宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◇
私、シン・理子ちゃん!
沖縄楽しーーーー!!
「めんそーーーーーーーれ!!ひゃっほうー!!!!」
『うるせえなぁ、ガキが。』
『まあまあ、元気になってくれたみたいで、よかったじゃないか。』
私は夏油くんから借りたマンタみたいな呪霊を使って、ジェットスキーを楽しんでいた。
「イエーーーーーーーーーイ!沖縄最高!!沖縄最高!!!ここに骨を埋めたいーーーー!!」
綺麗な海、心地のいい潮風、眩しい太陽、ここ天国?
今はただ、この沖縄の全てが心地いい....
『ったく、あんまはしゃぎすぎんなよ。』
「分かってる分かってる!あ、五条くんは術式解きなさい!あと寝なさい!星漿体命令ね!!そんなんじゃ、消耗してるとこをやられちゃうよ!!」
『なんで術式に気付いてんだよ、アイツ.....』
『まあ、彼女の言うことも一理ある。』
夏油くんの提案で、護衛の二人は交代で仮眠を取ることになった。
『ったく、ガキの子守りは疲れるよ。』
そう言いながらも五条くんは、私のわがままを聞いて、沖縄の滞在を1日半も伸ばしてくれた。おかげで東京に着く頃には、日没まで割とギリギリの時間になるらしい。
やっぱ彼、優しいよな〜。
ありがとう五条くん!
カヌー!!
庭園!!
ソーキ蕎麦!!
水族館!!
迎えた沖縄最終日も、最高の1日だった。さて、そろそろ東京に帰る時間。
向こうには、子安ゴリラが待ち構えていることだろう。五条くん、沖縄観光中に多少は回復してるとはいえ、何があるかは分からない。
だから、
「黒井さんはしばらく沖縄に残ってください。一応、五条くんの後輩くん達が、護衛についてくれることになりました。」
『...はい。』
子安ゴリラも、私から離れた黒井さんをわざわざ狙いはしないはずだ。
彼女が人質にされるという可能性もなくはないので、東京から遠く離れたここ沖縄で、事が済むまで待機してもらう。
『どうか、お気をつけて』
「うん。私のやりたいことを、精一杯やってくる。行ってきます!!」
『はい、行ってらっしゃい....!!』
私たちはハグを交わして、それぞれ別の方向に歩き出す。
『最後まで、着いてきてもらわなくていいのかい?』
「うん。黒井さんの安全が最優先だから。」
私たちは東京行きの飛行機に乗り込む。もちろん離陸前に、眼の良い悟くんが乗客全員と機内外をチェックした上で、夏油くんのドラゴンに外を張ってもらう。
「ここまでやれば大丈夫だから!飛行機に乗ってるうちは、しっかり寝るんだよ!!五条くん!!」
『はいはい。』
「あ、寝る前にちょっとだけ。私に懸賞金を懸けたのって、伏黒何ちゃらっていう、呪力のないゴリラなのね。」
『ん?』
『え?』
2人の目が点になっているが、私は構わず話を続ける。色々迷ったけど、やっぱり子安ゴリラのことは話しておくことにした。
「それで懸賞金も、五条くんを消耗&油断させるためのものなんだ。高専に着いた途端、キミは後ろから刀でグサッとやられるから気をつけて。」
『おい、ちょ、』
「あと相手は、キミの無下限を突破する変な小刀を持ってるから気をつけてね。」
『なんでそんなこと知ってんだよ.....』
私は有無を言わせぬ口調で続ける。
「五条くんにはね。そのゴリラの不意打ちをしっかり凌いだ上で、(原作より)ちょっとでも長く時間を稼いでほしいの。」
恐らくこれが最善手だ。
なんならその過程で、五条くんが原作と同じように一回死んでくれるのがベスト。それで、彼もパワーアップできるはず。
五条くんが普通にゴリラに勝った場合、パワーアップはなくなってしまうが、まあそれは仕方ない。彼には修行を頑張ってもらおう。
ひとまずは、あのゴリラをなんとかするのが最優先だ。
「その間に、私と夏油くんはダッシュ!!なんか神殿っぽいところの大樹の根元、天元の張る特別な結界の内側に入る!!」
確かアニメでは、招かれた“者”しか入ることはできないと言っていたっけ。ここはもうスピード勝負だが、それなりに勝算のある賭けだとは思っている。
『理子ちゃんは、それでいいのかい?』
「え?」
夏油くんが私に問いかけてくる。
『引き返して、黒井さんと沖縄で暮らす。そういう選択肢もあるよって話さ。』
「.................」
『悟とも話したんだ。安心してくれ。理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私たちが保証する。』
「夏油くん..........」
『俺たちは最強なんだ。たとえ天元が敵になっても、なんとかしてやるよ。』
「五条くん...」
向こうの世界じゃ、生まれた時から普通じゃなくて、いつのまにかそれが普通になっていた。
優しさを感じるその度に、『ありがとう』より『ごめんなさい』が先に来た。そんな卑屈な自分が大嫌いで....
きっと私は皆に“お返し”がしたかったんだと思う。
だから、こっちの世界には感謝してる。私にそのチャンスをくれたから。
「私はね、こっちの世界も大好きなんだ。黒井さんがいて、五条くんがいて、夏油くんがいて、綺麗で、美味しくて、楽しくて。」
沢山の物をくれたこの世界に、私は“お返し”がしたい。罪滅ぼしとか、そういうのじゃないんだ。
美味しいものを食べたいとか、綺麗なものを見たいとか、それと同じような感じ。
私が本当にやりたいって、そう思うからやるの。
「『With great power comes great responsibility.』これ、私の好きなヒーローの言葉ね。意味?『大いなる力には、大いなる責任が伴う』ってやつ。」
私が入院していた病院では、毎年七夕のイベントがあった。小さい子供たちが、自分の夢を短冊に書き込むのだ。私は、『ひーろーになりたい』って、ずっとそう書いてたっけ。
「私さ、世界を救っちゃうような、そういうカッコいいヒーローにずっとなりたかったんだ。」
いつからだろう。星に願うのをやめたのは。
きっと気付いちゃったんだ。自分には何の力も責任もないって。
だけど、
「今でも、その思いは変わらない。」
私は天元と同化する。
「だから、2人も応援してくれる?私はね、大好きなこっちの世界を、もっともっと素敵な場所にしたいんだ。」
それが、私の選択。
『...ったりめーじゃん。』
『どんな選択でもそれを保証する、そういう約束だしね。』
「ありがとう、2人とも!!.....じゃあ、私疲れたから、寝るね!」
『切り替え早えな...』
溢れ出しそうな嬉し涙を隠すべく、私は狸寝入りを決め込む。肩が震えまくってるから、多分2人にはバレてるんだろうな...
「あ、そうだ!!2人の後輩くんに伝えといて!!産土神信仰、あれ一級案件だから!!」
『お前マジでなんなんだよ.....』
◇
私たちの乗る飛行機は、無事に東京に着いた。
既に夕暮れ時。もうすぐで同化の時間だ。呪術っていうのはそういうルールがしっかりしてるから、日没と同時に同化が始まるとみていいと思う。
私、五条くん、夏油くんの3人は、高専の筵山麓に通じる階段を一段一段登っていく。
大丈夫、出来ることはやってきた。私は何としても生き延びて、天元と同化するんだ。
『みんなお疲れ様。高専の結界内だ。』
「ふぅ〜、これで一安心だね。」
私の口から出るのは、事前に打ち合わせた通りのセリフ。
『悟。本当にお疲れ。』
『はぁ〜、二度とごめんだ。ガキのお守りは。』
来る!はい来た!!!
不意打ちを仕掛けたゴリラの刃は、五条くんが再び発動した無限に阻まれ止まる。
『やっぱ、バレてたか。何で分かった?』
うわっ、いい声!でも中身がクズだから大幅減点!!!
『噛みちぎれ!!!』
夏油くんの出した芋虫が、子安ゴリラを飲み込んだ。よし、今のうちに!!
「夏油くん!!行こう!!」
『ああ、油断するなよ。悟!!!』
同化が始まる日没まで、あと17分。
『誰に言ってんだよ!!』
走り出した私の耳に、夏油くんの芋虫が弾ける音が届く。五条くん、大丈夫だろうか...
最初の不意打ちは防いだし、子安ゴリラの武器は一通り教えてある。
原作よりは確実に時間を稼げる筈だ。さらに、私と夏油くんも原作以上のスピードで薨星宮へ移動できている。
これなら...!!
『理子ちゃん!!あの大樹の根本だ!!!』
よし、見えてきた!!あと一息!もう少し!!
「夏油くん、今までありがとう!!」
『元気でね。理子ちゃん。』
私の身体は天元の結界を通り抜けた。ああ、おわったのか。終わってみるとあっさりだったな。
結界の中には、沖縄の蒼い海が広がっている。これって、ああ、私の心の中がある程度反映されるのかもしれない。
天元はまだ現れない。
同化は今日の日没後。あと12分といった感じだ。その時にならないと、天元は私に接触できないのかもしれない。
同化って痛いんだろうか?
まあ、そんなことを考えても仕方ない。
あれ、なんだろう。頭がムズムズして.....
タン
私の頭を小さな鉛の球が通り抜ける。それと同時に視界がぼやけて身体の感覚が消えていく。
ああ、あの時と同じだ。
わたし、死ん
◆
『はい、お疲れ。』
仕事を終えた伏黒甚爾は天内理子を呪霊に収納すると、招かれざる“者"を拒むという天元の結界から悠々と出てくる。
『.....なぜお前は、その結界を通り抜けられる.....」
甚爾のそばには、彼がついさっき戦闘不能にした、夏油傑が倒れていた。
『俺は呪力のない、透明人間でな。結界からは“者”じゃなく“物”だと認識される。閉じ込められることも、阻まれることも、ねえんだよ。』
天内理子に転生した少女はアニメ勢であるがために、そのことを知らなかった。
『安心しろ。星漿体は綺麗に殺してやった。その方が高く売れるんでな。』
『この....ああっっ!!』
必死に呪力を練ろうとする夏油の顔を、甚爾は蹴り飛ばす。
『呪霊操術使うんだろ。お前の死後、取り込んでた呪霊がどうなるか分からん。だから殺さないでやる。親に恵まれたな。あ、恵って......』
甚爾は、そのまま出口を目指す。
『待て.....悟は....どうした....?』
『ん?あー、そういうことね。五条悟は俺が殺した、って言いたいとこだが、あいにくそれはこれからだ。』
『なに....?』
星漿体・天内理子に未来予知の術式があると踏んでいた甚爾は、その対策として。”本来“の彼ならば、絶対にやらないことを実行していた。
『そっちはどうだ?五条悟はやれたか?』
甚爾は耳に仕込んだ通信機から、仲介人・孔時雨に頼んで手配してもらった今回限りの“相棒”と、連絡を取る。
『フザケルナ!!キチョウな黒縄をツカワセやがって!!ワリにアワナイぞ、こんなシゴト!!!』
通信機から返ってきたのは、○ビー・オ○ゴンみたいな喋り方で、甚爾を非難する声だった。
『あー分かった、分かった。今回の取り分は5:5でいい。今から行くから待ってろ。』
◆
『クッソ、こいつ面倒だな.......』
五条悟は、突如現れた黒人の術師・ミゲルに苦戦を強いられていた。
厄介なのは彼の手にある呪具・黒縄。
それは無下限の防御すらも貫通して、五条にダメージを与えてくるばかりか、その呪力操作すらも乱してくる。
『やりづれえな...早くこいつを片付けて、傑のサポートに行きてえのに....』
『考えゴトトハ余裕ダナ、六眼。』
ミゲルはその黒縄で周辺の大木を引っこ抜くと、五条に向かって投げつける。
『術式順転...っ!!』
蒼を使おうとした五条だが、背後に回り込んでいたミゲルの黒縄に呪力操作を乱される。術式の発動が一瞬遅れた五条に、巨大な質量が降り注ぐ。
その直後、五条の反撃によって大木は弾け飛ぶのだった。
『調子に乗んなよ、助っ人外国人。』
『ハァ....コレデ勝てレバ苦労しないカ....』
術式を利用した高速移動で、五条は一気に距離を詰める。彼が放ったのは、呪力で強化した拳に“蒼”の吸い込む反応を乗せたクリティカルの一撃。
高専の建物を数軒破壊しながら、ミゲルは吹き飛んだ。
『ハァ、ハァ、今ノハ、ヤバカッタ......』
だがミゲルはその一撃を耐えて、何事もなかったかのように立ち上がる。
『チッ、どうなってんだよおまえの体......』
そのタフさに戦慄する五条の前に、大量の蝿頭が現れた。
『なんだこいつらは、新手....?』
無限の防御で蝿頭を警戒しつつ、ミゲルに意識を割いた五条。その背後には、透明人間が回り込んでいる。
『術式頼りの守り。分かってても、癖は抜けねえもんな。』
甚爾の持つ特級呪具・天逆鉾。その効果は、あらゆる術式の強制解除。その刃は無限を越えて、五条の体に突き刺さった。
『デ、星漿体ハ?』
『ああ、五体フルセットで回収済みだ。コイツは盤星教に高く売れる。2人で分けても十分なぐらいにはな。』
『マッタク、時雨メ。トンデモナイ案件回してキヤガッテ。オマエと組むノハ二度とゴメンダ。』
『おいおい、ひどい言い草だな。六眼のガキから守ってやったろ?』
一仕事終えた甚爾は今回のMVPを揶揄うと、刺し傷だらけで倒れている五条を見下ろした。
『さ、ずらかるか。』
原作での五条曰く。甚爾の敗因は、五条を首チョンパしなかったことと、頭を刺すのに天逆鉾を使わなかったこと。
『オイ、待テ。』
しかしこの世界ではミゲルがいた。彼は甚爾を呼び止める。
『六眼のガキにトドメを刺してオケ。ソノ呪具で頭をイチゲキだ。それで事足リル。』
五条にとって不運なことに、ミゲルはどこまでも仕事ができる男だった。
『それもそうだな。』
甚爾はミゲルの忠告通り、五条の頭めがけて天逆鉾を振り下ろす。
◇
『起きろ満子!ようやく見つけたのじゃろう?自分のやりたいことを!!こんなところで死んでどうする!!』
声が聞こえた。
優しくて
強くて
暖かい
そんな声。
.......そうだ、まだ死ねない!
私にはまだ、やり残したことがある!
夏油くんも五条くんも、必ずこの手で守るんだ!!
With great power comes great responsibility.
この世界に生まれ変わって、理子ちゃんからこの身体を託された私には、その責任がある
今こそなるんだ、ずっとずっと憧れ続けてきた....
「ヒーローに!!」
◆
『なっ!?』
『ドウナッテル!?』
五条にトドメを刺そうとしていた甚爾。その肩に乗っていた呪霊が突如弾け飛ぶ。
収納されていた呪具と共に、頭を撃ち抜かれたはずの星漿体・天内理子が飛び出した。彼女から伸びる呪力の糸は、甚爾の持っていた天逆鉾を絡めとる。
「五条くんから、離れろっっ!!!」
本能的に危険を感じ、武器を手放し距離を取った甚爾に対して、ミゲルはやや反応が遅れる。
「いやおまえはっ、誰だよっ!?」
映画を見てはいなかった少女は、ツッコミと共に渾身のパンチを繰り出す。その一撃はミゲルに炸裂すると同時に、黒い火花を散らした。
『オマエこそ、ナニモノだ....』
大きく吹っ飛ばされ、高専の敷地外に吹っ飛ばされたミゲル。まだまだ余裕で動ける彼であったが...
『ココカラ先は、赤字ダナ。』
黒縄の残量を確認して、“割に合わない”。そう判断した彼は、この案件から手を引くことを即決するのだった。
「久しぶり。」
『マジか......』
甚爾は気付く。銃弾が貫通したはずの天内の額、その傷が塞がっていることに。
『反転術式.......』
「正解。」
『それに、なんださっきのパワーは?お前の術式は未来予知じゃねえのか?』
甚爾の推理は、当たらずとも遠からずだった。天内理子には星漿体であることを除いて、呪術的素養が殆どない。
しかし、彼女に転生した菅原満子の魂は術式を内包していた。それは呪術廻戦の世界に転生したことによる、特典のようなもの。
満子の魂は本人すらも気付かぬうちに、天内理子の身体に術式を刻んでいた。
一度目は彼女の部屋が爆破される時。二度目は彼女が頭を撃たれる時。
その術式は頭がムズムズするという形で、彼女に危険を伝えていた。だが、第六感ともいえるようなそれは、彼女の術式効果のうちのたった1つでしかない。
死の淵で呪力の核心に触れて反転術式にも目覚めた彼女は、自らの術式を完全に理解していた。
「降霊術・土蜘蛛」
彼女がその身に宿すのは、日本に古来から伝わる大蜘蛛の妖。さらに彼女は前世の知識によって、その術式解釈を拡張させていた。
術式で、彼女が得た能力は以下の通り。
①粘着性のある呪力で形成された糸を高速で射出する能力。
②超人的なパワーとスピード、反射神経。
③自らに迫った危険を察知する超感覚。
要するに。
今の彼女は、遺伝子に支障をきたした蜘蛛に噛まれたとあるスーパーヒーローと、同じ力を得ていた。
「五条くんも、夏油くんも、私が守る...!」
『仕事を増やすなよ。星漿体。』
完全に呪力のない男と、別の次元から迷い込んだ魂を持つ少女。この世界のイレギュラー同士は、今ここに激突する。