宿儺「どけ!!!俺は主人公の相棒だぞ!!!」 作:バケギツネ
◆
特級呪霊・陀艮が祓われてから数十分後、意識を失っていた釘崎は八十八橋で目を覚ます。
『お、釘崎が起きたぞ!』
『もうすぐ、新田さんがくる。すっくんが傷を治したとはいえ、あんまり動くな。』
起き上がった彼女が目にしたのは、虎杖に、伏黒。そして....
「野薔薇ちゃん、無事でよかった!!あ、紹介するよ。悠仁のお兄さん達だ!」
『脹相だ。』
『壊相です。』
『血塗だぁ。』
「というわけだ。仲良くしてあげてね。」
『いや、ちょっと待ちなさい!!』
釘崎のツッコミは、深夜の川辺に響いた。
◆
『あのさぁ〜、面倒ごとをとりあえず僕に押し付けようとすんの、やめない?』
出張から帰ってきた五条は、半狂乱の補助監督・新田明から電話を受け、八十八橋に駆けつけた。そこで彼が目にしたのは、虎杖悠仁の兄を名乗る九相図三体。
『宿儺、一応言っとくけど。こいつらは特級呪物が受肉した存在で、ほとんど呪霊...』
「いいや、こいつらは間違いなく、悠仁の兄弟だ。今回の戦いだって、彼らがいなかったら、どうなっていたことか....」
『...ねえ、悠仁。兄弟ってマジ?』
『ごめん先生、分かんない』
『........』
五条は頭を抱える。彼は何一つ、この状況が理解できていなかった。
『め、恵はどう思う?』
困り果てた五条は、自身の生徒に助けを求める。
『こいつらに助けられたのは、事実です。まあ、俺も完全に信用するのは危険だと思ってますが。厳重に縛りを結んだ上で、高専で管理するのが妥当なところかと。』
その分析を聞いた五条は、ため息をつく。
『分かった。なんとかその方向でやってみるよ。上のジジイども、うるさいだろうなぁ〜。』
かくして受胎九相図の三兄弟は、呪術高専に所属している人物、および民間人への危害を加えないという縛りで、高専東京校で保護されることとなる。
また、九相図からは“虎杖悠仁の顔をしたツギハギの呪霊”の存在と、そのアジトの情報がもたらされた。五条は単身そこへ乗り込むも、既にもぬけの殻。
『もういないか。高専襲撃の時といいい、逃げ足が早いな。舐めやがって...』
五条はその場に残されていた人生ゲームのコマを一つ拾い上げると、苛立ち任せに握りつぶすのだった。
◇
おっす、俺すっくん!
三兄弟達は、高専東京校の敷地内に新設された専用の寮で過ごすこととなった。
『ここが、新しいお家かぁ?』
『しばらくは、ここに軟禁という形ですか。』
Tバックの言う通りだ。不便をかける。ごめん...
「すまない。何か欲しいものがあったら、何でも言ってくれ。俺と悠仁ができるだけ用意する。」
『いや、俺達の身分を思えば、寛大すぎるくらいの処置だ。お前の進言には感謝する。ありがとう、宿儺。』
そう言ってツインテールは頭を下げる。いやいや、お礼なら五条さんに言ってくれ。
っていうか緊急事態じゃなければ、このツインテール、かなりの常識人だな、俺の次くらいに。
『そうだ、悠仁。俺のことはこれから、お兄ちゃんと呼んでくれないか?』
『私のことは、兄さんと呼んでくれ。』
『俺は兄者って呼ばれたい!!』
前言撤回。ブラコンっぷりが強烈すぎて、三兄弟全員、常識人枠は無理だ。
この作品トップクラスの常識人(自称)たるこの俺が、引き続き頑張っていかないと。
『お、おお。考えとくよ...』
悠仁は、未だ困惑気味だ。
無理もない。何せ記憶を消されているからな。
こいつらのことも、思い出せないんだろう。記憶の復活は、いつになることやら。
何でもこいつらは、ジャイアンのような義兄弟ではなく、血の繋がった正真正銘のガチ兄弟らしい。
ん、待て待て。悠仁ママ、この三兄弟全員を産んだってこと!?
え、すごくない!?
はっ!!すっくんに電流走る!!
未だ詳細が分からない悠仁のご両親、怪しくないか!?
どうして今まで見落としていたんだ!!
少年漫画の主人公の親だぞ!一般人である方が珍しい!!
きっと主要人物、いや、下手をすれば全ての黒幕だという可能性も...
そうだ、そうに違いない!!
この作品の黒幕は、
悠仁パパだ!!!!!!間違いない!!
きっと、悠仁のお母様は強力な術式みたいなのを持っていたんだろう。だからこそ、悠仁パパは悠仁ママに目をつけた。
そして実験台のように扱い、悠仁達を産ませたのだろう。
だとするならば、三兄弟達のビジュアルにも、悠仁が俺の器であることにも、説明がつく。
なんて奴だ、とんでもないクソ親だな。
悠仁パパめ!!ぜってえ許さねえ!!
こんなのあんまりだ!完全な被害者である悠仁ママが、本当に可哀想じゃないか!?
この事は...いや、まだ仮説の段階だし、悠仁には黙っておこう。ただ後で、五条さんにそれとなく告げ口しておくか。
『とりあえず、一回呼んでみてくれないか。』
『さあ、遠慮なく。』
『ほらほら!!』
こいつら、本当に弟が大好きなんだな〜。
俺の兄も、こんな感じのブラコンになっていたんだろうか...
まあ、悠仁のことが大好きなもの同士、彼らとは美味い酒が飲めそうだ。もちろんこれは例え話。未成年の悠仁に、酒は飲ませないけど。
すっくんも、転生前は未成年だったし。
そうだ、転生といえば。
「なあ、ツインテール。」
『ん、なんだ?』
「お前と、ちょっと2人で話がしたい。」
俺はツインテールを廊下に連れ出す。
「話がある。お前の中にいる、もう1人についてだ。」
『?どういうことだ...?』
どうやらツインテールは、気づいていないらしいな。俺と同じ、転生してきた魂に。
俺と悠仁のように、自由なおしゃべりはできないのかも。ならば、やる事は一つだ。
「ツインテール、一発殴らせろ。」
『お前は何を言ってる...?』
八十八橋の一件をみるに、ツインテールが意識を失うことが、転生者が出てくる条件と見ていいだろう。同じ転生でも魂の強弱なんかに、多少の個人差があるんだろうな。
ということでっ、今からツインテールがッ、気絶するまでっ、殴るのをやめない!!
「悠仁、ツインテールを気絶させてくれ。軽ーい腹パンとかで。」
『お、おう。ごめんな、脹相。』
悠仁はすこーしだけ呪力を込めて、ツインテールに腹パンする。
『かはッ!!!!!!!』
『「あ」』
ヤッベ、黒閃出ちゃった。ツインテールは、ぐったりとその場に倒れ込む。
「................」
『.................』
まあ、いっか。気絶したし...このくらいで死ぬほど、ツインテールはやわじゃないだろう....
さて、もう1人の転生者が出てくるのを待っている間に、悠仁に話しておきたいことがある。
「なあ、悠仁。今まで、黙っていたことがある。実は俺...」
なんだかんだで、悠仁にはまだ話していなかったこと。その秘密を、俺は打ち明ける。
「実は俺、この世界が少年漫画になってる別の世界から、転生してきた存在なんだ!!」
『あ、うん。』
「いや反応薄くない!?」
『いや、まあ、まだ飲み込めてないっていうのも、あるんだけどさ...それなら、すっくんの行動にも説明がつくというか...』
悠仁は意外とあっさり受け入れてくれた。えー、もっと派手なリアクションを期待していたんだが…
『なら、教えてくれ!すっくん!!この先、一体何が起こるんだ!?』
「知らん!!!!!!!!!」
『…え?』
いや、その、大変申し上げにくいのですが....
「俺の知識は第一話で、悠仁に宿儺が受肉するところで、止まってるんだ...」
『...え、使えなっ。』
「うるさいうるさいうるさい!!」
知らないもんは知らないんだからしょうがないだろ!!すっくんはっ、知らないなりにっ、今まで頑張ってきたんだからねっ!!
『ごめん、冗談だって。拗ねるなよ、すっくん....』
まあ、悠仁もこうして謝ってるし、今回は許してやろう。このことを黙ってた、俺も悪いしな。
『っていうかそれって、本物の宿儺はどうなってんの?俺の中で、すっくんとルームシェアしてる感じ?』
「いや、それはない。今まで、ホンモノの宿儺とは会ったこともない。魂を感知したこともないしな。恐らく、消えてしまったんだろう。」
可哀想に。俺が憑依してしまったせいで、本物の宿儺は...ううっ。ごめんよ。
『じゃあ、そっちの心配はしなくていいんだな。』
「ああ、もちろんだ!!」
◆
【それでいい。縛りのことも、俺のことも、忘れているな。】
灯台下暗しという言葉がある。
すっくんは気づかなかった。気づきようがなかったというべきか。自身の魂のさらに内側に息を殺して潜んでいた、“本物”に。
【転生か、なるほど。クックック、いいぞ。貴様らをみていると退屈しない。】
宿儺が“もう1人の俺”とまで呼ぶほどのお気に入り・すっくんに、今回現れた未知の術式を操る・新たな転生者。
彼らの存在は、宿儺を大いに愉しませていた。
『ちなみにそっちの世界だとさ、俺って人気投票何位だった?』
「だから知らん、1話だけしかみてないし。」
『あ、そっか。あ、すっくん、脹相が!!』
お、とうとうお出ましのようだな。俺は、ツインテールの魂の形を注視する。
来てます来てます。ハイ来た!切り替わりました!!
ツインテールの目が開く。彼の身に纏う雰囲気が、明らかに変わっていた。
多分、この人は悪い奴じゃない。一度目は氷漬けにされたが、あの時は混乱していたんだろう。その後タコの領域から、俺と悠仁を守ってくれたしな。
「落ち着いて聞いてくれ。俺たちは敵じゃない。俺はお前と同じ、この世界に転生してきたものなんだ。」
だから、真摯に訴える。
「俺たちはこの世界で、1人でも多くの人を助けたいと思ってる。そのために、貴方の力を借りたい。」
俺はありのままの思いを、“その人”にぶつける。今できるのはそれしかない。うまくいけば、待望の原作知識が手に入る!
そうすれば、その原作知識をいかして、俺はもーーーっと無双できる筈だ!!
この作品のジャンルが、なろう系に変わってしまうかもな。今のうちに、タグ追加しとくか?
「一つ聞かせてくれ、“呪術廻戦”って知ってるか?」
俺の問いを聞いたその人は、ゆっくりとその口を開いた。
「あの、ジュジュツカイセンって、なあに...?」(CV 浪○大輔)
さよなら、原作知識。
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。変なこと聞いて、悪かったな。」
そうか、そうだな、そうだよな⤵︎
転生先の知識をたまたま持ってるなんて、そんな都合のいいこと、そうそう起こるわけがない。
はい、解散解散。
呪術廻戦の原作、向こうじゃ知名度ないのかな?3巻くらいで打ち切りになってたらどうしよう
いや待て、この人の術式!
氷を出したり、海を操ったり、よく分かんないけど超強そうだった!!
原作知識がないとしても、俺たちに協力してくれればとんでもない戦力になる!!
「すみません。もう一個、聞かせてください。貴方の、その不思議な力についてです。その、氷を出したり...」
俺がそこまで言ったところで、その人の顔色が変わった。
まあマジレスすると、その人はガワがツインテールお兄ちゃんだから、元々顔色悪いんだけど。
「そ、その、初めて会った時...いきなり氷漬けにしちゃって、ごめんなさい!!」(CV 浪○大輔)
ああ、そのことを気にしてたのか。それにしても、一人称は“ぼく”か。口調もだいぶ幼めだな。声帯はともかく。
「本当にごめんなさい!いきなり、知らない場所にいて...もう、何がなんだか、分からなくて....ぼく、こわくて...!」(CV 浪○大輔)
この人、いやこの子は、まさか......
「まわりは、ばけものだらけだし...こ、ころ、ころされそうになっちゃうし、ぼく、ぼくっ...無我夢中で......」(CV 浪○大輔)
俺の目の前で、ボロボロと大粒の涙を流す転生者。
*ガワは脹相。
多分この子は、俺よりもずっと子供だ。ただの勘だが、小学生男子といったところか?
「大丈夫だ。辛いことを思い出させて、悪かったな。」
空気を読んで押し黙っていた悠仁が、俺の意図を汲んでくれた。その子の身体を正面から抱きしめる。
*ガワは虎杖と脹相です。
「う、うううっ、ううう...」(CV浪○大輔)
この子の振動が、悠仁越しに伝わってくる。可哀想に。震えてるんだ...
「怖かったな、辛かったな。」
この呪術廻戦の世界は、まともじゃない。人が簡単に死んでいく、そんな場所だ。こんな小さい子供に耐えられるわけがない。
クッソ!原作者に人の心とかがないばっかりに!
「おとうさんっ、おかあさんっ...」(CV浪○大輔)
俺の意図を汲んだ悠仁は、その子(ガワは脹相)の頭を優しく撫でる。
この子は今、孤独なんだ。家族と離れ離れで、見知らぬ世界に独りぼっち。
「大丈夫、もう大丈夫だ。怖がらなくていい。キミのことは、俺が必ず守ってやる。」
この子には心の支えが必要だ。そしてその役目は、同じ転生者である俺にしか務まらない。
「俺は呪いの王・両面宿儺、いやすっくんだ。...いいか?今日から俺が、キミの家族だ。」
「え...?」(CV浪○大輔)
真の意味で、彼の痛みを孤独を、理解できるとしたら、それはきっと俺だけだから。
「やりたいことがあったら、なんでも言ってくれ。欲しいおもちゃがあったら、買ってやる。ごっこ遊びでもなんでも、付き合ってやる。キミを、絶対に1人にはさせない。たとえ世界がどうなろうとも、俺は絶対にキミを裏切ったりしない...!」
「...ほんとに、いいの?」(CV浪○大輔)
「ああ、信じろ!!今日から俺は、そうだな〜。よし!今日から俺は、キミの“お兄ちゃん”だぞ!!」
「.....うん。ありがと、約束だからね!お兄ちゃん!」(CV浪○大輔)
「ああ。」
この子もだいぶ落ち着いてきたみたいだ。目を真っ赤に晴らしながらも、ようやく笑顔を見せてくれた。
「そういえば、キミのことは何て呼べばいい?」
「ええーーっと、ぼく、“賀茂ひかり”っていうから、名前で、“ひかり”って、呼んでほしいかな?』(CV浪○大輔)
はぇ〜、ひかりか〜。いい名前じゃんか!
「分かった、よろしくな!ひかり。」
「うん。えへへへ。」(CV浪○大輔)
ひかりはそう言うと、はにかんで笑う。
「いい笑顔だ。キミによく似合ってる。」
俺も頑張らないとな。この子がこんな風に心から笑える世界を作るために。この物語は、絶対ハッピーエンドにしてやろう!
「あの、僕たちが転生者だってこと、他の人は知ってるの?」(CV浪○大輔)
「?いや、基本は誰にも話してないぞ。」
「じゃあ、そのまま秘密にしておかない?あ、えっと、転生について知られるの、ちょっと怖くて。」(CV浪○大輔)
「ああ、そういうことか。」
確かに。ヒカリにしてみれば、こっちの世界の人間たちは文字通り住む世界が違うのだ。怖がるのも無理もない。
「分かった。転生のことは、俺とヒカリだけの秘密だ!」
あれ、悠仁には話しちゃったけど....まあ、いっか。俺と悠仁は一心同体だし、セーフセーフ。
「ありがとう!あ、ごめん。なんか、頭がボーッとして...」(CV浪○大輔)
んん、身体の主導権がツインテールお兄ちゃんの方に戻ろうとしてるのか?ひかりは長時間、身体を使えないらしいな。
「じゃあな、ひかり!またお喋りしような!」
「うん!絶対また、会いに行くから!!」(CV浪○大輔)
ツインテールお兄ちゃんこと脹相の身体から力が抜けて、廊下にもたれかかる。あっという間だったな〜。
ひかり、今頃は1人か。どんなことを考えているんだろう。
寂しい思いをしていないといいが...
『おい宿儺!!よくも悠仁に俺を殴らせたなぁ!!』
あ、脹相が復活した!!
「誠に申し訳ありませんでしたああああああ!!!!」
『マジですまなかった!!脹相!!!!!!!!!」
悠仁はその場で土下座をし、俺も生得領域内で全力の土下座を敢行した。
『悠仁、気にしなくていい。あれは事故だ。おい宿儺ぁ!!よくも悠仁に俺を殴らせたなぁ!!表へ出ろ!!』
「出たいんですけど出られません!!なんなら今、表へ出るための修行中なんです!!」
『何を訳の分からないことを!!!』
「ごめんなさああああああい!!!」
その後俺は脹相に謝り倒して、悠仁と九相図三兄弟のピクニックをセッティングするという条件で、なんとか許してもらった。
◆
その場所は、賀茂ひかりの生得領域。
身体の主導権を脹相に奪われて、ここに引き戻されていたひかりは、
「待っててね宿儺様。いずれ貴方と僕は、本当の身体を取り戻す。そして、ふふ、ふふふふっ!」
ひかりは、笑っていた。
心の底から。