宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◆
正式名称、『究極メカ丸絶対形態装甲傀儡究極メカ丸試作0号』。
原作では真人との戦いで使用したそれを、メカ丸こと与幸吉は引っ張り出した。
身体がまだ治っていないため、彼は生命維持装置ごとコクピットに搭乗している。調整の時間が足りず、その性能は原作よりもやや控えめに仕上がっており、機体の最大出力もせいぜいチャージ一年分まで。
だがそれでも。
今の虎杖悠仁ならば、十分に殺せるだけの力があると与幸吉は踏んでいた。なぜか、自分が呪詛師への内通者だと見抜いていた両面宿儺。
『奴を、生かしておくわけにはいかない....!!』
幸い彼は、京都校学長・楽巌寺からも虎杖の抹殺を命じられている。それもいいカモフラージュになるだろう。
それにだ。
『呪いの王の器.......か。』
秘匿死刑の対象。そんな存在だった者が、自分を差し置いてのうのうと日の下を歩いているのが...
『どうしようもなく、我慢ならない.....!!』
◇
『踏み潰せ!!究極メカ丸絶対形態装甲傀儡究極メカ丸試作0号!!!!!』
おわああああああ!!!
エ○ァンゲリオンのクソでけえ足の裏を、悠仁はなんとか回避する。足を下ろしただけなのに、凄まじい風圧だ。
『すまない加茂。ここは俺に任せてくレ!!』
エヴァから聞こえる、ラブコメ主人公くさいイケボ。この声は、まさかメカ丸ちゃん!?
こんな秘密兵器を隠し持っていたとは!!
かっけえ!魅せてくれるな!!
『分かった。無理はするなよ、メカ丸。』
『あの、メカ丸1人で大丈夫でしょうか?共闘した方が...』
『バカね。あのサイズのメカ丸と、共闘なんてできるわけないでしょ?私たちが足手まといになるだけよ。』
この場をメカ丸ちゃんに任せ、糸目くんたちは撤退するらしい。
なるほどな。ここは少年漫画らしく、タイマンといこうぜ!メカ丸ちゃん!!
『チャージ1年。』
ん?メカ丸ちゃん?いや、今はデカ丸ちゃん?
その左手にとんでもないエネルギーが収束していく。それ、人に向けていいやつ...?
ねえ、メカ丸ちゃん。タイマンって言ったけど、あれ、無かったことにできねえかな。
キミどっちかって言うと、レイドボスみたいな感じじゃない...?
『ウルトラキャノン!!!』
◆
伏黒恵vs東堂葵。
虎杖悠仁vs与幸吉。
それぞれの戦いが始まる中で。残りのメンバー達も、自身の相手とぶつかっていた。
『合法的にアンタをボコれるなんて、嬉しいわ。』
『はっ、お姉ちゃん って呼べよ。妹。』
因縁の姉妹対決。
禪院真希vs禪院真依
『うちの同期に手を出すなんて、いい度胸してるじゃない。覚悟はできてるんでしょうね?』
『.............................』
(この子、貫禄すごっ!本当に私より年下?)
紅一点(自称)と癒し枠(満場一致) の戦い。
釘崎野薔薇vs三輪霞
『なあ、加茂...俺たちってさ......』
『ああ、そういうことなんだろう。』
余り物対決!!
パンダvs加茂憲紀
ちなみに西宮桃は、戦闘不能による棄権扱い。狗巻棘は単身、二級呪霊の探索を続けている。
◇
『ウルトラキャノン!!』
デカ丸ちゃんの左手から、特大のビーム!ビーム出るんだ〜。すげ〜(現実逃避)
って、
「悠仁!逃げて!!超逃げて!!!」
『分かってる!!!』
悠仁は全力ダッシュ!デカ丸ちゃんのビームをスレッスレで回避ぃぃぃ!
っっっぶねえ!!
ビームが当たったところに、ぱねえクレーターできてる。デカ丸ちゃんちょっと強すぎない?ワンチャン、京都校で一番強いぞ。
『なあ、すっくん。エ○ァって、なんか弱点あったっけ...?』
「...パイロットへの精神攻撃?」
『うーん、それ以外で。』
さて、どうしよ。こんな巨大な敵とはまだ戦ったことないしな。おまけにあの呪力出力...
まあ呪力の面でいえば、赤犬バギーの方がよっっっっっっっっぽど厄介だ。それに比べれば大分マシな方。
うまいことやれれば、勝ちを拾える筈だ。
『無駄話は済んだカ。』
デカ丸ちゃんは再び、そのデッカい掌を俺たちに向ける。
きゃあっ!!
「悠仁、走りまわれ!的を絞らせるな!!」
『おう!!』
悠仁は森の中を器用に逃げる。きゃーーーかっこいいい!うちの子がカッコいいよ!!
やっぱりデカ丸ちゃんは、小回りが効かなそうだ。真っ向勝負じゃ勝ち目はないんでな。ヒットアンドアウェイに徹して、チマチマチマチマ削ってやんよ!!
ケヒヒヒッッッ!!
『チッ、ちょこまかト!!』
◆
今の絶対形態は、原作よりも性能が劣る。『ウルトラキャノン』には発射までの僅かな溜めが、必要になっていた。
逃げに徹した今の虎杖に、それを命中させるのは困難。天与に縛られた年数を消費して放つような大技を、無駄撃ちするわけにはいかない。
『ならバ!!!』
幸吉は絶対形態の巨体を生かし、物理攻撃を仕掛ける。彼が振り下ろした左腕は周辺の木々を薙ぎ払い、地面を抉った。
木々が、大地が、我慢ならぬと泣いている。
しかし幸吉は手応えを得られない。悲報。高専敷地内の自然、無駄死にである。
『どこだ、奴ハ....?』
幸吉は、虎杖の姿を見失う。
「悠仁!奴の足元を狙え!!一発打ったらまた逃げろ!!」
『了解!』
虎杖は絶対形態の足元に接近していた。そして自身の得意技を目の前の巨大な右足に向けて叩き込む。
『黒閃!!!!』
◇
よっしゃあ!まずは黒閃ワンヒットォ!!!
もはや準レギュラーの黒い火花くん、オッスオッス!思ったより、デカ丸ちゃんの装甲が歪んでんぞ!あの巨体もグラついてる!!
こーけろっ!こーけろっ!!
チッ、踏ん張られたか。しっかし悠仁も大分黒閃が板についてきたな。今や黒閃は悠仁の十八番と言っていい。
...逕庭拳?
何だその、予測変換で全然出てこなさそうな名前の技は。知らない子ですね。
『そこカ!!』
デカ丸ちゃんのサッカーボールキック。そんな大ぶりの技に当たってやるほど、うちの悠仁は甘くないぞ!!
華麗に回避っ!そして取り残されたデカ丸ちゃんの軸足に、さらにもう一発!!
『黒閃!!!』
すごい音がしてデカ丸ちゃんの装甲が砕けた。さっきよりも手応えあり!デカ丸ちゃんの動きが、どんどんぎこちなくなっていく。
いいぞ、その調子だ悠仁!
わははははは!残念だったな、メカ丸ちゃんよ。巨大ロボットを作るとは、なかなかロマンの分かる女の子じゃないか!
だが甘い!!
デカ丸ちゃんはこの場所に、ただのジャンプで現れた。おそらく彼女には飛行機能がない。あの巨体を支えられるのは、その2本足だけなのだ!!
ならばこちらは徹底的にそこを攻める。機動力を失えば、エ○ァンゲリオンもどきもただの粗大ゴミだ。
????????
「ねえ知ってる?すんごい昔の映画なんだけど、『帝国の逆襲』!」
悠仁となんか声が似ている某蜘蛛男だって、デカブツは足元から崩せと言ってたしな。
だが、ひたすら足責めって。主人公の戦い方か?これ。
まあ、勝てばよかろうなのだぁ!ごめんな、メカ丸ちゃん。この巨大ロボ、一生懸命作ったんだろうに。
思いっきりぶっ壊すね。あれ、これ後で弁償させられるとかないよね?
◆
虎杖とメカ丸の戦闘場所からさほど遠くない地点で、釘崎と三輪は対峙していた。
『あんた、なんで虎杖を狙うわけ?アイツに恨みでもあんの?』
『いいえ。でも、それが命令だったので...正直、失敗してホッとしてます。』
『誰に言い訳してんのよ。』
釘崎は呪力を込めた釘を数発、金槌で撃ち出す。
『シン陰流・簡易領域 抜刀!!』
しかし全ては、三輪の刀に斬り払われる。
『それ、意外と厄介ね。』
シン陰流・簡易領域、抜刀。
展開時のポイントから足が離れるまで、領域内に侵入したものをフルオートで反撃する。シン陰流最速の技だ。
釘崎は迂闊に近づけなくなる。三輪の方も、簡易領域をやめて突っ込めば釘の餌食になることを理解する。
両者動けず、戦況は膠着した。
『このまま突っ立てるのも野暮ね。女子どうし、仲良くおしゃべりしましょ。』
釘崎は舌戦を仕掛ける。
『アンタのいる京都校ってのは、腑抜けの集まりなの?』
『...はい?』
『命令されたら、はい分かりましたで人を殺す、信念もプライドもない、そんな腑抜けの集まりなのかって聞いてんのよ。』
釘崎はレスバが強い。とにかく強い。その面での強さだけなら、特級クラスと言っていい。
『っ、みんなを、悪くいうのはやめてください!!!みんなはちゃんと、信念を持って動いてました!!!』
三輪は思う。
自分の仲間には、きちんと信念がある。自分と違って、と。
『信念も、プライドもないのは、私だけです。今回だって、その場の空気に流されて...』
三級術師、三輪霞。
彼女には大義が無い。言われるがまま、任された仕事を果たすだけ。
彼女にとって呪術師は職業。家族を養うために、それなりに稼げるという理由から仕方なくやっているだけ。
(宝くじにでも当たったら、やめちゃうんだろうな〜、こんな仕事。)
三輪霞は自覚していた。自分はそのような薄っぺらい人間なのだと。
『だから。さっきから、誰に言い訳してんのよ。』
三輪は恐怖する。彼女を見つめる釘崎の目は、ゾッとするほど冷たかった。
『その場の空気?知らないわよ、そんなこと。最後に決断して、実行したのはアンタでしょ?それを他人のせいにするつもり?』
『っ、それは.....』
三輪は言い返せない。
『あーだのこーだの理屈捏ねて、被害者ヅラする加害者が、私はこの世で一番嫌いなの。』
釘崎の脳裏に浮かぶのは、自分の大切な人を傷つけた村の人間たち。三輪は期せずして、彼女の地雷を踏み抜いていた。
『決めた、アンタのその腑抜けた根性、叩き直してあげる。』
三輪の近くに散らばった釘が再度呪力を纏う。
『これって、』
『簪!!』
呪力の衝撃波が三輪を吹っ飛ばす。彼女は強かに地面に打ち付けられた。
『呪術師として、いや、それ以前に人として。自分を貫けないような奴に、私は負けない。』
立ち上がろうとする三輪の手を釘崎は踏みつける。一応言っておこう。彼女は主人公サイドの人間だ。
◇
『黒閃!!黒閃!!黒閃!!!』
いけ、そこだ悠仁、やれやれーー!!
あれから悠仁はデカ丸ちゃんの脚に、黒閃をブチ込み続けた。今や彼女の脚はボッロボロのガックガクだ。
これならそろそろ...
おお、キタキタ!!
デカ丸ちゃんの巨体が一気に倒れ込んだ!
うわっ、すっげえ衝撃。
主人公にあるまじき陰キャ戦法、大・成・功☆
イエーーーーイ!今がチャンスだー!!
「悠仁、ロボットアニメ的に、頭部にコクピットがあるはずだ!突入して、本体を叩け!」
『おう!』
悠仁は拳に呪力を乗せて、デカ丸ちゃんとの距離をつめる。
ケヒヒッッ!もうすぐ対面できそうだな。ガワはロボット、中身は気弱系ドジっ子ロリ巨乳のメカ丸ちゃん!!
ワクワクしてきたぜ!早く生の声を聞かせてくれ!!
◆
メカ丸ことデカ丸こと、与幸吉は恐怖していた。
黒閃の発生事態は稀に起こりうること。一度決めれば、
その後多少連続するのも不思議はない。
問題は、虎杖が明らかに黒閃を狙って出していること。
黒閃は技ではなく現象だ。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる、空間の歪み。その結果、通常時の2.5乗の威力が出るというだけ。
今の虎杖のように、ちょっとした強攻撃のような感覚で出していいものではない。
相当の硬度を誇っているはずの絶対形態の装甲が、虎杖の黒閃連打によって、いとも容易く破壊されていく。
絶対形態は既に、自立が不可能なほどのダメージを脚部に負っていた。
『虎杖悠仁、これほどとはな...』
黒閃を乱発する意味不明な謎技術はもちろんのこと、何よりも厄介なのは彼のトンデモフィジカル。
『あれだけ強い身体で、天与呪縛は関係ないのか。全く、腹立たしい。』
パワーも、耐久力も、俊敏性も。虎杖悠仁の身体は、その全てが高水準。
『俺の身体とは正反対だな。全く羨ましい限りだ...』
幸吉は自分の身体を見つめる。
しわくちゃで、包帯だらけで、醜い。そんな自分の身体を。
天与呪縛。
通常の縛りとは異なり、生まれながらに強制される理不尽な呪い。
与幸吉には生まれつき、右腕と膝から下の肉体、さらに腰から下の感覚がない。肌は月明かりに焼かれるほど脆く、全身の毛穴に針が刺さるような痛みが常にある。
その代わりに得たものは、広大な術式範囲と実力以上の呪力出力。
幸吉にしてみれば、正直そんなものはいらなかった。“普通”が手に入るのなら、全てを差し出す覚悟はできている。
『私に協力してほしい。』
幸吉の脳裏に浮かぶのは、額に縫い目のある呪詛師の姿。
『俺なら、キミを普通の人間にできる。悪い話じゃないでしょ?』
彼の連れていた、ツギハギの呪霊。その術式があれば、自分は“普通”になれる。京都校の仲間に会いに行ける。
その誘惑に幸吉は抗えなかった。どの道協力を断っていても、彼はその場で殺されていただろうが。
『もうすぐっ、もうすぐでみんなに会えるんだ!邪魔をするな!!虎杖悠仁!!!』
幸吉は、絶対形態の操縦権を手放す。
そしてコクピットから、普段の機体へと接続を繋いだ。虎杖悠仁の近くに予め潜伏させていた、究極メカ丸が起動する。
「ブーストアップ」
ジェット噴射から得た推力で、究極メカ丸は突進する。
「悠仁、後ろだ!!」
『!? いつの間に!!』
幸吉の想定通り。虎杖は攻撃を中断し、カウンターの体勢に入った。
絶対形態に、背を向けて。
(もらった!!)
幸吉は操縦先を、再び絶対形態に変更する。
『黒閃!!!!』
操縦者を失った究極メカ丸は、虎杖の一撃で遥か彼方に吹っ飛んでいった。
『よし、仕留めた!』
「悠仁!!また後ろー!!!」
絶対形態の巨大な左手が、虎杖悠仁を包みこむ。
『んぎぎぎぎぎぎ!!!!』
「悠仁!!頑張れ!!頑張れぇぇ!!!!」
その手に握りつぶされないよう、虎杖はなんとか踏ん張っていた。
『しぶといな。ならば、チャージ一年!』
絶対形態は、虎杖を握り込んだその手に呪力を集中させていく。
『なあ、すっくん。なんか、眩しいんだけど...』
「あ、ああ。まずいな、コレ。」
両面宿儺の反転術式は、器を蘇生させることができる。そのため幸吉は、彼の確実な殺害を目指した。
その方法は至ってシンプル。
逃げ場のない虎杖にゼロ距離からのウルトラキャノンを炸裂させるというもの。
炸裂させるというもの。
『さらに、念には念を入れる。』
幸吉はウルトラキャノンをすぐには発射せず、限界まで時間をかけてその威力をあげていく。
「そうだ、悠仁!黒閃で脱出だ!!」
『悪い、すっくん!!この体勢じゃ、打撃が撃てねえ!!』
「え、まずくね。」
充分なエネルギーが溜まりきるまで、あと53秒ほど。
『諦めろ、虎杖悠仁。宿儺の器として生まれた、自分の不幸を呪うんだな。』
『................』
握り潰されないよう抵抗しつつも、虎杖はしばらく黙り込む。が、やがてその口を開いた。
『俺は別に、自分を不幸とは思ってない。』
『なんだと...』
幸吉に、疑問が湧く。
『不幸じゃない?なぜお前はそんなことが言える......?』
『だって俺、恵まれてるから。仲間に、先生に、友達に、相棒に。もちろん辛いこともあるけどさ。みんなと出会えたのって、俺がこういう身体だったからだろ?だから、”不幸“っていう一言で、それを片付けたくない。』
『っ、黙れ!!』
幸吉はようやく理解した。自分が彼に対して妙に苛立ってしまう、その理由を。
『お前は、俺と同じで、世界に呪われているくせに...』
それなのに、虎杖悠仁は下を向かない。真っ直ぐに前を向いて生きている。
その事実が幸吉の心を揺さぶるのだ。自分の弱さを改めて直視させられているようで。
『仲間に恵まれているだと!?ふざけるな!!そいつらは本当のお前を知らないだけだ!!!』
虎杖を否定しようと思わず口をついて出た、幸吉の言葉。その言葉は、彼自身に突き刺さる。
『本当の俺、か。そういうの、よく分かんねえけどさ、』
幸吉の言葉に虎杖は正面から向き合っていた。
『俺は信じてる。俺の仲間は、たとえ何があっても仲間のままだって。』
幸吉の頭に京都校のメンバーが浮かぶ。自分が裏切ってしまった、仲間たち。
『何があっても、か。なぜお前はそんなに仲間を信じられる!?』
幸吉は心の底から湧き出た疑問を、虎杖にぶつける。
『俺はさ。みんなに、信じて欲しいんだ。その為には、まず俺がみんなを信じなきゃだろ?』
『..............................』
幸吉は悟ってしまった。自分は決して虎杖のようには生きられない、と。
『虎杖悠仁、俺はお前のように、強くはないんだ。それに...!』
幸吉は虎杖のその強さを、認めるわけにはいかなかった。それを認めてしまったら、
『俺は今まで、一体何のために...』
呪詛師に魂を売ってまで...
もう幸吉に引き返すと言う選択肢はなかった。
『何があっても仲間のままだと?そんなものっ、お前の妄想に過ぎん!!!』
幸吉は声を張り上げる。彼は京都校のメンバーを、心から仲間だと思っている。
だが、
『きっとみんなも、俺の正体を知ったら...』
長い長い53秒が、ようやく終わった。
『一人孤独に死んでいけ。それがお前の運命だ!!!』
幸吉は、虎杖にそう告げる。まるで自分自身に言い聞かせるように。
『死ね!!虎杖悠仁!!!!』
突如、絶対形態に異変が生じた。
『何!?』
絶対形態の左腕が反応しない。コクピットの回路が一時的にショートしていた....
『何をした!?虎杖悠仁!!』
『すげーだろ。俺の仲間!』
握力の弱まった巨大な手から虎杖は脱出を果たし、跳躍する。
「黒閃!!!」
黒い火花と共に、絶対形態の装甲が破られた。真っ暗だったコクピット内に僅かに陽光が差し込む。
『見つけた!!』
虎杖とすっくんはコクピットの奥、差し込んだ陽光が届かない位置にいる、与幸吉を発見した。
「え、男?男、なの?」
すっくんは、彼の姿を見て狼狽える。
『クッ....いけ、メカ丸!!』
「メカ丸ちゃん?男....?え?」
幸吉は、コクピット内の予備のメカ丸を操る。
すっくんは、まだ狼狽えている。
『うぉぉぉぉ!!!!!!虎杖悠仁ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
「ええええええ!?男なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
与幸吉とすっくんの咆哮が、暗い部屋にこだました。
その数分前のこと。
囮として、虎杖悠仁に吹き飛ばされた究極メカ丸の機体。戦闘中だった釘崎と三輪の元に、それはたどり着く。
『!? 何コイツ...』
『ええっ、メカ丸!?』
二人は一瞬呆気にとられるが、
『メカ丸っ!!』
状況を朧げに把握した三輪はメカ丸の身を案じ、究極メカ丸が飛んできた方向に走る。
『ああっ、待ちなさい!』
釘崎は、そんな三輪を追撃しようとしたところで、足元に転がる残骸から、一つのひらめきを得る。
『いいこと思いついた♪』
彼女は口の端を歪めると、意識を集中させてその残骸の呪力を辿る。
『見ぃーつけた。』
その出どころを看破した釘崎は、究極メカ丸に自身の釘を打ちつける。
『新・共鳴り!!!!』
それは、彼女の十八番の進化系。
すっくんに触発されていたのは、虎杖と伏黒だけではなかった。
釘崎もまた急成長を遂げた二人に追いつこうと、原作以上のトレーニングを積んでいた。具体的に言うと彼女は原作の3倍、パンダにしばかれている。
だが、その甲斐あって。
彼女は共鳴りの術式解釈をさらに拡大させていた。それが、『新・共鳴り』である。
究極メカ丸に打ち込んだ“新・共鳴り”は、釘崎の見抜いた繋がりを辿って、その発信源たるコクピットに牙をむいたのだった。
『まったく、手のかかる同期ね。これで負けたら承知しないわよ、虎杖。』
『俺の勝ちでいいな。』
「ねえ、ガワはロボット、中身は気弱系ドジっ子ロリ巨乳の、メカ丸ちゃんはどこ?ここ?」
予備のメカ丸も既に全て粉砕され、虎杖はその拳を幸吉に突きつけている。
『ああ、とっとと殺せ。お前にはその権利がある。』
『ワリいけど、人はもう殺さないって相棒と決めてるんだ。棄権してくれ。』
『...................』
自身の策を尽く破られ、幸吉は半ばヤケになっていた。
『虎杖悠仁。俺はお前が、羨ましいよ。俺より、身体も、心も、仲間にも恵まれて...』
彼は心の内をありのままに吐き出していく。そんな幸吉に虎杖は語りかけた。
『何言ってんだよ、お前にだっているだろ?仲間。』
仲間、か。
俺は変わりたかった。
堂々と胸を張ってみんなと会える、そんな自分になりたかった。
『メカ丸、大技を無駄打ちするな。敵が目の前の一体だけとは限らないぞ。』
生真面目で冷静沈着。かと思えば意外と仲間思いで、抜けているところも多い、加茂。
『メカ丸よ。女のタイプも即答できないような奴が呪術師として一人前になれると思うな。』
人間性はともかく、同じ呪術師としては尊敬すべきところが多い、東堂。人間性はともかく....
『別に?アンタの事情とか、気にしないわよ。話したくないなら、それでいいんじゃない?』
自分の境遇に負けず、ぶれない芯を持っている、真依。
『メカ丸〜、可愛い先輩の肩揉んで〜。あ、痛い!手硬っ!』
呪術界の歪さから逃げることなく、立ち向かえる勇気を持つ西宮。
『メカ丸、アンタは才能あるんだから、ガンガンそれを伸ばしなさい!!』
俺の力を認めて、将来を期待してくれている、歌姫。
『メカ丸さん、真依さんから聞いたんですけど、その機体にはお母さんの魂が宿ってて、危険が迫ったら咆哮と共に暴走するって、ほんとうですか?』
まだ未熟ながら、才能と善性を併せ持った有望な後輩、新田。
そして、
『メカ丸、これ義理だけどチョコの代わりです!エボルタ単三!』
『ねえメカ丸!!生五条悟に会えました!!これ見て!!ツーショ!!』
『メカ丸!今度さ、カップ麺に牛乳と鷹の爪入れてみてください!すっごく美味しいので!!』
『東堂先輩、変な人ですよね〜。男の人には、いきなり好きな子のタイプ聞いてるし。え、私のタイプ?いや.〜、そりゃ普通にカッコいい人は好きですけど....それ以上に、そばにいて楽しいっていうか、 この人しかいない! って思えるような人が、いいかな〜って、恥ずかしい〜!!!』
三輪霞...
俺の大好きな人。
彼女のそばにいたかった。
きっとそんなこと、彼女は望んでいないのに。
俺には初めからそんな資格は無かったのに。
俺が死んだらみんな悲しんでくれるだろうか?泣いてくれるだろうか?
いや、俺が皆を裏切ったことはすぐにバレる 。裏切り者の化け物が勝手に死んだ、ただそれだけだな。
きっとみんな、俺のことなどすぐに忘れる。
むしろ、そうあって欲しい。彼らは、みんないい奴らだ。幸せになって欲しい。
俺のような邪魔者はそこにいちゃダメだ。
『メカ丸!!大丈夫ですか!!??』
幸吉の耳に、聞き慣れた声が響く。コクピットの外に目を向けた彼は、そこに最愛の人の姿を見つけた。
『三輪!?なぜ来た!!??』
三輪は必死にメカ丸の元に駆け寄る。
巨大なメカ丸の中にいる包帯だらけの人物こそ、メカ丸の中の人なのだと、彼女は感じ取っていた。
『なんでって、メカ丸が心配で、げっ!!虎杖悠仁くん!?』
三輪はようやく、メカ丸に拳を突きつける虎杖に気がついた。
彼女は想像する。
虎杖が命を狙われた報復として、京都校の人間を狙うことを。
『ひいっ...!!』
彼女は立ち止まり、後退りしかけるが、
『っ!!メカ丸から、離れてください!!!』
踏みとどまって、震える手で刀を抜く。
『!! 何をやってる、三輪!!お前が敵う相手じゃない、逃げろ!!』
『いやだ!!』
三輪霞は、反芻する。
『呪術師として、いや、それ以前に人として、自分を貫けないような奴に、私は負けない。』
自分より年下なのに自分よりよっぽどカッコいい、そんな茶髪の女の子の言葉を。
『私は、弱いから。自分を貫けなくて、すぐにブレちゃうけど、この気持ちは曲げたくない...!』
三輪霞は刀を構える。震えはもう止まっていた。
『私はみんなに、いなくなって欲しくない!!』
三輪はようやく、自らが貫くべき信念に辿り着く。
『なんで、そこまで...』
幸吉は混乱していた。なぜ彼女はあそこまで懸命に...
『やっぱいたじゃん、仲間!』
虎杖の言葉が、その答えだった。
『そうだな。俺も、恵まれていたんだな...』
『メ、メカ丸!今助けるからね!!!』
そうこうしてる間に。三輪はコクピットに乗り込んで、虎杖に斬りかかる。
『はあああああああああああああああああああ!!!!』
バキッッッッ!!
虎杖の蹴りが三輪の刀をへし折った。気持ちだけで戦力差をひっくり返せるほど、呪術廻戦は甘くない。
『えっ、あっ..』
進退極まった三輪に、虎杖は確認する。
『降参で、いいっすね。』
『.....はい。』
メカ丸、棄権。
三輪霞、棄権。
その後。なんやかんやで、虎杖への誤解は解ける。
『なんかもう、ほんとに、いろいろすいませんでした!!!』
三輪は五体を投げ出し、虎杖に謝罪した。
『いやもう、いいっすよ。じゃあ、俺行くんで。』
その場を去ろうとする虎杖だったが、途中で振り返って幸吉に一つだけ質問する。
『あのさ、”メカ丸“って実名じゃないよな?本名教えてくんない?』
『そんなもの、聞いてどうする。』
『友達の名前くらい、知っときたいじゃん!』
僅かに差し込む光を背に、虎杖は笑顔を浮かべる。
『...お前は、本当に眩しいな。』
幸吉は、京都校以外で初めてできた友に、自分の名前を伝える。
『与幸吉だ。』
『いい名前じゃん。じゃあ、またな!!幸吉!!』
初めてできた京都校の友達に笑顔で手を振って、虎杖は駆け出す。
その場には、三輪と幸吉だけが残された。
『すっごくいい子でしたね。虎杖くん。』
『...ああ。』
『強かったな〜、あっ!刀。新しいの用意しなきゃ...』
『...だな。』
『っていうか、メカ丸って本名じゃなかったんですね。』
『逆に本名だと思ってたのか...』
『だってメカ丸は、姓が究極(アルティメット)、名前がメカ丸だって、真依が...』
『さすがに気付け。』
『あははは〜。意外と私、メカ丸のことわかってなかったんだな〜って。こうして、直接会うのも初めてですし。』
『そうだな。素顔の俺は気色悪いだろ?』
『? ううん、全然。』
『...そうか。』
『与幸吉、なんですよね?本名。』
『....ああ。』
『そっちで、呼んだ方がいいですか?』
『いや、”メカ丸“でいい。皆には、ずっとそう呼ばれてきたからな。愛着があるんだ。』
『そっか。じゃあ、これからもよろしくね!メカ丸!!』
『.....................』
『ん、メカ丸...?』
『.......これから、か。』
『どうしました...?』
『.......なあ、三輪。俺はこれから遠くへ行かなきゃいけない。』
『メカ丸...?』
『俺は、やり方を間違えたんだ。その間違いを、償う義務がある。』
『ねえ、』
『こうして直接会うのも、これが最初で最後だな。』
『何言って......』
『最期に、お前と会えてよかった。もう、俺の願いは叶ったんだ。思い残すことは何もない。』
『ちょっと待ってよ!』
『三輪。幸せになってくれ。どんな形であれ、お前が幸せになることを、俺はずっと祈ってる。今までありがとう。さよなら。』
『嫌っ!!!さよならなんて言わないで!!!』
包帯だらけの幸吉の身体を、三輪は抱きしめていた。
『私はメカ丸にいなくなって欲しくない!もっと仲良くなりたい!だから、メカ丸がどんな人でも!どこへ行っても!!絶対!!絶対にまた会いにいくから!!絶対!!絶対だから!!!!』
彼女は泣きじゃくりながら、幸吉に縋り付く。
『三輪っ...!』
与幸吉には生まれつき、右腕と膝から下の肉体がない。彼は唯一自分に残されていたその左腕で、彼女の身体をそっと抱き寄せた。
『暖かいな...』
それは彼が生まれて初めて感じる、他人の温もりだった。幸吉の瞳からも涙がとめどなく溢れ出す。
二人は抱きしめあったまま、時間を忘れてひとしきり泣いた。
その後、与幸吉は呪術高専に出頭する。
その直後に起こった特級呪霊による高専襲撃事件。その数日後に、与幸吉の秘匿死刑が決定した。
が、生徒数名の嘆願を受けた五条悟の手によって、彼の処分は
”京都校近くの独房に、無期限の拘禁“
にまで引き下げられる事となる。
また拘禁中の彼には、関係者たちとの面会が許されることとなった。
『メカ丸〜来たよ!ねえ聞いて!この前、冷蔵庫でマンゴー熟成させてるって話したでしょ?あのマンゴーが忽然と消えてて、』
『それ、真依だな。』
『えええ!!??』
『まったくアイツは。ハハッ。』
今の幸吉の住処は、それまでとそう変わらない。日の光すら当たることのない薄暗くて狭い場所。
なのに、なぜだろうか。彼が晴れやかに笑えるようになったのは。
『あっ、やばっ!そろそろ任務行かなきゃ!』
『ああ、気をつけてな。』
最愛の人の背中に幸吉は言葉をかける。
その言葉は”さよなら“ではなく、
『またな、三輪!!』
『うん!!また来るねっ、メカ丸!!!』