宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◆
宿儺さん、いや、すっくんに映画館でのことを聞かれて、嘘をついてしまった。
彼は呪いでありながら、呪術師でもあるらしい。
あの日のこと、真人さんが僕にしてくれたことを話してしまったら、きっと真人さんは祓われてしまう。
自分の最初の理解者を失いたくはない。それだけだった。それだけだったのに...
「さあ、順平!!ひたすら感謝の正拳突きだ!!そんなんじゃ、いつまで経っても黒閃は出せないぞ!!!」
『はあ、はあ、はい.....!』
一体どうしてこんなことに!?
あの後、すっくんは順平を河川敷に連れていき、修行をつけ始めた。
順平も嘘をついたという負い目から、断ることができない。
「まだまだだな、順平。そのザマでは、高専でやっていけないぞ。」
(いつの間にか自分と真人さんが、高専?とやらに入ることが確定してるし...)
「そういえば、順平。真人は今どこにいる?彼とも、入学手続きについて話したいんだが...」
『!! 今日は、やめておいた方がいいんじゃないでしょうか。真人さん、今日は客人が来るとか言ってましたし、忙しいかと。』
「そうか、なら仕方ない!」
(時折こうして、真人さんについて探りを入れてくるから、
余計に怖い...)
ひょっとしたら、全部バレているんじゃないか。そんな不安が彼の頭を支配する。順平は自身の深読みで、勝手に追い詰められていた。
ちなみに、客人についての話は本当だ。今真人は、その客人と一緒に、仲良く瓦礫の下敷きになりかけている頃である。
「よし。少し休憩しよう。」
ようやくすっくんからの許しが出た。順平は倒れ込むようにして、河川敷の階段に座り込む。
「ほら、水分補給だ。」
すっくんはいつの間にか持っていたアクエリを、順平に投げ渡した。
(アクエリが染みる.....こんなに動いたのはいつぶりだろう。)
「かーーーーー、うめえ!!!やはり汗をかいた後のアクエリは最高だな!!ケヒヒッッ!」
(すっくんは、なんというか真人さん以上に人間らしいな.....)
順平はそんな印象を抱いていた。彼には、真人のような超然とした感じがまっっっっっったくない。
順平は彼の素性に興味が湧いていた。
『あの、すっくんは呪いなんですよね?』
「ああ。」
『でも、呪いを祓う呪術師なんですよね?』
「ああ。」
『どうしてですか?』
「俺が悠仁の相棒だからだ。」
すっくんの返答には、迷いが無かった。
(っていうか、ユウジ?相棒?)
「ああ、紹介がまだだったな。俺の相棒、悠仁だ。」
すっくんの顔から紋様が消え、顔の雰囲気が変わる。
「悠仁、お前も自己紹介してやれ。」
『お....おう。俺、虎杖悠仁。人間な。』
『!? あのそれ、どうなって......』
『ああ、俺、器っていってさ、すっくんを身体の中で放し飼いにしてる、呪術師なんだ。』
「人を犬猫みたいにいうな。」
あまりにも気安く、すっくんと虎杖くんは....呪いと人間は接していた。
『あの、2人は友達.....なんですか?』
「ああ。俺たちは文字通り、一心一体の相棒だしな。」
『相棒.....か。素敵な関係ですね。』
「何を言う、お前と真人だって、似たようなものだろう。」
なぜか、順平の胸はチクリと痛む。
『あれ、順平?』
そんな順平の耳に、聴き慣れた母の声が響いた。
◇
『母さん。』
『こんなところで珍しいね。友達?』
お、順平のお母様か。
見た目若いな。悠仁のヒロイン、ギリいけるか...?
『さっき会ったばかりだよ。』
『虎杖悠仁です!さっき会ったばかりだけど、友達になれそうでーす!』
悠仁の陽キャパワーが炸裂する。
なんだ今の。コミュニケーションの黒閃かよ。黒い火花見えたぞ。
お母様も随分悠仁を気に入ったらしい。
『悠仁くんどう?晩飯食べていかない?』
え、お母様....マジでうちの悠仁狙ってます?ヒロインレースに期待の新星が.....!?
伊地知さんに連絡を入れた上で、悠仁は順平の家にお邪魔することになった。俺は、流石に引っ込んでおくか。
しっかし、さすが悠仁だ。ほとんど初対面の順平とそのお母様、どちらともすぐに打ち解けている。そのコミュ力、俺にもちょっと分けてくんない?
結局お母様は何杯か缶ビールを召し上がった後、机の上に突っ伏して眠ってしまった。そんなお母様に順平は毛布をかけてやる。やっぱり気持ちの優しい子だな、順平は。
『順平の母ちゃん、いい人だな。』
『うん。ねえ、虎杖くんのお母さんはどんな人?』
悠仁のお母様か。確か、もう亡くなってるんだっけか?
『あー、俺会ったことねえんだわ。父ちゃんは、うっすら記憶あるんだけど。』
きっと悠仁に似て、優しい人だったんだろうな.....
息子を心から愛していて、その成長に一喜一憂して、
悠仁にお友達ができようものなら、直接会いに行っちゃうくらいの親バカ....
そんな人だったんだろうに。惜しい人を亡くした。
『虎杖くんは呪術師なんだよね?質問、してもいいかな?』
質問だと?
まあ、そのうち順平も高専に入るわけだからな。(確定事項)職場関係のことは、知っておきたいのだろう。
『人を殺したことある?』
ちょ、ちょっと順平...?いきなり質問がヘビー過ぎない...?
『ない。』
悠仁はそう答えるが、順平は引き下がらない。
『でもさ........悪い呪術師とか、そのうち殺さなきゃいけない人とも戦うよね...?』
俺は、先日の改造人間のことを思い出していた。恐らくそれは悠仁も同じだろう。
『その時は、どうするの...?』
その時はどうする、か。
「俺がなんとかする!悠仁に人は殺させない!!!」
割り込むようにして俺は答える。その答えは、答えと言えるか定かでないほど、曖昧なものだった。
それでも......
「悠仁に人を殺して欲しくない。これは、俺の勝手な願望だ。」
『すっくん......』
「すまない悠仁。何様だ、って思うよな。でも、俺は心からそう願ってるんだ。悠仁、お前は優しい子だ。一度人を殺してしまったら......きっとその十字架に、お前は押し潰される。そうなって欲しくはないんだ。」
なんて自分勝手で一方的な願いなんだろう。これじゃあ、まるで呪いだな。
『.....それが、すっくんの答えなんですね......』
「ああ。」
『虎杖くんの、答えを聞いてもいい?』
『俺は.....人を殺したくはないな...........』
それでいい。それでいいんだ。
『一度人を殺したら、命の価値が、曖昧になって.....自分の大切なものの価値まで分からなくなるのが、俺は怖い。』
うんうん。そう!さすが主人公。いいこと言うじゃないか。
『でも、それは俺の我儘だ。』
..........悠仁?
『そのせいで、すっくんや、正しく死ねたはずの他人が、傷つくくらいなら........そんな我儘はいらない.....』
おい、悠仁......!!
『..........そう、思ってた。でも.........俺が人を殺したら......俺の大切な相棒が.....すっくんが悲しむって、よく分かった......だから........』
悠仁.........
『俺は絶対、人を殺さない。自分のためじゃない。すっくんのために。』
そう言って悠仁は朗らかに笑う。
悠仁いいいいいいいいいい!!!!!大大大大大大大大大大大大大大好きだよぉ!!!!!!!!!
よく言った!!!
それでこそ俺の相棒だぁぁぁぁ!!
◆
すっくんと虎杖くん。
今日できたばかりの僕の友達だ。
僕はただ2人に聞いてみたかった。
知りたかった。
人を殺す、それが一体どういうことかを。
「俺がなんとかする!悠仁に人は殺させない!!!」
『俺は絶対、人を殺さない。自分のためじゃない。すっくんのために。』
それが2人の答えだった。
僕は、自分自身の答えを探してみる。
人に心なんてない
その考えに救われた。
力を与えてもらった...
でも自分が人を殺すことで悲しむ人がいるなら...
頭に浮かんだ母さんの笑顔が、僕に答えを教えてくれた。
『僕にも、人は殺せないな。』
それが僕の出した答え。
『あの、すっくん、虎杖くん、よかったら一緒に映画を見ませんか?』
『お、いいじゃん!見よ見よ!』
『ミミズ人間2 ってやつなんだけど.....』
『え、初めて聞いた!!』
「面白いのか?」
『いや、クソ映画ですけど......』
「じゃあなぜ見る。お前はドMか?」
『いえいえ、これには楽しみ方があって.......』
◆
『そろそろかな。』
黒いローブに身を包み仮面で顔を隠した羂索は、宿儺の指の封印を解く。
『さて、どうなる?』
羂索の仕込んだ宿儺の指によって、吉野順平の母親・吉野凪は死亡する。その後順平は真人に唆され、自身の通っていた高校で事件を起こす。
そして、本性を表した真人によって...
それが、原作の流れだ。
「スクナマス斬り」
その流れが今、ぶった斬られる。
自身に放たれた呪力の刃を、羂索は軽々回避して襲撃者に目をやった。仮面の奥に歪んだ笑顔を隠して。
『逢いたかったよ。悠仁、もしくは、宿儺。』
「貴様、なぜ俺の名を?それにどうして指を持っている?何者だ。」
『それはこっちのセリフだよ。今のキミは、一体何者なんだい?』
平安時代の旧知同士が、
呪われた母と子が、
今ここに、感動の再会を果たす。