だが魔虚羅の部下的な奴が、ついに真人を見つけてしまう。今回起きた映画館の事件は、魔虚羅の部下的な奴から真人への脅しなのだろう。
魔虚羅の部下
『真人。私たちの仲間になれ。さもなくば.....私はいつでも、キミの親友・吉野順平を殺せることを忘れるな。マーーーーコラのブーーーカッカッカーーーー!!』
以上が、今回の真相だ。真実はいつも一つ!!!!
順平と真人をシロとするならば、これくらいの推理じゃないと説明がつかないしな。
だって、だってさ。
映画館の件について聞いた時、順平自身が『何も知らない』、そう答えたんだ。
俺は順平を信じる。
呪いである俺を疑わず、信じてくれた順平をさあ、俺の方が疑ってどうすんだよ......
それに真人のことも。呪いというだけで、悪役だと決めつけたくはない。
同じ呪いである俺だけは、それをしちゃダメだ。これでも、フィルター越しに見られる息苦しさは、よく知っているつもりだし。
『呪いは人間とは根本から違う存在。分かり合うのは不可能です。』
脳裏によぎったナナミンの言葉を振り払う。
きっと、きっといるはずだ。俺の他にも、人間と仲良くできる呪いが。
◆
『大当たり。』
悠仁と順平の様子を、フードを目深にかぶった人物がずっと見守っていた。
その額には、縫い目。